第141話 思い出

 俺はあの戦いが終わってから直ぐに、戦いの後片づけフェルナンドさんに任せて、クランの瑞希の部屋へ向かった。

 しかし、簡単に見渡したが、綺麗好きな瑞希の部屋には埃一つなかった。


 流石に、女性の部屋だし俺があちこち探すのは不味いかなと思ったので、レベッカに何処か髪の毛でも落ちていないか探してもらう事にした。


 そして俺は、地球へと向かった。


 俺は瑞希が部屋を引き払った事は聞いていたが、念のために瑞希が住んでいた部屋へ向かう事にした。


 ◇


 丁度、日曜日だったので今なら住居者はいるはず。

 ポストの名札を見たけど、名札をちゃんと書いている所は少なかった。


 そう言えば最近ではちゃんと名札付けてる所って普通の賃貸ではみないな…防犯の為なのか、賃貸だからなのか?


 瑞希の借りていた部屋のポストも名札はなかった。

 とりあえずオートロックインターホンの部屋番号を押した。


《はい、どちら様ですか?》


 インターホンから聞こえた声は、女性の声だった。


「あ…あの、俺、瑞希の友達の伊勢新って言います」

《あ、みーちゃんの友達?》

「はい、そうです…えっと…」


 みーちゃん?瑞希の事か?…知り合いか?


《瑞希の友達って事でしょ?》

「あ。はいそうです」

《ごめんなさいね、私も苗字は桐谷だけど、今は従妹いとこの私が住んでるの…あの子、今は海外に行ったりしているみたいで…》

「あ…そうでしたね…済みません」


 従妹の姉さん?こりゃだめだ…引き払う時点でハウスクリーニングも掛けられているだろうし…そのまま入居していても従妹だとDNAも似てたりするのかも知れないしな…どちらにしても、それを確かめる事が出来る物を持っていたらこんな苦労はするわけないか…。


《あの?何か…?》

「いえ、引っ越ししたの忘れてました…ははは、失礼いたしました~」

《ああ…はい》ッ…


 まあ、分かっていた事だけど…

 そもそも、これで瑞希の髪の毛とか落ちていませんか?なんて聞いたら、どう見ても変態だよな…


 一度、戻ってレベッカからも聞いてみるか…

 ひょっとしたら髪の毛の一本くらい落ちていたかも知れない。

 遠距離念話は世界を跨ぐ事が出来ないからな。


 新はがっくりとしながら、自宅への帰路へ着く。


 俺は、異世界ブルー・スフィアに戻った。


 ◇


 ディファレント・アースの領地は英雄の祠、周辺をアルメデオ王から貰ったので。

 英雄の祠を出たら、すぐにクランハウスはある。


 クランハウスに戻り、階段を上っているとレベッカと会った。


「レベッカ!どうだった?」

「それが…」


 レベッカは首を横に振る。


「そうか…」

「はい…衣類とかも見たのですが…それらしい物は……地球の方はどうだったんですか?」

「いや、次の人が住んでいて、とてもじゃないが探す事すら出来なかった…」

「そうですか…残念です…」


 新は何度か首を縦に振って、無言で階段を上って行った。

 俺は部屋に入って自分のベッドに横たわった。


 ふう…


 どうする?…


 一度起き上がり。

 マジックボックスから瑞希が持っていた武器、大剣を取り出す。


 刃の方を床に付けて、柄をよく見る。

 掴む所には滑らないように布が巻かれていて、それは薄汚れていた。


 この汚れ…皮脂とかじゃだめだよな…


 暫くその大剣を見つめてから、マジックボックスへ仕舞って、また横たわった。


 目を瞑ると、幼少期からの幼馴染であった、瑞希が浮かび上がった。

 鉄棒の逆上がりを得意げのように俺に見せつける。

 俺は苦手だった逆上がりを、瑞希に教えてもらう事になって夕方まで公園に居たのを覚えていた。


 次には小学生時代、俺は見えない物が見える事が普通だと思っていたので、同級生からは気持ち悪がられていた。多少、いじめのような事を受けている所に、瑞希が助けてくれた事もあった。


 いろいろと瑞希との記憶が脳裏を巡る。


 そう言えば瑞希が一度、私を横断歩道で助けてくれたとか言ってた事あったっけ?

 あの時は確か、大きなトラックが黄色信号から赤信号になるギリギリ…いや殆ど信号無視して突っ込んできたんだ確か…。


 あの時俺には、はっきりとそこで亡くなった子供の霊が見えていてその霊に教えてもらったのもそうだけど。


 交通量多いその交差点は他にも霊がいて、俺はいつもそこは注意していて、瑞希が青に変わった瞬間、走り出しそうになって、トラックは停まる気がない事に気付いたから止めたんだったな。


 こっちに来た時、この時の事を言っていたんだな。


 そして、この世界に来て一緒に冒険をした事がいろいろと脳裏に浮かんだ。

 地球で宝石を換金した額を聞いた時、あいつ飲みかけたエールを俺にぶちまけやがったなぁ…。


 そして…、一度地球に戻って…初めてお互いの身体を触れ合ったあの夜も……。


 新は何時いつしか涙を流してそのまま寝てしまった。


 ◇


 コンコン…


 ドアを叩く音が聞こえる。


 コンコンコン…


「heyアラタ」


 フェルナンドさんか…

 もう少し、一人になりたいんだけどな…


 コンコン…


「アラタ、辛いのもわかるが…ちょっと入っても良いか?」

「んん…はい…」


 起きて鍵を開ける。


 カチャ。


「よう、アラタ…」

「どうしたんですか?」


 俺は、扉を開けてベッドに座った。


「入るぞ」


 フェルナンドは扉を閉じて一度周りを見渡して新の顔を見た。


「ふう…情けない顔をしているな。涙の後がくっきりついているぞ?」

「え?…ああ…」


 新は慌てて顔を擦る。


「さっきレベッカに聞いたんだが…どっちの世界にもミズキの何かは無かったみたいだな…」

「はい…」

「まあ…そんなに腐るな。どこかにあるはずだ、俺達もみんな探しているから元気出せよ、物理的に見つけられないのなら他の方法で探そうぜ?」

「他の方法?」

「ああ、そう…例えば…霊的な何かに頼るとかな?ほら…クインも戻さないといけないんだろ?霊と言えば、精霊とか…まあ、当たれる者には何でもだ」


 フェルナンドは自信なさげにそう言った。


 なるほど…その手があった。

 確かに、物理的に探すよりは明確かもしれない。

 今、瑞希は魂…つまり霊になっているわけだし、ひょっとしたら精霊とかなら…。


「フェルナンドさん!!それです、有難うございます!早速」


 新はガバっと立ち上がってそう勢いづいて言う。


「ああ…そうか。うん、そうしよう…で、でもその前に良いか?」

「はい?」

「急ぎたい気持ちは分かるが、それは俺も一緒だ。それで…お前のすべき事は俺が代わりにいろいろやったんだがな?お前はこのクランのマスターだ。アラタでないと出来ない事もあるんだ、先ず、皆を呼んで会議室で話そうぜ、なっ?」


 フェルナンドはそう言い、勢いづいている新を制した。

 新は、今にもゲートで精霊島へ行きたい気持ちだったが、フェルナンドにそう言われて渋々納得した。


「俺とカレンが、ゲート魔法でクランの主要な人間は呼んでくるから、アラタはレベッカ達を呼んで会議室へ行っててくれ。ゲートの魔法の練習にもなるからな」

「はい…分かりました」


 科学を理解しているジーウ、イグルート親子3人と、地球人であるフェルナンド、カレン、瑞希は、ゲートの仕組みをある程度理解しているため、新ほどではないが、さくっと通る事が出来るくらいなら、ゲート魔法をほぼ使えるようになっていた。


 すぐにクランの主要なメンバーはクランハウスの会議室へ集められた。


 そこには、スイーツ店のミーナ、シルビア。

 工房のジーウ、イグルート親子。

 諜報部員の忍びのカスミ達3人。

 冒険者Bチームも集まった、リーダー、マイティの弟マルクは目を腫らしていた。

 多分、腕だけになってしまった姉のマイティの事を思い泣いていたのだろう…

 しかし、マイティが蘇生中との事でその目は希望の光が宿っていた。


 新の目の下にはクマも出来ていて、少し痩せたようにも見えるメンバー達は何も言えずに椅子に座っていた。


「あー…皆、良く集まってくれた。今回の進行はアラタに代わって俺がやる」


 フェルナンドは会議室の前面に立ちそう言った。


 こっちに帰って来てから、ろくな報告もちゃんとしていなかったので。

 フェルナンドが皆の近況報告を全体で把握するために話し合いを開いたのだ。

 暫くオブリシア大陸の報告が続き。


「わかった。ではこちらから、レイアリグ大陸でのアルカード町でのスイーツ店は今の所、順調に行っている。それから…マージガル神国での事なんだが、神帝から莫大なドラを貰って、ディファレントアースの名は知らない者はいない。マージガル神国ではディファレントアースに入隊したいと言う者達が後を絶たない状況で、今は、一応、オブリシア大陸、アルカード町、マージガル神国、この3つからの申し出はギルドを通じてストップさせている状況だが、その内、それを解除して有能な者を選別して迎え入れようと思っている所だ…」


 フェルナンドは新をチラリと見る。


「今は…な」


 皆もチラリと新を見る。

 新は黙って何かを考えているようで上の空だった。

 ある程度の報告が終わって更にフェルナンドが口を開く。


「えっと…瑞希が不幸な事になった事は皆も承知の通りだろうが。もしも、何か気になる事があった時は、小さな事でもいい、すぐに新へ教えてやってくれ。…これで解散」

「「「「「「はい」」」」」」


 皆、声をそろえて頷いた。

 新の状態を気にしつつ皆は会議室を出て行った。


 新の冒険者コアメンバーだけ残り、フェルナンドが新へ声をかける。


「heyアラタ…大丈夫か?」

「あ…はい…大丈夫です」

「次は…マージガル神国の神帝と、ロボットに入ったオッサンがお前に面会したいと言っている。…ああ…それから。これは…まあ、どうでも良いんだが…フェリオール王国の姫さんがお前に長く会ってないから会いたいって、執事のパウロさんが何度もメルバードを飛ばしてくるくらいか…」

「うん…」


 新はまだ上の空で返事を返している。


「…さて、アラタ、妖精霊王オヴェイリュオン様の所へ行くとするか!」


 頭を掻きながらフェルナンドはそう言った。


「あ!行きましょう!!」


 フェルナンドの言葉を聞いて、新は思い出したかのようにガタッと席を立った。

 フェルナンド、カレン、クラウス、レベッカは顔を見合わして頷いた。



---------------------------------------------------------------------------------


後書き。

年末多忙のため…更新遅くなっています。

続きを楽しみにしているファンの方、ちょっと更新が…いや結構、遅れるかもしれませんがよろしくお願いいたします!



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る