第137話 死霊の城
たった2分30秒で、
まだフェルナンド達のミニガンの銃身は熱を帯び、硝煙の匂いを漂わせている。
そのミニガンを俺は受け取り、マジックボックスへ仕舞う。
そして、精霊武器を装備した。
兵士や冒険者達はまだ何が起こったか理解に苦しんでいる者もいたが、流石の猛者達だ。やる事は分かっていた。
俺達が装備を整えると、自分達もと装備を整え始めた。
「hyアラタ、ショットガンを皆に装備させろ」
「ショットガンですか?」
「ああ、ゾンビ連中は、リッチロードが操った魂の器になる頭か体を粉砕するならショットガンが一番効果的だ。近距離でないと問題はあるが、一撃で粉々だぜ!ハハハハ」
フェルナンドはそう言って笑った。
「何が起こったかわからんが…雑魚は片付いた…ディファレントアースについて行こう!」
「おお!彼らについて行けば生き残れそうだ」
「ああ、そうだな」
「でも…岩城はどうなっているんだ?」
兵士達はそう言った声を出していた。
「皆の者、怯えるな!見ただろう、ディファレントアースが必ずリッチロードを討ちとる!それまで俺達は彼らの補佐を務めるのだ!」
そう叫んだのは、将軍長ドウラだった。
「精霊武器を装備している者達よ、ディファレントアースの後方へ並べ!これから岩城まで進むぞ!」
ドウラがそう言うと、精霊武器を持った兵士や冒険者はぞろぞろと俺達の後へついた。
「ディファレントアースよ、さあ行きましょうぞ」
俺達は頷き岩城へ一歩踏み出した。
白金級冒険者の魔法師が俺達を呼び留めた。
「ディファレントアース殿、暫しお待ちを。道を通りやすくしますゆえ」
豪華なローブを身に纏った魔法師はそう言って俺達の前にでた。
何かの呪文を唱えると、一筋の魔法が放たれた。
そこから一気にアンデットの死骸の山が真っ二つに分かれてそれは道になった。
「すげえ…重力魔法の一種か何かか?…」
フェルナンドはそう呟いた。
死骸は真ん中から左右に押し込まれて、魔法で押さえつけられているようだった。
「ささ、私の魔法が効果を成しているうちにどうぞ」
俺達は頷き道を進んだ。
その後からも精鋭達がぞろぞろとついて来ている。
度々、撃ち漏らしたアンデットが襲って来るが、ショットガンで吹っ飛んで粉々になっていった。
岩城までの道のりはそう遠くはなかった。
しかし、近くに寄るとその岩城はかなりの大きさで禍々しかった。
「こんなものどうやって作ったんだ?ゴブリンにやらせたのか?…」
「さあな、フェルナンドさん俺が扉を開くから中への警戒お願いしても?」
「ああ、クラウス」
クラウスは大きな片方の扉の取っ手に手を掛ける。
重い扉をクラウスは引いた。
ゴゴゴとそれは動いた。
フェルナンドはショットガンを構えて中を確認する。
「‥‥大丈夫そうだな…」
カレンがもう片方の扉を開く。
両扉は開かれ、中から悍ましいオーラのような物が風と共に吹いていた。
『ふむ。アラタよ…この先の広間にリッチロードの気配を感じるぞ』
クイン・ソードはそう語った。
「クイン…行こう!」
「へっ…なんだ、こっから中級とかのアンデットがバンバン出て来るのかと思ったら、もうボス戦かよ、ハハハ…」
「ダー、油断は禁物よ。伝説級がそんな簡単に行くわけないわ…」
「わかってるってカレン。俺は別に油断はしちゃいねえよ、いろんなヤツと戦ったけどよ、幽霊と戦うのは初めてだからちょっと気合を入れ直しただけだって」
一行は中へ入って行く。
二階への階段が左右にあったが、クインは真ん中奥の部屋を差している。
皆、真っすぐに一階の奥の間へ進んだ。
進むと、こっちに来いと言わんばかりに扉は開いていた。
188人の精鋭達は奥の間に全員が入って広がる。
そこは大広間と言うには広く、天井も高く暗くてどこまでが天井かも見えなかった。
「よし、何があるか分からん、陣形をクランごとに展開しろ!」
将軍ドウラはそう小さくもない声で叫んだ。
クラン8人、兵士も8人のパーティへ別れて散開する。
前衛の戦士は精霊武器を皆所持していた。
ドドン!
皆の戦闘準備が整った瞬間、後ろの扉が大きな音を立てて閉まる。
「ククク…人族よ…、我が城へようこそ…」
不気味な声が大広間に響いた。
全員、何処から聞こえるかわからない声に武器を構えて周りを見渡す。
もっとも奥にある者が、もぞもぞと動いた。
「あそこだ!」
誰かが叫びその場所を一斉に見た。
そこは岩で出来た玉座。
そこに漆黒のローブを来た骸骨が座っていた。
「お前がリッチロードか?」
フェルナンドがそう言うと、骸骨は語った。
「フウ…人族よ…いつの時代も騒がしい種族達だな…何しに来たと言っても答えはいつの時代も一緒かな?」
「‥‥‥」
「我が国に害を及ぼす存在よ、今回は封印ではなく確実に息の根をとめてやるぜ!」
将軍長ドウラはそう叫んだ。
「この封印か…よく考えた物だ。これはその者の魔素を吸収し続けて動けなくする魔法の道具…魔の者には厄介な代物だ…しかし、物である以上、永久と言うのは無理だったようだな…む、なるほど、今回は精霊武器を持って来たか…」
「ああ、今度は確実に!」
「‥‥‥‥」
皆は、先手必勝したいと誰もが思っていた、だが、動きたくてもその絶対的なオーラの前に怯んでいた。
まるで、武道の素人が、達人へ対峙し、何処へ打ち込んでもやられるイメージしか見えないような感覚だったからだ、将軍長ドウラは口では強気だったが、戦闘のきっかけは掴めていなかった。
「そこの若造。まあ…そう死に急ぐ事はない。せっかくの来客なのだ、少し語ろうではないか?」
「若造だと?俺は将軍長ドウラ、ここの者よりも歳も重ねているし、マージガル神国の軍団長まで上り詰めた最強の男なんだが?」
ドウラは、若造呼ばわりされたのを気に障ったのか、強がってそう言い返した。
「生き物である限り…世より若造であり…世より歳を重ねる事はない…、お主も最強になりたくばこちら側に来るか?」
「誰が!!」
「そうか…こちら側に来れば…老いも…痛みもない本当の最強になれると思うのだが?…器はいろいろと変わるかも知れんが…」
「くっ…」
リッチロードは、おちょくる様に将軍長ドウラと会話をしている。
血の気の多いドウラは話をしても無駄だと悟り、黙ってしまった。
「フウ…外の世界の話でも少しは聞こうと思ったのだが残念だ…まずは余興を楽しんでもらうとするかね…」
皆、身構えた。
リッチロードは、くいくいと指を曲げた。
ガリガリ‥ベリベリ…
変な音が周りから響いたと思ったら、壁と思われた壁が剥がれ、ミイラのような者が剥がれ落ち立ち上がる。
それが一斉に襲い掛かって来る。
「来たぞ!」
ミイラのような魔物は数十体。
天井や壁から剥がれ落ちては向かって来る。
ミイラは大して強くはなく、猛者達の武器によって次々と倒されて行く。
数十体のミイラを倒しているがまだまだ襲ってきている。
また、リッチロードは指を動かす。
「更に、何か来るぞ気をつけろ!!」
リッチロードの動きを注意していたフェルナンドはそう叫ぶ。
暗闇から無数のレイスが出て来る。
「あれは…エルダーレイスか?」
「魔法を使うぞ、気をつけろ!!精霊武器で戦え!」
冒険者がそう叫ぶ。
エルダーレイスは、低空を飛び、火や氷の魔法を使って来た。
流石の猛者達だった。
上手く連携し、精霊武器でそれを倒していく。
「ホウ…確かに人族にしてはよくやる…しかし…お前達が人族の精鋭として選ばれた者なのだとしたら…お前達を殺せば良いと言うもの…」
リッチロードはまだ玉座に片肘をついて、傍観している。
壁からのミイラは少なくなったが、エルダーレイスは依然、浮遊し魔法を撃ってきている。精霊武器でないと排除できない為、遠距離から攻撃できる弓などの精霊武器が効果をあげていた。
ライナの放つ精霊武器の矢は、エルダーレイスを捉え、次々と命中し浄化していった。
「いいぞ!ライナ、しかしこれでは消耗戦だ…どのくらいの数がいるのが分からない、ボスを目指すぞアラタ!」
「はい!」
フェルナンドの言葉で、新達は玉座を目指し前進を始めた。
俺は、その時、玉座の前に暗闇が広がるのを感じ、咄嗟に叫んだ。
「皆、危ない!」
俺は、違和感を感じ咄嗟に魔法で大きな障壁を張った。
ブオオオオオオオーーー。
前方に出来た暗闇から業火の炎が一行を襲う。
障壁伝いに炎は後ろへ流れて行く。
ぬっと、爛れた肉が付き骨が所々剥き出しの大きな魔物が出て来た。
「あれは…ドラゴン?…ゾンビ…」
暗闇の次元から出て来たのはドラゴンゾンビだった。
障壁は俺達をとその後ろに居た、将軍長ドウラ率いるナイツ・オブ・アーク達までは守った。が、更にその後ろに居た者達はその熱風に晒された。
兵士の数人が熱風に晒され、その隙でエルダーレイスの魔法をまともに受ける事になり、バタバタと倒れて行く。
ブレスは収まり、新も障壁を一度解除する。
新だけは分かっていたが、今のブレスを受け流す強力な障壁には膨大な魔力が必要だった。普通の魔法師の障壁なら1秒防げれば良い方だと思うくらいに。
「ホウ…今のソレを受け流す障壁を張れる者がいたとはな…しかし…穴が開いて来たな…どうする人族よ…」
玉座のリッチロードは無表情なまま、そう言った。
炎と熱風を浴びた兵士達は次々に甲冑を脱ぎ捨て、その場に倒れ込む。
「くっ…陣形は乱すな!倒れている者は残念だが、今は助ける事は出来ない!」
白金冒険者のリーダーがそう叫ぶ。
「うむ。ナイツ・オブ・アークも陣形を乱すでないぞ!今は、ヤツを倒す事の方が重要だ!パーティが乱れると、同じ末路になると思え!」
「「「はっ!!」」」
「我ら、ナイツ・オブ・アークは、ディファレントアースに続くのだ!」
将軍長ドウラは、自分の従える31名ナイツ・オブ・アークの士気を上げる為そう叫び、ディファレントアース後方に広がり、ドラゴンゾンビを警戒している。
ミイラやエルダーレイスは、次々に壁や暗闇から這い出て来る。
それを白金、黄金冒険者は、自分達が雑魚は相手すると言わんばかりに、中級アンデットに奮戦していた。
俺達は、ドラゴンゾンビと対峙し、尻尾や鋭い爪の攻撃、たまに吐くブレスを躱し奮戦している。皆の精霊武器による攻撃をドラゴンゾンビは受けるも致命傷には至らず平然としている。
「ブツ…ブツブツ…
不気味にリッチロードは何かを唱え、右手を高らかにあげた。
「ぐああああ!」
「何だ!?」
「!?」
後方を見ると先ほどのドラゴンゾンビの攻撃で倒れた数人の兵士が起き上がり、仲間を攻撃していた。
その兵士の目は動かず、口も半開き、そこに居た者はすぐにそれがリッチロードに操られた死体だと気づいた。
「こっちで対処する!ディファレントアース、目の前に集中しろ!」
将軍長ドウラが叫んで、ナイツ・オブ・アークの数人がさっきまで仲間だったモノへ向かっていった。
新達は頷き、ドラゴンゾンビだけに集中した。
『アラタよ、我を信じろ。お前達の能力はこの世界最強だ。そして我も最強の精霊武器となった、切り裂けぬ死霊はないと知るのだ』
クイン・ソードはそう新へ語った。
「クイン…ああ…分かった!」
俺は、クイン・ソードを強く握りしめた。
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