第139話 黒い手
リッチロードはドウラの心臓を黒い手で握りつぶし。
その場に放り投げた。
マージガル神国が誇る将軍長ドウラ・ドーレスを含む、精鋭部隊ナイツ・オブ・アークは一人の兵士を残して全滅してしまった。
最後のナイツ・オブ・アーク兵士は、一本の魔封魂杖を突き立て、起動に成功した。
あの時、自分だけ立ち遅れ、少し離れた位置で見た黒い手を払い除けられる事が出来た兵士は、自分以外の仲間と将軍長の亡骸を見て足が竦んでその場に座り込んでしまった。
距離をとりながら戦っている、新達はある変化に気付いた。
さっきまでリッチロードを守っていた障壁が薄くなったのである。
それは、機能している魔封魂杖が3本になって明らかに魔力を奪われたからだと確信した。
『…やはり、まともに伝説級の魔物とやり合っては駄目だ…転がっている魔封魂杖を設置起動させて、力を奪うしかない!』
そう皆に念話で俺は叫んだ。
皆、俺を見て頷いた。
前に封印した時は8本で完全に力を奪って封印していた。
今3本機能していると言う事は、あと5本は設置しないといけないが…
新しく持って来た魔封魂杖は、兵士が設置しようとして残り7本が兵士の死体と一緒に転がっている。
幸い、あの魔封魂杖は神聖魔法の刻印があるため、リッチロードは触る事さえ出来ない。その証拠に、先ほど設置した兵士が黒い手を祓う事が出来、昔から残っている2本も取り除く事が出来なかった。
魔の者には近づく事さえ難しい物なのだろう。
精霊武器は確かに、精神体の魔物を斬り祓ってくれる。
しかし、この伝説級のアンデットには、届くのさえ難しい事が分かった。
先ずは、力を奪ってから攻撃するのが得策だろうと、俺だけでなく皆も考えているようだった。
攻撃を繰り返していた、瑞希、フェルナンド、カレン、クラウス、マイティは、攻撃して離れる際に落ちている魔封魂杖を拾い上げていた。
ライナには、絶えず精霊弓で攻撃するようフェルナンドからの指令が飛んでいた。
「…ぬう…うぬら…」
漆黒のフードから垣間見える骸骨、リッチロードは焦りの言葉を口にする。
カレンは他の仲間より素早い動きで、魔封魂杖を突き立て起動させる事に成功した。
「これで4本目ね!!」
カレンは設置し、素早く黒い手の範囲外へ飛び下がる。
すると、ライナの精霊弓の矢がフードに突き刺さったかと思うと貫通してしまった。
しかし、その貫通した場所を見ると明らかに穴が開いていた。
「…人族め…舐めるなよ…ふん!…」
リッチロードは気合を入れるかのように胸を大きく張ると、その点の穴は、また塞がってしまった。
「私だって!」
「待てマイティ!」
マイティは、隙を伺い飛び込み杖を立てた。
それをクラウスは制ししようと叫んだが遅かった。
マイティは起動する前に黒い手に捕まってしまった。
「うぐっ…」
「「「マイティ!!」」」
皆がそう叫ぶ。
「…うぬら…人族にしてはよく動く…だが…、油断したな…」
マイティは首を掴まれ宙に浮いた状態になっている。
苦しさで持っていた剣と魔封魂杖を離し、首にかけられている黒い手を取り除こうとマイティは手を掛け藻掻く。
「うぐっ…」
「マイティ!…貴様ぁ、離せ!!」
クラウスはそう叫び、じりじりとマイティの黒い手を狙っている。
「…獣人族…この女が気になるか?…焦っているな…」
目をつけられていては、手出しも出来ないと、チッとクラウスは舌打ちをした。
余裕めいた口調でリッチロードは更に、もう一つ黒い手をマイティの胸の中へスッと入れた。
「ぐっ!…」
「マイティ!!!」
クラウスはもっと大きな声で叫んだ。
更に苦しそうに藻掻くマイティ。
「…人族よ…取引と行くか?…この女を解放する代わりに…忌々しいその4本の杖を取り除いてもらうのはどうだろうか?…」
リッチロードはそう言った。
「だめ…そんなことしたら…」
マイティは掠れた声でそう言う。
新は考えていた。
どうする…
この状況で取引をしてしまうと…勝てない確率が上がるだけだ…
そう…俺達にはハイエリクサーがある。
マイティがもし…殺されたとしても、この場を生きて帰る事さえ出来れば…
俺ももしマイティと同じ状況なら勝ち目を無くすくらいなら、自分の命を捨ててこの状況を打開しようと思う。
正義感の強いマイティだって同じ気持ちのはずだ…
ここは、なんとしてもコイツを倒すしかない…
『ごめんマイティ。ここは取引よりも先ずは倒す事を優先しないと下手したら全滅する…』
『アラタさん…それで…良いの…』
俺の全員念話に対し、すぐにマイティはそう念話で返答した。
『マイティ!俺が必ず…必ず助けてやるからな!』
クラウスはそう念話でも叫んだ。
『うん…有難う…クラウス…大丈夫ハイエリクサーもあるしね…』
『ああ…そうだ、苦しいだろうが、もう少し辛抱してくれ!』
『しかし…まずいな、どう動くか』
皆の念話が途切れた後にフェルナンドはそう答える。
マイティが捕まり、戦闘は膠着状態に陥っていた。
リッチロードは死鎌を持ち静観していた。
俺達の返答を待っているかのように、他の攻撃もしてこない。
胸から黒い手が10本、うようよと伸び、その内2本はマイティを捉えている。
マイティが死なないように一応首への手は加減をされているようだった。
『ふむ…返答なしか?…仲間を見殺しにするとは…人族とは…非情な者よの…このまま心臓を握り潰すのも良いのだが…』
新達は大体の戦闘を掴めつつあった。
リッチロードは玉座から動くことは出来ない。
高位魔法を行使出来ると言う情報だったが、そこまで脅威になるような魔法は使って来ない。ひょっとしたら、魔封魂杖で魔力を制限されていて使う事が出来ないのかもしれない。
死鎌の範囲はそこまで大きくはないし、俺達なら避ける事が出来る速度での攻撃なので問題はない。
問題は黒い手だ。範囲が以外と広く、魔封魂杖を設置する場所までそれは届く。
魔封魂杖は一度起動させるとそこに重力固定されるためか、起動している物なら簡単には動かす事は出来ない。
すでに魔封魂杖は4本機能している。
簡単に考えて、リッチロードの半分の能力を奪っていると考えて良いはずだ。
「リッチロード、あんたは一体何を望んでいるんだ?」
俺は膠着状態を切り崩すように口を開いた。
「………人族よ…どこまで理解できるか分からないが話をしよう……魔素が魔物を無限に生み出す様に…人族などの知性ある魂も無限に生まれるのだ…世の役目はそれを間引き…この世界の均衡を保つためにもある…」
「均衡?ばかな…」
フェルナンドはそう呟く。
「…どこかで増える物は…どこかで消費する必要がある…そうでなければ…それは膨れ上がってしまい…その内…バランスが傾いてしまうだろう…人族も
「魔物は魔素が勝手に生み出すだけだろう!人族はちゃんと愛を育み生まれて来るから尊い生き物なんだ、感情もなく、何構わず食す為だけに生きている魔物と一緒にするな!」
クラウスはイラっとした表情でそう言い返した。
「‥‥‥世からしたら…うぬらが言う魔物が…人族の魂と言うだけだ…今の時代はどうやら多少よくなったようだが…大昔…この世界…いや…この
ハイエルフの時代の事だな…
「…人族の欲望の先には滅びでしかない…そうなるとアンデットですら滅びるのだ…その未来を少しでも緩和させる為…知性ある魂を喰らって間引く…特に…ハイエルフ…うぬのような魂をな!!」
浮遊していた8本の黒い手が一気に一つになり、ぐんと伸びて新へ襲い掛かった。
「アラタ!気をつけろ!!」
「新!危ない!」
俺は、リッチロードの語りに夢中で一瞬油断していた。
一気に伸びて来るその黒い手がすぐそこまで迫っていた。
俺は間に合わない!
そう思った時、ひとつの影がそれを遮った。
「え?…」
当たる寸前一瞬、影を見て目を瞑ってしまった。
目を開くと、目の前には瑞希が俺の代わりに大きくなった黒い手に儂掴みにされ捕まっていた。
「瑞希!?」
「あんた何、油断してんのよ!くっ!離せぇ!」
「瑞希!くそっ!」
「……一番、要のうぬを抑えてしまえば…勝ったも同然と思ったのだが……予定外だったが…これで二人の命は…世の手の中だ…さあ…どうする?」
瑞希は大きな黒い手に体を掴まれて、天井高くに掲げられた。
『新!私の事は良いから、あんた絶対、このガイコツ仕留めなさいよ!』
『瑞希…済まない、油断してた俺のせいだ…』
念話で瑞希からの檄が飛び、俺は反省を口にした。
「…どうやら…この状況でも…うぬらは取引はしないようだな……ふむ…この女の脳から意志が読み取れる…どうやら…うぬに好意を抱いているようだな…フフフ…うぬもそうか?…」
「くっ…何を言って…」
リッチロードの黒い手は、触手のような物を伸ばし、瑞希の頭へ接触していた。
俺は、言い惑わされないよう、気をしっかりと持った。
さっきのような油断はもうしない…
「変な事言わないでよね!離せぇ!触るな!」
瑞希はジタバタしていたが、黒い手は握力を強めてそれを抑えた。
「…もう良い…飽きて来た…先ずは…この二人の女を殺し絶望した…うぬらを一人ずつ…どう殺すか考えるとしよう…」
瑞希を握っている黒い手がもぞもぞと動き、ぐぐっと力を入れていた。
「「やめろおおおぉぉぉ!!」」
新、クラウスは大きな声で叫ぶ。
「ぐふっ…」「かはっ…」
ドクンッ…
マイティと瑞希は掴まれたまま、動かなくなった。
「うそだ…瑞希…」
「マイティ…」
心臓を潰された二人はぐったりとして絶命していた。
俺とクラウスは、二人のその姿を見て絶望を感じた。
他の皆も言葉を無くしていた。
「…フハハハ…どうだ?…どんな思いだ人族よ…、ああ…そうだ…そう言えばこの世界には確か…生き返らせる薬などと言う物があったな…それは…器があればの事だったな…それならば…」
俺は一気に全身に寒気が走った。
それは皆も一緒だった。
「…アー…クー…真なる
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