異世界に勇者として召喚されたけど蓋を開けてみればメイドでした

SIN

第1話

 私は多分、恐らくは異世界に転移してきたのだと思う。

 私だけが選ばれた存在だった……という訳ではなく、クラス全員が一気に1つの魔方陣で召喚された感じ。

 普通に授業を受けていた筈なのに、急に異世界に放り込まれた意味の説明もなく淡々と進められていくのは、赤か青かのグループ分けだった。

 私達を召喚した女神は、エンジ・シュウ・ローズクォーツと名乗り、後から現れた女神2人はそれぞれスカイ・ルリ・アクアマリンと、ミント・ワカバ・エメラルドと名乗った。

 その3人共私たちの名前を訪ねて来る事もなく、課題を出してきた。

 状況の説明はない。

 だけどその課題をクリアすれば家に帰してくれるのだと、そう思った……。

 杖を持たされて、目の前にあるかかしを魔力で破壊することが私に与えられたテスト内容。

 帰りたい。

 帰りたい。

 家に帰りたい!

 ポンッ。

 どれほどの時間、どれほどの期間杖を握りしめてしていただろう、ある瞬間からなにか爆発的なイメージが沸いて、それから小さな火が出せるようになり、そうしてついに小さな爆発音がするまでの大きさになった。

 静まり返る運動場の中、皆の視線が私と、私の前にある消し灰になったかかしに向いているのが分かる。

 「もう1度やってみて」

 嬉しそうでも、悲しそうでもなく、ただただ無表情のミント・ワカバ・エメラルドが近付いてくるから、私はいよいよ元の世界に帰れるのだろうと思って精いっぱいの魔力を込めて炎を出した。

 ゴォォ!と、まるで火炎放射器のような火力。

 どう?

 合格でしょ?

 「出せましたから……もう、家に帰してくださいっ!」

 そう口にして嫌な予感がした。

 嫌な予感というよりも……気付いたのだ。

 元の世界に戻す予定がある者に、わざわざ魔法を身につけさせるだろうか?もし元の世界に帰れる者がいるというなら、それはむしろ、最後まで何もできなかった者なんじゃないか……。

 「ふむ、コツは捕まえているようね、合格。勇者1号ちゃん」

 「勇者……1号……?」

 え?待って。なに?勇者?

 私は勇者になんかなりたくない!

 異世界でチートスキルで俺TUEEEEEとか望んでない!

 逆ハーレムも特に望んでない!

 「そうねぇ、レベル1だから、まずは簡単な異世界を救って見せて」

 ミント・ワカバ・エメラルドは抵抗する私の力だとまるでないかのような力強さで、寧ろお前が勇者として異世界に行けば良いだろと言いたくもなくほどの力強さでズルズルと引っ張り、門のような物を宙に出現させた。

 多分、恐らくこの門をくぐった先には勇者として救わなけれなならない世界が広がっているのだろう。

 「いやっ!離して……家に帰してよ!異世界なんて行きたくない!」

 最後の抵抗として心からの望みを叫んでみたけど、結局は無駄な事。

 「耳元で大声出さないでくれる?」

 ドンと背中を押される瞬間、そんな声が聞こえたものだから文句を言ってやろうと振り返って見えた、小さくなっていくミント・ワカバ・エメラルドの姿と、門。

 え?落ちてる?

 今私落下してるの!?

 「えぇぇぇぇ~~~!」

 いや、ここはキャーとか可愛らしい悲鳴を上げる所だろうよ私。

 何故だろう、自分にツッコミを入れてしまえる程には冷静だ。

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