第115話 調査団

 クラン「ウッドショック」と別れ、魔導車に乗り込み東への進路をとる一行。


 瓦礫の合間にそれは道のような物がまっすぐに東に延びていた。

 土が被ってはいるが、そこは元々は道だったのだろう、車も走りやすかった。


 一旦、車を停めてもらい。

 俺は、クラン領地の工房へゲート魔法を繋いだ。


「む?アラタ殿…もう用事は済んだのかの?」

「いや、イグちょっと調べて欲しい魔動機を手に入れたんで持って来た」

「魔動機じゃと?」

「すぐに戻らないと行けないからこの辺に出すね」

「ふむ…」


 俺はマジックボックスを大きく開けてバイーダーを引き出した。


「これ、宙を浮いて走るバイーダーって言われる乗り物なんだけど、壊れているみたいなんで、ちょっと調べて見て欲しい」

「壊しても良いのか?っと、すでに壊れているんじゃったな…」

「好きにして良いよ、じゃあ戻るね」

「うむ」


 ひらきっぱなだったゲートへ再度戻って魔法を閉じた。


 バタム!


 新は、車の中部座席へ乗り込んだ。


「これでよしと」

「アラタ、イグルートがアレを解析して空飛べるようになったら、楽しいだろうなあ!ハッハッハ!」

「ですね、ははは、あのバイーダー見ると、スターウォーズに出て来たスピーダー・バイクを想像しますね!」

「oh!そういやそうだな…俺もスターウォーズは大好きだぜ」

「男子ってSF映画とか好きよね?私なんてストーリーすら知らないわ…」


 瑞希は呆れて首を横に振っていた。

 それからも新とフェルナンドは映画の話をしながら、車内は盛り上がっていた。


 ◇


 数時間、門から東へ向かう。

 道はないのだが、何となく人工的に加工されていたであろう平な草原を進んだ。


「む…」

「クイン?」


 クインは何かを感じ取り、ルーフをあけて車上の銃座へ上がった。


「ふむ。凄い速度で動いている気配が8つ…フー」

「どこ?見えないけど」

「左の森の中だな」


 クインはそう言った。

 皆、左手に見える森を目を凝らして見つめる。


「ここからでは見えないが…もうすぐ森を抜けるな」


 フェルナンドは森の先を見てそう言う。


「見つかったら不味いかな?」

「ま、どちらにしても、そいつらの調査をするわけだから堂々と会ってやろうじゃないの!戦闘になっても俺らに敵う人間はいないだろうしな!ハハハハ」


 俺の問いにフェルナンドさんは高笑いしてそう言った。


 そのまま走る事数分…

 左にある森が無くなる。


「ふむ。そろそろ見えるぞ。フー」


 クインがそう言った瞬間。


 バイーダーと言う乗り物に乗った者達が、森を抜け姿を現した。


「おお…ほんとに飛んでやがる」


 フェルナンドはその光景に呟いた。


 8つのバイーダーが地上から数メートル浮いて走っていた。


 最初に森を抜けた者がこちらを見た。

 その後に、何やら会話をしているようだったが、ここからでは何を言っているのかは分からない。


 すぐに、こちらへ進路をとり、近づいてくる。


「こっちに来るぞ…」


 カレンは運転しながらハンドガンを腰のホルダーから抜き、フェルナンドもアサルトライフルを所持しているマジックバッグから取り出していた。


 新も、マジックボックスからハンドガンを他の者に配った、狭い車内ではハンドガンが邪魔にならず使いやすいためだ。

 そして、クインは天井の銃座で待機している。


 バイーダーを駆る者達は並走しながらこちらへ近づいて来た。

 微かにヴォンヴォンと機械音のような音が聞こえて来る。


 助手席の窓をフェルナンドは開けた。


 バイーダーに跨った8人は、新達の車と間近で並走して来た。

 すると、先頭にいた者が窓の開いているフェルナンドへ語りかけようとした。


「よっ!バイーダーの諸君」


 フェルナンドはそう言い、ニカっと笑って手を窓の外へ出して挨拶した。


「……貴公らは、どこの所属部隊、もしくは冒険者クランだ?」

「俺達はこの大陸を旅している、その名の通り冒険者だ、あんたらは?」

「ふむ…私達はマージガル神国、第134調査団だ、少し話がしたいビーカルを停めては貰えないか?」

「ビーカル?…この車の事か?」


 フェルナンドはカレンの方を一度振り向き、目で合図し、それに対しカレンは頷いた。


「分かった」

「先に行くと、ちょっとした開けた場所がある、そこで落ち合おう」

「はいよ」


 リーダーらしきその男は頷いて、8機のバイーダーは速度をあげて先に飛んでいった。


「皆、腰にハンドガンを装備しとけ、すぐ抜けるようにしておけよ」


 フェルナンドはそう言いながら、助手席の窓を閉めた。


「フェルナンドさん、何とか神国って言いましたね」

「ああ、マージガル神国の調査団とか何とか言ったな」

「それが東の者達の正体なんですね」

「十中八九そうだろうな、バイーダーに乗っていたわけだしな、しかし、あんな宙を浮くバイーダーが潤沢に揃っていると思うといよいよ、そのマージガル神国ってのは古代遺産アーティファクトだらけの国かも知れねえなあ」

「かも知れませんね…」


 暫く走ると8機のバイーダーは地上から30センチほど浮いた状態で止まっていて、その隣に一人ずつ立っていた。


 カレンは近くに車を停めた。


「さて、女性陣は車内で待機して、もしもの事があったら出て来てくれ。アラタ、クラウス、行くぞ」

「はい」

「おう」


 フェルナンドさんにそう言われて、俺とクラウスは車外へ出る事にした。

 クインも天井の銃座から飛び降りて俺の傍に来た。


 3人と一匹で8人に近寄ると、リーダーらしき人間が前に出て来た。

 先程、先頭を走っていた者だ。


「ビーカルを停めさせてしまって申し訳ない冒険者達よ、先も言ったが、私達はマージカル神国第134調査団、団長ラビ・シュライゼだ」


 この8人はよく見ると、ほぼ同じような防具を身に付け、見慣れない槍のような武器を携えていた。


 そこまで重装備はしていない、8人共通なのはヘルメットのような物と、胸当ては深いブルーメタリック色の防具、魔鉱製だ。

 小手、腰、脚の防具は皮製の者もいれば、金属製の者もいた。

 そして、8人皆、首からは銀の細い棒状のプレートのネックレスが見え隠れしていた。


「宜しく、俺はフェルナンドだ、このクラン、ディファレントアースの戦闘隊長だ!」

「戦闘隊長…クランマスターではないのですか?」

「ああ、マスターはこっちだ」


 フェルナンドは、ラビとそう言って握手した後に、新を指さした。


「なるほど…で、貴公達は何処から来たのですか?あの旧式ビーカルはどこで手に入れたものですか?」

「俺達は、西から旅して来たんだ、あのビーカル?は、俺達が作った物だ」

「作った?古代の物を修理したわけではなく?」

「ああ、何か変か?」

「いや、地面に車輪をつけて走る魔動機なんて、博物館にしかないと思っていてな…」


 博物館…まあ、確かにあのバイーダーを見れば、車輪は必要ない時代の物だろうから、宙を浮いて走る車もあるのだろうけど…

 俺は一言も喋らず、フェルナンドさんに交渉事は任す事にしているけど、未知の人達にどこまで話をしていいのだろうか…


「それより、俺達に何の話なんだ?」

「ああ、西から来たと言ったが、地下通路から来たのか?」

「地下通路!?い、いや…普通に山越えして来たんだが?」

「あの険しい山を超えて来たのか?魔物もこの辺から強かっただろうが、貴公らは相当強いんだろうな…なら通路の場所もわからないわけか…」

「言ってる事がよく分からないんだが、その地下通路はどこに繋がっているんだ?」

「ふむ。私達も西の情報は欲しい、貴公ら、情報交換と行こうじゃないか?」

「まあ良いだろう、そっちの話も気になるしな」


 フェルナンドさんはそう話を纏めて、西の情報のかわりにマージガル神国の情報を得ようと考えたようだった。


 フェルナンドさんは、まず先手をとってマージガル神国の話を聞きだしていた。


 ラビ団長は語った。

 マージガル国は数千年前に栄えた古代人達が作った国の首都だった。

 あの古代人達の滅亡の戦争で壊滅はした物の、強固な塀が残っていたため人はまた集まり町を作った事から始まり、約1000年前、神の声が聞こえる人間が現れたのだと言った。


 その神の声が聞こえる人間がマージガル国を復興し、その名をマージガル神国と町の名前を変え、次々に故障していた魔動機を復活させ、東西南北に中継点の町を作り、国としての勢力を伸ばしているのだと言った。


 今、この先で建設中の町は、マージガル神国から西への2つ目の町らしい。

 実は先ほど聞かれた地下通路とは、大昔は地下通路が全ての町へ繋がっていて、地上を歩くより安全に行き来出来ていたらしい、それをこの人達は探しているのだと言った。


「そのマージガル神国の神の声が聞こえる人間ってハイエルフなんですか?」


 俺は、ラビ団長にそう聞いた。


「いや、ガミエル神帝3世様は、元は普通の人間だったが、その神の声に従い長寿の薬を作ったとか何とかで、いまは300歳を超えるお歳だと思われる、3世と言うくらいだから3代目の神帝様になりますね」

「へえ…長寿の薬ですか?」

「こちらの話はこんなものでよかろう、次は貴公らの番だ、西について教えてくれ」


 とりあえず、この人達からは悪人を感じない。

 寧ろ、言葉も丁寧だし聞く耳も持っているので好感が持てた。


 西の情報は適当にフェルナンドさんが説明した。

 町がいくつかあるのと、北西の山には悪魔族が進化した魔人族が住んでいるので決して近づいてはならないと忠告しておいた。


 この世界での知力の高い悪魔族や元々死んでいるアンデット種などの魔物は、倒すのが命がけなのは常識であるため、悪魔族の進化した魔人族の存在は、134調査団も難しい顔をしていた。


「魔人族か…それは、良い情報を聞いた。もし、これから神帝様が領地を広げる時に大きな災いになる可能性もあるな…」

「その神帝様は、この土地をそうやって町を作って統一するのが目標なんですか?西の町々はどうするのですか?」

「勿論、わが国に属するように促すつもりです」

「もし、従わなかったら?」

「私達には古代人の知恵を持つ神帝がおられます、実際、マージガルでは階級はあるもののちゃんと、生活できるよう仕事も食料も潤沢にあるので、1000年前の魔物を狩って生活する危ない暮らしから脱する事が出来ますので、嫌とは言わないでしょう、もし争う事になっても私達の、軍事力を見れば戦意を失うでしょうし」

「軍事力…とは兵器とかをお持ちで?」


 俺はその言葉を聞いてあの兵器の事を思い出して、そう聞いた。


「いや、兵器という兵器はあの滅亡の大戦で殆どが焼き払われており、もう残っている物はないと思いますが、あるのはこの槍と武器と乗り物くらいは修理して残っているので、機動力、武器の性能から見ても勝ち目はこちら側にあると思っています」

「ほう、その見慣れない槍が古代の武器って事か?」


 フェルナンドさんがそう言い、槍をジロジロと近くで見た。


「少しお見せしましょう」

「お、良いのか?」


 ラビ団長は槍を少し先の岩に向けて、むんと力を込めると槍先からレーザーのような物が一直線に岩に向かい爆発した。


「おお…」

「この無詠唱で協力な魔法を放てる槍は、大昔の兵士が装備しており、マージガルの地下軍事施設に沢山眠っていたものです、これよりも優れている武器などもあるのでこれでお分かり頂けたでしょうか?」

「凄いですね…」


 俺はそれを見てそう言ったが、俺達の持っている銃器のほうが全然良いに決まっているので驚いた振りをしたのだ。


「そのマージガル神国の建設中の町、見学とかさせて貰えませんでしょうか?」

「ふむ…まあ、魔人族の情報は大きい、そのくらいなら私の権限で話は通してやろう」


 よし、これで正々堂々、町を見れるぞ!



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後書き

更新が遅くなり申し訳ありません。

しかし、今リアルが本当に忙しくて…

何故、1日が36時間じゃないのだろう…なんて思う今日この頃でしたw

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