第109話 石を喰らう魔物
俺達は、メドゥーゴルゴンを見つけ、戦闘を開始することにした。
距離は約50m。フェルナンド、カレンはスナイパーライフルを構え、石になったマーダーエイプを喰らっているメドゥーゴルゴンの後頭部を狙った。
ズドン!ズドン!
2発の弾丸を撃った瞬間、メドゥーゴルゴンはこちらを素早く見た。
その瞬間、石化の光線を放ち弾丸を避けた。
当たる寸前で弾丸は石になって何処かへ飛んでいった。
「ちっ!外したか!」
「うそ…あれを避けるの!?」
フェルナンドとカレンはスナイパーライフルをすぐに仕舞い、アサルトライフルへ切り替えた。
「やるなぁ…耳が良いとは聞いていたが、撃った瞬間に気づかれたか」
キエエエエエエーーーーー!!
奇妙な声を上げながらメドゥーゴルゴンは一気に、こちらへ距離を詰めて来た。
「速い!!来るぞ!距離をとれ!」
木々があるにも関わらず、50mほどの距離を5秒くらいの物凄いスピードで木々の間を縫って向かって来る。
フェルナンド達を射程に捉えたメドゥーゴルゴンはその場で石化光線を出しながら止まった。
パキパキパキと音を立てて、その辺の木々が石になっていく。
クイン、フェルナンド、カレン、クラウスはすぐに範囲外へ離脱する。
タタタタタタン!
タタタタタタタタン!
フェルナンド、カレンは、アサルトライフルを撃ちまくる。
2人が撃った弾丸はメドゥーゴルゴンの皮膚を傷つける事は出来ても、全く致命傷を与えることが出来ない事を知った。
「これじゃあダメか…カレン!避けるのに専念しろ!」
「ダー、わかってる、でもなんとかクインちゃんの攻撃の隙を作らなきゃ」
2人はアサルトライフルを腰に構えつつ、避けるのに専念した。
クインは、今か今かと隙を伺っている。
フェルナンド達3人は間合いを取りつつ銃を撃っていた。
石化光線が当たる間合いを詰めて来るが、上手く3人はその当たらない距離を保つ。
クラウスも、フェルナンドさんとカレンさんも流石の連携をとっている。俺達がいる後衛の方に行かないように上手くメドゥーゴルゴンを誘導しながら戦っている。
最初は正面に居たメドゥーゴルゴンは俺達に背中を見せていて、クラウス達は反対側にいた。
耳が良いのは分かっているので、俺達は茂みに隠れながらみている。
俺の圧縮水で作ったウォーターカッターは、すでに左手の掌の上に出来上がっていた、後はタイミングを見計らって放つだけだ。
クインは透明化して何処かへ潜んでいるようで、俺にも何処にいるのかは分からなかったが、確実に殺れるダイミングを見計らっているのだろう。
『いいか皆、スタングレネードを使う、俺が合図したら目と耳を塞げ!良いか?』
フェルナンドさんからの念話が全員に対してそう聞こえた。
『はい!』
『うん』
皆の頷く声が聞こえた。
スタングレネードとは、非殺傷で激しい光と音で敵を攪乱する手榴弾の事である。
フェルナンドは銃声でスタングレネードを放り投げる音を掻き消す方法をクイン、カレン、クラウスに念話で告げた。
フェルナンドは一度目の合図をクラウスとカレンに指示した。
タンタタタタタタタタタン!
タタタタタタタン!
タタタタタタタタタタタ!
3人は、一気にアサルトライフルを首から下へ撃ちまくる。
メドゥーゴルゴンはそれは効かないぞと言わんばかりに仁王立ちしている。
『行くぞ!!』
銃声でグレネードが落ちる音を掻き消し、フェルナンドはすでにピンを抜いてあったスタングレネードをメドゥーゴルゴンの足元付近に投げ込んだ。
前衛の3人はすぐに目を瞑り、耳を塞ぎ。新達、後衛に居る者は、新が4人を囲むように防音の結界を右手で張っていた。
3秒後、大きな光と轟音に包まれた。
メドゥーゴルゴンは、きょろきょろと何が起こったのか驚いて錯乱していた。
今、敵は盲目になり、耳が良ければ良いほどこれは効いているはず。
その隙を逃さず、クインはメドゥーゴルゴンの背後に転移し、無属性魔法で自分の腕から大きく刃を作り振りかぶった。
混乱したメドゥーゴルゴンは闇雲に石化光線を放ちまくる。
クインの攻撃はメドゥーゴルゴンの首を捉えた。
ザシュッ!
「くっ!浅い!」
クインの攻撃はその首を半分ほど切断しただけだった。
混乱しているメドゥーゴルゴンがウネウネと動き回ったため、狙いがずれたのだ。
もう一度、刃を作り攻撃を重ねようとしたが、流石に首の衝撃を受け、後を振り返り光線を出して来た。
クインは次の攻撃をする事なく回避するが、その素早い攻撃に尻尾だけが石化してしまった。
しかし、その瞬間メドゥーゴルゴンの首は撥ね飛んだ。
止めを刺したのは、クインが失敗した時のために準備していた新のウォーターカッターだった。その、ウォーターカッターは首を跳ね飛ばした後に、魔力操作でUターンして胴体を更に真っ二つに切り裂いて消えた。
メドゥーゴルゴンの首は地に落ち、二つになった胴体もその場に崩れ落ちた。
「oh!、やったな!」
「 great!!」
フェルナンドとカレンは、振り向いて新へ親指を立てそう言った。
メドゥーゴルゴンがダンジョンへ吸収されて行くに従って、その辺の石化された場所が元に戻っていく。
クインも、くるんとした尻尾の石化が解け、尻尾を震わせ確認していた。
「ふー、なんか気の抜けない相手でしたね…」
「だなぁ」
「クインの尻尾の石化も解けたし、これでホワイトワルキューレの石化も解けているでしょうね」
俺の言葉を聞いて皆、頷いた。
俺達は、ホワイトワルキューレとグランアレグリアの待つセーフエリアへ向かった。
◇
セーフエリアへ辿り着くと石像はまだ残っており、新達は戸惑う事になった。
「これは…どういう事ですかね?」
そして、腕を失った冒険者が悲鳴をあげており、グランアレグリアのヒーラー、ミジェットが治療を試みている姿だった。
すぐにレベッカは走って治療に入った。
「あ!アラタ殿、戻られましたか!」
「これは…」
「今しがた、石化していたジュデイト殿の石化が解けて、腕の傷から一気に血が噴き出して…」
バルゼスはそう説明した。
俺は、嫌な想像が頭をよぎった。
さっきのメドゥーゴルゴンを討伐してジュデイトさんだけが解除されたと言う事は、まだ石化している2体は別のメドゥーゴルゴンに石化されたという事になる…
「あいつ一匹じゃなかったって事か…」
フェルナンドがそう呟いた。
「そう…なりますよね…」
「なんてこった…」
「ふむ。もう一度やるしかないな、次はしくじらないから我に任せろ。フー」
俺達は少しの間、茫然としたがクインの言葉を聞いて装備を整えた。
ジュデイトは腕を失った痛みで気絶していたが、レベッカのヒールで殆ど傷口は塞がっていた。
「次は俺達も参加させてください」
バルゼスは、いきり立ちそう言った。
「いや、アレはお前達には無理だ、いくら一度倒したとは言え、お前達を守りながら戦うのは無理だ」
フェルナンドはバルゼスにそう言い放った。
「そ…それほど、大変な魔物なのですか…」
「済まないが、お前達が石化してそのまま何事もなければ良いが、もし攻撃されでもしたら、そこの腕を失うだけでは済まなくなる可能性もしくは、死ぬかもしれないからな、それほど危険なヤツだ」
「な…なるほど…」
バルゼス率いる、グランアレグリアのメンバーはそれを聞いて、何も出来ない自分達にイラついていた。
「でも…これで、メドゥーゴルゴンを倒せば後二人の仲間も元に戻る事がわかりました…、アラタ君…いえ、私にもアラタ様と呼ばせてください…負担を掛ける事になりますが、何とかこの二人を助けてください、生きている仲間と戻れたらこの御恩は必ず致しますので…」
「え…あ、はい…」
そうクラティスは、新達全員に胸に手を当て、深々と頭を下げた。
「ふむ、では、さっさともう一匹の討伐へ行こうか」
クインはそう言って、入り口へ歩き出した。
クインに続いて、俺達も続いた。
◇
クインは魔素と魔力の流れを感知して探索を始める。
「クイン、さっきの方法で構わないか?」
フェルナンドが前を歩くクインへ問いかけた。
「ふむ。あれは我も油断してしまった、次は敵の動きにも注意して刈り取ってやるゆえ、あの作戦でよかろう。フー」
「オーケー!」
作戦は先ほどと一緒で、前衛3人1匹、後衛4人で対処することにした。
暫く探索する事、クインがメドゥーゴルゴンを探知した。
俺達は静かに進みながらそれを目視で確認した。
「どうせ、気づかれるんだから派手にいこうぜ!」
フェルナンドは残り20mほどの所で合図を出して、カレン、クラウスと共にアサルトライフルで撃ちまくった。
先程と同じように、体の皮膚が若干傷つくも致命傷にはならない。
ぬるっと距離を縮めて来るメドゥーゴルゴン。
更に合図を出して撃ちまくり、スタングレネードを投げた。
ピカッ!!ドゴオオオオオオン!
激しい光と音が響き渡ってその音が消え、目を開けるとすでにクインが首を刈り取っていた。
首はドサッと地に落ちて、胴体は前のめりに倒れ込む。
今回の討伐はあっさりと決まった。
そして、100m先から今の音でやってくる、もう一体のメドゥーゴルゴンを探知した。ひょっとしたら、あの二人を石化したのは、今のではなく、そいつかも知れないので討伐する事にした。
この討伐では、少し戦い方を変えてみた。
最終的にはスタングレネードを使うのだが、新が土魔法で壁を作って石化光線を遮断を試みた所、厚さ1mほどの土や氷の壁なら石化光線を受け止める事が出来たのだ。
それから、石化光線も10回ほど放射した後に、2分ほど休憩しないと石化光線を放射出来ない事も分かった。
余裕の出来た俺達は、そうやって検証してから、討伐したのだった。
そして、俺達はセーフエリアへ戻ることにした。
◇
セーフエリアの岩場に近づくと、笑い声や泣き声の両方が聞こえて来た。
俺達が、入り口から戻ってくると、クラティスさんが俺にいきなり抱き着いて来た。
「うわああああん…有難う…有難う…ぐすっ…有難う…」
周りを見ると、石化していた残りの二人も、それが解けたようでこちらを見て笑みを浮かべていた。バルゼスやリン、グランアレグリアのメンバー達も、涙を浮かべたまま微笑んでいる。
抱き着いているクラティスさんは、暫くして俺から少し離れて涙を拭いた。
出会った時のクラティスさんは気丈な人だなと、俺は見ていたのだが。
石化していた仲間が元に戻った事で、張り詰めていた感情が一気に開放されたのだろう、今は涙を拭きながら笑みを浮かべて、俺達を見ている。
「元に戻ったのですね、良かったです」
俺はまず、そう言葉を掛けた。
「今回我らだけでは、とても解決出来なかったと思います…ディファレントアース、アラタ殿が来てくれて本当に良かった!」
「はい、アラタ様達がいなかったら、私達も石化して大変な事になっていたかも知れません…本当に良かった」
バルゼスとリンは先に俺達に激励の言葉を言った。
そして、クラティス、キャスカが前に出て口を開いた。
「アラタ様、ホワイトワルキューレを代表してお礼を申し上げます、本当にありがとうございました。仲間はリーダーを含めた3人を失いましたが、あのままではジュデイト、ハーマリー、アミンまで失う所でした…」
「はい、それとレベッカ様の治療のお陰でジュデイトの切断された腕の傷もすぐに塞がり、助かりました」
2人がそう言って頭を下げた後に、続いて後ろに控えていた3人も軽く頭を下げた。
「はい…、でも…俺達はシュクロスさんの依頼で貴方達を救出で来ました、戻るまでが依頼なので、地上に戻ってから生還を祝い合いましょうか、ははは…」
俺は照れ臭くそう言った。
「そ…そうですな、アラタ殿が言うのが正しいですな、ここから戻る時にはダンジョンも変化を遂げる時期でしょうからな…」
バルゼスは納得したようにそう答えた。
「ふむ。我が居ればそれには問題あるまい…。フー」
クインはそう言って鼻息を吹いた。
石化したホワイトワルキューレの3人を助け出した俺達は、急いで帰還の準備に入るのだった。
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