第128話 神の声の正体2

 俺達はもう一つのルーンポータルで、シェルターへ転送する事が出来た。


 そこはシェルターのイメージを覆す光景だった。

 転送部屋を出ると、吹き抜けのマンションのように真ん中には大きな木があり、天井高く聳え立っていて、水も滴っている。


 長い間、放置されていたのだろう、壁には植物の弦などが張り巡り育ってはいるが、それはそれで良い幻想的な雰囲気を醸し出していた。


 俺とクインがその場に出てくると、皆その光景に目を奪われていた。


「ここは…」

「ここが、古代人が杵築上げたシェルターと言う物か…」


 俺と同じタイミングで神帝もそう言った。


「ぬお!魔物!!」


 参謀長がクインに気付いて、すかさず離れてそう叫んだ。


「ふむ。我は魔物ではない、妖犬じゃよ、失礼な…フー」

「しゃ…喋ったぞ!」

「ああ、参謀長さん、クインは俺の従魔で妖犬クーシーのクインです、ずっと傍にいたんですけどね。あはは…」

「クーシー…だと?」

「むむ…む…」


 俺が頭を掻きながらそう言うと、驚いた参謀長と神帝は顔を見合わせそう言った。


 ≪ほう~…妖精を従魔にしておるとはの~お…お主には聞きたい事がまた一つ増えたわい…ザザ…≫


 アラタの通信機からそう聞こえた。


「とりあえず、ここから何処へ行けばいいんだ?」

「えっと、ここからは案内するって神様は言ってますね」


 新はそう皆に伝えた。


 神帝様も声は聞こえているのだろうが、俺が先導して歩き出した。

 そして、神が喋る事を復唱して、皆へ伝えるように俺は語る事にした。


「ここは、古代人がシェルターとして使っていたらしいです。太古の戦争の時には女子供がここに沢山匿われたと言ってます」


 そう言って神の声に従い歩き出す新。


「ですが、敵の侵入や謀反などでここも戦火になってしまったと…」

「元々、なんでそのハイエルフ達は戦争なんかしたんだ?」


 フェルナンドがそう言うと、新は神の声を聞いてその問いに答える。


「その原因についてはよく分かっていないらしいよ?多分だけど最初は些細な事だったのかもしれない。でもそれが大きな戦火になり、国が2つ分かれ、お互い潰し合ったみたい…ハイエルフがお互いの最高戦力を投入して星が破壊されるかも知れないくらいの戦争だったと言ってます」


「まあ…俺達の地球もくだらないエゴで国の奪い合いなどが起きるからな、戦争のきっかけなんて実際大した事ないのかもな…」


 フェルナンドがそう言うと、新が立ち止まった。


「あ…はい…実は…そうです、はい…」


 皆は俺の突然の畏まった言葉に目を向けた。

 俺はある言葉を言われ、フェルナンドさんをジト目で見た。


「ん?なんか俺、変な事言ったか?」


 俺は、しかめっ面をして口パクでと声を殺して口を開いた。


 ≪なんじゃと!地球と言ったか主ら…ザザ…お主ら地球人か!?≫


 フェルナンドの呟きで、そう新の耳に神は叫んだのである。

 ああ…ある程度隠しておこうと思っていたんだけどバレてしまった。

 その口パクでフェルナンドは、焦って口に手を当てていた。


 更に、新一行に興味が沸いたと神は言った。


 そして、また歩き出す。

 そこからは新は、通信機で神と二人で話をしていた。


 ≪アラタ、お主達が地球人とはの~お…≫

『いえいえ、ここにいる全員ではありませんよ?』

 ≪わかっておるわい、獣人など地球人におるわけないからの~お…ザ…、地球人とハイエルフのハーフって事かの?また珍しい組み合わせじゃな~あ…ザザ≫


『ははは…とりあえず、この神帝様達にはまだ内緒にして貰えませんか?いろいろと…まだ俺達の事は深くは言いたくなので…』

 ≪むむ…なんか分からんが分かったわい。ザザザ‥、とりあえず、それはワイの所についてから話をするとしようかの~お、お主達に助けてもらいたい事もあるし、聞きたい事も山々じゃよ~お…≫


 それから神の声に案内されてシェルター内部を歩く。

 所々に、古代人の白骨化した死体が転がっていた、それは骨格を見る限り、殆どが女子供だった。


 沢山の古代人が殺され放置されていたのは間違いない。

 俺や瑞希は、その死体に時に合掌して歩いていた。


 ≪そこの部屋へ入るのじゃ≫


 新が扉のスイッチに手を乗せると静かに開くと、白骨化した骸骨が中からこちらへ倒れて来た。


「ひっ!」「きゃあ!」


 皆、少し驚いて転がる頭蓋骨を避ける。


 恐る恐るその部屋へ入るとそこは比較的広く、近代的な部屋だった。

 壁には沢山のモニターや機械が所狭しと並んでいた。

 その部屋は、このシェルター全体を操作出来る指令室だと神は言った。


 モニターにはマージガル神都の至る所にある監視カメラの映像が写されている。

 中央のモニターの前にと神が言ったので、皆、中央モニター前に行くと、そこには白骨化した死体が座っている。


 するとモニターに一人のお爺さんが映し出された。


 ≪やあやあ、よくここまで来てくれたのう~お≫

「その声は、神様…」


 神帝はそう言って、参謀長と膝をついて頭を下げた。


 ≪神帝、参謀長よ、畏まらなくてもよいぞ~お。ワイはこの時を約1万年待っておった…いつかハイエルフの血筋か、神都の人間がこのシェルターへ来てくれることを~お…≫


 そう言われ、神帝と参謀長は居直った。


「あなたは?一体?…」


 新がそう言うとモニターのお爺さんは語った。


 ≪その椅子に座っている死体はワイじゃ、そしてさっき入り口に居た骸骨はワイを殺した暗殺者じゃよ~お…ワイを殺害したヤツをこの部屋に閉じ込めて出れなくしてやったのじゃよ~お、ほほほ≫


 よく見ると椅子に座っている骸骨には椅子を貫通するくらいの刃物が胸に突き刺さっていた。


 ≪改めて自己紹介せねばなるまいな~あ。ワイはマージガル王国、政務長兼、一級魔科学者、ランガルフ・バーニーじゃ!≫


 ん?ランガルフ・バーニーって何処かで聞いたような…


「ランガ…バーニー…はっ!あのリッチロードの記録の本に載っていたあの…」


 参謀長がそう言ったので俺も思い出した。

 リッチロードを魔封魂杖で封印した記録を書いていた人の名前だ。


 ≪何故、ワイの死体がそこにあるのに、ワイがこの画面から話しかけているか…と言う所から話をしようかの~お≫


 画面の中のランガルフ・バーニーをそう言って語りだした。


 太古の人間は知識を求め、ハイエルフとなり、この世界に様々な亜人を産んで繁栄したが、有り余る知識は時に滅亡を産む。


 あのハイエルフ達が起こした太古の大戦争で、沢山の人達が死んだ。

 その恨みは、殺された民衆家族からも憎悪を向けられ。

 ハイエルフと言う存在は、お互いの暗殺者からも、民衆、兵士謀反からも抹殺される運命を辿る事になった。


 隠れているハイエルフを見つける為の魔道具まで作られ、隠れていたハイエルフも世界から排除されていった。


 それが、新達が神帝と会った時に触った、あの水晶玉のような魔道具である。



 ≪ワイはハイエルフの知識を守る為、この機械に自分の意識をコピーする事に成功したが、その直後、シェルターに入って来た暗殺者の手によって、そこの椅子で人生を閉じたのだ~な…≫


 え…じゃあ、今喋っているこの人はすでに死んでいて、AIとして喋っているって事かな?…


「意識をコピーって、じゃあ貴方はその機械の一部になったって事ですか?」


 俺はそう聞いた。


 ≪その通りじゃアラタよ。この国に残った者達が復興し築き上げていく様をずっと見て来たんだな~あ、そこでワイは機械ながらも考えた…何もかも程々が良いんじゃよ、何時かハイエルフのような者が現れるかも知れんが、程々の知識と程々の技術、あまり繁栄しすぎると、ワイらハイエルフのような末路が待っておる事をな~あ≫


「なるほど…それで、神帝様達には昔の機械を直す術は教えても、作る技術などは教えなかったのですね」


 ≪うむ。その通りじゃよ~お、神帝の祖先がその通信機を見つけてくれてワイの言葉が外に届くようになった、それで何時かこの動けぬ機械から、移動できる機械へ移りたいと思っておったのじゃよ~お、そこで今現れたのがお主じゃ≫


「ここから出たいって…、出てどうするんですか?」

 ≪そりゃあ、1万年もここからカメラを通してしか外を見ておらんのじゃ…青い空を見てみたいもんじゃよ~お≫


「そんな事できるんですか?」


 ≪ワイはここから動くことは出来ないが…ワイと繋がっている動ける機械を用意してくれれば青い空も見る事が出来よう~お、そのためにここに来れる人間が必要だったわけじゃよ~お≫


 まあ1万年も同じ場所しか見ていなかったらそうなるか…

 そもそもそんな年月も生きていたら発狂するよね…あ、死んでるのかこの人…


「神様…いえランガルフ様…これからは我はどうしたら良いのでしょうか?ランガルフ様がこの国を…」


 ≪いや、ワイはもうそんな物に興味はないな~あ、神帝よ、政事はお主に任せてワイは自由に動ける体でここから世界を眺めていたい物じゃな~あ、死にたくなったら、何時でもアラタの手で壊してもらう事も出来そうだしな~あ、それより神帝、参謀長よ、このアラタ達をお前達の言う階級で最高級の物を用意せよ、そして、このアラタ達の秘密は国家機密としてここにいる者だけの秘密じゃ、忘れるなよ~お≫


「はっ!!分かりました」

「ははあ!御意にございます」


「……ランガルフさん、それで…移動出来る体ってのを持ってくれば良いのですか?」


 ≪うむ。それをお願いしたい、そのかわりワイが知っている知識が必要なら聞くとよかろう~お、リッチロードもどうにかしないといかんしの~お≫


 俺はモニターに向かって頷いた。


 ≪時に、アラタよ~お?今ここで神帝らにはここでの話は機密と誓わせたから、いろいろと聞くのだが、お主の母は何と言う名前なのだな~あ?≫


「えと、エウロラ・アスナール言います」


 ≪なんと!あのアスナール家の末裔か!≫


 モニターは、ランガルフの驚いている動画を映し出す。

 いくつか自分の動画をアップロードしているのか、様々な感情を映し出していた。




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後書き。

徐々にフォロワーも増えて来ております!

しかし、コロナの脅威が薄れて行き、行きかう人達も多くなってきましたね。

やっと仕事も徐々に元に戻って行くんですが、それに応じて考える時間も削られて行く…更新が遅くなる時もあるでしょうが、頑張って書きますので宜しくお願い致します!

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