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「今日は帰んないから、戸締りよろしく。」


 適当に投げられた鍵は、静かに枕元に着地した。顔に当たったら、とかそういう細かいことは考えない、そんな人。


 ある日、通ってるバーで、1人でしんみりと飲んでいる彼を見つけた。話しているうちに、彼女と上手くいっていない事が分かったけど、特に別れる気もないようだった。


「彼女のことは好きなんだけど、どうも夜の方が合わないんだよね。」


 そんなことを言う彼に、じゃあ私達はどうか試してみる?なんて、よくもまぁらしく無いことを言ったもんだ。同じことで私も悩んでるよ、と素直に言えれば良かった。


 一夜を共に過ごした彼は、それ以上でもそれ以下でもない。時々会って、飲んで一緒に寝て、それで終わり。最初はそう、思ってた。


 スマホを開き、彼からの不在着信に応えるように電話をかける。彼はすぐにその電話に出た。酷く心配してくれていたことに、少しの罪悪感を覚える。


「ごめん、もう私達終わりにしよ。」


 そう言って彼の返事を待たず電話を切り、スマホをベッドの横に放った。私は布団を掛け直し、目を瞑る。

 

 鍵を渡す日は、帰るまで待っててのサイン。

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