第134話 精霊の宿った武器
新達は、
上位の精神体を攻撃するには精霊武器を用意する必要がある。
そのためにここへ来たのだが、その素材には…
なんと、精霊の精魂が必要なのだと言う。
それは、妖精霊たちが器を持ち、鍛え、戦闘を経験した魂ほど優秀な武器になるらしい。しかし、そこまで生きた妖精霊たちは、生きようとも思うため、無機質な武器になろう者がいるか分からないと妖精霊王は言ったが。
新の従魔、
新は、クインの決意に涙を飲んで、それを受け入れるのだった。
◇
妖精霊王はクインの覚悟に大きく頷いた。
「先ずは、少しでも死霊王に太刀打ちするために、この子達に協力して貰おうかな!」
妖精霊王は小さな体で両手を目一杯広げて、何やら呪文のような物を唱える。
すると、何処からともなく精霊達がこの場へ飛んでくる。
先程、俺達を案内してくれた、幾つもの中位の4大精霊達が妖精霊王の周りに集まった。
「さあ、お前達、力を貸しておくれ」
「はい!妖精霊王様」
「いいよ!」
「合点承知!」
「やるやるー」
妖精霊王がそう言うと、精霊達は快くそう言った。
笑って大きく頷く妖精霊王。
目を瞑り、またブツブツと何かを唱えていると、集った妖精達が光の粒子に変化していった。
その光達は妖精霊王の両掌の中へ集束していった。
全ての光の粒子を吸い取った妖精霊王は目を開け、更に呪文のような言葉を呟いて、その粒子を口から吐き出した。
吐き出された光は、どんどん分割して何かに形成していく。
剣、槍、斧、弓、などあらゆる武器がそこには誕生した。
先程いた精霊達の人数分の武器が出来上がったのだ。
浮いていた50個を超える、その武器たちは、そっとその場に並べるように横たわった。
「ふう。さあ、これも持っておいき。死霊王には厳しいかもしれないけど、中位の精霊武器、十分使えるはずだよ!」
フェルナンドとクラウスは、その精霊武器を手に取った。
よく見ると、その形、模様はばらばらだった、武器になった各精霊の特徴がその模様になったのだろうか。武器はいずれも、色の違う淡い光のオーラに包まれていた。
「さあ、次は君の番だクイン君」
妖精霊王はそう言って両手を広げた。
「うむ。フー」
強い口調で頷くクイン。
「クイン…」
「クインちゃん…」
クインは振り返らず口を開いた。
「アラタ。またここでクー・シーに生まれ変わった時、地球産のお菓子を用意しておくのだぞ?フー」
「…ああ、分かってる…約束するよ」
「ふむ」
クインは妖精霊王へ向かって前に出る。
妖精霊王はニコっと笑って目を瞑った。
大きく息を吸って妖精霊王は呪文を唱える。
クインの体が光の粒子に徐々に変わって行く。
その姿に、マイティやレベッカは泣き崩れてしまった。
その粒子は妖精霊王の掌に集束していった。
そして、少し間を溜めて口から粒子を吐いた。
その光の粒子は大きな形を作り出す。
そして、大きな両手剣へと姿造って、その場に浮いている。
それは、虹色のオーラを纏っていて、柄の部分はクインの尻尾と一緒で、深緑色をしていて、剣先に向かうほどに純白色になっていた。
新は涙を拭いて、その大剣へ近寄った。
「これがクイン…」
新は深緑の柄をしっかりと握った。
「あ…」
俺は一瞬、そう言葉を零した。
さっき触れたクインの尻尾の温もりのような物を感じたからだ。
新の手にしっかりと握られた所で、剣に重力が戻った。
こんなに大きな武器なのに、不思議と大きさほどの重量は感じなかった。
剣の鍔に当たる部分中央に、赤い宝石のような物が装飾されていて、キラキラと輝いていた。
「クイン…この姿でも君は格好いいよ…、必ずリッチロードを俺とクインで倒して、君を元に戻してあげるからね…」
俺は、クインに誓うように大剣を立てて額をつけた。
「………」
妖精霊王がふと口を出した。
「えっと、何で黙っているのかな?」
「ん?…何の事ですか?」
何の事を言っているのか分からなかった俺は、そう妖精霊王へ返答する。
「ん~、失敗したはずはないんだけどな?」
妖精霊王は首を傾げる。
『‥‥‥‥アラタよ…』
声が響いた。
「え?」
俺は何処からか聞こえる声に周りを見渡す。
『ふむ…我だ』
「え?…は?…」
その声はクインだ。
俺は、その大剣を見つめる。
「クイン?」
『うむ』
「え?なんで!?」
「良かった!成功だね!」
妖精霊王は驚いている皆の前で笑ってくるりと回ってそう言った。
「あははは、武器に変化させる時に、意志なんて今まで組み込んだ事なんてなかったからさ!その大剣にクイン君の意志を組み込んでみようと試みたら成功だね」
「って事は…」
『我の意志記憶はどう言うわけかここにある』
クインはそう語った。
「おおおお!」
「生きてるって事か?いや…それも違うか?」
「良かったぁ」
皆、反応はそれぞれだったが喜んでいた。
「
「ん~、意志を残す事が出来ないとは言ってない。そんな事やった事がなかったからね。大体は、精霊を造り変える時にその意志や記憶はリセットするのさ、そうしないと新しい肉体とか、全く違う環境に慣れないでしょ。それにさ、武器の場合、意志なんてあるとさあ…嫌だ~とか、怖い~とか喋る武器とか扱いづらいでしょ?ま、クイン君ならそんな事言わないだろうし、それで良かったかな?」
妖精霊王は軽い感じでそう言った。
「はい…あのクインが、ここにちゃんといるのなら…良かった」
俺はそう言ってクインの柄をぎゅっと力を入れた。
≪なんじゃあ~あ…ワイとほぼ変わらんではないか…≫
「はあ?おもちゃのような、あんたとクインちゃんを一緒にしないでよ!」
≪なんじゃと~お!ワイだって好きでこの体では…≫
そう呟いたクーちゃんランガルフに、瑞希は突っ込みを入れていた。
「ヒュ~、何だよ、妖精霊王も良いとこあるじゃないかよ」
フェルナンドは口笛を吹き、そう言った。
「まあ、クイン君だったから成せた技だったかな?絆って凄いね。しかっりと造り替える時に意志を感じたからね。役目を終えてクー・シーにまた生まれ変わる時にも、上手く行くかもしれないね」
妖精霊王は、両腕を後頭部に回し、パタパタと背中の羽根を少し羽ばたかせてそう言った。
『アラタよ、今、我は生きているわけではない、マジックボックスの中でも大丈夫ゆえ、使用するその時まで仕舞っても大丈夫だぞ』
「うん、わかった。それまで休んでて、あ、そうだ、名前だけどクイン・ソードで良いかな?」
『ふむ。名前なんて何でも良かろう』
「ハハハ、鼻があればその言葉の後にフーとか言うんだろうけどなあ、違和感がやっとわかったぜ、ハハハ」
フェルナンドは、クインの喋りの違和感を笑って指摘した。
クラウスは、一つの中位精霊武器を手にした。
それは剣。風の精霊を纏っている。
瑞希はその中から火の精霊の大剣。
カレンとフェルナンドは槍を持ち、属性は水と土。
マイティは、やはり剣で属性は火。
レベッカは私は守りに徹するとの事で武器は選んでない。
ライナは風属性の弓を選んでいた。
「弓ってさ…矢は普通の使っても良いのかな?」
ライナは精霊弓を構えて疑問そうにそう言い、その疑問に妖精霊王は答える。
「ああ、それは何でも良いよ!矢を番だ瞬間に、精霊が矢にも宿るからね」
「そうなんですね…」
「良い選択だね。君は他のメンバーよりも遥かに弱いから遠距離からの援護が向いてそうだしね」
「ぐっ…そりゃあ…」
妖精霊王の言葉にライナは少し傷ついた。
「さて、ここにいる人は武器を決めたらしいね。残りは、他の冒険者に配ると良いよ」
妖精霊王は手を広げてそう言った。
「えっと、オヴェイリュオン様、これって役目を終えた後って、さっきの宝物庫にあった武器みたいに、ただの武器に戻ってしまうんですか?」
俺は疑問を投げかけた。
「ん~、クイン君などの肉体持ちと一緒で、その場が居心地が良ければそのまま残って武器として生きる精霊もいるんだよ。それはその精霊個々によるんじゃないかな~」
「へ~なるほど…」
「それとね、さっきはクイン君の意志をそのまま移したけど。その武器達だって精霊だからね、意志は芽生えるよ。ようは、赤ちゃんから成長していくのと一緒、今は武器として生まれ変わったばかりで感じないだろうけど。ちゃんと意思疎通させる事で意志の声も届くようになるはず、勿論、相性もあると思うけどね」
妖精霊王の言葉に皆、納得の頷きを見せる。
「なるほど、オヴェイリュオン様。いろいろと有難う御座います。早速リッチロード討伐に向かいますので…クインの事有難うございました」
「ううん。良いよ、僕たちだってアレは危険だからね、危険な役目を人族達にお願いしないといけないわけだしね」
「はい。ではそろそろ戻りますね」
「うん。次会うときはクイン君の再度の転生だね。待っているよ」
「はい!」
新達は妖精霊王に礼を言った。
すぐに妖精霊王シャボン玉のような物を作って俺達を包み込んだ。
そして、手を振って俺達を、飛空艇が着水してある所まで転送してくれた。
「ここは…むう…アラタと出会ってから驚きばかり。我ら人間が踏み入れぬ場所ばかりを、我の代でこれほど体験しようとはな…」
「神帝様、世間は広いですなあ…儂も、まさかこのような世界を垣間見るとは思わなんだ…」
暫く神帝と参謀長は、この世界の一部を見て感想を二人で述べ、言い合っていた。
新達は皆、飛空艇へ乗り込んだ。
◇
俺達はマージガル神国の神帝タワーへ戻って来た。
飛空艇を降りると、バタバタと兵士達が走って来る。
「お帰りなさいませ、神帝様!」
「うむ。我がいない間、何か変わった事はないか?」
「はっ!多少ですが、洞穴のゴブリン達が活発になって来ています」
「ほう」
「今の所は一日中監視して、各階級の駐車場の方は兵士を3倍にして巡回も行っておりますので、撃ち漏らしや新たな洞穴などはないと思われますが」
「うむ。わかった、それから、
「はっ!!」
神帝が命令すると、バタバタと数名の兵士は走って行った。
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