第122話 冒険者ギルドでの騒動

「お願いします。俺達ならどうにかなるはずなんです…多分…」

「あのねえ!さっきも言ったけど、鉄、銅級クラスがどうこう出来る案件じゃないのよ!ったく…」


 俺は、ギルド窓口のお姉さんと言い合っていた。

 まあ…ギルドも自己責任での依頼だとは知っていても、失敗する可能性が高い依頼に簡単には行かせてくれない。


 それは確かに正しい事なんだけど、俺達はグランドヒューマン化した地球人だ。

 人族の中では、この世界最強だと思っている。


「hy姉ちゃんよぉ、俺達は本当に強いんだって、死んだとしても自己責任なんだろ?」


 俺とギルド姉さんとの会話に業を煮やし、フェルナンドが前に出てカウンターに肘をついてそう言った。


「そ…それはそうだけど…死ぬと分かっている依頼には行かせられません!」

「むう…じゃあどうしたら認めてくれるんだ?」

「それは…」


 ギルド職員のお姉さんも引かなかったが、奥からギルドマスターらしき筋骨隆々の男がやってきた。


「うむう…さっきからの押し問答聞いていたぞ。そんなにゴブリン退治に行きたいのか?お前ら、ゴブリンと思って侮ってないか?」

「侮りはしないさ、筋肉のおっさん、あいつらは狡猾だからな、それにさっさと銀級に上がりたいんでな。大体、家畜やペットの捜索なんかやってる時間はないんだ、緊急以外は無駄な時間過ぎるから受けてやろうって言ってるんだから、別に良いだろ?それに、ヴァロ町のオズワードからも黄金級の貴族の娘?も関わってたら助けて欲しいって言われているしな!」

「黄金級の娘?…オズワード??」


 その筋肉男はギルド職員のお姉さんと顔を見合わせた。


「なるほどな…オズワードが寄こしたのなら、見込みはあるって事だな…じゃあ、こうしよう俺もお前達の腕がどんなもんか見てやるとするか!」

「お?良いのか?」


 筋肉のおっさんはニヤっと笑って叫んだ。


「おい!お前ら!ここにいる8人の1人でもを倒した奴に俺から、1人につき1金ドラやるぜ!やりたい奴は何人でもいいぞお?」


 ザワザワ…

「一人1金ドラって、8人倒せば8金ドラかよ!?」

「やるぜ!」

「おう!俺も!」


 冒険者ギルドにいた者達が騒然としてこちらにやってくる。


「ちっ…おいおい…おっさん、やってくれるぜ…」

「ゴブリンはもっと数が多いんだ、良い肩慣らしになるだろ?わはは」

「面倒くせえな…まあ、楽勝だけどな?この辺の机とか椅子とか壊れちまうけど良いのか?」

「ああ、揉め事なんて日常茶飯事なんだ、壊れても良いように木製だからな」

「そうか、じゃあ思う存分やらせて貰うぜ?」


 フェルナンドとカレンは笑っていたが、新を含む他のメンバーは慌てていた。


「アラタ、お前達はそこで見ててくれ、取りこぼした奴が襲って来たら頼むわぁ」

「え?ああ…はい」


 フェルナンドは、新、瑞希、クラウス、マイティに目配せをしてからギルドの中央へ歩いて行った。


「あ、やる前に言って置くが、俺を倒した奴には俺から100金ドラやっても良いぞ?腰の袋に100金ドラ入れといてやるからよ」

「あ、じゃあミーもそうしよっかな!私を倒せたら100金ドラでーす!」


 二人は皆に見えるように100金ドラを麻袋に入れて腰に結んだ。

 どんどん人が集まって来て約100人ほどはいるだろうか…


「おいおい…大丈夫か、あいつら…自分から煽りやがった」

「支部長…これどうなるんでしょうね…私知りませんよ?…」


 ギルド職員は、ここまで大事になるとは思っていなかったので焦りを見せていた。

 ざわざわと、更に一人また一人と参加者が増えて行く。


「あわわわ…さっきのでカレンさんが強いのは知ってますけど…この数、どんどん集まってきますよ!」


 ライナはそう言い、俺の後に隠れた。


「さあ、始めようぜ!」

「いつでも良いわよ!」


 二人はファイティングポーズで構えた。


「100金ドラは頂きだぜ!!」


 ワーーーーーーーー!!


 一斉に二人に冒険者達が襲い掛かった。


 ドカッ!バキッ!ドゴッ!!


 人の多さで、二人は見えないが、中央からどんどん冒険者が飛んできて壁に激突する。


 広い冒険者ギルドの隅に新達は避難していた。

 すると、弱そうな冒険者が数人、俺達の前に立ちはだかる。


「俺達はこっちの1金でいいや、楽して確実な方を選ぶとするか。あの女の強さはさっき路上で見たからなあ」

「済まないな、君達に悪気はないがこれも明日の生活のためなんだ、軽く殴ってやるから倒れててくれよ」


 そう言いって他の冒険者は、新達に殴りかかって来た。

 ズゴッ!ドゴッ!バキッ!!


 瑞希、クラウス、マイティが一瞬で叩きのめした。


「弱い!」

「もうなんなのよ、こいつら!私達が弱いと思っているのが腹立つわね!人間相手なら私達だって負けないんだから」

「ああ、確かにフェルナンドさん、カレンさんは恐ろしく強いけどな、俺達だってオブリシア大陸ではSランクなんだぜ!ははははは」


 マイティ、瑞希、クラウスはそう言って、俺、レベッカ、ライナの前に3人並ぶように仁王立ちした。


 また俺、何もしない系になりそうだな…ま、いっか。

 俺はライナとレベッカを守るとしよう…良いよね、俺の位置づけは魔法使いだしね…


 暫く、弾け飛んでいく冒険者達を見ていた…


 広い冒険者ギルドの広間には壊れたテーブルや椅子の他は、人間の絨毯が敷いてあった。


「ふう?もう終わったのか?」

「ダー、ミーは55人やったけど?何人だった?」

「そんなの数えるかよ、目に入った奴、全部ぶっ飛ばしただけだからなぁ」


 最後には二人がその人間絨毯の上に立っていた。


「よ…よう、お前達の強さはわかった…もう良いだろう」


 支部長と呼ばれていた男は、弱々しくそう言った。


「ああん?あ、もう良いのか?じゃあ案内してくれるんだろうな?」

「ああ、勿論だ」


 フェルナンドとカレンは構えを解いて、新達の前に戻って来た。


「だ、そうだ、アラタ」

「ははは…みたいですね、ご苦労様ですフェルナンドさん、カレンさん」


 ドタドタドタ、バタン!


「おい!何を揉めて…いる?」


 ギルドへ入って来たのは数人の兵士だった。


「ああ…警邏隊けいらたい…いや、単なるウチの催し!ちょっとした…遊びだ、ははははは…別に何も揉めてないから安心してくれ」


 支部長はそう言った。


「はあ?この状況が催しだと?…」

「そうなんですよ、可愛い私とデートするのは誰だ!って催しで…」


 警邏隊にさっきの職員のお姉さんはそう言った。


「‥‥‥‥」

「私、強い人が好きって言ったら、勝負だーーーってね…」

「‥‥‥‥」


 冷たい空気が流れた。


「ま、まあいい…今度から大きな催しをする時はちゃんと報告するように!」

「はーい」


 警邏隊はそう言って戻って行った。


「おい、クノン…そりゃ無理があるだろ…誰がお前を…」

「まあ、まあ…問題にならなかったんだから良いじゃない!…ね!ブリガム西支部長、ね!あはは、ね?」

「‥‥‥‥」


 ギルドは何時になく静かだった。


「えっと、それじゃあ教えてくれないか?その地下通路」


 フェルナンドはそう話を切り出した。


「ああ、その前にちょっと話がある、奥の部屋に来てくれ」


 そう言って俺達を奥の部屋へブリガム支部長は連れて行った。


 ◇


 ギルドの奥の応接間に通された。

 鉄、銅級、冒険者ギルド西支部長ブリガムは、応接間のソファにドスっと座った。


「君達、確かに強いな、今日は特にこの辺の猛者が多くいたんだがな…」

「ああ?あれが猛者か?」


 フェルナンドは両手を軽く広げ呆れたようにそう言った。


「はーはっはっはっは!あいつらを子ども扱いか、これは相当なもんだな、気に入った!ゴブリンの地下通路案内してやるぜ」

「ああ、じゃあ早速連れて行ってくれよ、筋肉のおっさん」

「まあ、そう焦るなって、事は意外と深刻でな…」

「深刻?」

「実は、この件、たくさんの冒険者が死んでいる…と言うか戻って来ないんだ。この間、黄金級冒険者のクランが行方を断った…それだけではない、灰銀ミスリル級冒険者もだ…」

「ほう…」


 ブリガム支部長は真剣な顔でそう言った。


「君達が知っている、その、オズワード…ヴァロ冒険者ギルド総括長の事なんだが、他には聞いてないのか?」

「えーー!あ、あのオズワードって私の町のギルド総括長だったの!?」

「はあ?し…知らなかったのか…」


 ブリガム支部長は呆れた顔をした。


「ま…まあ良い、その黄金級貴族の居なくなったと言う娘さん、名はオルカって言うんだが」

「yes!それは聞いてるぜ、って事は察するに…オズワードと別れた奥さんとの間に生まれた子供か何かって所か?」


 フェルナンドは推測でそう言った。


「いや…ちょっと違うな。彼奴オズワードはな、俺と昔パーティを組んでいた仲間でな、好きになって付き合った女性がそのオルカの母ってわけだ、俺達の階級は灰銀ミスリルだ、それがその上の黄金級と一緒になるにはハードルが高いわけなんだが、それでも彼奴あいつは諦めなかった…でも、その親が認めるわけもなく、付きまとってると問題になってな、罰則を受けて鉄級までの降格になった可哀そうな奴なんだ…」

「オズワード…付きまとってたって…あの面して面倒くさい奴だったのか…」


 ライナがそう言って天井を見上げていた。


「いやいや、嬢ちゃんそんな変な目で見ないでくれ、ただ単に純粋な愛ってやつだ」

「で?じゃあ何故その子にこだわるんだ?他にも沢山行方不明者はいるんだろ?」

「さあな?ひょっとしたら好きな女の子供だからなのか?それとも本当は実の子だったりするのかも知れないな…」


 ブリガムはそう語った。


「しかし、ブリガムさん俺達に、何故そんな話をするんですか?」


 新は、ふと思った事を聞いた。


「ああ…いや…君達ならひょっとしたらこの問題を解決出来るのではないかと少し希望を持ってしまってね。今回、俺が思うにゴブリンだけではない」


 ブリガムは、これまで以上の真剣な眼差しで俺を見た。


「あまり神都の上層部はゴブリン如きで事を荒げたくないのだろうが、もうすでに被害は相当な物だ…なんとか終わらせたいのも事実、それに、オズワードに抜擢されて来た君らが活躍すれば、その功績で彼はミスリル級に戻り、この町の役職として復帰出来るかも知れないからな!」

「なるほど…」

「仕方ない、オズワードのためにひと肌脱いでやるか!わっはっは」


 ライナはそう言い高笑いした。


「heyライナ、お前はお荷物なんだよ!行くときは置いていくからな」

「えーーーー!それだけはやめてーーー!私も連れてって、じゃないと依頼達成にならないじゃないかぁ!」

「いや…ライナ…今回ゴブリンじゃないかも知れないんだぞ?」

「じゃあ、私はゴブリン相手しとくからさ、お師匠様はボスでいいじゃんか!」

「…はぁ……」


 ライナは媚を売る様にフェルナンドの腕にしがみ付いていた。


「とりあえず、この件は俺からも頼む!もし、達成出来たら俺がちょちょいと弄って銀級直前まで数を弄ってやるからよ!」

「え?良いですか…そんな事して…」

「君はこのクランのリーダーだったか?えっと…」

「新です」

「アラタ君か、ああ、大丈夫だ勿論、俺の眼は節穴じゃあないぜ、本物には本物の階級を与えるのが俺の仕事だからな、君らは強い!この件には強い人間が必要不可欠、って事で俺からも宜しくお願いする」


 ブリガムは軽くそう言って頭を下げた。


「分かりました」


 俺達は頷いた。

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