第138話 死闘

 俺は精霊武器となったクインの大剣の柄を強く握りしめた。


『アラタ、精霊武器は精神だ。アラタの精神の力と我の精神の力でその刃は何処までも伸びる、ドラゴンゾンビの大きさなど問題にならないくらいな』


 クインはそう言った。

 俺はそれを理解した。

 そう、感じるんだ。

 クイン・ソードに意識を乗せると、オーラのような物が大きくなる。


 物理的には大剣の大きさだが、本当はそうじゃない。

 精霊武器は精神の武器であって、この武器の姿はようは器である。それは肉体と一緒で魂の器、人間でも、普通では見えないオーラと言う物を肉体から出していると、霊能力者は言う。それは、感情の起伏でその形や色、大きさも変えて、アスリートなどは自信の能力以上を引き出す事もある。


 それと一緒で精霊武器は使用する者の精神と、宿っている精霊の精神と魂で、強くも大きくもなるのだ。


「クイン、こんなやつさっさと片付けて、クインの好きな和菓子でも一緒に食べよう」


 そう呟き精神を込める新。


 すると、新からも大きなオーラのような物がはっきりと大きく滲み出す。

 それは他の者からも見えた。


 クイン・ソードはさらに大きく見え、それは体の大きいドラゴンゾンビを一刀両断出来そうなくらいだった。


 新は少し離れていたがその刃は完全にドラゴンゾンビを捉えていた。

 ドラゴンゾンビはその瞬間、炎ブレスを吐き出そうをしたのだが。


 クイン・ソードの覇気で炎は消し去り。

 次の一振りで、ドラゴンゾンビは真っ二つになり、更に横に一閃しその体は4当分に切られその場に崩れ落ちた。


 黒い何かがドラゴンゾンビから浄化され宙に散って行った。


 その後ろのリッチロードを見ると、さっきまで玉座にどしっと座っていたのが、立ち上がってその光景を見ていた。


「…なるほど…それは危険な武器だな…、あの火死竜ドラゴンゾンビで十分だと思っていたが…もう余興は終わろう…」


 よく見ると玉座の周りに8本の魔封魂杖が床に刺さっていた。

 2本を除いてそれは、朽ちて効力を失っているように見えた。


「あれが、昔封印したと言う魔封魂杖か?…」


 クラウスがそう呟き、その後にリッチロードの口が開く。


「フン…こんな物で世が封印されるとは…世も人族を侮っていたわ…もう…そんな過ちは犯さぬわ…絶望を……与える……ダーク・フレイム…」


 リッチロードはそう言って左手を前に突き出す。


 新は、すぐにリッチロードに離れた位置から斬りかかるが、それは何かに阻まれ振り下ろせなかった。


「うっ…振り下ろせない…」

「まあ待て…お前は…最後に相手をしてやる……先ずは…」


 フェルナンド達は警戒した。


 ナイツ・オブ・アークの後、リッチロードの手先と化した兵士達が戦っていた場所に大きな黒い炎が立った。


 その黒い炎に包まれ、触れた途端に兵士達が言葉も発さずに、魂が抜かれているかのように崩れ落ちて行く。


「おい!あの黒いのに触れるとやばいぞ!!」


 その周りに散ってエルダーレイス、ミイラと戦っていた黄金級、白金級冒険者は、中央を見て身構える。


 黒い炎はじりじりと広がって行く。


「hyアラタ!これはやばいぞ!さっさとケリとつけようぜ!」

「分かっているんですけど、クイン・ソードが何かに抑えられているように動かないんだ」


 新は、振りかぶって止まった武器を動かそうと必死だが、それは動かない。


「クイン・ソードを妨害しているのは十中八九、リッチロードの魔力だと思うわ、精霊武器でミー達も周りから斬りかかったらどうかしら!?」

「そうだなカレン…近づくのは危険そうだが…俺達なら、そこに隙を作る事が出来るかもしれないな…、皆!気をつけて攻撃してみるぞ!」

「ディファレントアースよ!我達も助太刀するぞ!」


 フェルナンド、カレンの話を後で聞いていた、ナイツ・オブ・アーク率いる将軍長ドウラはそう言った、更にその後ろには、手に魔封魂杖を持った部隊もいた。


「分かった!将軍長さん、精霊武器持った奴は前に出て、リッチロードを囲もうぜ!少しでもアラタが動けるよう、手助けするんだ!」

「おお!」

「我ら、封印部隊も、隙を見て封印を試みます。何とか隙を作ってくださいませ!」

「ああ、わかった」


 素早く、フェルナンド達は作戦を立てた。

 後を見ると、黒い炎がじわじわと広がり、冒険者達は壁側に追いやられて行き、壁から沸いて出て来るミイラなどの攻撃に晒されていた。


 皆は顔を見合わせて、頷いた。

 新とリッチロードの周りをフェルナンド達、並びにナイツ・オブ・アーク達が取り囲んだ。


 フェルナンドの合図で、新とレベッカ以外が一斉にリッチロードに攻撃を加えた。瑞希も大きく振りかぶり、素早く動くクラウス、カレン。

 ライナもグランドヒューマン化してその動きは人間には捉えられない動きで精霊弓矢を放つ。

 マイティ、フェルナンドもそれに続き激しく攻撃した。


 控えていたドウラ含む、ナイツ・オブ・アーク達には目に留まらぬ動きだったため、少し驚いていたが、すぐにリッチロードに目を向けた。


 しかしそれは、見えない何かを叩いただけだった。

 だが、その瞬間少しだが、固定されていたクイン・ソードが動いた。


 新は、その瞬間を見逃さず、クインソードを引いて戻し、一度後に下がった。


「みんな!クインが抜けた。この障壁も完全ではないよ、皆でやれば行けるかも知れない!」


 下がった新はそう叫んだ。

 皆は、静かに頷いた。


「むう…うぬら本当に人族か?…その動き…」


 リッチロードは表情はそのままだが、明らかに動揺している口調でそう言った。


「よ…よし!精霊武器は効いている、俺達もディファレントアースに続け!」


 精霊武器を装備している、ナイツ・オブ・アーク達は、士気を上げて周りから斬りかかる。


「…デス・サイス…」


 リッチロードがそう呟くと闇から大きな鎌が出現し、それを手に取り一閃振るった。


「あぶない!!」


 新が斬りかかった者達へそう叫ぶが遅かった。

 リッチロードのその動作は素早く、斬りかかった者はその場に倒れた。

 斬られたように見えた者達は傷一つ付いてはいないが、死んでいるのが分かった。まるで魂だけ刈り取られたかのように。


 あれは不味い…

 しかし…何故、リッチロードはこの場から動かないのだろう…

 圧倒的に強い。これが動き回ればそれこそ俺達ですら危ないだろうが。


 新はそう考えていたが、玉座の周りに散らばる杖に注目した。

 あれは魔封魂杖だ。確かに、8本中6本は折れていたり崩れているが、あの2本があるお陰で動く事が出来ないんだ。


 だとしたら…あの残りの2本が効いているうちにどうにか倒さないとやばいぞ…


「…人族如きが…大人しく世の糧になれ…」


 ライナだけは遠距離念話スキルを持っていないので、俺はその他の仲間へ念話を送った。


『みんな、聞いて。魔封魂杖が2本生きている、多分、あれがヤツをあそこに留めていると思う、そしてあの死神のような鎌の射程距離はそこまで遠くないから、今、こうやって睨み合いも出来ていると思うんだ』


『hyアラタ、俺もそれを思っていた所だ、ヤツも俺達が普通の人間ではないと思って警戒しているのもあるが、あの杖の力が大きいんだろうな』


 新がそう言うとフェルナンドがすぐに返答し、次にクラウスの声が聞こえる。


『何にせよ、あの鎌も黒い炎もだが、アイツの攻撃はどれも魂を持って行くらしい、刈り取られた魂ってのはハイエリクサーで戻せるのか分からんが…攻撃には注意した方が良さそうだな…』


『クラウス、言っている事は分かりますが…結局、倒した後に、誰かが生きて魂の抜けた肉体を持ち帰らないとそれも出来ませんよ』

『そ、そうだな、分かってるって』


 マイティはクラウスの言葉にそう返した。


『ねえ、って事はナイツ・オブ・アーク達が持っているあの新しい魔封魂杖使えば、かなり有利に戦えるんじゃない?』


 瑞希はそう言った。


『ミズキのそれは名案だけど…そう簡単にさせてくれるかしら…、一度、封印されて、今動けない事を承知しているって事は、ミー達よりもあっちの方を警戒するんじゃないかしら』


 瑞希の問いにカレンはそう返す。


『みんな、やれる事は何でもやろう、やってみて分かったけどクインじゃないと多分アイツは斬れない。その為に何でも良いから隙を作ろう』


 俺はそう言って締めくくろうとした時、最後にレベッカが声を出す。


『あの…時間かかるかも知れませんが。私、神聖魔法でアンデット浄化魔法を試みて見ます、あの魔封魂杖に刻まれている印は、神聖魔法の刻印、となると魔力を吸い神聖魔法で封印しているのだと思うので、神聖魔法は効果あるのだと思うのでやってみます!』


『ああ、宜しく頼むよレベッカ』


 レベッカの言葉を最後に、皆への念話を終えた。


 睨み合いから一転、フェルナンド、カレンによる素早い攻撃が始まる。

 俺達は何度も攻撃を繰り返した。


 リッチロードも死鎌を振るうが、俺達は巧みにそれを避ける。


「おのれ…ちょこまかと……杖…忌々しい…」

「うおおおおお!!」


 雄たけびを上げて一人、斬りかかる者がいた。


「ぐはっ!?」


 それは将軍長ドウラだった。


 攻撃の隙を伺い飛びかかったのだが、精霊武器はあと数センチ届かず。

 黒い手のような物がリッチロードの胸から伸びて首を掴み、宙に浮いたままになっていた。


「ぐほっ!今だ、チャンスを逃すな皆の者!ぐふっ」

「将軍長!!」


 将軍長ドウラの叫びで、ナイツ・オブ・アークは精霊武器で斬りかかる。

 魔封魂杖も回りに設置した。


「…させん…させんぞ…デスハンズ…」


 リッチロードの胸から無数の黒い手がナイツ・オブ・アーク達を掴む。


「ひえ!」「わわわ」


 俺達も攻撃を加えているが、リッチロードの黒い手によって避ける事で精一杯だった。


 ナイツ・オブ・アーク達はそれぞれ無数の黒い手に捕まってしまっていたが、一人だけそれを免れていた。


 魔封魂杖の設置に立ち遅れていた一人が、その杖で黒い手を払い除けると、その黒い手は消滅したのだった。


「え…」


 兵士は消えた手に戸惑っていたが、すぐに使命感に戻った。

 魔封魂杖を突き立て起動させる事に成功する。

 その光は、リッチロードを薄く包み込んだ。


「…ぬう…」


 少し怯んだように見えたが。


「…デス・グラップル…」


「うあああああ‥‥」

「く…苦しい…」


 ナイツ・オブ・アーク達を掴んでいた黒い手は、リッチロードの一言で体の中へ入って行き、心臓や脳を掴み、本体が前に出したその手をぐっと握った。


 すると、黒い手は、掴んだそれを握り潰す。


 ぐしゃ!ドサッ!


 ナイツ・オブ・アーク達はドウラとその兵士一人を残して息絶えてその場に倒れた。


「くそおおお!仲間をおおお」


 ドウラは倒れた兵士達を見て雄たけびを上げた。


「…フン…悔しいか…お前も…逝け……」


 ドウラの首を掴んでいた黒い手は二手に分かれ、片方が体の中へ入って行く。


「はひいい…ぐ…ぐるじい…」

「…デス・グラップル…」


 体の中で何かが弾ける音が微かに聞こえて、ドウラは力が抜け、ぐったりと白目をむいた。


 黒い手が消え、その場にドウラは崩れ落ちた。

 俺達は眉間にしわを寄せてそれを見ているだけだった。



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後書き。

ファンの皆様、更新が遅くなり申し訳ありません。

いやあ…忙しくて…。


たまに開くと、フォロワーが増えたり減ったりしてて嬉しくも悲しくもあったりしますw


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