第130話 器となる物
神の声は、機械の中のランガルフ・バーニーと言うハイエルフの意志だった。
神帝と参謀長は後に俺達全員に
この国ではハイエルフでしか入れない所が所々ある。俺だけはそこへの立ち入りが出来るはずだ。
ライナは、この間、銅級に上がったばかりなのに、俺達と一緒にいただけで、いきなり白金級になってしまった。
宿を経営している親はそれを聞いて失神してしまったのだとか…
ただ、階級は上がっても実力は銅級なので、鍛える必要はあると言って師匠であるフェルナンドさんはライナにそれを厳しく言っていた。
そして目指すは、精霊武器が眠っていると言う、この国の宝物庫。
ランガルフさんが言うには、リッチロードの封印は解けかけてはいるが、まだ時があると言う。
先ずは、ランガルフさんが自由に外の世界を動き回る機械をイグルートに作ってもらうため一度、オブリシア大陸へ戻る事にした。
◇
「イグ、ちょっと頼みたい事があるんだけど?」
「おお?アラタ殿戻ったのですな」
「うん、実は…」
俺はイグや、ジーウにここまでの経緯を話した。
「なるほど…まさか地球とこの世界が同じ物だったとはのう…いやはや、ハイエルフと言う存在は儂らハイドワーフでも手の届かぬ存在なのか…」
「でもぉ…凄いですねぇ、マジックボックスの解明とかワクワクしますぅ」
イグルートとジーウは古代人ハイエルフの想像力に感銘しそう言った。
「お?そう言えば…動く機械と言いましたな?」
「うん、何か簡単で良いんだけど作れる?」
「良い物があるぞい!ほほほ」
「きゃーーーあぁ!それはぁ、だめーーーぇ!!」
イグルートはニヤリを笑ったかと思うと、ジーウの作業場にあった物を取りに行った。
「イグ様ぁ…それはぁ、やめてぇ!」
「良いではないか、余った素材で儂が作った奴だしのう!」
俺達の前で二人が揉み合っていた…
そして、俺達の前にイグルートが持って来たものは…
小さなクマの縫いぐるみではなく…機械だった。
揉み合いに負けたジーウは、ぼさぼさになった髪の毛を振り乱しながら、悲しそうな目でこっちを見ている…
「それは私ぃの大事な、クーちゃんなのぉ…」
「煩い!また作ってやるから今は良いじゃろ!」
「あ~ん」
よくその熊の機械を見るとかなり精巧に作られている。
体長は約40cm、素材はほぼ金属だったがオリハルコンが所々に使われていた。
目はライトとカメラが搭載されていて、二足歩行と4足歩行が出来る。
イグが言うには、足をキャタピラに交換する事で、難所も走行できる優れものだと言う。
「ほほほほ、余り物で作ったにしては良く出来ておるじゃろ?小さなマナードリアクターを搭載しておるので、殆ど永久に動くことが出来るわい、偵察用には持って来いじゃろ、ほほほ」
「へぇ…」
「クーちゃん…」
「しかも次元石の研究で、声や映像を端末に飛ばす事も出来るぞい」
「私ぃの…」
「なるほど…」
「ジーウやかましい!後からもっと良い物作ってやるといっておろうが!」
これを持って行くのがとても苦しく思えて来た…
でも、こうしている間にもリッチロードが復活してしまう。
アレが復活したらマージガル神国だけでは収まらず、死体は戦闘員になり全世界がアンデットの世界になりかねない…
ここは、ジーウに涙を飲んでもらうしかない…
「じゃあ…これ使わしてもらうね。ジーウ…ちょっと急ぎなんだ…イグに新しいもっといい物作ってもらってよ」
「うう…」
俺達は、泣いて床を叩くジーウを最後に見て、ゲート魔法でマージガル神都へ戻る事にした。
◇
俺達は、ゲート魔法で地下シェルターの指令室へ戻った。
「ランガルフさん戻りました」
≪ぬお!もう戻ったのか~あ…お主のその魔法、ゲートと言ったか?先程、行く時に見て驚いたのじゃが、まさか空間を歪めて点を合わせておるのか?≫
「え…良くお分かりになられましたね?そうです、地球では原理だけなら推測出来ているのですが、それを実行するとなると魔法の力が必要で、俺がこの世界で開発した魔法です」
≪‥‥‥ぬう流石、次元、空間を得意としたアスナール家血筋と言う事か~あ?…しかし…それには膨大な魔力とその安定力も必要…それを…記憶もブツブツ…≫
元魔科学者のランガルフは、ブツブツと何かを言って、考える頭ではなく、機械の中で演算しているようだった。
「あの~ランガルフさん…」
≪むむ?…ああすまぬ。どうも新しい魔法や動く物を見ると何かを作れないかと考えてしまう性分がな~あ…して、ワイの眼となる器はあったかの~お?≫
俺はマジックボックスから、クーちゃんとジーウに呼ばれていたクマの機械を出した。
≪………≫
「持ってきました」
≪…なんじゃ~あ…ちっこいそれは…≫
「えっと、地球で熊と呼ばれている動物を可愛くした機械です、余った素材で俺のクラン工房の仲間が作った物です」
≪‥‥‥くまぁ?…えらく小さいが動けるのかの~お?…≫
「勿論です。これはただの置物で作ったのではなく、ちゃんと偵察出来るようにカメラやライト、足の所を取り換えると悪路でも普通に走れる優れものですよ?」
モニターには考えているランガルフの画像と、悲しそうな画像が交互に映っていた…
この熊の可愛い姿が気に入らないのか少し考えているようだった。
「ランガルフのおっさん、こいつで文句言うなよ?…別に動けるようになったら器なんて幾らでも作れるだろ?」
フェルナンドが見かねてそう言った。
≪い…いや、別に文句など言う事はない…、ただ、ちと…それではワイの威厳ちゅーもんが余り伝わらぬのではないかとの~お?≫
「文句じゃねーか…」
「じゃあ、ジーウも喜ぶし…返しますか?」
「だな」
≪ま~待て待て、いや、それで良いんじゃよ~お…折角なんじゃ、それで良いのじゃ≫
慌てた画像がモニターに映し出された。
結局、クーちゃんに決めたランガルフだったが、その機械に何をどうすれば良いのか、いろいろと説明していたがよく分からなかった為、イグルートをここへ連れてくる事にしたのだった。
ゲートを開いて、イグルートとジーウを呼んだ。
「うわぁ…凄い…機械だらけぇ」
「ふむ。これが古代人達が作りし物じゃな…」
二人はこの部屋に出て来た瞬間に周りを見渡しそう言った。
「イグ、この機械に映っている方が、ランガルフ・バーニーさん、太古のハイエルフ…の意志だよ」
「ふぬ…意志を機械に移すとは…凄い事をしたもんじゃのう…で、このランガルフ殿を移すと言うのか?」
「ど…どうなんだろう?」
≪お主が、アラタが言う物作りの天才か~あ?なるほど…ドワーフか、ワイらが作りし種族の中でもっとも物作りが得意な種族じゃ~あ、納得納得じゃ~あ、いや、正確にはワイをそれに移してしまうと、小さな機械では収まりきれん可能性が高いゆえ、ここから遠隔で目になり足となってくれれば良いのじゃ~あ≫
「それでは、遠隔操作が出来ればそれで良いと言う事じゃな?」
≪うむ≫
「それなら簡単な事じゃな。儂に任せておけい」
「このおっさんを…クーちゃんにぃ…入れちゃうのぉ…」
「ジーウ、まだ諦めておらんのか…」
イグルートはジーウに呆れ顔をしてそう言った。
それから、1時間も経たないうちにそれは完成した。
クーちゃんは、軽快に歩き出しランガルフの声も、そこから出るようになっていた。
≪おおお!これはこれは。ちょいと視点が低いが…完璧じゃ~あ≫
「一応、ランガルフ殿に言われた通り、機械を組み込んでやったわい、次元石を使う事で通信も遠隔操作も正確に操作出来るわい」
「へぇ」
「アラタ殿、儂にこのランガルフ殿の声が聞ける通信機を別で作って、儂が持ってても良いかの?魔科学について、いろいろとアドバイスを頂きたいのじゃが?」
イグルートは汚れた手を拭きながらそう言った。
「ああ…でも、太古の過ちを犯さないよう、その辺教えてくれないかも知れないよ?」
「うむ、それは先ほど作業している時に話は聞きましたぞい。兵器なぞ作る事はせんわ…あのバイーダーの反重力システムは何となくじゃが解明は出来たが、儂とジーウイが作ったマナードリアクターよりも、優秀な魔導機械にはジーウも興味をしめしておるしのう」
「本人が良いって言うのなら良いんじゃない?」
「うむ。聞いてみるのじゃ」
イグルートとクーちゃん…いや、ランガルフさんは二人でコソコソと話をしていたが、物作りに対するイグルートの気持ちに感銘を受けて、ある程度の魔科学を教えてくれると約束してくれたらしい。
イグルートとジーウ二人をクラン工房に帰すと、俺達は早速歩けるようになったランガルフと共に、このマージガル神国の宝物庫へ行く事になった。
一緒に行くのは、俺達8人とクイン、神帝と参謀長とクーちゃん(ランガルフ)である。
場所は、勿論中央にある神帝が住むタワー型の建物の何処か。
ランガルフは案内すると言って、ちょこちょこと動いて先導した。
◇
宝物庫へ行くには神帝タワーへ入り、一度10階にある部屋へ入り、そこからまた魔導エレベーターで下へ行くのだと言った。
ランガルフの案内は続いた。
地下へと降りた一行は、ハイエルフの領域となる扉の前に来ていた。
扉の横には数字のある盤と手を置く所があった、それが扉を開ける装置なのだろう。
ランガルフが言うパスワードを入力し、新は手を装置に置く。
小さな埃を落としながらその扉は開いた。
その部屋の先に更に同じように扉がある。
そこも同じように違うパスワードと、新が手を置いて開いた。
次は
宝物庫はこの先だとランガルフは言った。
流石の宝物庫、二重三重の仕掛けが施されていた。
宝物庫への、ルーンポータルは大きくその場を取ってある、多分、大きな物を運ぶためにその装置も大きくしていたのだろう。全員が余裕で乗れた。
皆がルーンポータルに乗ったことを確認すると、新は魔力を注ぎ込むと転送が始まり瞬時に何処かへ転送された。
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