第132話 精霊の島
ハイエルフ専用の魔導飛空艇はゆっくりと格納庫を出て行く。
メイン操作盤のスイッチを入れると、床以外の壁が外を写すのスクリーンに切り替わった。
「おおお…どうなってんだこの壁…」
「すっご~い」
皆、天井や壁一面に広がる景色に驚いた。
後を見ると格納庫は険しい絶壁の崖に出入口はあった。
格納庫を飛空艇が完全に出て行くとその扉は閉じて行き、見た目には扉と分からない絶壁へと戻った。
俺は、ランガルフさんにある程度の操縦法を聞いて飛空艇を操縦している。
丸いボールみたいな物に手を置いて魔力を注ぎながら右へ左へ少し舵を確かめた。
ある程度は思考で動くようだったが真ん中に操縦桿もあるので、多分そっちでも操縦は出来そうだった。
今の所、魔力はそこまで使っていないが、速度を速めようとしたり上昇したりするには少し魔力を使わないと動きが悪かった。
操作盤にも何かを映し出しているスクリーンがあり、気温、湿度、高度、速度など現在の状況が映し出されていた。その中に携帯の充電のようなメーターがあった。
船体が魔素を蓄積している量なのか?俺の魔力を測定しての残量なのか?
分からないが、何となくそんな気がした。
ある程度操作に慣れて来た俺は、少し上昇し始めた。
起動以外はハイエルフの血筋とは関係ないみたいなので、疲れた時はだれかに変わって貰う事も出来るから心配ないだろうと、目一杯上昇を試してみたが、高度3000mの所でピタッと止まってしまった。
≪アラタ、それ以上高くはいかんぞ~お、制限装置がついておるでな~あ≫
やっぱりそうか…
「hy,与圧機能がついてないとかだからそれ以上はダメなのか?確か地球での小型機ってのはソレが付いていないから高度4000mがギリギリだったな?…」
フェルナンドがそうランガルフに聞くと。
≪与圧?…い~や、魔素はな上昇するほど薄くなるんじゃよ~お、魔素がなくてはこの飛空艇の機能が使えなくなる、まだまだ上には行けるには行けるが危険じゃ~よ≫
どうやら、魔法世界の最先端飛空艇はここが限界そうだ。
まあそれでも、燃料は個人の魔力で航行出来て、その上、地球では架空の物である反重力装置があって揺れも感じない。これは凄い事だよね。
風魔法のたぐいで航行しているため速度はそこまで出なく。
高い山は迂回しないと行けないけど、乗り心地は最高だった。
≪このまま南へ進路を取るんじゃ~よ≫
俺はランガルフの指示に従って、南に進路を取った。
◇
所々、皆が下をを眺めていると、ワイバーンのような翼竜のような魔物がちらほらと見える。
「新、今何キロ出てるの速度?」
「えっと…200キロくらいかな?」
問いかけて来た瑞希に俺はそう答えた。
「目的地まで、え~と…約3時間ってとこね。飛んでるのに意外に遅いのね…」
瑞希はさくっと計算してそう言った。
「まあ…飛空艇と言うか船みたいな形してて、マストとかもあるし、設計の段階で速度は見てないでしょ?ははは…」
「それもそうね」
≪なんじゃ~あ、地球ではどのくらいで飛ぶ飛空艇があるんじゃ~あ?≫
ランガルフが聞き耳を立ててそう聞いてきた。
「確か、戦闘機で最速は…
≪なんじゃ~あ?マッハとはなんぞな~あ?≫
フェルナンドの言葉にランガルフはそう返した。
「音が空気中を伝わる速度を音速ってんだ、マッハ1の時の速度は1秒間に約340mだっけか?そこは気圧で変わるが大体そんなもんだな」
≪‥‥‥‥‥‥‥‥≫
「ん?ランガルフのおっさんどうした?」
≪い…いや、そんな速度で飛ぶ飛空艇が地球にはあるのか?…戦闘機と言ったが…そもそもそんな速度で戦闘なんて出来るのか~あ…≫
「ああ、そんなもん、どんどん更新中よ無人機ならもっと速いのがあるぜ!ハッハッハ」
≪今度、地球に行ってみたい物じゃの~お…魔科学者としてそそるわい…≫
そんな科学などの話をしながら3時間ほど経った。
◇
≪あそこじゃな~あ≫
ランガルフが言う、前方を見てみると、水平線の先に何やら靄が掛かっている場所が見えた。
≪あの中に入ると方向が霧で分からなくなるゆえ、そこでクインの出番じゃ~よ、念話で話しかければ何らかの反応があるはずじゃろ~て≫
「ふむ。了解した」
クインはそう言って軽く頷いた。
その靄に近づいていくと、そこから霧が深くなっていった。
ゆっくり霧の中にすっぽりと飛空艇は包まれるとクインは念話を始めた。
暫く、クインは、首を横に振ったり、頷いたりしている様子があった。
「ふむ。妖精霊王は会ってくれるそうだ…フー」
クインはそう言った。
≪おおお~本当か~あ!≫
「やったねクイン!」
「うむ。そのまま飛べと妖精霊王は言っている」
俺はクインに頷くとゆっくりと飛空艇を飛ばした。
どうんどん霧は晴れて行き、そこに小さくも大きくもないドーナツ型に見える島が現れた。
「ふむ。あそこの砂浜がある所に着水しろと言っておる。フー」
俺は頷き、その場所へ舵を取って、クインが言う場所に静かに着水した。
◇
砂浜に俺達は降り立ち。
クインが先導する方向に歩き始めた。
上から見たときは、ドーナツ状の島になっていた。
ここはその外側の砂浜だ。
砂浜からしっかりとした土地へと上がると、ピチャピチャと海側から音がしたので見てみると、人魚に似た小さな妖精達がこちらを伺っていた。
瑞希やレベッカが手を振ると、可愛い小さな手を振り返していた。
クインについていくと、森が生きているかのように分かれ、道を作り出してくれた。
少し驚きながらも、クインの進むその森へ入るのだった。
木や土、風の精霊らしき、小さな者達がそこら中にいた。
それには姿がしっかりと見える者、薄いクラゲのように浮いている者、踏み出して足の踏み場から逃げる精霊など様々な気配を感じ、時折、笑い声なども聞こえ、存在をアピールしていた。
俺達は不思議な森を真っすぐに歩いて行く。
森の終わりに差し掛かると岩の上に、クインと同じ種、
「あ…クイン、クーシーがいる。クインの家族とかだったりして」
「ふむ。我に家族などはいない、妖精や精霊は霊体と一緒だ、肉体は精霊王から与えられて存在する。フー」
クインはそう言った。
「肉体を与えられるって…それってどう言う意味?」
「ふむ。肉体を与えられる前の記憶はよく覚えてはおらんが…多分、精霊体の時に我が肉体を欲したのかも知れん…フー」
「その時の記憶ってないんだ?…」
「うむ」
精霊体って、よく分からないな、一体何なのだろう…
クインは肉体を持つ前の事はわからないって言っているけど。
妖精霊王が肉体を与えてくれたって…まあ、元々生物でないのならそうなのかもな…
そんな事を思いつつ、精霊島の森の奥へ進む。
たまに、間隔を置いて違和感がある所があった。
クインが説明するには、精霊はそうやって結界を張っているらしく。
その違和感のする所で精霊達が干渉を起こしているのだと言った。
歓迎されていない客だと、入り口に戻されたり森の中をグルグルと回るはめになったり、そう言う結界で精霊達は身を守るのだそうだ。
そう言えば、オブリシア大陸、ヘイムベーラ大森林の妖精達もそうやって結界張っていたような…
暫く歩くと中央の大きな池が見えて来た。
水辺へ近づくと大きな精霊や妖精達が俺達を出迎えた。
「ようこそ、人族達よ」
「おわ!!」
急に挨拶をされて皆が驚く。
俺達は声の主を見つけようとキョロキョロしたが、カレンが指を差した。
そこには、大きな木が腕組みして仁王立ちしていた。
よく見ると、何となく顔があり、それは無数にその辺りに佇んでいる。
俺は鑑定で見てみたが、名前以外のステータスは見えなかった。
名前は「トレント」。
すると、その脇にスルスルと草や木の弦などが、精巧な彫刻のような女性姿を作る。鑑定では「ドライアド」と出た。
「ここに来るまでに貴方達の精神を探らさせて頂きました、その結果、皆が完璧な善人と言うわけでは無さそうですが…、
「あ…有難うございます…」
ドライアドに俺はそう言って頭を軽く下げた。
すると次は水辺の方から言葉を掛けられる。
「まあ、貴方がクー・シーを従属している時点で、悪人ではないのはわかりますがね。うふふ」
湖の方には女性が立っていた。
が、正確には水で形になっている者、水の精霊だった。
鑑定すると「ウンディーネ」と出ていた。
「あはは、人族が来るのは何千年ぶりでしょうか?」
その声は上からだった。
風のように浮いている事から風の精霊だ。
名前は「シルフィード」。
ここには、火以外の中位精霊が所々から顔を出していた。
「さて、オヴェイリュオン様にお会いになるのでしょう?」
そう、水の精霊ウンディーネが問いかける。
「はい…お願いします」
「それなら、この水の中へお入りなさい」
「この…い、池にですか?…」
俺達は、水辺に立っているウンディーネに近づいて池を覗く。
かなり深そうだが…
「えっと…この中へ入るんですか?」
「はい」
ウンディーネは頷いて笑みを浮かべた。
「行くしかないわね…アラタ、ミー達にボンベマスク用意して」
「ああ…うん」
カレンは新にそう言った。
「あら?空気の事?それなら大丈夫ですわ、呼吸なら問題なく出来ますから、うふふふ」
「え、息できるんですか?」
「はい。うふ」
皆その言葉で顔を見合わす。
「じゃあ俺から…」
バシャン!
フェルナンドはそう言って池に飛び込んだ。
フェルナンドは一度、潜水して顔を出す。
「おお!凄いぞこの水…本当に息が出来る」
「えええ…ほんとですか?」
「うふふふ、さあ、妖精霊王様に会っていらっしゃい」
皆、頷いて水の中へ飛び込んだ。
皆、顔を水の中つけて息が出来るのかを確認している。
「では、妖精霊界へお連れしますわね、うふふふ」
ウンディーネはそう言うと、水辺から高くジャンプして水の中へダイブした。
バッシャーン!!
大きく水面が弾け飛んだと思ったら、俺達は吸い込まれるように水の中へ引き込まれて行った。
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