第120話 マージガル神国とは。

 ライナを加えた俺達は、マーダーベアの討伐を完了し、ヴァロの町に戻った。

 ヴァロの門へ着いた時には夜になっていた。


 門に階級章を見せて中へ入る。


「ギルドへの報告は明日にしようか、流石にギルドも閉まっているだろう?」


 フェルナンドがあくびをしながらそう言った。


「一応、ギルドは開いてはいますよ、でも…依頼の受注はしてあげても報告や報酬などは明日になってしまいますので、どっちにしても、今日は一度戻った方が良いと思います」


 ライナがそう言ったので、今日はそのまま宿に帰ることにした。


 ◇


 次の日の朝。


 俺達は朝食を摂り、冒険者ギルドへ報告へ向かった。

 ギルドへ入ると鉄、銅級の冒険者が続々と集まって来ていた。


「冒険者ギルドは毎朝、賑わってんなぁ…」

「はい、フェルナンド様。この西区域だけではなくて東西南北の門の近くと、この町には銀階級、灰銀ミスリル級区域にも東西南北もあるので、かなりの数の依頼が毎日出されるはずです」

「ほう…そう言えば、ここの領主は灰銀級だったよな?その上の階級…何だっけ?」


 フェルナンドは思い立ったかのようにライナにそう聞いた。


灰金ミスリル級の上は黄金級ですね。黄金級は凄い人達ばかりで神都にしかいません…その上の白金級はほぼ国家の要人達になります。」

「じゃあ、その神帝とやらは?」

「一人です!その神帝様が、神の声を聴き魔導機械を復旧させて、この国を再建国し、マージガル神国となったのです!」

「ああ…なるほど…で、その神帝様は3世って言うくらいだから、3人目って事なんだろう?…しかし…」

「そうです、1世様が約1000年前に古代マージガル国を再建国した方で、神の声を最初に聴いた方になりますね。…フェルナンド様は、お歳がきになるのでありましょう?」

「あああ…」


 ライナは、フェルナンドが言わんとする事を察して神帝の事について語った。


「私もそこまではよく分からないのですが、神帝様は代々長生きになるお薬を飲まれているようで、そのお陰で、エルフやドワーフのように長生きなのだと聞いております」

「ほう、長寿になる薬か?…なるほど」


 その話は皆その場で聞いていた。


「次…ん?ライナ…と、その仲間か…」


 順番が回って来た時、ギルドのオズワードが俺達を見てそう言った。


「はぁ…ほらな、言わんこっちゃない…逃げ帰って来たんだろう?煙玉役に立っただろ、ワハハハ、生きていての物種だ!今日は依頼たっぷりあるから好きなの選んでくらよ!」

「違うわよ!オズワード!」

「ライナお前なぁ…仮にも俺はお前の父親と同じくらいの歳なんだから呼び捨てどうにかならんのか?…」

「そんなの良いから!報告と換金よ!」

「はえ?報告?‥‥‥なんのだ?」

「ふざけんなって!緊急依頼だよ、昨日受けたでしょ!」


 緊急依頼と言う話を聞いてこのギルドの中の人間がザワザワ話し出した。


「はあ??まだ一日しかたってねえぞ?あそこまで行って帰ってくるのでも1日は掛かるだろうよ…」

「それがちゃんと討伐してきたんだよねぇ、あはは、ってことで早く倉庫へ通して頂戴よ!」

「‥‥‥‥‥‥むう」


 信じたのかどうかは分からないが、オズワードは奥の倉庫へ俺達を通した。

 オズワードは、他の職員に受付を代わる様にと指示して俺達と同行して来た。


 そこは大きな倉庫だ。

 ギルドの職員も数人いて、報告と討伐の証などを拝見鑑定していた。


「で、そのマーダーベアの毛皮とかはどこに持って来てあるんだ?裏口に馬車を着けてあるのか?」


 裏口に馬車を停める場所があり、そちらの方にオズワードは歩いて行った。


「オズワード!こっちこっち…マスター様!お願いします」

「ああ、うん」


 俺はマジックボックスから5体のマーダーベア遺体をその場に出した。


「!!!?」

「!?マ…マジックボックス…」


 鑑定人とオズワードが驚き、周りにいた職員もそれを見て騒然とした。


「これは…たまげた…この質量が入るマジックボックス持ちの上に…マーダーベア5体とは…」


 オズワードはそう呟いた。


「なっ!ほんとに討伐して来たでしょーへへへ」

「お前はどうせ何もしてないんだろ…」


 ドヤ顔のライナに、オズワードは悪態をついた。

 鑑定人が死体を確認する。


「オ、オズワードさん…この死体…完璧な状態です…殆ど傷がありませんよ?…傷と言えば、この頭部や胸の刺し傷と…これは穴が開いていますね、何でしょう…」

「ぬうう…君ら、コレを一撃で仕留めたって事か?」


 オズワードはこちらを振り向きそう言った。


「そ…そうなりますかね?はははは…」


 俺は苦笑いしてそう言った。そもそも俺だけ何もしていない。

 暫く鑑定人とオズワードはひそひそと話し合いながら鑑定していた。


「おい、ライナとえっと…ちきゅ…あー君ら」


 オズワードがこちらに近づきながらそう言った。


「オズワード、これで私は銅は昇格でしょ?」

「ああ…勿論だ、1体で10だから50達成数を加算してやる、君らもだ、それから…討伐報酬、1体20金ドラ×5で100金ドラと、素材報酬を1体に付き5金ドラつけてやる!合計125金ドラだ、これで良いかな?」

「ああ、OKだ」


 フェルナンドがそう言って頷いた。


「ひゃ…125…金ドラ…」


 ライナはその金額の大きさに目を丸くしていた。

 そりゃ、日本円にして125万だ。


 たった一回の依頼でこの額は驚きだが…普通に考えたら、地球の熊より狂暴で巨大な熊を倒して来いと言われ1体20万は、命と換算すると安いような気もした…

 ま、俺は何もしてなかったけど…


 その後に、オズワードは俺達の階級章に上書きしてくれた。

 俺達はまだ950回依頼を熟さなければ銅にすら上がらないけど、ライナは銅の階級章を貰っていた。


 その階級章の中には、報酬を8人で割った金額、一人156,250ドラも送金されていた。

 そのお金は冒険者ギルド、商人ギルドで出し入れが可能らしい。

 これは、冒険者ランクプレートで貯金が出来るオブリシア大陸と一緒だった。


「す…凄い…これが上の依頼かぁ…早く銀級に上がりたい~」


 ライナは興奮していた。


「でもあれだ…ライナは俺達に寄生して階級上げても…腕が伴わなかったら危ないよ?」


 俺はそうライナに言った。


「うむ。アラタの言う通りだな…、確かにアラタが渡した武器を使って上手く1体のマーダーベアを倒す事が出来たのは良い事だ。だが…あれは俺達が囲んでいて半分諦めかけていた獣を狩ったに過ぎないからな!」

「フェルナンド様…確かにおっしゃる通りだと思います…私もそれくらい分かります…なので、私を鍛えて貰えませんか?」

「え?…俺?」


 ライナはフェルナンドへの熱い眼差し向けた。

 皆、黙ってうんうんと頷いていた。


「仕方ない…次の依頼の合間でも修行してやるか!」

「やった!」


 フェルナンドの言葉にライナは喜んだ。


「おい!お前達」


 俺達を呼んだのはオズワードだ。


「たった今、緊急依頼が届いた所だが…やるか?」

「おお!オズワード!私の実力を認めてくれたのね!」

「はあ?馬鹿!そこのクランと、おまけのライナにだ!」

「えー…まあ、私も入っているから良いっか。あはは」

「全く…、あんたら、コイツの事お願いするぜ」

「ああ」


 オズワードはそう言って依頼紙を見せて来た。


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【緊急依頼】

依頼内容:ゴブリン巣窟一掃

場所:マージガル神都北西、山間洞窟


神都では女性の行方不明事件が多発、事件を追った結果、神都の地下に北西の山へ続く地下洞窟が発見され、そこにゴブリンの存在を確認。

それは、北西の山まで続いている事が分かった。


すでに討伐分隊が銀級3隊、灰銀級2隊が殺られている。他にも、ホブゴブリン、ゴブリンシャーマン、ゴブリンロードまで確認され、他にも上位種がいるかも知れないので注意されたし。


冒険者諸君、君達の方がこういうのは慣れていると思う、階級問わず募集依頼をする。稀に見る巨大な巣と断定、これを排除し、生存女性は必ず救出されたし。


報酬:ゴブリン右耳1枚に対し1銀ドラ、ホブゴブリン2銀ドラ、シャーマン3銀ドラ。なお、ロード、ジェネラルなどの大物は10金ドラ以上の報酬を支払う事とする。


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 フェルナンドは依頼紙を声に出して読み上げた。


「えーゴブリン?…臭いし、面倒な奴らだし、あんまりお金にもならないのに緊急依頼なのぉ…」

「ライナ、ゴブリンは放っておくと危険なんだぞ?」

「ゴブリン!」


 フェルナンドがライナへゴブリンへの危険を警告すると、マイティが憎悪に満ちた顔になってそう言った。


「アラタさん!これやろう、ゴブリンなんて殲滅してやる!」

「マイティ…うん…やろうか…」


 マイティはゴブリンの事になるといつもこうなる…

 まあ、分からなくもないけど…


「クラン、ディファレントアースやってくれるか?」

「はい」


 ギルド職員オズワードに俺は頷いた。


「実は…そこには載ってないんだが…、ある女性を見つけたら必ず救出してくれないか?」

「ある女性?」

「ああ…神都、黄金級貴族でオルカ・エヴィランと言う女性で…最後に行方不明になったと聞いていてな。ひょっとしたらこの事件の被害者なのかも知れないとの通告が来ている」

「なるほど…オルカって女性なんですね」

「ああ…ちょっとした知り合いの娘さんでな…、ゴブリンに捕まった人間の末路なんて大体決まっている…男は殺され女は…、…だが、もし生きて救出する事が出来たら、相当な報酬と、ひょっとしたら黄金級貴族権限で銀級まで引き上げてもらう事も可能かも知れんぞ?」


 オズワードはそう皆に言った。


「やる!」


 先ほどゴブリン討伐に呆れていたライナが銀級引き上げの話を聞いたら、目の色が変わってそう言った。


「ライナ、お前は残った方が良いんじゃないか?もしも、ゴブリンなんかに捕まったら大変な目に合うんだぞ?」

「はあ?ゴブリン如き何度も殺したわよ!あんなの、ちっちゃい猿のようなもんじゃない!楽勝よ楽勝」

「あのなあ…ライナ…」


 ゴズッ!

「痛ったあ!何するんですか、マイティさん!?」


 オズワードは呆れて何か言おうとしたが、マイティがライナの頭を剣の鞘で小突いた。


「あのねぇ!ゴブリンは少数なら低ランクでも危険はないの!あいつらの恐ろしさは数と狡猾さなの、馬鹿だけど賢くないわけではないんだから!私も昔、ライナちゃんと同じ考えで挑んで仲間を殺され私は…私は…」

「もういいマイティ…」


 クラウスがそう言って制した。


「どちらにしても、銀級、灰銀級がそれだけ殺されているって事は、そこそこ大きい規模になると思うな」


 クラウスはそう言い、フェルナンドもオズワードも頷いた。


「んじゃあ、とりあえずその場所まで行くのに時間は掛かるだろう、その合間にライナを俺は鍛えるとするか、俺の修行は厳しいぞお!ハッハッハッハ」

「え…、はぁ…お願いします…」


 次の目標は、ゴブリンの巣窟だ。


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