第144話 蘇生

 俺はフェリオール王都のイセ・スイーツで、ミーナさん試作のお菓子を食べながら考え事をしていた。


「アラタさん、何だか上の空ですね…」

「え?…ああ…ミーナさん、俺さぁ…あんまり恋愛経験とかないんだけどさ…」

「…あら、珍しい相談ですね」


 ミーナさんは俺の話を聞こうと、椅子にしっかりと座った。


「ミズキってさ俺の事、どう思っていると思う?」

「…フフフフフ」

「何で笑うんですか…」

「いえ…こほん。ミズキさんはアラタさんの事、大好きだと思いますよ」

「そう?」

「見れば分かります。それにアラタさんもミズキさんが大好きなのは昔から見ていて分かりますよ、フフフフ」

「ほんと?マジですか!」

「ええ、マジですよ!ってマジってこんな感じで使えばいいのかしら?フフフ」

「良かったぁ、あ、この試作品凄く美味しいですよミーナさん、このフルーツ何なんですか?」

「それはねぇ、ヘイムベーラ大森林の入り口にある…」


 何となく俺は、ミーナさんの一言で、瑞希に対して自信が持てた。

 あれから4日、瑞希の身体は半分まで蘇生しているらしい。

 母エウロラが言うには、おっぱいの横にホクロがあったから、蘇生している身体は間違いなく瑞希の身体だと言っていた。


 俺も…一度、裸は見た事あるはずだけど…夢中だったし覚えてないや…

 しかし、俺にそれを説明したあの母の顔…なんかニヤニヤしてイラつく顔してたな。


 それから、俺はまだまだやる事に追われていた。


 イシュタルト王国のヘクトル王子と、エイナムル王国のウェズ王子とクシーリ王女からは、王族専用の車の制作と、この大陸を巡回する武装したバスの制作依頼と、イセ・スイーツの片鱗の町への出店依頼。


 レイアリグ大陸からは、先ずアルカードのシュクロスさんからの報告で、魔人族との本格的な交流が始まったのだと聞いた。

 その際、イセ・スイーツを魔人族の里にも作って欲しいとの要望があったのだと言う…てか、この世界の住人は甘い物には本当に弱いようだ。


 それから、マージガル王国だ。

 神帝から国民に対して、俺のクランの功績を公の場で表彰したいとの申し出があったが、それは辞退した。別にもうその話は国民へ廻っていると聞いているのでこれ以上は別に必要ないかなと思った次第である。


 後、あの熊の機械クーちゃんに宿った、元ハイエルフのジジイの、ランガルフさんがカッコイイ体が欲しいとか言っていたが、忙しいのでそれは一番後に考えると言ってあるが、それとは別に話があるとか言っていたがそれも今は後回しだ。


 そんなこんなですぐに、瑞希の蘇生が終わるかもしれない日が明日に迫っていた。


 ◇


 今日は、マイティの蘇生が終わる見込みの日だ。

 皆、エルファシルに前日から滞在していた。


 蘇生が終わりそうだと言うので、皆、切り株で作られたエリクサー専用バスタブの前にいる。大きな切り株をそのまま利用しているため、そのバスタブはエルファシル宮殿の外に設置してあり、大きなテントで囲ってあった。


 マイティは腕からの蘇生だったので、瑞希とは1日早く蘇生が終わる。

 マイティはすでに頭部まで蘇生は完了して髪の毛が凄い速さで生成されていた。


 エウロラの指示で女性のエルフ達が、マイティの身体に掛けられている布の中に入り、経過を確認していた。


 俺達も蘇生が完了するのが待ち遠しく待っているが、クラウスはずっとソワソワしてウロウロしている。


 なんか、恥ずかしいので明日の瑞希の時には、俺はもっと冷静に立ち振る舞おうとクラウスを見て思ったのだった…


 暫くするとマイティの身体は、髪の毛の先まで生成が完了したのだった。


「終わったのか?…」


 クラウスは、そう言って遠くから首を長くして覗き込む。


「…………………」


 皆、誰一人声も出さずマイティを見つめている。


 暫くすると、天から煌めいている何かがマイティを包み込みこんで行くのが微かに見えた。


 多分、あれが魂なのだろうと俺は悟った。

 皆にも何となくそれが見えているようで、天を見上げてはマイティの身体を確認するように見ていた。


「う…うんん…」


 マイティは眩しそうな顔をして、微かに目を開けた。


「「「マイティ!!」」」


 レベッカ、クラウス、カレンが同時に声を上げて駆け寄ろうとしたが、それは女性のエルフ達によって止められた。


「待ってください。とりあえず、御召し物を着させてからでも良いですか?、彼女は今、全裸ですよ?」

「あ…」

「あ…はい」


 布で切り株を覆い、エルフ達はごそごそとマイティに服を着させているようだった。

 覆いつくされていた布を剥がされると、マイティは切り株のバスタブから担架へ乗せられていた。


 俺達をしっかりと見て、微笑んだ。

 まだ蘇生したばかりで力が入らないのか、ぐったりしている様子だったが、いつものマイティだった。


「どうやらハイエリクサーでの蘇生は成功のようですね。まだ衰弱しているようなので宮殿の部屋へ運びますので、アラタ様ご一行様はこのままついて来て下さいませ」


 人魚族アクアシアはそう言った。


 ◇


 マイティは部屋に移され、地球産の高級ふかふかのベッドに寝かされた。

 この高級ベッドは、無理やり、母エウロラに要求され地球の有名家具屋から大量に購入した物だ。因みにこれは俺のクランハウス全室にも設置してある。


 部屋には、アクアシア、母エウロラ。

 後はライナを含む俺達6人とクインもいる。


「マイティ…お帰りなさい」

「うん…レベッカ。私が捕まっていた時…貴方、詠唱止めてしまうんじゃないかと思って油断しちゃった。本当はもっと早く黒い手を解けていたかも知れなかったに…失敗失敗…」

「何言ってるの…ぐすん。皆の命がかかっているんだから、止めるわけないじゃない…ぐすっ…ひっくひっく…」


 レベッカは嬉し泣きで言葉が出なくなっていた。


「カレンさん…あの時、私の腕を切り落としてくれて有難うございます…」

「何言ってるのよ…私達にはハイエリクサーがあるんだから、当然の事をしたまでよ」

「あ!…そう言えば…ミズキさんは?」

「大丈夫だ!マイティ、ミズキも今、絶賛蘇生中だ!…それより、痛い所はないのか?…ん?」


 クラウスが話にそう言って割って入った。


「そう良かった…ってクラウス、慌てすぎ…何なのよ…もう…ハイエリクサーで完全蘇生したんだから傷すらないわよ…そんなに心配したの?私の事?…」

「当たり前じゃないか!だって…だってな、俺…」


 俺は二人の後からニヤニヤしながら顔を出した。


「クラウスって、マイティの事が大好きなんだってさあ」

「そう…知ってたわ…てか、知らなかったのアラタさんだけですよね?」

「え?…マイティも知ってたの?…うそん」

「「「あははははは」」」


 皆の笑い声が部屋に響き渡った。


「どこまで記憶ってあるのマイティ?」


 俺はふとした疑問を投げかけた。


「えっと…殺された後、苦しさから解放されたかと思ったら、ふわっとして皆の戦っている姿が見えて…カレンさんが私の腕を切り落とす所を遠くで見てて…それから…記憶が曖昧なんですけど、両親の姿も見えたりして…よく分かんないんです」


 マイティは霊体験をしたようだった。

 死んだ後人間は自分の横たわっている姿を見る事があると言う、それから50日の間この世に留まり、会いたい人などへ会いに行ったりすると言うアレかな?…

 地球でも仮死状態になった人がそう言う経験ってしてたはずだ…

 霊体には距離の概念もないらしいもんな…


「さあ、あんた達、もう良いでしょ。マイティはまだ安静です!アラタ、あんたリーダーなんだから、ほら皆を外に連れて行きなさい、ほらほら!」


 母エウロラに俺達は部屋を追い出されてしまった。

 とりあえず、明日か明後日には瑞希が蘇る…

 マイティも本当に良かった。

 明日もこうやってみんなと笑ってられる事を祈って、今日を過ごした。


 ◇


 朝早くから皆、瑞希の蘇生テントへ集まった。

 エウロラが言うには、まだ脳の生成がまだのようで時間が掛かっているみたいだった。


 繊細な部分なのでまだまだ時間が掛かると言うので、俺達はテントを出て連絡を待つことにして、各々時間を潰していた。


 レベッカとクラウスは、マイティの部屋に行ってしまったし。

 カレンとフェルナンドさんはライナの修行だそうだ。

 俺はクインとテント近くでぼーっと時間を潰していた。


 それから待つ事、数時間…

 連絡が来たのはもう日が落ちた頃だった。


 皆、テントの中に集まっていた。

 瑞希の蘇生は髪の毛の生成に入っていた。

 蘇生のスピードが一気に速まりそれは完了した。


 マイティの時と同じようにキラキラした物が瑞希へ降り注ぎ、身体を包み込んでいるように見えた。


 瑞希…やっと…

 俺はいつしか涙を零していた。


 暫くすると瑞希はゆっくりと目を開ける。


「瑞希!!」


 マイティの時と同じようにエルフ達が、目隠しの布で覆い、ゆっくりと起こし服を着せていた。


 覆っていた布が取り外され、担架に移されている瑞希。

 目を開け天井を見ていた瑞希は、俺達の方に顔を向ける。

 そして軽く笑った。


「ミズキさん…良かったぁ」


 レベッカが最初に涙すると、一気に俺も涙が溢れて来た。


「瑞希…良かった、本当に…良かった」


 涙を拭う俺に、フェルナンドさんとクラウスが肩を組んで来た。


「病室へ行こうぜアラタ」

「はい…」

「行こう行こう」


 俺達は、瑞希の部屋へ向かった。


 ◇


 瑞希はマイティほどの衰弱は何故かしてなかった、地球人だからなのか、それとも瑞希の体力がずば抜けているからなのかは不明だった。


 ベッドに横になってはいるが、言葉ははっきりと喋っていた。


「あの時はさ、ほんとどうなるやらと思っちゃった」

「でも、ミズキさん、部屋が綺麗すぎて…髪の毛くらい残して今度は掃除してくださいね」

「あははは、それは無理だねぇ、あはは」


 最初からレベッカと冗談を言い合うくらい元気だった。

 フェルナンドさんが俺の背中を押して瑞希に一番近い場所へ押し出した。


「えっと…瑞希…助かってよかったな…」

「うん、新…いろいろありがとね」

「うん…」

「私さ、幽霊になって見てたんだけど…最後、リッチロード倒した時の新、かっこよかったよ!…あのレベッカの呪文と一緒にさ。ホーリーレクイエム!!ドーンみたいな」

「はは…はは…って、そんなにはっきり覚えているの?」

「うん、遠目で見ていたから、なんか凄かったわよ!でも最後にリッチロードが魂を吸い取ろうとした時は怖かった…霊体の身体が吸い寄せられて行って…抵抗すらできなかったもの…」


 へぇ…幽体離脱ってそんな感じに見えてたんだね。


「後さ…私のために凄く泣いてくれてありがとね、新…」

「え?そんなとこも見てたのかよ…」

「うん、部屋でずっと私の名前呼んで泣いてたでしょ?」

「へ?…」

「えっと後ねぇ。私の爪の欠片見つけた時も泣いてたしぃ…」

「は?…」

「あ!そうだ、新…私は別に良いよ?」

「はへ?一体…何が良いよ?なのさ…」

「妻になってあげる!」

「ぶっっ!」

「あ~~~それからぁ、エルティア姫との事も全然気にしないでよね?」

「え?…」

「私は…少し気にはなるけど…、まあそれは地球だったらの話だしね。この世界ではそれでも私は構わない…でも私が本妻なのは絶対だからね!」

「待て待て待て…さ、さっきから何言ってるんだよお前?…」

「ええ?アルメデオ王と話していたでしょ?建前はエルティア姫で~、本妻は私って」

「はあいいいいい???…死んでからずっと霊体になって俺を見てたのかよ?」

「うん」

「いや‥うん、じゃなくて…マイティみたいに、ほら、両親のとこに行くとかさ?」

「この世界から行けるわけないじゃない。行くとこないからずっとあんたに憑いていたってわけよ」

「……………………」


 こんなわけで、皆にまだ言ってもない事をバラされて。

 俺は恥ずかしさで穴があったら入りたいと思った…


妖精霊王オヴェイリュオン様ともずっと暇つぶしに会話して貰っていたわよ?爪の場所教えたの私だもの」

「あんだとぉ!?…あんのクソ妖精ちょうちょ僕ちゃん野郎……声とか聞こえずらいとか言ってなかったか?…ちゃんと聞こえていたんじゃねーかよ!」

「あははははは!!」

「笑いごとじゃないつーのよ!!どれだけ俺、心配したかつーの!」


 俺は、嬉しさも満タンだが、若干怒りに震えたのだった。


「新…」

「ぬっ!?」

「大好きだよ」

「え?」

「あはっ!大好きですってば」


 瑞希はぴょんと座りながら軽く飛んで抱き着いて来た。

 薄着一枚しか着ていなかったので、瑞希の胸の感触が気になってしまったが、すぐに俺は恥ずかしながら答えた。


「……は、はい…俺もです…」


 そう言った瞬間、部屋にいる皆が一気に、わあああああっと歓声を上げた。

 俺は、一気に顔が熱くなっていくのが自分自身で分かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る