第112話 ハイドワーフ?

 クランの領地も順調に建築が進んでいる。

 ある日、新しいクラン領地の工房へ向かう途中、新にシュクロスからの念話が届く。


『アラタ聞こえるか?』

『シュクロスさん、聞こえますよ』

『とうとう、我がアルカードの冒険者が東の奴らの尾行に成功したのだ』

『と言いますと?』

『その者達の情報によると、アルカードから東に約300キロほどの所で村か何かを建設中の事だ』

『約300キロって…中々遠いですね」


 300kmと言うと大体、東京から名古屋あたりくらいまでの距離はある。

 舗装されている道の徒歩で大体1kmが約10分~15分って所だろうから、ちゃんとした道のないこの世界、使い魔や馬車に乗って移動したとしても結構かかりそうだ。


 シュクロスはそれから話を続けた。

 その東の者達は何かを建設しているとの事。

 冒険者の物見を使って、150キロ先で監視をしていた結果、バイーダーと言う空飛ぶ乗り物が故障し、徒歩で戻る東の人間を尾行する事に成功、メルバードで報告してきたようだ。


『今はまだ脅威とは考えてはいないが、高い技術を持っている可能性があるので、もしもの事が起こらないように対処しておきたい…時間が出来たら早い内にお願いしたい』


 シュクロスさんの言う、もしもの可能性と言うのは、勿論、その古代技術を発掘し、それを駆使している東の者達の善悪だ。


 もし、それが悪だった場合、俺達にどうして欲しいのか分からないが、俺は、レイアリグ大陸のアルカードの町は好きだ。シュクロスさんもそうだけど、バルゼスさん、リンさん、クラティスさん、出会った人達、みんな良い人でそこに住まう冒険者もこの時代を活気良く生きている。


 俺は、そんな人達を守るためなら…


 新は、脳裏にあのケンタウロスに似た、アーティファクト兵器が暴れ、その時の瀕死になったフェルナンドの姿が浮かんだ。


「ん?アラタどうした?俺の顔に何かついているのか?」

「あ…いえ、何でもありません、ははは」

「???」


 何となく、そう思ってフェルナンドさんを無意識に見つめていて、視線を感じ取った言葉で我に返った。


 そう、俺達はあの時よりは10倍以上も強くなったし、その力に耐えれるようにイグにMDS《マナードスーツ》も強化を頼んでいるし。

 今ならあのアーティファクト兵器相手でも、どうにかなるんじゃないかとも思っていた。


 とにかく、ここにいるクランメンバーと同じくらい大事な人を守るために、この力を使うのだろうと心に決めたのだった。


「アラタ殿?」

「あ、ああ…イグ」

「む、なんかさっきから、ずっとボーっとしとるのぅ…」

「い、いや…で、なんか言った?」

「うむ、アラタ殿達は、またレイアリグ大陸での依頼を受けたんじゃろ?」

「うん」

「MDSの強化は済んでおるので持っていけば良かろう、これでお前さん達グランドヒューマン化の力にも十分耐える事が出来るぞい、それと…移動用にこれを使ってはどうかの?」


 真新しい大きな工房の中に置いてあった、布の掛かった大きな物体をイグルートは指差す。


「あれは?」

「ほほほ」


 イグルートはその物体に近寄って布を剥ぎ取る。


「「「「おおおおお‥‥」」」」


 皆、声がそう漏れた。


 そこにあったのは、ジープのような4輪駆動の自動車ならず装甲車、屋根には銃器が取り付けられており、後部座席の方にも何かあるように見えた。


「凄い!カッコイイ…」

「じゃろ?」

「oh!こりゃ、軍用車両じゃねえかよ!後部座席にも銃があるのか?」

「どうじゃ、儂の傑作は!ほっほっほ」


 結局、イグは地球の乗り物や建物を、俺が持って来た本を参考にしているようだ。  しかし、これは有難い、これなら悪路もある程度は平気だし、そしてこれは魔力で動く自動車なので、ある意味電気自動車と一緒だ。


 エンジン音は静かで魔物に気づかれにくいし、しかもこの素材…


「お、気づいたかの?」

「イグ、これって魔鉱?」

「当たりじゃ」


 イグルートが製造したこの4輪駆動の魔導装甲車は。

 8人乗りで、後部座席と天井に銃座がついている。

 前方にもマシンガンが取り付けられており、完全な軍用車両となっていた。



 そして、外装に使っているこの素材、ダンジョンでドロップする装備によく見る魔鉱の輝きをしている。


 その素材の輝きとは、深いブルーメタリックで、魔物の素材よりも、魔鉱は軽量で、魔力を通しやすく頑丈な物であであり、古代人達が殆ど掘りつくし、建物や魔道具、武器や防具、魔導機械などに頻繁に使われていた。


 なので、古代遺産アーティファクトであるダンジョンからはよく魔鉱で作られた装備がドロップするのだ。

 ダンジョンは不思議な生き物だが、作られた時にインプットされた物をドロップするのだろうと理解している。


「あれ?イグ前に行ってなかった?確か…もう魔鉱って昔に殆ど掘り尽くされていて、あの、ケンタウロス型兵器からの残骸魔鉱はMDSの装甲で全部だったっていってなかったっけ?」

「うむ。そうなのじゃが…実はな、英雄の祠の周りを開拓したじゃろ?」

「まさか…」

「そうじゃ、あの辺の岩を崩したら魔鉱が出たんじゃよ、このオブリシア大陸は孤島じゃし、精霊の島とも言われておったらしいから、ひょっとしたら手付かずの所も相当あるのやもしれんな」


 なるほど…

 確かに地球でも天然記念物に指定されているような場所は、手付かずな場所もある。

 このオブリシア大陸は古代人からしたらそんな神聖な島だったのかもしれない。


「へぇ…それは良かったね」

「それと…アラタ殿達には言っておかねばならない事が一つあるんじゃが?」

「ん、言っておかないと行けない事?…まだ、他に何か作ったの?」

「いやいや、そうじゃないんじゃが、これからアラタ殿とはグランドヒューマン化のお陰もあって何千年の付き合いになると思うし、儂ら親子は命尽きるまでアラタ殿について行くと決めたので言うんじゃが」


 新にイグルートは改まってそう言った。


「実は儂ら、ハイドワーフの血筋なんじゃよ」

「ん、何?ハイドワーフ?」

「うむ。まあ、あれじゃ他のドワーフよりも物を作るスキルが高く、素流の眼と言うスキルも使えるんじゃ」

「素流の眼?」


 イグルートは語った。


 ハイドワーフとは、古代人ハイエルフが物作りに特化した人種に変化させた上位亜人種で、オブリシア大陸では、幾度となる子孫繁栄の中でハイドワーフの血は薄れ、イグルート、エグバート、オグート3人の他に、数十人ほどしか残っていないと言った、誰がその血筋なのかもすでにイグ達でさえわからないらしい。


 そのハイドワーフのスキル「素流の眼」とは、物質などの素質、特質、他にも何処が強い部分で、又は弱い部分などの情報を鑑定スキルに似た感じで認識する事が出来るのだと言う。


 そのスキルのお陰でその物質をどこまで鍛えて良いのか、扱いにくい物質も壊さずに加工する事が可能になるのだと言った。

 あのフェルナンドさんが、要望した特殊弾丸などはまさにそのスキルが使われており。極限まで練られた金属と火薬で構成されていて、そんな物を作れるのはハイドワーフじゃなければ、とても作る事は叶わないのではないかと言っていた。


 イグルート親子は、このフェリオール王国では腕利きのドワーフだが。

 同じドワーフ族達はプライドが高いため腕利きだからハイドワーフじゃないか?と疑ったりはしても、別に誰がハイドワーフでも問題はない、自分が他に負けない物を作れば血筋なんて関係ないと思っているし、あまり血筋がどうとか考えてはいないのだと言った。


 とまあ、いろいろと語ってくれたけど。


 イグの命尽きるまで俺に尽くしてくれるって言った言葉がなんとなく嬉しくて、もうそれだけで十分だ。それにイグ親子がいてくれたら、俺のこの世界で実現したい夢なんかも叶いそうだし…すでにMDSがあるから、ロボットに搭乗して暴れるとかも可能になったわけだし。


「ありがとう、イグ。俺も全力でイグ達をサポートするから、今後ともその力を大いに奮ってもらうよ!」

「任せて置けい!アラタ殿、儂らがいつか古代の魔科学を復活させてやるわい、わーはっはっは!」


 イグルート、エグバート、オグートは一緒に高らかに笑った。


「それで…」


 長男のエグバートが笑いの途中で口を開いた。


「ん?」

「あの…そのぉ…クランハウスの酒がもう残り少なくなったんじゃが…」

「え?もうないの!?」

「うむぅ…そ、そうじゃ、建設に携わっておるドワーフ達の意欲を高める為に、ちと…な…」

「わ…わかったよ、補充しとく」

「おお、よし!さ、オグート次の建設を進めるぞぉ、急ぐぞ!」

「やったな!エグ兄者、行こう行こう!わっはっは」


 エグバート、オグートはイグルートを残し走って行ってしまった。

 最後のやったな!って言葉の後にエグバートがオグートを殴っていたように見えたが…


 ちょ…このドワーフトリオ、まさか…俺に命尽くすって、あの地球産のウイスキーから離れたくないだけなのでは…


 ◇


 それからイグルートと更に語った。


 転送装置を分解した結果、今の知識では発想もしない技術が使われていたと言っていたが、何となく完成品から分解する事でその技術を紐解く事が出来るらしい。


 そして、次元石と言う希少な鉱石を高額で手に入れたそうだ。

 これも、扱いが難しいらしく、イグも加工するのは初めてだけど、転送装置を早速作ってみると言っていたがもう一つ面白い物を思いついたと言っていた。


 次元石とは字のごとく、次元を司る鉱石で、その座標を記憶させる事でいろいろな事が出来るかもしれないとイグは言う。


 そう、もう一つの面白い物とは、上手くいけば地球で言う携帯電話が出来るかもしれないと言った。

 転送装置はその上に乗った者を何かの原理で、記憶させた同じ装置へ転送する物だが、それが声だけならもっと簡単に転送出来るのではないかと考えているようだ。


 今度、俺が帰って来る時までに、転送装置と携帯電話を試作を作っておくとか言ってた。


 ハイドワーフがどうとかは関係ない。

 イグ達がハイドワーフじゃなかったとしても、俺はあの親子が好きだ。

 なので、これからも俺のクランで頑張ってほしい。

 ひょっとしたら、酒のお陰かもしれないけど…地球産のウイスキーなら山ほど買って来るしね!



 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 後書き。


 やっと、フォロワーがまた増えだして来ました!

 なのでやる気も出て来たので頑張りますよ~

 リアル仕事は忙しくなってきたけど、考えるのも楽しくなって来ましたし!

 フォロワーの皆さまこれからもっと頑張りますので、☆評価などもつけていただけると嬉しい限りで御座います。


 今、実は新しい作品も思考しております。

 こっちも連載中に何やってんだ!と思われるかも知れませんがw

 ちょっと、本当にスローライフでもっと主人公が際立つ作品を作ってみようと思っておりますので、その時はまた読んでくださいませ。


 まあ、まだ全然頭にあるだけなので、何時になるかも未定ですし。

 期待は‥‥w

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