第121話 マージガル神都。

 ライナを含む俺達はゴブリン掃討の緊急依頼を受けた。


 マージガル神都の北西の山と言う事だったが、闇雲に山の中を捜索するわけにはいかない。なので、ゴブリン達が掘って来た洞穴を利用した方が良いのではないか?と皆と話し合って、マージガル神都へ向かうことにした。


 ヴァロの町から更に東へ約300kmもある。

 運転はカレン、フェルナンド、新の順で交代する事を決めて、車を走らせた。


 ◇


 約150kmくらい東へ向かった所でキャンプする事にした一行。


「よし、この辺で良いか?」

「うん、良さそうね」


 カレンと交代して運転していたフェルナンドは見晴らしの良い場所で車を停めた。

 神都からそこまで離れていないせいか、冒険者をちらほらと見かける。


 舗装されていない道のようなこの場所には所々、魔道具が埋められている。

 この魔素を薄くするこの魔道具は冒険者が安全に行き来出来るように、間隔を置いて設置されていた。


「ここにはこの魔道具があるから安全にキャンプ出来そうだな」


 フェルナンドはそう言った。


 皆、車を降りてキャンプの支度を始めた。


「よし、キャンプの支度はアラタ達に任せて、ライナ!ちょっとお前はこっちに来い」

「へ?私ですか…」

「ああ、鍛えて欲しいと言っただろう?」

「ああ…はい…」


 フェルナンドの誘いに面倒そうな顔をしたライナ。


「何だその顔は、銀級になりたいんだろ?そんなんじゃ途中で命を落としてしまうぞ」

「は~い…」

「まずこのナイフを持て」


 フェルナンドはライナへナイフを渡した。


「狭い空間では剣や槍などは不利だ、今回はゴブリン相手になると思うからナイフの方が立ち回りしやすいと思う。構えて見ろ」


 ライナはナイフを構える。


「そう構えるよな…逆手で構えろ」

「逆手って?」


 ライナは、剣を持つようにして構えている手を見た。

 フェルナンドは近寄りそのナイフを刃が下向きになるように直した。


「逆手を構える事によって良い事が沢山あるんだ」

「へぇ…」

「まず、ナイフを構えながら両腕でパンチをしても邪魔にならない」


 フェルナンドはナイフを構えながらシュッシュとシャドーボクシングしているかのような動きで拳を数回だしていた。


「そして、人間は押す力より、引く力の方が力が入りやすい、それにその方がしっかりナイフを持つ力も入るだろう?」

「あ…そう言えばそうかも?」

「前方にも背後にも対処出来るから、順手で持つよりもそっちの方が良い」

「ふむふむ、なるほど」


 フェルナンドはそうライナにナイフの持ち方を教えていた。

 キャンプの支度をしながら俺はそれを聞いていた。


「へぇ…だから、軍人って逆手で持ってる人が多いのか…な?」

「私も勉強になった、忍者とかも短刀をあんな風に持っていたような…」


 呟いた俺の横で瑞希もそう言った。


 それから暫く、フェルナンドはライナに格闘術の基本を叩き込み、最初の修行は終わってこちらに戻って来た。


「フェルナンドさん、俺達にもそう言うの教えてくれたらよかったのに…」


 俺は皆の前で、汗を拭いながら戻って来たフェルナンドさんにそう言った。


「お前らは、グラン…いや、強いから別に必要ないだろ!」


 フェルナンドは言い掛けた言葉を飲み込みそう纏めて言った。


 後にフェルナンドさんが言っていたが、ライナは身軽で順応力もあり、かなり見込みある素材だと言っていた。


 その日は、食事をした後、簡易で作ったテント式湯浴び場で体を洗い。

 交代で車の中で就寝したのだった。


 ◇


 早朝になり、東へ向けて車を走らせる。


「しかし、魔物に出会わないですね…」

「あの所々に埋め込まれている魔道具のお陰だろ?」


 俺の問いにクラウスはそう言った。


「古代人達が繁栄していた時代は、魔物のいる世界でも安全で、かなり高度な文明が魔道具からも伺えるね」


 瑞希はそう言い。


「しかし、地球でも大昔に高度な文明があったような伝説や記録はあるが…滅びているのも事実。人間の解決能力が限界に達した時、何処かの歯車が飛んで、連鎖的に大破局を迎えるのが文明なんだろう、多分、この世界の古代人達もそうなったんだろうなぁ、きっと…」


 フェルナンドは最後に纏めるようにしみじみとそう言った。


 数時間、道を辿って進んで行く。

 所々に冒険者を見かけたり、空をバイーダーが飛んで行ったりするのを見た。


 そして、夕方になり大きな森を抜けた時それは見えた。


「「「うわああ…」」」


 その光景に皆目を丸くした。


 夕焼けと広い荒野に、先が見えないくらいの巨大な塀の町が目前に広がって見えた。


「これがマージガル神国…」

「…塀…どこまで続いているんだろう…」

「大きい町ね…」

「私、来たのこれで2度目!凄いでしょ神都!」


 皆、騒然としながら、暫く窓の外の壮大な神都の姿に見惚れていた。


 ◇


 近くまで行くとバイーダーや馬車などが地下への入り口に降りて行く場所を見つけた。


「カレン、あそこに乗り物用の入り口があるぞ?」

「うん」


 車は馬車と一緒に地下への駐車場入り口へと並んだ。


 暫くして、俺達の順番が来て、運転席の窓を開ける。


「見かけないビーカルだな…懐かしいな…発掘修理したやつか?」

「いや、これは…」

「おい、何やってる、後ろが詰まっているんだ早くしろ」

「ちっ、ビーカルの良さがわからないのかねぇ…まあいい、皆の階級章を渡してください」


 言われる通り、全員首に下げていた階級章を渡した。

 すると何かの魔道具で確認していた。


「ヴァロからの冒険者か?鉄、銅級の駐車場はこのすぐ傍だ、ああ…良いビーカルだ!俺も昔のビーカルが大好きなんだ、空を飛ぶより大地を感じながら走るのは最高だよなあ…大切にしろよ!通って良し!」


 階級章を返してもらい言われた通りの場所へ一度停めた。


「あの兵士、俺と気が合うかも知れねえなぁ、俺も最近のハイブリッドの静かな車より、昔の角ばって排気量のある煩い旧車が大好きだぜ!ワッハッハ」


 フェルナンドはそう言って高笑いした。

 俺達に駐車場は必要ないのだが、通常の門よりはこちらの方が空いていたので、この地下の駐車場へ降りて来た。


 兵士が至る所に立っていて監視している。

 俺は、兵士が向こうに歩いて行った所を見計らいマジックボックスへ車を仕舞った。


 周りを見渡すと鉄、銅級区域と書かれたボードが至る所にあるのが見えた。


「あそこから町へ行けそうだな?」

「そうみたいですね」


 フェルナンドさんの問いに俺はそう答えた。


 ◇


 兵士が立っていた階段を上がるとそこは町の中だった。


「うわあ…ひっろ!」


 そこは、門から入ってすぐの鉄、銅級区域の町。

 道は塀に沿ってぐるりと続いているが、その大きさはこの区域だけでも相当広い。


 しかし、よく見ると建っている建物は木造が多かった。

 冒険者ギルドを訪ねる為、暫く歩くと近代的な塀の裏側は想像を絶する物だった。


 路地裏ではすでに、事切れた人間の死体が放置してあったり、物乞いをしている人や、まだ年端もいかぬ女の子が身体を売る為、客を誘っていたりと、冒険者以外にもいろいろな生活模様が見えた…


「これは酷いな…ライナ、君はここに来た事あるんでしょ?」

「私は…実は銀級の兄に連れて来て貰った事があるだけで…その時は銀級の町へ入れたから…この区画は初めてなんだ…ヴァロの町よりも酷い…」


 俺の問いにライナはそう答えた。


「神都の本を読んだ事があるって言ってたけど、それも銀級の町での話なの?」

「ええ…銀級の区画は、もっと綺麗な街並みをしていて皆、上品で、図書館も学校だってあるの…」

「そうなんだ…」


 そう話をしていると、数人の柄の悪い連中に、いつの間にか囲まれていた。

 俺達は足を止めた。


「見ない顔だなぁ?」

「お前ら、何処から来たんだ?」


 柄の悪い連中は交互に喋る。


「さあ、何処からだったかなぁ?ああ、そうだ、お前ら冒険者ギルドはこの方向であってるのか?」


 フェルナンドは呆れ顔でそう言った。


「こっちが質問してんだよ!」

「しっかし、パーティの半分が女で、しかも上玉ばかりじゃねえかぁ、羨ましいねぇ…ギルドの場所を教えてやるから、その女達をこっちのパーティに譲るってのはどうだい?ガハハ」


 一人の大男がそう言い、俺達は皆、イラついた顔になった。

 するとフェルナンドは涼しい顔をして。


「いい考えだ!じゃあお前ら全員が、この女一人に勝てたらその条件飲んでも良いぞ?」


 フェルナンドはそう言ってカレンを指差した。


「ダー…あんた殺すわよ、なんでミー1人にやらせるのよ」

「ま…まあまあカレン、折角だから、ライナに見せてやってくれ女性の格闘術をよ、勉強だ勉強」

「はあ?ダーが教育係でしょ!」


 そう二人が言い合いしていると、13人いるうちの3人がカレンに襲い掛かった。


「先手必勝!!」

 ドドドザッ!!

「ぐえぇ!」「ぐがっ!」「げふ」


 カレンはヒラリと3人の攻撃を躱して一瞬でその3人は床を舐める事になった。


「い…今のは一体…」

「何であいつらが倒れたんだ?…」

「hy,面倒だから全員掛かって来な!」


 驚愕していた柄の悪い輩達にカレンはそう挑発した。


「くそ!お前ら、やってしまえ!」


 大男がそう言うと10人が一気にカレンに襲い掛かった。


 カレンはダンスを踊るように攻撃を躱し、1人ずつ倒していった。

 ライナの目に追いつくような速度で3分を掛けて全員倒した。


「おおお!カレンさん凄いです!美しいです!」

「ライナ、お前には柔軟さがある、カレンのように身体能力を上手く使って、人間の骨格で曲げちゃいけない方向に関節を捉える事で、力のない女でも有利に戦えるようになるんだ、分かったか?」

「はい!師匠」


 フェルナンドは諭す様にライナへ言葉を掛けた。

 すると、周りにいた冒険者達が大歓声をあげた。


「凄いな君!」

「あいつらここで新人狩りしてて困っていたんだ、助かったよ」

「これで奴らも暫くは大人しくなるんじゃねえか?」

「ああ…どうも…」


 カレンは恥ずかしくなって新達の中に潜り込んだ。


「冒険者ギルドはもう少し行ってから右に曲がった所だぜ!」

「ああ、サンキュー」

「ダー、今度相談なしでこんな事したら最後のダーゲットは、ダーですからね!」

「‥‥‥ああ…」

 

 カレンのその言葉に冷や汗を流したフェルナンド。

 そして俺達は冒険者ギルドへ向かった。


 ◇


 --マージガル神国、鉄、銅級冒険者ギルド--と看板に書いてある場所へ着いた。


 石作りのその建物へ中へ入ると、かなり中は広かった。

 至る所に窓口があり、壁には依頼紙が貼られていて、素材換金所まであった。


 複数ある案内窓口の一つへ向かい、職員に新は話しかける。


「あの、緊急依頼の件なんですが宜しいですか?」

「あ、はい、どの緊急依頼ですか?」

「ゴブリンの巣の掃討なんですが」

「ああ…あれね、それがどうかしました?」

「ゴブリンがこの神都まで作った洞窟から依頼を開始したいのですが?」

「ああ…そこからはぁ…止めた方が良いかな?」

「何故ですか?」

「明らかに罠が張ってある可能性が高い上に、そこを使った冒険者や銀級兵士が帰って来ていません…背後にはもっと大物がいる可能性も高いので鉄、銅級が行った所で犠牲者を増やすだけです」


 ギルドの職員はそう言った。


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後書き。

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これからも頑張って行きますのでよろしくお願いいたします。

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