第142話 欠片
俺は、クランでやらないと行けない事を指示して、その日のうちに妖精霊王の元へ行こうと急いでいた。
クランの皆は俺を気遣ってくれて、些細な事はやって置くと言ってくれた。
腕だけになった、マイティの回復も気になって見に行ったが、もうすでに上半身は生成されていた。
クランハウスの庭に出ると、フェルナンド、カレン、クラウス、レベッカ、ライナが俺を待っていた。
「クラウス…お前、俺達が気付かないと思っていたのか?」
「え?…じゃあ知ってたんですか?フェルナンドさん達?」
「いや、俺はこの間のリッチロードの時気づいた、レベッカ、カレンは最初から気付いていたらしいがな?」
何やら、皆がクラウスからかっているように見え、それにクラウスは焦っているようにも見えた。
「お待たせ。何の話?」
「heyアラタ、お前も気付いていたよな?クラウスが、マイティの事を大好きなのをよ、ハハハハハ!」
「え?そうなの?…」
「あの時も、マイティ、マイティって叫んでいたもんな!ハハハハ」
「フェルナンドさん、殺しますよ!!」
あの焦り方は本当なのだろう。
クラウスってマイティの事、好きだったんだ?
そう言えば、確かに、リッチロード戦の時。マイティを真っ先にに心配していた気がするな…まあ、俺も人の事言えないか…
「アラタ。大丈夫、きっとミズキは助かる。きっと何処かに欠片はあるさ」
フェルナンドはクラウスへのからかい気味の笑いを止めて、俺に真顔でそう言った。
「はい…俺もそう信じてます」
皆は、俺に笑みを浮かべた。
「じゃあ、さっさと行こうぜ!」
フェルナンドの言葉で、皆は頷いた。
俺は、妖精霊王がいる島へゲートを繋ぐ。
最初は妖精霊界へ直接繋ごうと思ったけど、駄目だった。
地球へ直接ゲートを繋ごうとしても駄目だったように、妖精霊界も同じく次元が違うのでゲート魔法で繋ぐ事は出来ないらしい。
◇
ゲートで精霊の島へ降り立つと、木の精霊ドレイアド達が姿を現した。
「お待ちしておりました、アラタ様。さあ、
ドレイアドがそう言うと、木が避けるように一本の道を作り出した。
俺達は頷いて、中央にある池へのその道を歩いて行った。
池まで歩いて行くと、次は水の精霊ウンディーネが俺達を出迎える。
水で姿作られたウンディーネは俺達にお辞儀をした。
「アラタ様、リッチロード討伐お見事でした。ささ、妖精霊界へわたくしが、導きましょう。池へどうぞ」
新達は、軽く頷いて池へ飛び込む。
ウンディーネの導きで妖精霊界へ着いた新達は、空を飛ぶように妖精霊王の宮殿へ向かった。
宮殿の中へ入ると、草原が広がっていた。
ポツンと大きな机と椅子が置いてあった。
《勇者達よ、
オヴェイリュオンの声が響き渡る。
新達は並べられている椅子へ各自座った。
空中にスッと、オヴェイリュオンは現れ新達へ笑顔を見せる。
「あの!オヴェイリュオン様!」
新はガタっと席を立つ。
「フフフフ…アラタ君、分かっているって、その前にクイン君を元に戻しましょうか?」
「あ…はい」
新はマジックボックスからクイン・ソードを取り出してオヴェイリュオンへ渡す。
大きく息を吸って妖精霊王は呪文を唱える。
クイン・ソードは宙に浮いて、光の粒子に徐々に変わって行く。
その粒子は妖精霊王の掌に集束していった。
そして、少し間を溜めて口から粒子を吐いた。
その光の粒子みるみると一つの形を作って行く。
全ての粒子が光の輝きを終えると、そこに現れたのは、クー・シー。
見覚えのあるその深緑の色合いはクインその者だった。
パチッと目を開くクイン。
すぐに目に入ったのは新の姿だった。
クインは小走りに新へ寄って行った。
「クイン…」
「ふむ。フー」
新はそっとクインを抱きしめる。
皆、新とクインを見て笑顔を浮かべている。
「さて。ミズキ君だけど…魂はまだ、ブルー・スフィアに残っているようだね」
オヴェイリュオンは目を閉じてそう言う。
暫く無言になった。
「ん~…」
オヴェイリュオンは眉間にシワを寄せて考えている。
「何か…分かりますか?」
新はそう尋ねる。
「うん、ミズキ君の魂から肉体の一部への糸口を探しているんだけど…」
「だけど?…」
「ここでは分かりづらいから、別の場所に移動するね」
オヴェイリュオンはそう言うとパチンと指を鳴らす。
すると、今まで草原の中にいたはずなのに、瞬時に部屋の様子が変わった。
そこは森の中。
新は、その場所に見覚えがあった。
「ここは…ヘイムベーラ大森林?」
「そう。僕の世界だとミズキ君の魂からの声が聞こえづらかったからね。もう少々お待ちを」
オヴェイリュオンはそう言って、また目を閉じる。
「うん?そこに何かあるの?…うん、そう?、分かった」
オヴェイリュオンは誰かと会話しているような素振りを見せていた。
暫くするとオヴェイリュオンは目を開けて口を開いた。
「ミズキ君の魂の声を聞いてみたんだ。彼女が言うには、アラタから自分の肉体の一部を感じるって言ったけど…どういう意味か僕にはわからないね、彼女の何かを身に付けているとか?」
「え?…俺?…瑞希の物?…」
俺は考えた。
瑞希から貰った物なんてないよな?…
他に何か…ん?まてよ?預かっている物と言えば、瑞希が使っていた防具や武器がマジックボックスの中に仕舞ってある。
俺はマジックボックスを探り、瑞希が使っていたお古の武器防具を取り出した。
フェルナンド、クラウスも協力して取り出した武器防具を入念に調べる。
「ん~…ないなぁ、フェルナンドさんそっちは?」
「髪の毛でも挟まっているかと調べたが、それらしき物はみあたらないな」
「うん…俺の方も、アラタ、ミズキの装備ってこれだけか?」
クラウスが最後にそう俺に聞いた。
「ん~多分これだけだと思うけどな…」
するとオヴェイリュオンが口を出す。
「ん?装備ではなくて、にちようひん?…何だそれ…つめきり?…」
「え?爪切り?」
「さあ?僕には言っている単語が、よく分からないな…にち何とかと、爪何とか?」
そう言えば…
いつか、瑞希に新品の爪切りを貸した事あったな。
瑞希は剣を振ったりする時に、爪がよく割れるって言うから、こっちの世界では綺麗に爪を切っていたんだった…それか!
俺はも一度マジックボックスへ手を突っ込み、爪切りを探した。
「あった!」
その爪切りは、切った爪が散らばって落ちないようにカバー付きのやつだ。
「待て待てアラタ!袋の中とかでそのカバー外さないと落ちたら探すのが大変になるぞ!」
「あ…ですね」
俺はそこまで大きくはない空き瓶を取り出した。
この空き瓶は最初ここに来て雑貨屋に並べるシャンリンを試験的に売る為に持っていた残りだった。
空き瓶の蓋を開けて、その上で、そっとカバーをゆっくりと外す。
すると外した途端に、本当に小さな爪の欠片が瓶の中へ落ちる。
「あった…」
「待て、アラタ、その爪切り本体のその隙間にもあるぞ!」
フェルナンドがそう言ったので爪切りで爪を切る時、指を掛ける末端の狭くなっている部分にそれはあった。
そこそこ大きな爪の欠片だった。
こんな所に挟まるもんだと思うくらいしっかりと嵌っていた。
俺は息も止めて、その欠片もその瓶の中へ落とす。
そして、しっかりと瓶の蓋を閉じた。
俺は止めていた息を吹き返すと。
皆、顔を見合わせて一気に喜んだ。
「「「やったーーーーーー!!」」」
「これでミズキさんを元に戻せますね!」
「ああ、これで…瑞希を…元に…ぐすっ…」
凄く喜んでいるのに、俺の目には涙が溢れ出した。
皆、俺に満面の笑みを見せている。
泣いているのは俺だけだった。
「フフフ、これでミズキ君も元に戻るね。クイン君も元に戻ったし、リッチロードも消滅して一件落着って事で」
オヴェイリュオンはそう言って笑った。
◇
俺達は妖精霊界を後にした後、エルファシルへ来ていた。
ここで生産している、ハイエリクサーを使うためだ。
持っているエリクサーを使う前に母エウロラに相談した所、ハイエリクサーより濃度の濃いハイパーエリクサーを開発したと言っていた。
ハイエリクサーは確かに肉体の一部があれば蘇生できる。
だが、それは今回のような欠片のような一部で試した事例はないのだそうだ。
人魚族のアクアシアが言うには、ハイエリクサーでも限界はあるのだと言う。
あまりにも肉体が欠損している場合、細胞の蘇生が途中で変化し、奇形な形での蘇生になる可能性があると言った。
それは、低級の魔物で研究して分かったのだと言った。
人魚族と母エウロラはエルファシルでその研究に取り掛かっていたらしい。
人魚族の血と鱗でエリクサーが出来る。
人魚族の血と鱗、魔人族(悪魔族)の血でハイエリクサーが出来る。
と、ここまでは今までで分かった事だったが。
今回、それに加え、新しい研究で以下事を試したらしい。
1,精霊族の血。
2、エウロラの血(ハイエルフ)
まず、1の精霊族の血は、ほとんど効果は得られなかった。元々が精神体だしそうなのかもなと思ってしまった。
そして、2のエウロラの血を使った結果は、なんと蘇生力が2倍になった上、細部蘇生でも奇形になる事がなかったそうだ。
問題なのは、ハイエルフの血じゃないといけないのか?それともアラタのようなハーフでハイエルフの血脈を受け継ぐ者でも良いのかは、アラタからの血で試してみないと分からないとの事だった。
そこで、俺は瑞希の蘇生は急ぎたいが、その挙句、奇形での蘇生になるのは絶対避けたいので、この結果が出るまで蘇生は待つことにした。
幸いまだまだ蘇生出来る期間もある。
アクアシアとエウロラは、俺の血を採血して研究させてくれと言ったので俺はそれを承諾した。
それから三日待った。
それで分かったことは、ハイエルフの血ではなく、ハイエルフの血脈を受け継いでいる者と言う結果だった。
つまり、ハイパーエリクサーを作るのに、俺の血でも問題ないって事が分かったのだ。
そして、それから三日後。
俺の血を混ぜたハイパーエリクサーが完成した。
皆の前で、瑞希の爪の欠片の入った瓶の蓋を開けて、ゆっくりとハイパーエリクサーをその瓶へ流し込む。
このハイパーエリクサーを作る際に、俺の祈りも込めている。
戻って来い瑞希。
また俺と冒険しよう。
そして…俺と…
願いを込めたハイパーエリクサーは、瑞希の欠片に反応し輝きだす。
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後書き
ファンの皆様、おはこんばんちわ。
12月は更新も少なく済みません。
明日は、ホワイトクリスマスイヴになりそうですが…
災害級の寒波と言う事で、皆さま、気を付けてくださいね。
今年の更新は今回で終わりになりますが。
来年もまたよろしくお願いいたします。
良いお年をお迎えくださいませ。
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