第135話 討伐命令

 妖精霊王に会い、クインは上級死霊を消滅させる事の出来る武器「クイン・ソード」と言う大剣へと生まれ変わった。


 当初は意志記憶はリセットされるとの事だったクインの武器への転生だったが。

 アラタとの絆で、そのはっきりとした意志を妖精霊王は移してくれていた。

 これにより、クイン・ソードにはクインの意志記憶が残っていた。


 そして、妖精霊王は50数体の中位精霊達にお願いして、武器へ転生させた。

 リッチロード討伐へ向けて準備は整ったのであった。


 一度、マージガル神国の中枢、神帝タワーへ戻った神帝と新達は一夜だけ休息をとるのだった。


 ◇


 次の日。

 朝から地下駐車場ゴブリンの洞穴がある、鉄銅級冒険者ギルドへ招集された。


 鉄銅級の冒険者ギルドは他の上級冒険者ギルドより汚いが広く作ってある。

 もちろん冒険者の数が多いのもあるが、この国の形状上、円形になっているので広い土地を有しているからだ。


 ここに来る道中は、神帝様と参謀長。

 それから白金級、黄金級の兵士や冒険者の行列に、鉄銅級の人達は頭を下げる者が殆どだった。


 その広い広場に集められたのは、この国の白金プラチナ級、黄金ゴールド級の兵士と冒険者、それからリッチロードを倒すための決定打になるだろう、クイン・ソードを携えた新が率いる、ディファレントアースだ。


「諸君、よく集まってくれた!」


 神帝は拡声器の魔道具を口に付けて口を開いた。


「我々の調査によると、地中からゴブリン共を操り、この国に害を成す輩の正体は死霊王リッチロードと判明した!」


 ざわざわ…


「リッチロード?なんだそれ?」

「え?それってまさか…」

「アンデットか?」

 ざわざわざわ‥‥


「皆、静粛にせよ!」


 ざわついていたが、参謀長がそれを制す言葉を吐いた途端、静まり返り、それを待って神帝はまた口を開いた。


「そうだ、リッチロードと言えば、この国に大昔に最悪を引き起こした、上級…いや特級アンデットだ。我らはこれを今回は封印ではなく討伐する!そのために諸君らの力を借りたい。この緊急依頼には報酬は倍を用意する、それほど重要な案件である!」


 ざわざわ…

「倍だってよ!」

「結構やばそうな案件だぜ…」

「やってやろうじゃないの!」


 またざわついたが、すぐにそれは収まった。


「ここに来た、兵士達の覚悟は決まっているが、冒険者諸君はどうする?この災害級の魔物に立ち向かって英雄になる者はいるか?臆病な者は去れ!狭く暗い洞窟内での戦いになる…覚悟ある精鋭だけ行かねば、リッチロードの兵隊と化すだろう」


 ざわざわざわ…


「あの…神帝様!」


 首から白金の棒証を下げている一人の冒険者が口を開いた。


「む?」

「上級アンデットには、神聖魔法使いの浄化、あるいは精霊武器が必要と考えますが…」

「うむ。実は妖精霊王に我は会って来た!それで、中位精霊武器を58本、用意してもらったのだ、それを前衛を任す者に配りたいと考えている」

「なるほど、分かりました」


 質問をした冒険者は大きく頷いた。


「そこにおるんだが、最近、白金クランになった、ディファレント・アースのクランマスター、アラタ、彼はリッチロードを浄化できよう上級の精霊武器を所持している。諸君らに与えられた任務は彼達をリッチロードの岩城まで道を作る事にある」


 並んでいる俺に神帝は指を差してそう言った。

 皆が俺達をじろっと振り向く。


 俺は、そっとマジックボックスからクイン・ソードを取り出して天井高く掲げる。


「「「おおおおお…」」」

 ざわざわ…


 流石はこの国の猛者達だ。

 いろいろな声が聞こえたが、このクイン・ソードのオーラが見える者もいたのだろう。


「任務はわかったであろうが、もしもだ。万が一、ディファレントアースが失敗した時の為に、その後ろには我が精鋭の兵士部隊「ナイツ・オブ・アーク」に、一度成功した事のある…ヤツを封印するための、8本の魔封魂杖を所持させておく。残りを部隊、冒険者前衛に選出して、精霊武器を渡そうと考えておるが、ここまで聞いてこの任務やりたくない者は去っても構わん」


 ざわざわざわ…


 すると、一人、二人と去る者も出て行ったが、殆どの者は残っていた。


 残っている人間達で任務をすることになった。


 次に詳細な任務についての相談が始まった。


 戦略は、もうすでに、銀級、灰銀級の兵士によってゴブリンが掘った洞穴は制圧してあると言う事で、その先からどうするかの話だった。


 ここに残った冒険者クランは白金級5組、黄金級5組の計10組、80人。

 それと覚悟を決めた、ナイツ・オブ・アーク32人を含む、精鋭兵士100人。

 これに俺達を含めた188人だった。


 神帝と参謀長の元には、兵士からの情報がどんどん集まって来ていた。


 その話からはリッチロードが力を取り戻しつつあるのが垣間見れた。


 情報だと、この国の兵士がゴブリンの洞穴から、リッチロードの岩城のある山の入り口までは制圧しているとの事だが、ゴブリンや人間の死体だけではなく。

 魔物の死体までもがぞくぞくと這い出てきているとの事だった。


 それを踏まえて作戦を立てた。


 岩城のある空間に出たら、ここにいる実力者188人は岩城まで一直線に突破する。


 倒し漏らした雑魚は、他の兵士で対処する。

 それは、ゴブリンや、雑魚クラスのアンデットなら、呪縛魂が宿っている頭などを破壊すれば動かなくなるはずで、銀級や灰銀プラチナ級で対処可能だと見込んでいた。


 そして大規模な浄化作業のための神聖魔法師も沢山集められた。

 浄化魔法には時間が掛かるので、一番後ろから浄化援護と回復役である。


「岩城までの道のりは良いとして、その中は未知数…そこからは俺達の頑張りにかかっていると言うわけだな…」


 1人の白金級冒険者がそう言った。


「うむ。そうなるじゃろうな…、そこはお主達に頑張って貰うしかもう手はないのお…」


 参謀長ポレルは、難しい顔をしてそう言った。


「なーに、我らナイツ・オブ・アークもついているから安心せい!」

「むむ…将軍長…」


 参謀長の後から大きな声でそう言ったのは、会議の時にいた将軍長だった。


「我、ドウラ・ドーレスが率いるナイツ・オブ・アークはこの国の守護神部隊!なんなら、ディファレントアースに代わってリッチロードを退治してやるわい!ガハハハ」


 後に聞くのだが、このドウラ・ドーレス将軍長とは、マージガル神国で有数の猛者であり、ドワーフと人間とのハーフだ。

 数々の武功を挙げて将軍の一人になり、更に力をつけて将軍長を名乗るまでなったそうで、その力は歳を感じさせず未だに現役で戦斧を振るっているらしい。


「将軍長ドウラよ、そなたらの役目は、ディファレントアース、アラタの精霊武器でリッチロードを討ち漏らした時のための封印要員じゃ…、変な真似してそなたらまで死んでしまっては、リッチロードの強力な手先が増えるだけじゃわい…」


「ガハハ!分かってるって参謀長。そう言った場面もあったらやってやるって意味だぜ、ちゃんと役目は果たすつもりだから安心しろ!ガハハ」

「む…むう…」


 参謀長ポレフは、更に難しい顔をしていた。


 結局そこからは、まだ見知らぬ戦術の展開などは妄想でしかなく。

 準備は2日。ここにいる全員が体調を整えて揃うようにとの神帝の発言で解散する事になった。


 ◇


 俺達は2日間、一度オブリシア大陸へ戻ることにした。


 まず、俺は、瑞希、フェルナンドさん、カレンさんと店や自分達の仕入れの為、地球へ行って半日を費やし。


 その後は、フェルナンドさんと、ライナをグランドヒューマン化させる事について話し合った。


 フェルナンドさんは、格闘などの基本的な事はある程度教えたが、修行と言っても勿論まだまだ足りない。普通に考えたら銅級の実力しかなく、それはオブリシア大陸で言えばDランク冒険者だ。


 それが今から一緒にアンデット退治に行くとなると死にに行くようなものだ…

 そこで、グランドヒューマン化する事により、総合的に10倍引き上げてしまおうと言う考えだ。


 地球食を食べて、グランドヒューマン化すれば、まず身体面だけならSランク冒険者にも引けをとらないだろう。


 最初は、フェルナンドさんがライナには待機を言い渡したのだがどうしても行くと聞かなかったらしい。後から一人で付いてこられても、そっちの方が危ないのでグランドヒューマン化させて一緒に連れて行った方が良いとフェルナンドさんに頼まれたのだ。


 勿論、俺とフェルナンドさんの意見には皆、賛同してくれた。

 そこで、オブリシア大陸、ヘイムベーラ大森林のエルファシルへ俺達は来ていた。


 ◇


「アラタ…あなた次は何をしようとしているの?一般の冒険者をまたグランドヒューマン化しようだなんて」


 母エウロラに、久々に会った最初の会話がこれだった。

 俺がここに来ると、また何かを起こそうとしていると思われているのも心外である…

 まあ、実際にエルファシルに来る時は何か秘密をしようとしているので間違いはないんだけどね…


 んで、俺は詳細を母エウロラに説明した。


「何ですって!死霊王リッチロード!?」

「うん、だからあの子ライナも今は俺のパーティだから、能力を上げておこうと思ってね。あ、勿論、秘密は守らせるよ、呪術もかけるしね」

「そこは、どうでも良いけど大丈夫なの?…上位のアンデットなんでしょ?」

「うん。まだ封印が解け切ってない今でないと、もっと厄介な存在になるって、妖精霊界に行った時に会った、妖精霊王様が言ったからね…」

「‥‥‥‥‥アラタ」

「はい?」


 エウロラは口を開けたまま俺を見つめる。


「何?」

「妖精霊王って…」

「ああ、うん妖精霊王のオヴェイリュオン様」

「そうじゃなくて会ったってどう言う事よ…私だって声くらいしか聞いた事ないのに…」


 なんか…悲観的になっているけど、どゆこと?…

 でも、声は聞いた事があるんだ?…


 その後…根掘り葉掘りと聞かれ、変わり果てたクインに驚いてみたりと、俺は休まる処ではなかった…


 でも、ライナにはいい経験になったようで、エルフ達から上級の弓の使い方や魔法も教えてもらったらしく、グランドヒューマン化もそうだけど、技術面でも著しく成長したようだった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

後書き。


ファンの皆様いつもご愛読ありがとうございます!

近況ノートには書いたのですが…

いつもの事なんですが、たま~にリアルが激忙しい事もあり。

今の所、4、5日くらいには1話ペースで書いていたのですが…

これから年末がくると更に忙しくなるかも知れません、その時は、若干ペースが落ちる時があるのですが。


何分、多趣味でもあり、その中の一部で書いているので、温かく見舞って下さいませw


これからもよろしくお願いします。

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