第131話 宝物庫

 転送されるとそこは、薄暗かったが大きな広間になっている事は分かった。


 ランガルフが、ルーンポータルの隣に立っていた装置のスイッチをジャンプして押すと、一気に灯りが部屋全体に灯った。


「わあ…」

「おお…」

「ここが宝物庫…」


 俺達は灯りがついて宝物庫の全容を知った。

 大きなドーム型の広いその部屋の中央に俺達はいる。


 周りを見ると様々な物が綺麗に並べられている。

 ある場所には、武器、防具などが並び。

 ある場所には、宝箱のような物が敷き詰められ。

 ある場所には、絨毯や装飾のついた置物など、様々な物が置いてあった。


 ≪ここが宝物庫じゃ~の、こっちじゃ≫


 ランガルフがちょろちょろと動き、武器防具が並べられている場所へ歩き出す。

 それに俺達はついて行った。


 夥しい武具があった。

 剣、槍、斧、弓、杖、盾、鎧、兜、銃のような物、等々ズラリと並んでいる。


 俺はルーン文字が刻まれた武器に目を奪われる。


 ≪む、アラタ、それはお主の祖先、アスナール家のルーン武器じゃよ~お≫


「ルーン武器…ですか?俺もルーン魔法を武器や防具に付与する事が出来るんですけど…これは初めて見ました」


 ≪うむ。それも一つのルーン魔法付与なんじゃがの~お、ルーン文字には強力な魔力を込める事が出来るのは知っておろう?≫


「はい」


 ≪強力な魔法を込めたルーン文字自体を武器などに直接刻むことで、より大きな威力を発揮するんじゃ~よ、…それだけではない、その文字の配列や種類によって様々な武器に変化するのじゃ~よ≫


「へぇ…文字の配列や種類で…」


 ≪その破壊力はダンジョンの報酬の魔剣などよりも優れておるのじゃ、下手に扱えば国が亡ぶとまで言われておる、だからここに保管してあるのじゃ~よ≫


「ランガルフのおっさん、それをもってしてもリッチロードには勝てねえのか?」


 フェルナンドが横からそう聞いた。


 ≪フェルナンドと言ったかの~お?皆にも何度も言うようじゃが、上級アンデットは精神体が殆どで、死霊王リッチロードはその名の通り死霊の王、その更に上の存在じゃ~よ、肉体を持たない者にとっては物理的な攻撃力は無意味…このブルースフィアはな~あ、魔素がある世界を選択した時点で、便利な魔法と危険な魔物を創造した。中にはワイら、人間の英知を極めた古代ハイエルフですら凌駕する魔物は多くはないが居る…それはの~お、リッチロードだけではない≫


 リッチロードだけではない?…

 って事は…他にも災害級のような魔物の存在が居るって事か…


「ま…マジかよ…」


 フェルナンドが口に出して驚く。


 ≪古代竜エンシャントドラゴンや、古代狼フェンリル不死鳥フェニックス毒蛇王ヨルムンガンド、等々…人族には到底敵わないだろう魔物もいるんじゃよ~お、…勿論…肉体があるんじゃ、倒す事も出来ようが…、関わらない方が身の為じゃ…ワイらハイエルフはそのような魔物が暴走した時の為に、魔導兵器もそうじゃが、人間や武具を強くする事にした、それがルーン魔法と魔科学の原点じゃ~よ≫


「なるほど…」


 俺は納得した。

 この世界は魔物がいる、それだけでも危険な世界だ。

 それに適した進化と文化を遂げた世界。それが古代ハイエルフが創造した世界、この立派な剣みたいに進化した身体でも、補えない部分は武具などを作る、これは人間が原始人の頃からやっている事だもんな…


 ≪む?アラタが今見ているその剣は「ドラゴンスレイヤー」の名を持つ一振りじゃ~よ。そこに刻まれているルーン文字には、ドラゴンの硬い鱗や皮膚を破壊、貫く為の魔法が刻まれているのじゃよ~お≫


 剣をよく見ると刻まれているルーンは4文字、そのルーン文字は俺が教わったのと少し違った。


「これルーン文字みたいですけど…俺が知っている文字と少し違います…」


 ≪うむ。それは古代ルーン文字じゃ~よ、ルーン文字にも歴史はある、それはあまりにも強大な魔力文字…アスナール家も非常時しか使わない奴じゃな~あ、それは、太古に邪龍が大暴れした時に用いた奴じゃからの~お≫


 へぇ…ルーン文字にそんな物があるんだ?知らなかった…

 今度、古代ルーンについては母さんに聞いてみよう。


 ≪さて、こっちの方に精霊武器は置いてあったはずじゃが…≫


 ランガルフはクーちゃんの小さな体で箱の中の武器をあけて確認していた。

 幾つかの箱を開けて中を覗く。


 ≪こ!これは~あ!?≫

「ど、どうしたんですか?」


 ランガルフは一つの箱の前で固まっていた。

 俺がそれを覗くと一振りの剣がそこには収められていた。


 ≪ワイが最後に見たときは淡くその光を放っておったんじゃ~よ、これはまるで精気の抜けた…≫


 ランガルフはそう言ってまた黙る。

 俺達はその剣をまじまじと見たが、そんな光は感じない。


 ランガルフは並んでいる他の箱の中身も見ていて、俺達も続いて見に行ってみたが同じく精霊武器と言われるくらいの存在感はなく、少し恰好良さげな武器が収められているだけだった。


 ≪これも、これも…これもこれもこれも…なんて事じゃ~あ…≫

「えっと…ランガルフさんまさか…」


 クーちゃんはこちらを向いて弱々しく頷く。


 ≪これには精霊を感じん…あ!今は機械の目じゃったわ…、アラタ!ワイの目には見えんが、そなた達なら精霊の光が見えるかの~お?≫


「い…いえ、普通の剣や槍に見えますが…」


 ≪‥‥‥‥‥やはり…≫


 ランガルフは何かを悟ったかのようにぽつりと声を零した。


「なんだあ?電池切れって事か?」


 フェルナンドが頭を掻きながらそう言った。


 ≪クインと名を言ったか~の?≫

「ふむ。フー」


 ランガルフはクインに向き直りそう口を開いた。


 ≪主も精霊の仲間…どう思うかの~お?≫

「ふむ。この武器の中に精霊はおらんな…役目を果たし霊体に帰化したと推測する。フッフー」


 ランガルフに問いかけられたクインはそう言って鼻を吹いた。


 ≪ふむう…そうなるともう一度、精霊王に会いに行く必要がありそうじゃの~お…≫

「精霊王ですか…?クイン…精霊王って知ってるの?」

「ふむ。勿論知っている、我達、妖精と精霊の王だ。王がいるからこそ我ら妖精などはこうやって肉体を持ち実体化出来ていると聞いているが…会った事はない。フー」

「へぇ…ランガルフさんは会った事あるんですか?」

 ≪い~や?これを造って貰った時は、古代あの時のハイエルフの王が面会したはずじゃ~よ、ワイはその頃は政務長でもなかったからの~お≫


 そっか…大昔の物で使わなくなった今、それは役目を終えたって事か。

 どちらにしても、この武器からは精気を感じないと言う事はクインが言ったように、帰化?した感じだ…

 帰化って事は武具に入っていた精霊の力が元に戻ってしまったって事かな?

 今はただの格好良いだけの武器だ。


「で…その精霊王って何処に居るんですか?」

 ≪正確に言うとこの大陸の南、海の向こう約1000kmほど行った辺りの孤島じゃよ~お、そしてそこに精霊界への入り口がある≫

「精霊界ですか…でも、そこまでどうやって行けば良いんですか?」

 ≪その時は飛空艇で行ったのじゃが~の…≫

「じゃあ、それは解決だな。神帝専用のあの飛空艇があるわけだしな」


 フェルナンドがそう言い頷くと、ランガルフがそれを否定した。


 ≪い~や、あれは高くも飛べぬ上、そこまでの距離を飛ぶ事は出来ないの~お、でも多分じゃが、アレよりも高性能な飛空艇は格納庫にある、魔力を膨大に消費する物じゃが~の…アラタ、ワイのこの手を触ってくれんかの~お?このクマの人形は魔力感知も出来るように作って貰っているらしいのでの~お、ある一定の魔力を持ってないと操作出来たとしても途中で海の藻屑になるわい≫


「クーちゃんの手を握れば良いんですか?」

 ≪うむ。それで構わない≫


 俺はクーちゃんの手を握ると、測定しているかのようにランガルフは固まった。


 ≪ぬお!アラタ、お主…この魔力は一体…ま、まさか、GH化したんではあるまいな~あ!?≫

「え…ああ…えっとGH化?…何ですか?…そ、そんな魔力ありましたか?…」

 ≪ぬぬぬ…まあ良い、とりあえず魔力は合格じゃ、あの飛空艇を操作出来る魔力は十分にあるの~お…≫


 グランドヒューマン化しているのがバレたかな?…

 まあ、バレたとしてもそれは良いけど…今の略称だったら神帝様達も何の事やら分からないだろうし…


 そっと神帝を見たがその言葉にすら気付いてないっぽかった。


 ≪問題はの~お、そこまで行けたとして、その孤島周辺は深い霧で守られておるはず…精霊や妖精の導きがないと入れないと聞いている。クインとやらが導いて貰えるのかの~お?≫


「ふむ。我がやってみよう…フー」

 ≪じゃ、決まりじゃな~あ。リッチロードの従属アンデット達へは物理攻撃も通用する物も多いじゃろうから、使える物はこの宝物庫から持って行くかの~お≫


 俺達は頷き、さっきのドラゴンスレイヤーを含む、ルーン武器と一応、格好いいだけの精霊武器も持って行く事にして、使えそうな物は全て俺のマジックボックスへ投げ込んだ。


 次に俺達はその飛空艇があると言う格納庫へ向かうことにした。


 ◇


 ハイエルフの血筋しか開けられない扉を抜けて格納庫へ着いた。


 そこには、小さな飛空艇も何機かあったが、真ん中に堂々と、ハイエルフの王専用だったひと際大きな飛空艇が悠然と格納されていた。


 その純白の飛空艇は本体は船のようになっていて、金属の翼もあり、帆とマストもついていた。


 その姿についてランガルフが言うには、海に着水する事も踏まえ船のような形になっており船としても使えると言った、帆とマストは魔力航行できなくなった時の予備策らしい。


 そう説明を受けながらその魔導飛空艇へ搭乗する一行。

 真っすぐに操縦室へ向かった。


 ≪凄いじゃろ~お、栄華を誇ったハイエルフの王専用の魔導飛空艇じゃ~よ!≫

「うん…凄いですね」

 ≪全長60m、反重力装置航行で揺れも殆どない優れモノじゃ~よ、ささ、ここへ魔力を注げば起動じゃ~よ≫


 ランガルフの言う通りに、俺は操作盤を起動した。


 軽い振動が体に伝わった後、宙に浮く感覚がした。


「「「おおお…」」」

「浮いた…」


 ≪起動さえすれば、ハイエルフの血筋でなくても操作は出来るが~の、魔力航行するためには魔力が大きい者がした方が良い、じゃからアラタに任せようかの~お≫

「ああ、はい…」


 ランガルフが何かのスイッチを押すと格納庫の大きな扉が開いていく。

 扉が開くと外の景色が見えた。

 何処かの高台なのだろうか、遠くに山々が見える。


 丸い操縦桿のような物に左手を置いている。

 それをランガルフの言葉を聞きながら軽く前へ押し出すとゆっくりと飛空艇は前進した。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後書き。


小説の名前を変更しました。

なんとなく平凡だったのでw


ブルー・スフィアに変えました、これからも宜しくお願い致します!



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