第114話 東の調査へ

 新達はアルカードの東門でシュクロスやバルゼス達から見送りを受けていた。


「頼みばかりですまないが、宜しく頼む」

「はい、この世界を旅するのは好きなのでお安い御用ですよ」

「そう言って貰えると助かる」


 シュクロスはそう言って軽く頭を下げた。


「アラタ殿、何か手伝う事があったら、すぐにゲートで迎えに来てください!グランアレグリアは何時でも力を貸しますゆえ!」

「うん、有難うバルゼスさん、その時はお願いしますね」

「はい!」


 新はそう言ってマジックボックスを大きく開き。

 イグが製造してくれた魔導自動車を出した。


「むお!」

「むむ…」


 目の前に出て来た、魔導自動車に驚くシュクロス達。


 運転席にカレン、助手席にはフェルナンド、中部座席に新、瑞希とクインが乗り込み、後部座席には、マイティ、レベッカ、そして最後の後部の狭いスペースの銃座にクラウスが乗った。


 窓を開け、新はシュクロス達に手を振り、カレンはアクセルを踏み込んだ。


 音もなく車は走り出す。


 走り出して1分もすると車は遠くを走っていた。

 途中の歩いていた冒険者も驚き振り返り、何だ何だと騒いでいた。


「アラタ殿達、行ってしまいましたな…」

「うむ、バルゼスよ…もうアラタがやる事には、私も驚かない事にしているのだがな…馬もいらぬ乗り物を所有しているとは…」


 シュクロス達は車が見えなくなるまで、そこに立ち竦んでいた。


 ◇


 魔素を空気中から吸い込み、マナードリアクターで増幅させ動力に変えて走るその車は、車内はとても静かで、新車のような匂いがする。


「凄いなこの車、ドワーフって本当に物作らせたら天才だぜ…ちゃんとエアバックまでついてやがる」


 フェルナンドはそう言い、ダッシュボード辺りを確認していた。


「ほんとですね…イグ達、地球の本を見ただけでこんなもの作るんですからね。この天井のルーフ開けると上の銃器に繋がっているみたいですね」


 新はルーフを開けて頭を出してすぐに車内へ戻った。


「ほお、後からいろいろ触ってみるか」

「良い車ね、でも…音楽が聴けないのは寂しいわね」

「カレン、それは贅沢ってもんだぜ、エアコンが付いているだけでも良しとしないとな!」

「そうね」


 魔導自動車は、マナードスーツと一緒で魔力で動く。

 なので、マナードリアクターがついていても、多少なりと運転手の魔力は消耗していく、グランドヒューマン化した俺達は、余裕で数時間の運転を熟す事が可能だが、万が一のために、カレン、フェルナンド、新、瑞希で交代で運転する事にした。


 ◇


 森、山、丘。

 舗装されてない道や、道なき道を進む事、約10時間。

 新達はアルカードの町から約100kmほど、東を走っていたが、日も落ちてきたため開けた場所を探してキャンプする事にした。


 新が開けた場所を探し運転していると、フェルナンドはダッシュボードの中にあったイグルートからの説明書を読んでいた。


「hey、アラタ、なんかこの車、キャンプ用の仕掛けがあるらしいぞ?」

「仕掛け…ですか?」

「車の外から屋根の端を引っ張るとちょっとしたテント屋根が出てくるのと、後部銃座の下をスライドさせて引っ張り出すとコンロや流しもあるって書いてるな」

「流しってシンクの事ですよね?水も出るって事ですか?」

「多分な」

「なるほど…トイレとかは…流石についてませんよね?」

「トイレの記述は……あった…が、それは無理だからその辺の川か何かを使えと書いてあるな…流石に無理か」


 開けた場所を見つけた新は車を停めた。


 皆、各々車を降りて周りを確認した。


 クラウスが焚火を起こすためにその辺の木々を探してくると言って。

 フェルナンドはさっき説明書で読んだ、車の上からテント屋根を引っ張り出し、新は後部銃座の下にあるスイッチを押すと少し車体の一部が軽く押し出て来た。


「これか」


 押し出た部分を引っ張り出すと小さなコンロと蛇口付シンクが現れた。

 どちらにも火、水が出るように魔道具が取り付けられている。


 暫くすると、クラウスが火をおこし。

 新と瑞希が地球産の食材で適当に料理を作って、皆、食事を摂った。


 パチパチと焚火が鳴っていて周りは虫などの声が聞こえる。

 空を見ると、溢れんばかりの星空が広がっていた。


「綺麗ね…日本の田舎でもこんな景色見れないわよね…」


 瑞希はそう言ってスープを片手に空を見上げている。


「しかし、この世界の惑星ってどこの銀河系なんだろうなあ…」


 フェルナンドもしみじみとそう呟いた。


「そうですね…俺もあまり惑星単位で考えた事なかったけど、そう考えたら何処なんでしょうね?これだけ星があるって事は、何処か違う惑星へ繋がっていたって事もあり得ますよね…」


 フェルナンドさんの呟きに俺はそう答えた。


「でも…あれよね?この世界にいる魔物…、地球に伝わる神話や、漫画、ゲームなどに出て来る物に似ているって事は、何かしらの事がないと伝わらないわよね?」


 カレンさんが言うのも確かにそうだ。

 俺もそれは思った、俺が解釈しているのは、昔の侍や忍者がこっちの世界へ来たことがあるわけで、それなら戻った人もいるわけで。


 そんな人達が神話や架空の物語を作ったのだろうと俺は思っている。


「アカツキ国の事もありますし、大昔から地球とは繋がりがあって、この世界を経験した地球人が戻って、それを神話として広めたんじゃないでしょうか?」

「なるほどね、そう考えれば辻褄は普通にあうわよね」


 カレンはそう納得した。


「しかし、そうなると…神とかもいそうだな、ゼウスやオーディンや、他に有名な神って何だっけか?」


「神ですか…どうでしょうね…」


 フェルナンドさんはそう言っていたが、魔法のあるこの世界…神が居ても不思議ではないなと俺も思った。


 そんな話をしながら夜は更けて行った。


 休息を取る人は車の中で寝て、寝なくても良いクインと見張りは交代で朝まで過ごした。


 ◇


 日が昇り始め、朝が来て皆は目覚めた。


「グッモーニン、アラタ」

「フェルナンドさん、おはようございます」

「今日の目標は、東の奴らが故障して捨てて行った、そのバイーダーって乗り物の所へ向かうで良かったんだよな?」

「ええ。捨ててあるのなら、それを回収してイグ達に持って行って調べて貰おうかと思っていますので」

「了解、じゃあ、出発するぞ」


 新達一行は、更に東へ車を走らせた。

 途中、険しい山などもあり、そこは車を収納して徒歩で山越えすることにしたのだが。


 グランドヒューマン化しているせいか、険しい山々なのに、マイティやレベッカ、瑞希も弱音を吐く事なく普通について来ていた。


 山を下り。

 次は、数十メートルはあるだろう木々が鬱蒼と生えている森がその麓に広がっていた。


「凄いな、巨人でも隠れられそうな森だな…」


 クラウスは汗を拭ってそう言った。


「そうですね…大昔の瓦礫になった建物や、道だっただろう場所がアルカードから北へはありましたが、この辺りはありませんね」

「ああ…同感だ。古代人は高い技術を持っていた、あのルーンポータルって転送装置で移動していて道は使わなかったんじゃないか?それか宙を浮く魔動機があったから道も必要なかったとか…?」

「それもそうですね…」


 俺の言葉の後にフェルナンドはそう言った。


 大きな木々の間なら、車が使えそうだったのでマジックボックスから魔導自動車を出した。


「ふう、座れる喜び」


 瑞希はそう言ってハンカチを取り出して汗を拭った。

 皆、乗り込みカレンはエアコンをつける。


 すぐに、涼しくなり、車は走り出した。


 大きな森を抜け草原に出た。


「やっと…視界がよくなった。魔物に殆ど出くわさなかったし…良かったわ」


 カレンは運転しながら呟く。


 草原の所々には大昔の建物の後らしい物も見え隠れしている。


 助手席のフェルナンドさんはシュクロスさんから貰った、簡単に書いてある手書きの地図を広げていて、中部座席の間から俺もそれを覗いていた。


「目的地はもう少し行った所ですかね?」

「ああ、この山と森を抜けたこの…門のような建物付近だと思うが…」


 俺は、その地図をじっと見つめる。


「あ!?見えた!」


 カレンがそう叫び、俺達は一斉に前方を確認する。


 遠くに、建物群が所々に見え、その中でも大きく原型を留めている凱旋門のような物が立っているのが見えた。


 そこへ車を飛ばした。


 すると、その傍で手を振っている数人の冒険者がいた。

 近づいて車を降りると、その冒険者達は近づいて来た。


「‥‥‥ディファレントアース様達であっていますよね?」

「はい、そうです」

「良かった!…私達はシュクロス様から物見依頼を受けた、クランの一つ「ウッドショック」です。初めまして」

「初めまして、ディファレントアースのマスターをしてます、アラタと言います」


 パーティのリーダーらしき人と握手をする新。


 クラン「ウッドショック」は俺達に語った。

 この辺まで東の者達は調査に来ていたが、帰る間際に一つのバイーダーが故障し乗り捨て、それに乗っていた2人が徒歩で東へ戻ったのだと言った。


 それを尾行した結果、その建設中の場所へ辿り着いた事も聞いた。

 俺達の事はメルバードでのやり取りで数時間前にシュクロスさんからの手紙で、こちらへ向かっている魔導車と俺達の身なりの事を知ったようだ。


 そして、その故障して動かなくなった魔動機バイーダーと呼ばれる物の所に案内してくれた。


「ほう…これは凄いな」


 フェルナンドは案内されるや否や、すぐにその物体に近づいた。


 俺もその物体に近づくと、そのバイーダーと言う宙を浮いて走る乗り物は、どっしりとその場に置いてあった。


 姿は、二人乗り用のバイクのような乗り物で、車輪は付いていない。


「これは全く動かないのか?」

「ええ…私達も跨って魔力を通してみたんですが、何も動きませんでした…」


 フェルナンドはバイーダーに跨り、スイッチらしき物を何度もカチカチと押す。

 どうやら本当に故障しているようだった。


「アラタ…だめだ、これはイグルートに見てもらわないと、どうしようもないな…」

「うん、じゃあ仕舞って置きますね」


 俺は、マジックボックスをその大きさに広げ、包むようにマジックボックスへ入れていった。


 その様子を見て、若干、驚いていたウッドショックの者達。


「この門は?」

「立派な門ですね…私達もよく分かりませんが…大昔の繁栄の証が今も残っているようですね」


 その大きな門は、様々な彫刻が施され、当時はランドマークになっていただろう立派に繁栄の証を物語っていた。


「私達は、このままこの辺の監視を続行します。それで…この門を東にまっすぐ行くと、その破壊された建物群を利用して建築を進めている者達の場所があります」

「なるほど、分かった。情報、有難うな」

「しかし…この乗り物は何ですか?…馬も要らず、自走出来るのですか?」

「ええ、俺達が作った魔動機のような物です」


 ウッドショックの人達は、その見慣れぬ魔導自動車を軽く驚きつつ見ている。


 この門の場所は今後ゲート魔法で行き来するために、俺は強く記憶する事にした。


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