第143話 第一人者と婚約

 俺は瑞希の欠片を見つけ出し。

 ハイパーエリクサーを使い、瑞希の小さな爪の欠片を浸した。


 戻って来い瑞希。

 また俺と冒険しよう。

 そして…俺と…


 願いを込めたハイパーエリクサーは、瑞希の欠片に反応し輝きだす。


 その瓶の中で輝いた爪は5分の間に倍に復元していた。


「heyアラタ…この速度だとその瓶ではすぐに手狭になるんじゃないか?」

「そうですよね…フェルナンドさん、クランハウスのバスタブへ持って行きましょう!」

「待ちなさいアラタ」


 呼び止めたのは母エウロラだった。


「アラタ、ここにもバスタブならあるわよぉ?取って置きの高級木材で拵えたエリクサー専用バスタブがね!」

「え?エリクサー専用バスタブ?」

「ええ、こんな事もあろうかと、人魚族と我らで作ったハイパーエリクサー専用のやつよ」


 俺達は皆顔を見合わす。


 その木材で作られたバスタブとは…

 人間がすっぽりと入る切り株を人型に掘った物だった。

 表面はちゃんと加工が施されていて、液体が木に吸収されないようになっていた。


 エリクサーシリーズは全てそうなんだが、一度決まった量のエリクサーを掛けると蘇生は始まる。


 だが、研究の結果、最初のエリクサーの液体を聖水で伸ばして、常にその液体に浸かるようにした方が蘇生も早く、奇形な蘇生にならない結果が出ているとエウロラは言った。


 この切り株のバスタブはそれを人型に掘ってそれを可能にしたものだった。

 計算されて作られたそのバスタブは、どの部分にも聖水で延ばしたエリクサーが浸るように出来ているのだと言う。


 蘇生は一番複雑な部分が最後に終わる。

 勿論それは脳がある頭部である。


 頭部には枕のような物が付いていた。

 蘇生が終わった後に、息が出来るように設計されていると母はドヤ顔で言っていた。


 母エウロラと人魚族クレンシアの母アクアシアは、エリクサーを今後も研究していく第一人者だし、瑞希の蘇生の経過はこの二人に任せて置けば問題ないかなと思った。


 瓶の中で指が出来始めたら大きな瓶に移して経過を見て、その後も適切な大きさになったらそのバスタブへ移すと約束してくれ、アクアシアの見立てだと全身が復元するには1週間は掛かるだろうと推測を出した。


 ◇


 もう瑞希の心配は最後にちゃんと魂が戻ってくれるかって所なので、それまでは心配しても時間の無駄なので、俺がやらないといけない物をその間に終わらせておこうと、クランハウスに戻って来た。


「あれ?イグ、門の騒ぎは何だい?」

「うむ…毎日、ああやってクランへ入りたいって希望者がどこからかやってくるんじゃよ」

「え?…毎日?…」

「そりゃ、領地を持ったクランなんて異例じゃし、今じゃあ、アラタ殿とこのクランはオブリシア大陸では一番有名なクランじゃから仕方がないのう…この領地の塀や門には勝手に侵入出来ないよう電流が流してあるので突破される事はないがな」

「…な…なるほど…」

「あとな…毎日来とるのは、奴らだけじゃないぞ」

「え?他にも誰か来ているんですか?」

「この王国の筆頭執事パウロ殿じゃよ」

「えぇ…それってまさか?…」

「そのまさかじゃと思うぞ?」


 そう…それは、このフェリオール王国の第一王女エルティア姫との婚約だ。それを俺はずっと放置している…別に、考えさせて下さいと言ってあるので、だからこのまま放置…ってわけにはいかないよな…


「まあ…この領地はフェリオール王国の物じゃし?…アラタ殿もいい歳じゃし、あの姫さんなら人間で言う美人じゃろーし、この際この国も手に入れてみるのも良いのじゃなかろうかのぅ?」

「イグぅ…そんな簡単に結婚とか、国を貰うとかさ…」

「ほっほほほほ、まあ、アラタ殿はミズキ殿がおるから決めきらないのはわかるがのぉ、何なら両方ってのも有りじゃなぁ、差し詰め、姫様と結婚してミズキ殿を側室にするって事で全て丸く収まる…」

「収まらない!!」


 イグの言葉を最後まで聞かずにそう答えた。


「……地球人は面倒じゃのぅ…ま、どちらにしてもこのままってわけにも行きますまい…」

「うん…とりあえずフェリオールの城には行ってみる事にするよ…はぁ…」


 新はため息をついた。


「heyアラタ…ま、その辺はお前のプライベートだからな…俺達はクランで今しか出来ない何かをしておくから、アラタもプライベート頑張ってな…」

「……」


 フェルナンドさんはそう言って、他の皆とクランハウスに入って行った。


 仕方がない…

 瑞希が生き返るまで1週間、自分のやるべきことをやろう。


 ◇


 俺はクランハウスの雑用を多少熟した後にフェリオール城へ瞬間転移した。


 もう俺が突然現れても兵士はすぐに敬礼し、通してくれる。

 中へ入ると門の中の兵士が、すぐに俺が来た事を魔法電話のような物で連絡を入れていた。


 魔法電話、あれもイグが開発した物だ。

 まあ言えば、魔法の糸電話ってわけだ。

 地球で子供の遊びで使う糸電話から発想を得た単純な物だ。これは同じ建物の中に魔法のコードを張り巡らせてその要領で声だけを伝える代物で「話術機」と言われている。

 これはすでに、城だけでなくギルドでも、他の家庭の建物でもすでに広まっている物らしい。


 すると、中庭から大急ぎで出て来たのは、次女のアンジェリア姫だ。

 ドレスの裾を持ち上げ全速力で走って来る。


「アラターーーー!!」

「アンジェ、久しぶり!」


 全速力で俺の前に来たアンジェは俺の腰に抱き着く。


「アラタ!わらわはな、今、絶賛お菓子の勉強中なのだ!」

「そっか、アンジェはお菓子大好きだもんなぁ」

「うん、毎日、アラタのスイーツ屋で勉強させてもらっているのだ」

「え?…毎日行ってんの?…そんな事聞いてないけどな…」

「あ!エル姉が待っているから早く、こっちこっちなのだ」


 俺は腕を引っ張られて城へ連れて行かれた。


 応接間に連れて行かれた後に、パウロさんが入って来た。


「やっと来られて貰えましたな、アラタ様」

「いろいろと忙しくてね…」

「分かっています。しかし、余りにも何の音沙汰もないので何度も足も運びました」

「ああ…」


 次は、アルメデオ王が入って来た。


「おお。アラタよ、久しいなあ」

「そ…そうですかね…」

「うむ。何処かで死んだのではないかと気が気でなかったわい」

「あはは…まあ、生きてます…」

「勝手に死んでしまっては困るぞぉ、そんな事になったエルが未亡人になってしまうではないか?」

「え?…結婚してないから、未亡人にはならないのでは…?」

「ま…まあ良い、今度こそ良い返事を聞かせて貰うぞ!」

「いや…あの…」


 すると、エルティア姫とサレーシャ王妃が一緒に部屋へ入って来た。


「貴方…アラタも困っていますよ。もう少し冷静に話をしないと…」

「むう…そんな悠長な事を…」

「お父様、お母様…あの…アラタ様と二人にして貰えますか?」

「……」


 アルメデオ王とサレーシャ王妃は顔を見合わせ。

 アンジェとパウロも連れて応接間から出て行った。


 ◇


 約一時間すると、応接間からエルティアは出て来た。

 廊下でウロウロしていたパウロはすぐにエルティア姫に駆け寄る。

 部屋から出て来たエルティアは目が赤く少し涙を浮かべていた事にパウロは気付いてそっと声を掛ける。


「エルティア様…」

「ううん、パウロ。私は負けませんからね。これでも王女なんですから!」

「はい?…」


 そう言ってエルティアはスタスタと歩いて行った。

 そして、新が応接間から出て来た。


「アラタ様…まさか?…いえ、お二人の事です何も聞きません、次はアルメデオ王様にお会いになりますんですよね?」

「はい…」


 王の部屋へパウロに案内される新。

 部屋に入るとアルメデオ王とサレーシャ王妃が二人でお茶を飲んでいた。


「失礼します」

「うむ」


 俺の表情で何となく察したような顔をするアルメデオ王だった。


「では、わたくしは」

「うむ」


 サレーシャ王妃はそう言って出て行った。


「そこへ掛けてくれ」

「はい」


 俺は、さっきまでサレーシャ王妃が居座っていた椅子に座った。


「その顔はどうやら、断ったって所か?」

「いえ…あ…はい。そうとも言えますね」


 暫く二人は沈黙した。

 そして、すぐに俺は口を開いた。


「済みません…アルメデオ王様、俺には瑞希って幼馴染がいて、この間その子が亡くなったんです…と言っても今エリクサーで蘇生中ですが…」

「死んだのに?…ああ、ハイエリクサーか…もうお主に驚く事も無くなって来たな。それで、その子がアラタの大事な人だって事だな?」

「はい。瑞希が死んだ時、俺はその事に気付かされました」

「ふむ…」


 また暫く沈黙する二人。


「しかしなぁ…エルはああ見えて気の強い子なんだ…諦めはしないだろう」

「はい…エルティア姫にもそう言われました」

「ほう?」

「わたくしには、俺しかいないと強く言われてしまい…その瑞希にも負けませんとまで言われました」

「ふむ。そうだろうなあ…男の儂から見ても、お前は規格外で魅力溢れる男。そんな男を最初に見てしまっては、見合う男はもうおらんだろうな」

「え?…いや、エイナムル王国の王子とか容姿も武術も…」

「いやいやいや、その王子達よりもお前は魅力なんだぞ?分からないのか?」

「へ?」

「どの冒険者よりも強く、車や便利な機械、お菓子、化粧品など、いろんな物を開発し、領地も持っている。お前の出現により、今じゃオブリシア大陸一のエイナムル王国よりも栄え、我が国はこの大陸一番の国になりつつある、こんな偉業出来る王子?人間が何処に居ると言うのだ?」

「それは…」


 確かに俺がこの世界に来てかなりの影響を与えたのは間違いない…

 しかし、エルとの結婚はそれとは関係なくないか?…

 それに俺は多分だけど、約5000年は生きるわけで…

 さっき、俺はエルに全てを話した。


 俺の大事な人は瑞希である事と、その人はいま蘇生中だと言う事も。

 俺が何者でどのくらい寿命があってどんな戦いをして来たかまでも全て。


 その時、エルは一瞬、泣きそうになっていたが…

 俺の冒険の話とか、身に起こった事が理解できているか分からないけど…

 すぐに言い返されたんだよね…

「わたくしが先に婚約したんです、わたくしには、アラタ様しか考えられないのです…負けませんから」って…


 本当はその一文だけじゃなく、もっと俺との愛に対して語ってくれていたんだけど、最後に初めて気の強い所を見せた言葉だったな。

 あんな可愛い子にあそこまで言わせるなんて…普通なら有り得ない事だ。

 でも、俺は気付いた…自分自身の瑞希への愛に。


「…だから俺…この話…」

「いや!ちょっとまてアラタ!」


 俺が決心を言おうとするとそれを言葉で遮るアルメデオ王。


「待て、それを言ったら駄目だアラタ」

「いや…」

「良し、こうしようじゃないか?」

「え?」

「この世界はな、側室と言う物があるのはしっておろう?」

「はい、知っていますが…俺の中でそれは…」

「俺の中で気が済まないって言いたいんだろ?」


 また言葉を遮って王は言う。


「分かっている、アラタは真面目な奴だからな、儂もそうだった、だからサレーシャしか娶っておらんのよ」

「はぁ…」

「ここは政治的に行こうじゃないかアラタ、儂としては長寿で強いお前が、次のフェリオール王になった方がこの国は安泰だ。そして、そのお前が愛する者は別に誰であろうと構わん、建前上はエルと結婚し、本妻はミズキでも構わん、後継ぎが王女二人しかいないこの国を何処の馬の骨か分からん奴に渡すくらいならな」


 そう言えばイグも同じような事言ったな…


「いや、それでは、二人の気持ちはどうなるのですか?…」

「エルは承知している事だ、政治とはなあ、アラ…」

「お父様!!アラタ様に無理強いは止めてください」


 俺の言葉の後に後ろから強い言葉が飛んで来た。

 いつの間にか部屋にエルティアが入って来ていたのに俺も王様も気付かなかった。


「エル…ティア姫」

「エル、お前だってそれでも良いって言ってたじゃないか?」

「アラタ様が好きなミズキ様が生き返り、その事を認めてくれれば良い話です、お父様、後は女同士ちゃんと話をしてみますわ」

「なるほど…そうか…ひょっとしたらミズキはアラタの事を好きでもないかも知れんしな!うむ、一理あるな」

「いやいや…そんな事は…」


 あれ?そもそも考えてみたら瑞希が俺の事、好きじゃないかも知れない?あれ?…

 なんかそんな言われると不安なって来た…俺が実は一方的に好きなだけだったりとか?…


「ちょ…なんか混乱して来たんでもう一度この話持ち帰っても良いでしょうか?…」

「むう…また待たせるのか…」

「はい分かりました。アラタ様、心行くまで考えてください。先程はわたくしの知らないアラタ様の事いろいろ教えて下さり有難うございました、わたくしは覚悟は出来ています。ミズキ様が無事に生き返る事をわたくしもお祈り申し上げます」

「ああ…有難う」


 俺は、何とかその場を脱してゲートでクランハウスへ逃げかえるのだった。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後書き。

 2023年、明けましておめでとうございます。

 ファンの皆様、昨年は1200人を越えるフォロワー様の応援ありがとうございます。


 ★や♡、フォロワーが増える度喜び、減る度凹みもしましたがw

 処女作の作品をこれだけの人が読んでくれて有難い限りでございます。


 新作も裏で書いているのですが、2作目なので慎重に書いております。

 まだアップしておりませんが、5話くらいまでしっかりと書いたらアップしようかと考えております。


 その時はまた★や♡、コメントなど宜しくお願い致します。

 今年も、ゆるりと書いて行きますのでご愛顧のほどよろしくお願いいたします。



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