第123話 小鬼のほら穴

 俺達一行は、ブリガム冒険者ギルド西支部長からもお願いされて、ゴブリン討伐に乗り出した。


 ブリガムが言うには、ゴブリンは北西の山から洞穴を掘り、このマージガル神都の地下駐車場の更に下から人を攫っていたのだと言った。

 その穴の出入口は3つあり、銀級、灰銀ミスリル級、黄金ゴールド級区域の地下駐車場に存在するが。

 すでに、黄金級、灰銀級の場所は封鎖して固く閉ざされ、冒険者などが討伐用に利用するのは、銀級駐車場区域にある穴だけだと言った。


 ブリガムさんについて行き、銀級区域の町へ入った。


「ここは…さっきまでの所とは雲泥の差ですね…」


 俺は街並みを見てそう言った。

 鉄、銅級区域とこの銀級の区域の間には、更に同じように分厚い塀が町を取り囲んでいて、門の前には数人の兵士が見張りをしていた。


 銀級区域は石で出来た建物が多く、街並みには冒険者などもいるがさっきの場所より、清潔感と上品差があった。


「驚いたか?この区域に住む銀級は殆どが一般の役人や兵士だ」

「へぇ…この先は黄金級の区域で、中央に行くほど階級が上がって行くんでしたよね?」

「ああ、灰銀区域は上級の役人や兵士、中級冒険者がいて、黄金級は何かで財を成した貴族や上級冒険者が住んでいる。その先、白金級はこの国を動かしている大貴族達か、最強の冒険者。中央のタワーにはこの町を復興させた神の声を聴く事の出来る神帝様が住んでおられる」


 ブリガムは洞穴へ向かう途中そう話をしてくれた。


「ま、俺達には精々いけても灰銀級が関の山だろうな、俺は灰銀だが、黄金には何かの功を挙げない限り…無理だろう」

「なるほど…」

「さ、ここから駐車場へ降りるぞ」


 ブリガムは銀級の町にある一つの地下への入り口へ降りるよう指示した。

 その後も雑談をしながら俺達一行はブリガムさんについて行く。


 すると、ある一角に棒状の魔道具に囲まれた場所が見えた。


 ブリガムはそこを守っている兵士に話しかけた。

 すると、魔道具のスイッチを操作する兵士。

 赤色に光っていた部分が、青色へ変化した。


「こっちだ」


 その魔道具は何かの結界を張っているようだった。

 俺達が通ると兵士は結界を有効にしていた。


 更に先に進むと洞穴が見えて来た、そこにも数人の兵士が見張っている。

 床にぽっかりと、人が1人通れるくらいの穴が開いていた。


 穴からは鼻を突く異臭がする。


「うっ…これは…」


 フェルナンドが匂いを嗅いでそう言った。


「ああ…この穴少々匂いが強烈だが、確実にあの山へ繋がっているはずだ」

「アラタ、これは死臭だぜ…、分かっていると思うが、入ったら火の魔法や銃器はなしだ」


 フェルナンドはアラタにそう言ったが、それは皆に向けての言葉だった。

 只でさえ洞窟の中などは有害なガスなどが発生している事も多く、特に死体などは腐敗ガスを発生させる。


 日本ではあまり見ないが、中国などでは子供が花火をマンホールへ投げ込んで広域に渡ってマンホールが吹き飛ぶほどのガス爆発を起こすこともあったのを俺はテレビで見た事がある。


 とにかく俺は、洞窟内でガス爆発が発生した時のために、魔法障壁で皆を守る役目を担うために注意しておかなければと思った。


「じゃあ、健闘を祈る」


 ブリガム支部長は俺達にそう言葉を贈った。


 フェルナンドとクラウスが穴の中を確認して中へ降りた。


 中を確認して、皆に降りて来いと合図を送る。

 俺達は皆、穴の中へ降りた。


 凄い悪臭がする。

 俺はマスクのような魔道具を取り出し皆へ配った。


 前に水中を捜索するために作った物だが、それを改良した物だ。

 これは、俺達のMDS《マナードスーツ》にも取り付けられている、酸素を増幅生成する装置だ。


 ガスマスクのように外の空気をフィルターで、ろ過するわけではなく、このマスクの中で酸素を生成する物で、洞窟や毒ガスなどの対処のために、科学と魔法の力でいつものようにイグルートと開発した物だ。


 鼻と口を覆うようにマスクを着けると、肌に吸い付いた。


 すーーーーはぁ…


 皆、悪臭から解放されて息を大きく吸って吐いていた。


 俺はいくつかの光源を魔法で作り俺達の周りを照らす。


 その洞窟は、意外と広く掘ってあった。

 人間を数人運ぶには十分の広さがあった。


 洞穴があったであろう片方の方向はすでに壁で塞がれていた。

 その壁の先は、上級階級区域なのだろう。


 クイン、フェルナンドがいつものように先頭を進む。

 その後ろにカレン、瑞希。

 ライナ、レベッカ、俺と続いて、後方はクラウスとマイティが見張っている。


 その洞穴を歩いていく。


 所々にゴブリンの腕や脚、肉片が飛び散っている。

 他の冒険者が倒していった物だろうか?


 更に奥に進む。


 ◇


 1時間ほど洞穴を進んだだろうか?

 ここまでは一本道だったが、ゴブリン1匹すら現れていない。


「何もいねえな…」

「ふむ…いや、この先に複数のゴブリンがいる気配はする。フー」


 フェルナンドの言葉にそうクインは言葉を返した。


「やっとおでましか?」

「フー…しかし、それに混じって妙な気配もする」

「妙な気配?」


 クインはそう言って歩くのを速めた。


 一本道を出るとそこは大きな空間が広がり。

 天井にはヒカリゴケが生えており、そこそこ明るかった。


「うお!あれ見ろ」


 フェルナンドがそう言って指を差した先には、岩を削って出来た砦のような物が聳え立っていた。


「…こんな所に城?いや砦かな?…」


 俺はそう呟いた。


 大きな空間に聳え立つ、城のような物のあちこちからゴブリンがこちらを覗いていた。


「む。あれは…」


 クインがそう言った後、地面やそこら中の壁からうごめくものが現れた。

 それは、半分腐ったようなゴブリンや、まだ肉片の付いているガイコツなどだった。


「あれって…アンデット…」


 俺はそう言った。


「新、アンデットってゲームとかで出て来るゾンビやスケルトンとかだよね?」

「ああ…」

「アラタ!分が悪い、一度撤退するぞ!フッフー」


 クインが鼻息荒くそう言った。


「え?クイン撤退って?」

「はあ?ここまで来て帰るのか!?」


 俺とフェルナンドさんはそうクインに言葉を返した。

 そうしている間に、起き上がって来たアンデットの数は相当な物になっていた。


「おいおい、嘘だろ?アンデットって頭潰せば良いんじゃねえのか?この数でも俺達なら負けねえだろ?」

「訳は後から話す、撤退だ!フー」


 クインがそう言うのは珍しい。

 いつも的確にアドバイスしてくれるクインがそう言うって事は、多分、俺達の力量でも危険が伴うってサインでしかない。


 皆もそれは分かっている。

 ライナだけが、何故、撤退するのか分からなくキョロキョロとしていたが、すぐに俺達について来た。


 俺達は走ってきた道を戻る。

 すると、今まで一本道だったはずの洞穴に横穴が出来ており、そこからゴブリンが襲って来た。


 グギギイ!ギガ!


 クインがゴブリンを根こそぎ倒していくが、走って戻る中、後ろと前から続々とゴブリンが出て来る。


 皆は、ゴブリンを次々と倒し来た道を戻って行く。


「くそ!数が多い」

「皆!俺が火魔法を使うと同時に皆を魔法障壁で守ります!酸素マスクをつけてください!」


 皆、新の案に頷いた。


「皆!止まってください!」


 先頭を走っていた、クインとフェルナンドは足を止め、皆がその場に留まった。

 新は魔力を大きく使い魔法障壁を厚く張った。


 その障壁を破ろうとゴブリン達が障壁越しに攻撃している。

 前方と後方に火種を飛ばす。


 ズドーーーーン!!


 一気にその周辺から引火して洞穴の中は炎に包まれた。


 俺の張った結界で皆無事だが、この炎のお陰でこの洞穴には酸素はない。

 酸素マスクのお陰で俺達は息も出来ている。


 徐々に煙が晴れて行く。


 そこには、ゴブリンの焼け爛れた大量の死体が転がっていた。


「よし…このまま戻るぞ…」


 フェルナンドはそう言って、皆、来た道を戻って行く。


「クイン、撤退ってどういう事?」


 俺はそう聞いた。


「ふむ。死人使ネクロマンサーいがおるな…」

「ネクロマンサー?」

「うむ。それもあの量を成すには相当な上位の存在がいる…フー」

「heyクイン、さっきも言ったが、ゾンビとかあれだけいてもよぉ…倒せば良いわけじゃないのか?」

「ふむ。通常のアンデット自体はな…」

「通常?」


 フェルナンドは首を傾げた。


「ふむ。ネクロマンサーは単なるアンデットではない。ヴァンプ…レイス…リッチ…その辺の上位種か何かじゃろうな…通常ならそれらも倒す事が可能だろうが…上位なら話は別、普通の魔法や剣などでは倒す事は不可能。フッフー」

「why…じゃあどうやって倒すんだよ?」

「ふむ、我ならもしや…」


 クインはそう言ったが難しそうな顔をしていた。


「クインなら倒せるの?」


 俺はそう聞いた。


「ふむ。上位精神体のアンデット族は、同じ精神体を持つ我ら精霊や妖精でないと消滅させる事は出来ないのが定石じゃ」

「え?そうなの?」

「うむ…それか、精霊の加護を受けた武器があれば別じゃがな。フー」

「精霊の加護?」


 クインは軽く頷いた。


「なるほどな…幽霊相手じゃ、俺達得意の物理攻撃や、アラタの魔法などではダメって事か…しかしよ、精霊の加護を受けている武器なんて何処にあるんだぁ?」

「ふむ。大きな国なら対処のためにそう言った武器も所有しておろうが…どうだろうな?…フー」

「じゃあ、とりあえず戻って精霊の加護を受けた武器を探すって事だよね?」

「うむ」


 ◇


 俺達は来た道を戻りマージガル神国へ戻った。


 入った穴には水溜まりが出来ていた。

 俺の魔法で炎がここから噴出したため、ここを守っている兵士達が対処した後なのだろうと理解した。


 俺達は一度、ブリガムのいる冒険者ギルドへ戻る事にした。




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後書き。


皆様、3年ぶりの移動規制のない盆休み、いかがお過ごしでしょうか?

私も久々にお休みを頂いてゆっくりしています。

ファンも一気に増えたのでやる気も出て来ています。

マージガル神国編はまだまだ続きます。


更新を急ぎたい所ですが、たまに何も浮かばない時もあったりで…

そんな時は、何も考えずに過ごしている事もありますw

皆様、まだまだコロナも落ち着いてはおりませんが、感染予防をしっかりとしてお過ごしくださいませ!

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