第111話 ひと時の休息とクラン領地の建築

 俺達はアルカードダンジョンからホワイト・ワルキューレを救出して戻って来た。


 新率いるディファレントアースも、グランアレグリアと共にシュクロスの政務兼住まいの中央にあるタワー型の建物へ向かった。

 その建物の名を今まで知らなかったが、そのまんま、アルカード政務タワーとリンが教えてくれた。


 そして、クラティス含め、ホワイト・ワルキューレメンバーはと言うと、地上に戻って疲れが一気に出たのか、大事をとって一度クランハウスへ戻るのだと言って、シュクロスとの再会を歓喜した後、暫しの別れを誓ってその場から去って行った。


 アルカード政務タワーへ向かう途中、シュクロスはいつの間にか、いつものクールな青白い顔に戻っていた。


 ◇


 俺達は、シュクロスのアルカード政務タワーの会議室へ通された。


「ディファレントアース諸君、グランアレグリア諸君、この度は我が私用で危険な任務をこなしてくれて…本当に礼を言う。ありがとう」


 そう言って、シュクロスは俺達全員に対して頭を再び下げた。


「いや、シュクロス様やめてください!俺達を育ててくれたのはシュクロス様です、俺達は貴方のためなら命だって落とせる…、今回だって勝手に俺達がした事なんですから、頭なんて下げないでください!」


 グランアレグリアのメンバーは焦ってそう言った。

 命まで捧げられる関係がどんなものなのかは分からないが…

 相当、グランアレグリアメンバーはシュクロスと言う男に恩を感じているようであった。


「いや、本当に今回の事は、皆に礼を言わせてくれバルゼス…」

「‥‥シュクロス様」

「でも…どちらにしても、アラタ様達が居なかったら、私達も危なかった…礼を言うのはディファレントアース様達に言って下さい…結局、私達…何もしてませんから…」


 リンがそう言って、バルゼスが次に口を開く。


「そうだ、アラタ殿達がいなかったら…」

「むむ、一体何があったと言うのだ?」

「実は…」


 俺達は皆、合流してからの事をシュクロスへ説明し、石を喰らう魔物「メドゥーゴルゴン」の事を特に詳細に説明した。


「そんな魔物…今まで噂にも上がった事はないな?」

「シュクロス様、ダンジョンにたまに入る俺達もそんな魔物の噂なんて聞いた事ありません…」

「ダンジョンの気まぐれか…それとも、出くわした冒険者全てが帰れなかったか…」


 シュクロスとバルゼスは呟き考えていた。


「hey、でもな、大体の攻略法はもうわかったんだ」

「ほう?」

「何ですと?」


 フェルナンドがそう答えると、そこにいる者はざわついた。


「アラタ、説明してやれるか?」

「はい、俺達が倒したメドゥーゴルゴンは3体ですが、2体倒したあたりで大体の攻略を掴んで、3体目は少し検証して戦いました」


 新は説明を始めた。


 メドゥーゴルゴンの動きはかなり素早く、石へ変化させる光線を目から放射する。

 その範囲は横に160度、縦に100度、距離は約5m。

 その光線を10回ほど連続すると2分くらいの休憩が必要。

 石化光線以外の攻撃は、鋭い爪で引っ掻くか、大きな口で嚙みつくかで魔法攻撃などはしてこない。


「確かに動きは素早いので注意は必要です…が、あの石化光線さえ何とかなれば、そこまで脅威でもありません。動きは大体石化光線を浴びせるために目前で止まりますし、後はどう回避するかです。検証の結果、土、氷魔法の壁を作りその厚み1mほどあれば盾に使える事も分かりました、後はあの素早い動きは目が慣れれば、Aランク冒険者なら対処できるかと思います」


 いくつか壁を作って、石化光線を遮り、チャンスを狙えばAランクの熟練冒険者なら対処できると新は語った。


 シュクロスは身近にいた兵に記録を取るように指示して、兵士はそれをメモっていた。


「ふむ。アラタ、その情報、有難く今後に生かそう…、今回の件、本当に感謝する。ディファレントアースをこの町でのSランク冒険者と認定し、その旨、冒険者ギルドへ伝えておこう、勿論、私のお墨付きでだ」

「Sランク?」

「ああ、それに見合うだけの実力は当然あるだろう…寧ろ、Aランクを遥かに超える実力の持ち主であろう?」


 そう言えば、Sランクの基準はオブリシア大陸でも知らないな。

 そもそも、Sランクってどうやったらなれるのだろう…


「何故って顔をしているなアラタ」

「は…はい…」

「この世界はな、まだ世界がハイエルフに支配されていた時代の話だが。冒険者にはSランク、SSランクまであったのだよ、それで…」


 シュクロスはそう語った。


 その魔物のランクがあって、それを討伐出来る能力があるか否かでランクは決まっていたそうだ。


 例えるとDランクの者がその上のランクを倒すことによって、Cランク昇格を果たす。それとは別に冒険者ギルドの依頼の回数でも昇格が有り得るそうだが、大体はそんな感じだそうだ。


 Sランクとはドラゴンや、最上位悪魔族、最上位アンデット族を倒せる事が出来る冒険者の事を言うが、そんな魔物が出てくるのは数百年に一度、稀にある災害級の事らしい。


 もう約500年災害級の魔物が人間達に害を及ぼす事などはない、そして更にその上に天厄級とかの名前があるらしいが、それはそう言う位置付けがあるだけで誰も経験した事はないだろうと。


 そして、SSランク冒険者などは見た事も聞いた事もないので、それも位置付けだけあるのではないかと言っていた。

 オブリシア大陸はどうか分からないが、大昔の冒険者ギルドのシステムをそのまま使っているのなら、それで合っていると言った。


「お前達を、この町の中での話だがSランクに推奨するのは、私独自の認識だ。ディファレントアース、君達は明らかに他の冒険者とは違う…クインのような精霊が従魔になっているのも驚いたが、大昔に暗躍していた強化兵士のようだ…と言っても過言ではあるまい」


 シュクロスはそう言い放った。


 古代人の強化兵士?グランドヒューマン化した人達の事かな?

 それならその強化兵士で合っているんだけど…そんな物を手に入れてると話すと飛んでもない事になりかねないので黙っておくことにしよう。


 まあ、ランクが上がった所で俺達が何か変わるわけはないのだから、シュクロスのSランク認定を受け入れることにした。


「じゃあ、遠慮なくその認定を受けます」

「うむ、あまり長く報告を聞いてもお前達も疲れているだろう、このタワーのいくつかある部屋で休息を取るといい、湯浴び部屋もついているからゆっくりすると良い」

「はい、お言葉に甘えてそうします」


 新達は、シュクロスが指示した兵に連れられて休息するための部屋へ案内された。


 ◇


 ダンジョンから戻って3日が経っていた。

 あれから俺達は、シュクロス主催の生還パーティなどに参加したりして、休息を取っていた。


 そして、今日もアルカードの町で観光などをしていると、オブリシア大陸のイグルートから念話を受けたのだった。


『アラタ殿、聞こえますか?』

『ああ、イグ、聞こえてるよ』

『クラン領地の開拓と建設は間もなく完了するんじゃが?』

『もう出来たんだ?わかった、じゃあそっちに今すぐゲート出すよ、英雄の祠の前になんの障害物もないよね?』

『入り口付近は小さな広場のようになっておるので、大丈夫じゃよ』

『わかった』


 皆に、イグルートの念話の内容を話してゲートを展開した。


 人気のない所でゲート魔法を展開する。

 空いた空間の中には、英雄の祠の入り口が見えた。


 皆でゲートを抜けると、英雄の祠の周りには綺麗な花壇が作ってあり、まるでテーマパークの広場のような場所に生まれ変わっていた。


「む。早速、来られたの」


 そこには待っていたかのように、イグルート、エグバート、オグートのドワーフ親子が立っていた。


「綺麗~~」

「うわああ!」


 瑞希、マイティ、レベッカは綺麗に並んだ花壇へ走っていった。


「イグ、これは?」

「綺麗じゃろ?アラタ殿の地球の本を参考に作ってみたのじゃよ、ほほほ」


 イグルートは自慢げに髭を触りながら笑った。


「うん、木々に囲まれてて辛気臭いイメージだったけど、まさかこんなに明るくなるなんて…」

「ドワーフには美的感覚もあるのじゃよ!ほっほっほ」


 次は長男のエグバートがそう自慢げに話した。


「では、まずクランハウスへ案内するので、儂について来て貰えるかの」

「うん」


 皆で、ドワーフ3人について行くと、大きな建物が見えた。


「あれじゃ!」

「ちょ…あれって…」


 そこに聳え立っていたのは、ディズニーランドにある、あのシンデレラ城に似た城だった。


「これもアラタ殿の本を参考に建築したもんじゃよ。ほっほっほ、地球は建物のてっぺんが尖った不思議な城じゃが、地球出身のアラタ殿なら喜んでくれるじゃろうと頑張ったんじゃよ。ほほほほほ」


そう、この異世界の城は屋上が物見になっているので尖ってはいないのだ。


「新…あれってシンデレラ城だよね…」

「ああ…もう、なんの本を参考にして作ったのか分かって来たよ…」


瑞希と新は、遠くに見える城を見て驚愕した。


 イグルートは説明する。

 あの城の中には会議室、応接間を含む200の部屋と20の風呂があるのだそうだ。

 地球での湯浴びは湯舟に浸かると言うので、湯浴び場ではなくちゃんとした風呂を取り付けたのだと言った。


 そして、その敷地には。

 イグルート達が作業する大きな工房が3棟と、農業用の敷地の他、訓練施設など、次の建築に取り掛かるとの事だった。


 更に、この敷地の外周には塀も作っており、その塀にはイグルートが作った、魔物対処用の結界魔法装置も組み込む予定なのだと言った。


「なんか…凄いね、あれを1週間で作ったの?…」

「凄いじゃろ!アラタ殿、お礼は地球産ウイスキーでよいぞ!ほっほっほ」


 次男のオグートがそう言っていたがスルーして、俺達は皆、シンデレラ城を見てポカンと口を少し開けていた。


「あー、後もう一つ」

「え?もう一つ?」


 イグルートは思い立ったかのように言った。


「実は、あのイシュタルト王国にあった、レイアリグ大陸への転送装置を分解してみたのじゃが」

「あ、そう言えば、そんな事言ってたね」

「アレの仕組みが分かったぞい」

「え?じゃあ作れるの?」

「勿論、作れるぞい、ただ、その場所へ行って場所を記録しないといかんのと、そのための次元石と言う鉱物が必要じゃ…」

「次元石?」

「うむ。希少な鉱石じゃが、手に入らない物でもないからそれは大丈夫じゃ、クランの潤沢な資金があれば問題ないわい」

「そう、それは良かった。あ、でもハイエルフの遺伝子がないと使用できないとか?」

「いや、あれは古代人のハイエルフの魔力に反応するよう、仕掛けがしてあったんじゃ、そんなもん取り付けなければ良い話じゃ、問題なかろうて」


 これが実現すれば、劇的に交通は便利になる。

 ただ、これを無料化や、沢山作ったりすると、馬車などで仕事をしている人達が職を失ってしまったり、悪者が簡単に国の懐に出入りしてしまう事になる…

 作ったとして、これは王族とかに管理させるのが妥当かな。


「イグ、それの開発は慎重にやろう」

「うむ。わかっておる、儂らの魔導自動車も売れなくなるしな。ほほほ」


 何はともあれ、クランの領地は順調に進んでいるので、イグ達に任せて置けば問題ないだろう。

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