第118話 昇格のために。

「一つ良い事を、あんた達に教えてあげるよ!」


 そう言って、カンナおばさんは笑った。


「良い事?」

「うん、あんた達、マージガル神国で階級をあげて良い暮らしを手に入れたいのなら、人魚族を見つけるのが一番よ」


 人魚族!?…

 まさかとは思うけど…エリクサー関連か。


「何故ですか?」


 俺はすぐにそう聞いた。


「さあ、何でなのかは私には分からないけどね。噂では、人魚族を捕獲して連れて行った者は、灰銀ミスリル級以上を与えられるって噂だよ、本当にそんな種族がいるのかは分からないけど、実際になった人が居るんだよ…それが、このヴァロの領主様って話だけどね…」


 俺達はお互いの顔を見合わせた。


「ただいま~お母さん、お腹すいたぁ」

「あら?ライナが戻って来たのね」


 入り口から食堂に来たのは、ラビ団長の妹、ライナだった。

 ライナは俺達とは別のテーブルに座った。

 カンナは呆れ顔でライナへ近づいた。


「ライナ、まだお客さんいるんだから、まず湯浴びして来なさい!汗臭いよ」

「えー、お腹すいたもん…」

「今日はどうだったの?」

「依頼の話?今日は2つ達成で、後、3回で銅級へ昇格よ!」

「そう…あんまり無理したら駄目だよ、あなたは一応女なんだから」

「いーえ、私は兄さんみたいに早く銀以上になって、有名な冒険者になるんですから!」

「はぁ…」

「あ、ねえ、そこのお客さん、何級なんですか?」


 呆れる母親を後目に、ライナは新達に話を振って来た。


「え…ああ、登録したてでまだ鉄級ですよ」


 俺はそう答えた。


「なあんだあ…上のクラスで一緒に依頼熟したら2倍だったのになあ、依頼もマシだし…」

「こら!なんて事言うの!、ごめんなさい…この子ったら…」

「い…いえ、俺達は別に気にしてませんから…」


 俺はそう引きつりながら答えた。


「因みに、今日の依頼は何をやって来たんですか?」


 俺は何気に聞いてみた。


「え?えっと、逃げ出した猫の捜索と、薬草集めよ?思ったより猫が見つからなくて全然、今日は進まなかったわ…あんなの受けるんじゃなかった!」

「ね…猫…ですか…」

「アラタ、オブリシア大陸でもEランクの依頼なんてそんな物だったわよ?」


 カレンさんが俺にそう耳打ちした。


「そうでしたっけ?…」

「ミーやアラタは、地球人ってだけで、すっ飛ばしてDとかCだったから、あまり気にせず見てなかったけど…たしかそうだったと思うわ」

「なるほど…」

「ちょっと待って!今なんて言ったの!?」

「え?特に何も…」

「そこのお姉さんが、って言わなかった?」

「あああ…言ったね…」

「ちきゅうじんって人種は凄い力を持ってるって神都の古い本を読んだ事があるの!まさか…その、ちきゅうじんって人種なの?…じゃない、なのですか!?」


 急に改まって言い方も変えるライナ。

 古代人で栄えた元マージガル大国…オブリシア大陸以外にも地球との繋がりを記した本が、やはりあったってわけか。


「だったとしたら?」


 フェルナンドは食事を口に入れたままそう言った。


「い、一緒に緊急依頼を受けて欲しいの!」

「ライナ!緊急依頼は危ないから駄目よ!」

「お母さんは黙ってて!私と兄さんはお母さん達のためにも稼ぐ必要があるんだから!それに自分のためでもあるんだから!」

「母さんはね、そんな危険な思いをしてまで稼いで来てもらわなくても、この小さな宿の収入で十分なの、ライナは安全に銀級まで上がってくれたらそれで良いから…」

「良くない!」


 親子喧嘩が始まり、暫く俺達は黙って食事を終わらす事に専念した。

 皆が食事を終わらせる頃には、その親子喧嘩も収まりつつあった。


「ご馳走様でした。で、一つ聞いても良いですか?」

「何でも聞いて!私の分かる事なら…だけど…」

「その緊急依頼って何なんですか?」


 俺がそう聞くとライナは教えてくれた。


 大体のギルドからの依頼などは、1依頼熟して、それに応じた報酬と1達成って事になるのだが、銅級の者と一緒に依頼を熟すと、鉄級の者の達成数は2倍になる。


 ただ、銀級以上からは内容がガラリと変わる為、銅級へのメリットはないと言うか銀級の依頼は回ってくる事がないのだと言った。


 他にも、階級関係なく、大口依頼と緊急依頼って言う枠があるのだそうだ。


 大口依頼は、大量の物資などを商人ギルドなどへ沢山持っていく依頼で、採集と運ぶのが大変だが大きな報酬と達成数が10貰えるのだと言う。


 そして緊急依頼とは、毎日どこかで発生する案件である。

 それは、魔物大氾濫スタンピードもそうだが、強力な魔物の討伐などが殆どだ。

 命の危険が大いにあるために、大口依頼よりも多い報酬と達成数が貰え、その討伐魔物に応じて変わるのだそうだ。


 例えば、国から魔物Aの討伐緊急依頼が入るとして、その報酬が1000金ドラだとしたら、討伐した人数で山分け、そして達成数も10~20貰えると言った。


「それで、ライナちゃんは緊急依頼で一気に依頼数を稼ぎたいわけだ?」

「ちゃん付けはカッコ悪いから、ライナって呼んで!、でもそう!早く銀級に上がって活躍したいの」


 ライナは目をキラキラさせてそう言った。


「hyアラタ、俺は面白そうだからやっても良いが、どうする?」

「う~ん…」

「ねえ、アラタさん、私も冒険者のランクを上げたくてウズウズしていた身だし、この子の気持ちも分かるわ…それと、情報を掴むなら地位はあった方がやりやすいかも?」


 珍しくマイティが口を開きそう言った。


 俺は考えた。

 この国を知るには町の中心へ行く必要がある。

 鉄級、銅級ではスラム街の中にいるような物で、マイティが言うように情報としても大して有力な情報など聞く事が出来ないだろう。


 それは、マージカル神都へ行っても同じことだ。そう言った意味では、銀級までには上がって、役人、兵士などから普通に情報を貰える地位が必要ではないかと考えた。


 それを皆に伝えると、納得して貰えた。


「分かりました、ライナ一緒に銀級を目指そうか?」

「やった!アラタさんって言ったっけ、話の分かるマスターで良かった!」

「こら!ライナ、はしたない…、貴方達ほんとに良いのかい?」

「良いですよ、カンナおばさん。俺達、意外と凄く強いので安心してください」

「そうなの?…でも、今までクランも入らず一匹オオカミでやって来たライナだからご迷惑をお掛けするかもしれないけど…」

「大丈夫だってお母さん!私だってチームワークくらいちゃんとやれるってば!」


 心配そうなカンナだったが、新達の言葉で少し笑って頷いてくれた。


「私はライナ・シュライゼ、よろしくね!えっと、一応、剣、弓、槍はそこそこ使えるのと…魔法も多少は出来るよ!」

「つまり…何が得意ってとこまでは行ってないって所か?」

「ぐっ……」


 フェルナンドの突っ込み言葉でライナは言葉を詰まらせることになった。


 ◇


 俺達は宿の各部屋へ戻った。


 俺は、部屋に入ってベッドに腰かけ、シュクロスさんへ遠距離念話する事にしたのだった。クインも俺の部屋へ入って来て床に寝そべった。


『シュクロスさん聞こえますか?』

『うむ。アラタか、聞こえている』

『ここまでの報告をしますね』

『うむ』


 俺は、シュクロスさんにここまでの一部始終を念話で話した。


『なるほど…じゃあ、すぐすぐにはこちらの方までは来ないと言う事なんだな?』

『ええ、少なくとも西第二町が出来るまでは、それ以上西への開拓はないと思います、それに、マージガル神国の調査団の人達に、魔人族とダイアコング達の存在を多少、危ない存在として話をしておいたので、警戒はすると思います』

『ふむ。アラタ、ご苦労だったな。こちらも魔人族や周辺の町や村にこの事は伝えてこれからの対処について話し合うとしよう…、それで…アラタ達はこれからどうするんだ?』

『そうですね、いろいろと調べておきたいので、マージカル神都まで潜入してもう少し調べて見たいと思っています』

『ふむ…そうか…神都には、アーティファクト兵器などがあるかも知れないしな…君達にばかり、危ない役割を任せるのは忍びないが…また報告をお願いしたい』

『はい、ではまた連絡入れますね、それでは』


 俺は念話を終えた。

 俺はバサッとベッドに寝転んで、そのまま眠りについた。


 ◇


 朝、瑞希が俺を起こしに来て目が覚めた。


「新、起きて、カンナさんが朝食作ってくれるってさ」

「ん?朝食って食事に入ってたんだっけ?」

「ライナちゃんがこれから迷惑かけると思うから、先お礼だってさ」

「なるほど…」


 俺は目を擦りながら、食堂へ降りた。

 すると、皆もライナも揃っていた。


「アラタさんおはよう」

「うん、レベッカ、みんなおはよ」

「おはよ」


 俺は瑞希の隣に座った。


「マスター!おはようございます!!」


 ライナの元気の良い言葉が頭に響く。


「マスターって、みんな名前で呼ぶからアラタで良いって…」

「いえ、これからディファレントアースの一員としてマスターはマスターと呼ばせて頂きます!!」

「は?一員って…」


 俺は皆の顔を順に見回した。

 皆、さあ?みたいな顔をしている。


「これから一緒に依頼を熟すんですから、一番下っ端として頑張ります!」

「え…ああ…まあいっか…」


 俺は仕方なくそう言って受け入れた。


 朝食を終えて、早速、鉄銅級地域にある冒険者ギルドへ向かった。

 中へ入ると早朝から依頼を受ける人達でごった返していた。


「結構、人いるんだね…」

「そりゃあそうですよ!みんな鉄や銅級の人達は早く銀級になりたいわけですし、早朝に張り出される依頼で、速くて簡単な物を受けたいですからね~」


 ライナはそう言った。


 壁一面に貼ってあった依頼紙が次々と冒険者によって剥がされていく。


「俺達も急がないと依頼なくなっちゃうな…」

「待って!私達は後で良いんです!」


 ライナはそう言って俺達を制しする。


「私達が狙っているのは、緊急依頼です!小物には用はないんです!」

「ああ…ね」


 依頼を受けた冒険者は次々と出かけて行った。


 人もある程度、落ち着きライナはギルドのカウンターの親父に声を掛ける。


「ねえ、オズワード!」

「ん?ライナか…依頼か?依頼ならもうネズミの駆除か例によって脱走した猫や家畜の捜索くらいしかもう残ってないぞ?」

「ううん?今日は違うの、緊急来てないの?」

「はあ?お前が緊急依頼だとぉ!?…、一件だけ、今日の朝に届いた依頼があるが…止めとけ止めとけ…銀級冒険者に任せとけ、それにお前じゃ絶対死ぬ案件だぜ!」

「良いから良いから見せてよ!」

「はあ?見せるだけだぞ?…」


 一枚の依頼紙を奥から持って来た。

 俺達もそれを覗いた。


 地図が書いており、神都を中心に、その周りの出没したと思われる場所が〇で囲んであった。


【緊急依頼】

【複数の地域にマーダーベアが複数出没。これを速やかに排除せよ。一体に付き20金ドラ。繁殖期に対し狂暴化の上、群れをなしている可能性もあるため、銀級、灰銀ミスリル級8人以上のパーティ推奨。】

【討伐の証は、マーダーベアの角と3分の2以上の毛皮。破損していても良いが良質な物には追加報酬を与える。】


 地図の下にそう書いてあった。


「って事だ。鉄級のお前達が8人いたとしても、死ぬだけだから絶対やめとけ」

「これって一つはこの町の近くだよね?」

「ああん?…ライナ…悪い事は言わないから、止めとけって…お前の母さんは俺も友達だ、あまり悲しませないでくれよ…」

「大丈夫、私の仲間はだからさ!強いはず…1体だけでも達成数も貰えるんでしょ?」

「ちきゅうじん?…なんだぁそれは?…そら、1体に付き10貰えるぜ、それでお前は銅に昇格だったな?」

「うん!」


 ライナの元気な頷きに困惑の顔のおじさん。


「はぁ…ちきゅ…何とか?分からんが、お前さん達強いのか?」

「まあ…そこそこは強いと思いますけど…」

「じゃあ、行ってみると良い…だがな!危ないと思ったら逃げるんだ!良いか?」

「はい…分かりました」

「ライナこれを持っていけ、煙玉だ、あいつらは動くものを追いかける習性がある、これを使って危なくなったら逃げるんだ、良いか?」

「分かった!」


 困り顔のオズワードと言うおっさんをほっといて、俺達はギルドの外に出たのだった。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後書き。

前に、神帝>白金級>黄金級>灰金級>銀級>銅級>鉄級の6つの階級がマージガル神国にはあると書いてありましたが…


この話から銀級の上が金級と書いてしまったので灰銀級と訂正しました。

神帝>白金級>黄金級>灰銀ミスリル級>銀級>銅級>鉄級の6つの階級の階級で書いていきますので宜しくお願い致します。


×金級=〇灰銀ミスリル級へ訂正です。

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