第147話 太古の話

 俺は、ランガルフさんが言う敵国、カースミドル帝国を調査に行く事を決意した。


 俺がその旨を瑞希やクラウスなどに言うと、みんな一緒に行くと言い出した。

 フェルナンドさん、カレンさんは絶対行くって言うと思っていたけど。

 子供を産んで1年ほどしか経ってない、瑞希やマイティまで絶対行くと言っている。


 レベッカにしても今では、ディファレントアース領の神聖魔法教会の長をしているのに行くって言う始末だ。レベッカは地球の医療を取り入れているのでこの世界一番の神聖魔法師かつ医者でもある。


 ディファレントアース領の神聖魔法協会には、遠方からも患者が訪れるくらいの忙しさのはずなんだけどな…。


 そして、弓使いライナも念話でついて行くと言っていた。

 それから…クイン。


 クインは、オヴェイリュオン妖精霊王に剣から、クー・シーの肉体に戻してもらっていた。魂と身体がちゃんと馴染むまでは妖精霊界にいたけど、そう言えば最近クランに戻って来ていた。


 俺は、城の中で忙しかったから、念話以外ではあまり喋っていなかったが、クー・シーの姿を見たときは、ちょっとうるっと涙ぐんでハグしてしまったほどだ。


 勿論、クインもついて来るのだろう。


 って事で、久々に全員が集まって冒険に行く事になるだろうと思っている。


 そして俺は、フェリオール王城の自室で冒険の準備を始めていた。


 この部屋は俺だけの自室になるのだが、ベッドはギングサイズだ。

 そう、エルも瑞希も自室を持っていて、夜の営みの時にはこの部屋を使っているのだ。


 そのベッドに、エルが座って俺の準備するのをじっと見ていた。


「あ~あ…私も冒険者やりたいな」

「…いや、それは無理でしょ…瑞希はまだしも、エルは王女なんだしさ」

「むーーん。ミズキさんばかりずるいな。私もずっと傍にいたいのにさ」


 エルティアは少し頬を膨らませてそう言う。


「調査終わったらすぐに帰って来るから、アルディアと新希ニノの事、宜しくお願い」

「私だって、グランドヒューマン化しているんだから、その辺の冒険者よりは強いと思うんだけどな」

「いやいやエルは強くないですぅ…だって、いくら鍛えてないエルが、グランドヒューマン化したって言ったって精々、かよわい娘の約10倍くらい強くなっただけだと思うよ?…そこそこの冒険者ならそのくらい居ると思うし…」

「ふん!、だ」


 エルはパウロさんの指導で槍、弓の稽古くらいしかしてないわけで…。

 俺だってエルを抱く時、力加減を繊細に調整しているんだから…。


「仕方ない、子供達は私が面倒見てあげる!そのかわり戻ってきたら3日間は私と寝てね!」

「……、はいはい」


 俺はそう苦笑いして言ったけど。本当に可愛い妻だなと心底思った。


「これで良しと。エル行ってくるね」

「はい、行ってらっしゃませ。気を付けて下さいね」

「うん」


 俺はゲート魔法を使って、まずは皆と合流するためにクラン領へ向かった。


 ◇


 クラン領についた。

 目の前には、このクラン領を全て見渡せるほどの、50階建てのタワーがその象徴として聳え立っている。


 このタワーの1階には俺が許可を出さない限り、開かれない地球への魔法陣が安置してあって、その2階にはロビーがある。


 そこから、魔導エレベーターで各階に移動する事が出来る。

 50階、最上階は展望エリアになっていて銀貨1枚払えば入場する事が可能だ。


 3階~10階までは今まで開発した化粧品や、お菓子、魔道具、武器防具雑貨、料理屋など商業施設が完備されており。


 11階~20階まではウチのクランの事務所や会議室など仕事場が中心で、31階~39階は、宿泊施設となっている。


 そして40階~49階までは、ディファレントアースの幹部の部屋などだ。

 魔導エレベーターには特殊なカードを使用する事になっていて。

 そのカードで行先を制御されている。


 商業施設なら10階まで、宿泊施設なら2階~10階、31階~39階と展望台までと、クランの事務所、幹部階層などには停まる事は出来ない。

 このように勝手に幹部の部屋などへは行けないようになっているのだ。


 勿論、幹部のカードは全ての入階権限がある。


 俺はそのカードを使って20階の会議室がある場所で降りた。


 ◇


 そこには、皆が集まっていた。

 クラウス、マイティ、レベッカ、フェルナンド、カレン、ライナ。

 そしてクインと、小さなクマの機械ランガルフ。


 販売部門のミーナ、シルビア。

 開発部門からイグルート、その息子二人と変人エルフのジーウ。


「皆、揃っているね」

「やっと冒険へ!だな」


 クラウスがニコリとしてそう言った。


「そう言えばクラウスとマイティさ。冒険行っている間、赤ちゃんはどうするのさ?まだ…えーと、生後6カ月くらいじゃなかったっけ?」


 確か、クラウスとマイティの間にも、女の子が生まれていたはずだった。


「ああ、やっと6カ月だ。あれ?言わなかったか?」

「ん?」


 クラウス、マイティ2人は顔を見合わせた。


「ほら、俺の家族も、マイティの両親も、ミーナさんの販売部で今は働いているって?だから問題はないつーわけよ。俺のとこ獣人家族多いし赤ちゃんの一人くらい楽勝で見てくれるさ」

「え?そうだったっけ?」

「はい、皆、クラウスに似て優秀なのでシルビアの所と分けて、幹部候補として働いて貰っていますわ。勿論、マイティちゃんの両親も」


 ミーナさんが口を挟んでそう言った。

 俺は聞いたような聞いてないようなそんな感じだった。

 いろいろと育児とかで忙しかったからなぁ…申し訳ないけど、生まれた時の祝いの後の事はあまり記憶にないや…。


「そうだったんだ…、じゃあ心配はいらないね」

「ああ。ま、1人の赤ちゃんあやすのも大変なんだ…、アラタの所は2人の赤ちゃんだからな…王族だし何かと忙しいから覚えてないのも仕方ないさ」


 クラウスはそう言って頷いた。


「アラタ殿。アラタ殿が居ない間、開発部門はオブリシア大陸に魔導バスを普及させるため暫くは、量産にとりかかりますじゃ」

「うん、そうしてて」


 イグルートはそう言って下がった。


「アラタさん。販売部門は、地球産の素材は今は使用していませんので、もう少し純度の高い砂糖や調味料などの精製と、この世界の素材で作れそうな物の開発も着手していきたいと思っています」

「うん。クランの資金はミーナさん、イグならいくらでも使って良いから宜しく頼みます」

「御意じゃ」

「はい」


 イグルートとミーナはそう頷いた。

 すると、クマ機械ランガルフがチョコって前にでた。


 ≪アラタよ~お。前も言った通り、微弱な電波はレイアリグ大陸の北に位置する大陸から発しておる≫


「うん。そう言ってたね」


 ≪先ず~は、レイアリグ大陸マージガル神国へ行って、北へ向かわねばなるまいて≫


 ランガルフはちょこちょこと小さな手を上げたり下げたりして、機械音雑じりの声でそう言った。


「で?そのランガルフのおっさんの敵国…えっと」


 フェルナンドがそう口を出した。


 ≪カースミドル帝国じゃよ~お≫

「ああ、そうそのカースミドル帝国ってのは、どんな国だったんだ?」

 ≪そうじゃな~あ。もう一度ここで太古の昔話をおさらいするかの~お?≫


 ◇


 太古の昔、このブルースフィアでの人間は人体研究により、ハイエルフへと進化した。

 その主だったハイエルフは5つの貴族となってその血筋を繋いでいっていた。

 バーニー家、エリオース家、ブリクソン家、キリンス家、そして母エウロラの家系、アスナール家である。


 このハイエルフ達がこの世界を進化させていく事になる。

 ドワーフ、ホビット、獣人などの亜人達もハイエルフ達が生み出した。


 しかし、時は経ち。太古の大戦では、最初はエリオース家とブリクソン家のちょっとした争いからそれが大きくなり、戦争が膨らむに連れ、南の大陸レイアリグのランガルフの家系のバーニー家、エリオース家が手を組み。


 北の大陸ロジーラスにある、ブリクソン家に取り込まれた、キリンス家が手を組んで、ハイエルフ同士の世界の利権を廻る大戦になってしまったと言う。


 そして、新の母エウロラの祖先アスナール家は戦争を嫌い、どちらにも付かず、何処かへ姿をくらました。その先がオブリシア大陸と地球だった。


 5家とも元は家族からの親族。醜い争いは、最終的に自分達の最高峰の技術で身を滅ぼし、自分達が生み出した亜人達にも憎悪を抱かれ、この世から抹殺された。


 ◇


 ≪と、ここまでは前に話をしたよな~あ≫


 新達は数名コクリと頷く。


「heyちょっと良いか?」

 ≪ふむ?なんじゃフェルナンド≫

「いくら何でもよ、それでハイエルフ達が両大陸から全て抹殺されてしまうってのはどうなんだ?そんなの何処かに隠れている者や、そのアーティファクトとかで回避できない物かね?」


 フェルナンドは顎に手を添えてそう言った。


 ≪うむ。ブリクソン家は人間をハイエルフに変化させる技術の先駆者家だったわけじゃよ~の。それをじゃな~あ…≫

「あああ…ミー分かったかも!」


 次はカレンが口を出した。


「つまり、ハイエルフに特化したバイオ兵器ね」

 ≪ふむ。バイオってのが何かわからんがの~お?何となく想像すると当たりじゃよ~お。我らの遺伝子、ハイエルフにしか効かない、つまり特化した兵器を造りそれをレイアリグ大陸へ撃ち込んできたのじゃよ~お≫


 カレンの言葉に返すようにランガルフは言った。


「なるほど。それがハイエルフの全滅に至った経緯って事か…」


 俺はそう呟いた。


 ≪うむ。あの武器は禁忌の兵器じゃった~の。他には効かぬが、その見えぬ兵器は動物、魔物、亜人へ感染し持ち運ぶ物…。そしてそれは、海を渡り北の大陸カースミドル帝国へ。…その兵器を開発し敵国に使用したものの、自分の国にまで脅威を及ぼす事まで考えておらんかったのじゃろ~の≫


「途中で気づいても時すでに遅し…ってわけか…、最近地球で流行ったコロナって病気も考えてみたら、ほぼ人間にしか感染しなかった所を見ると、本当に人間に特化したバイオ兵器の流出だったのかもしれないな…」


 フェルナンドはランガルフの話の後に言葉を吐いた。


 そうだ。俺達は殆どこの世界にいたからコロナの脅威をよく見てなかったけど…。

 地球へ仕入れにいってニュース見た時、全世界で結構、人が死んでたみたいだ…。

 技術があがると飛んでもない物を開発できてしまう。

 ランガルフさんは太古のコアな技術は教えないって言ってたけど、それで正解だよね。だってもし、ランガルフさんがアーティファクトの製造技術を漏らしてしまえば、また太古の戦争に使われた物が出てきてしまって歴史を繰り返す原因になりかねない。


 ≪そうじゃ~よ、ワイはシェルターで外の大気をずっと機械の中で観察してきた~よ。長い年月が経ち、もう大丈夫じゃとはおもうがの~お?もしもの事を考えて調査をしたいのじゃよ~お≫


「ランガルフさん…そのハイエルフの遺伝子に反応する兵器がもし残っていたら…俺もやばいですよね?…」


 俺は、ひきつってそう言った。


 ≪アラタよ~お。心配せんで良いぞ~お。ワクチンはすでに儂が開発して、いつかのためにデータは残してあるからの~お。無駄に1000年以上も大気を観察していたわけではないぞ~お≫


「おお、やるじゃねーか、ランガルフのおっさん!」


 フェルナンドはランガルフの頭を指先でつついた。



 ◇-------------------------------------------------◇


 後書き

 すご~く更新が遅くなりました。

 いつも言い訳しかしませんが…リアルが忙しい…それにつきます。

 もう本当に時間が欲しいです。


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