10
友達から、急な用事が入って会えないと連絡が来た。ちょっとどこかで、億劫だと感じていた節もあり、また今度にしようとメッセージを送った。
何もない休日は久しぶりだ。しばらく仕事ばかりで、寝るために帰るみたいなもんだったし。重い体を起こして大きな欠伸をした。下の瞼に薄らと涙が溜まるのを感じ、目を擦る。
片手にスマホを持ち、立ち上がる。この前先輩に貰った紅茶でも飲もうか。ポッドに水を入れスイッチを入れる。戸棚を開けてカップを用意し、茶葉を入れたあと、ソファに座った。
ふと、覚えのある匂いがした。初めて声を掛けられたあのときの匂い。大好きだよと抱きしめられたときの匂い。好きな人が出来たと、別れ話を切り出されたときと同じ匂い。ふわっと感じたその匂いは優しく、淡く、消えていく。
ポッドのお湯が沸き、カップにお湯を注ぐ。こぽこぽと注がれるお湯の音とともに、ダージリンのいい香りが漂う。さっきの匂いとは違う、紅茶の香り。
いつか、あたしはあの匂いを忘れてしまう。街中ですれ違った人の匂いで振り返ってしまうことも、スーパーでそれを見つけて手に取ってしまうことも、いつかは無くなる。
紅茶を一口飲み、ふぅっとため息をついた。そういえばあたし、ずっと泣いてなかったな。
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