第125話 黄金級の宿

死霊王リッチロード…」


 参謀長はそう言葉を吐いた。


「リッチ…ロード…って」

「リッチってスケルトンの魔術師のようなやつだったか?」

「何だそれは?」


 その場はざわついていた。


「皆、静かにせい!今からここに書いてある事を読んでやろう」


 参謀長は声に出してそれを読んだ。


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 ≪マージガル国災害記録、ナンバー56≫


 〇〇〇年、マージガル国北西に災害級の魔物、死霊王リッチロードを確認した。死体をアンデットとして操り、第八階位魔法まで使う強敵だ。

 幾多の兵士や冒険者が散った、いや、向こうの操り人形と化した。


 マージガル国王はリッチロードに対抗するため、同じ精神体の精霊の王に話を通しこれに対抗する事にしたのだが、そう簡単には行かなかった。


 精霊武器を作る事には精霊王も快諾してくれたが、その作業には月日を要する。

 マージガル国王は、その武器が出来るまで待つ事は叶わないと、それと平行で別の策も考えた。


 それが、精神体を捕縛し封印する事が出来る魔道具「魔封魂杖まふうこんじょう」を短期で開発した。


 膨大な被害者は出たが、8本の魔封魂杖でリッチロードを封印する事が出来た。

 魔封魂杖はその場で封印するため動かす事は出来ない。

 この魔封魂杖は魔素が少量でもあれば永久に稼働する事が出来る、奴をここに封印しここへの入り口と言う入り口は封鎖する事にした。


 何時か、誰かがこの封印を解いた時の為、精霊武器と合わせてマージガル国の宝物庫へ保管する。


 マージガル王国、政務長ランガルフ・バーニー


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 参謀長は文献を読み終えた。


「宝物庫…そんな物、何処にあるんだ?」


 先に将軍長がそう言った。


「儂も知らん…神帝様なら分かるやも知れんな…」

「まあ、この神都は太古に栄えたハイエルフ王都ですからね、私達の入れない所は多く残っています。神帝様ならひょっとしたら知っているかも知れませんね?」


 1人のクランマスターがそう口を出した。


「そうかも知れぬな…ここで話をしていても埒があかないゆえ、一度会議を解散し、神帝様へ報告とこれからの作戦を立てるとするか」

「賛成だ」

「うむ」

「だな」


 参謀長の言葉に皆頷いた。


 それから会議は一旦解散になり、俺達も次の会議に参加するため黄金級区域にある、神都来賓用の宿を用意してくれた。


 中央黄金級冒険者ギルドの隣にある建物だったが、そこは高級ホテルのような外観をしており、俺達も立派な建物に驚いたが、ライナやブリガム支部長は、身分の低い自分達へのこの扱いの光栄さに身震いしながらその宿の前で立ち竦んでいた。


「ここが、今日一日お前達が泊まる宿だ。しかし、勘違いしてもらっては困るからな?お前達を参謀長様が残すのは、道案内もしくは先導し罠などを先に発見し、盾になる役目をお与えになるくらいな物だと思うからな」


 さっき部屋の中で警備をしていた黄金級兵士がそう言った。

 そんな言い方しなくても、鉄銅級に期待はしてない事くらいは分かっている。


「ま、だろうな!案内役兵士さんよ。俺達は外から来た冒険者だから、今は鉄級だけどな?この件が終わったらひょっとしたら同じ階級かも知れないぜ?ニハハ!」


 フェルナンドは案内してくれた兵士にそう言った。


「ハハハハハ!面白い冗談を言う。わかったわかった、じゃあ手柄云々はどうでもいい、今回お前達が死なずに戻ってきたら俺が飯奢ってやるぜ!」

「おお!?その言葉忘れないでくれよ?ワハハハ、俺はフェルナンドって言うんだ覚えとけよぉ、ワハハ」

「俺は黄金ゴールド級の要人警護を主にしているバレンストって言う。その時はそこのブリガム西支部長にでも言えば、探す事は出来るだろうよ、ワハハハハ」


 なんだ…この二人なんか似てるな…

 先程の言いぐさから、フェルナンドさんと喧嘩にでもなるのかと思ったら、飯の約束までしてしまった…流石、アメリカ人、フレンドリーになるのが早いな…


 バレンストって兵士とフレンドリーになったフェルナンドさんは、軽く世間話をしていた中でこの建物の話をバレンストは語っていた。


 この建物は太古の大戦からも残っており、昔は王都の重要な建物だったらしい。

 中央冒険者ギルドは大昔からあの場所だったらしいので、それも不思議な事ではないわけで、この辺では、この二つの大きな建物だけが、魔鉱を含んだ強固な素材で作られているのもわかった。


「じゃあなフェルナンド!死ぬなよ!」

「ああ、バレンスト、飯の約束忘れんなよ」

「ああ」


 どうやら友情が芽生えたようだ…


 中へ入ると執事のような人が出て来た。服には金棒が取り付けられている。


「話は聞いております。では、こちらへ」


 案内された部屋は地下だった。

 綺麗に内装はされているが、少々カビ臭い。


 男と女は別にしてもらったが、元々はここ牢屋とかに使われていたのだろうか?石壁で、あまり良い部屋ではなかった。

 一応ふかふかのベッドは4つあり、壁に部屋全体を照らす魔道具がついていて十分明るかった。


 新、クラウス、フェルナンド、ブリガムは一緒の部屋だ。

 クインはここに来て姿を現し、床に丸くなった。今までは不可視化でついて来てはいたのだろう。


 ◇


 一度寝たんだが、夜中に目が覚めた。


 起きてトイレへ行こうと立ち上がると、クラウスもむくっと起きた。


「トイレ…」

「アラタ起きたのか…俺も行くわ」


 二人でトイレ探しに部屋を出た。


「あああ…このカビ臭さどうにかならんのかな?獣人にはきついぜ…」

「そっか、クラウスは獣人だから匂いには敏感なんだね…俺はもう慣れちゃったけど…」

「たまらん…それよりトイレどこあるんだ?」

「大体は分かりやすく作るはずだから…あの突き当りじゃない?」


 俺とクラウスは通路の突き当りにある扉の前に立った。


「ここ手を翳しても開かないな…」


 クラウスが触った扉を開ける装置には、うっすらとクラウスの手形の形で埃が取れていた。


「ん?ここってあんまり使われてないのかな?埃が薄っすら被ってる…」

「俺らが鉄級だからって地下の部屋を用意しやがってよ、部屋にトイレすらついていないわけだし、地下には滅多に人を泊めないんじゃないか?」


 そう言って俺がもう一度その装置に触れると扉が開いた。


「開いたね…」

「嘘だろ?まさかと思うがハイエルフ専用トイレとかじゃないだろうな…ぷっ」


 クラウスはそう言って吹いて笑った。

 トイレかと思って入ったその扉の先には更に地下への通路になっていた。


「トイレ…じゃないのかな?」

「下に行けばあるんじゃないか?行ってみようぜ」


 俺とクラウスはトイレを探しにその通路を降りて行く。


 すると物置のような部屋に出た。

 部屋には一応明るさを抑えた魔道具が常備灯のように淡く光っていた。

 何やらいろいろと置いてあったがずいぶん埃が被っている。


「アラタ、ここ…何年も人が入った事がないんじゃないか?」


 クラウスは足元を指差した。

 床には今の俺達二人の足跡が後ろから続いていた。


「も…戻った方がよくない?」

「アラタ、ここまで来たらトイレ探し…いや探検しようぜ!ハハ」

「えーー、クラウス…夜中だよ今?」

「まあ、トイレはこの先にあるかもしれねえしな!行こう行こう」

「まじ?…」


 俺とクラウスは、この部屋の更に奥に行くことにした。

 隣の部屋へ行こうと扉を新が開けた時、二人はある物に気付いた。

 部屋の隅の監視カメラのような物がこちらに向いていた。


「あれって動いてるのかな?」

「さあな…」

「動いていたらヤバくない?」

「そんときはトイレ探してましたで良いだろ、アラタ早く部屋入れって」


 クラウスに背中を押され次の部屋に入る。


 そこにも埃っぽい部屋があり、先に扉が2つある部屋に入った。

 ここも薄っすらと光る常備灯が灯りを灯していた。


「うわ…ほこりっぽいな…」


 俺とクラウスは鼻と口を手で覆った。

 壁を見ると天井の隅の監視カメラがこちらを向いている。


「うー…なんか悪い事しているみたいだ…」

「アラタほら行くぞ」


 この部屋にも机や椅子、何かの待合室だったのだろうか?

 壁には、ロッカーのような物も並んでいた。


 一つの扉の装置にクラウスが手を翳すと、扉は開いた。


「お?アラタトイレあったぜ!」

「え?」


 クラウスが開いた扉を入るとそこはまさにトイレだった。

 クラウスは水を流す装置に手を翳すとちゃんと水が流れた、埃っぽいが機能はしているようだった。


 二人は男性用のトイレで用を足す。


「ふう…ん?」

「何?」

「アレよ」


 クラウスが顎をくいっとあげて見た先にはまた監視カメラが付いていた。


「監視カメラ…トイレが機能しているんだし…アレもひょっとして…」

「どうだろうな…やっぱ不味いかな?」

「だよね…用もたせたし…戻ろっか?」

「だな」


 トイレを済ませた俺達二人は、他の部屋も気にはなったが戻る事にした。


 俺達は来た道を戻り、部屋のある通路まで戻った。

 すると、一つの部屋から瑞希が出て来た。


「あ、新、クラウス」

「ああ、瑞希、トイレ探しててやっと見つけてさ」

「え?トイレここだったよ?私もトイレ探してて、その部屋…さっき開かなかったわよ?」


 新とクラウスは顔を見合わす。


「まさか…新、あんただけ反応する扉って事はないわよね?」

「ど…どうだろ…」

「まあ、トイレもあったわけだし?戻って寝ようぜ」

「そうね、でもトイレくらい書いててほしいもんだわ」

「だな」


 俺はさっきの部屋が気になったが、二人と部屋に戻ってもう一度眠りについた。


 ◇


 朝になり、昨日の案内役とは違う兵士が迎えに来た。


 俺達はまた中央冒険者ギルドの会議室へ通された。

 また昨日と同じように壁側に並ぶ。


 円卓の上座に座っているひと際目立つ存在がいる事に俺達は気づいた。

 豪華な純白のローブに、コックのような長い帽子をかぶっていて、胸元には太陽のようなプレートがあり中央には帝の文字が書いてあるネックレスを下げていた。


「皆の者、神帝様が今日はいらっしゃいました、起立するのじゃ」


 参謀長がそう言うと、円卓に座っている者達が一斉に起立した。

 そして一斉に左手を胸に置き、頭を一度下げたので、俺達も遅れて同じように頭を下げる。


「うむ。皆の者楽にするように」


 そう言われ皆、着席した。





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