第108話 W・ワルキューレ
クラティスに続いて、クイン、クラウス、フェルナンド、瑞希、マイティが、先頭を静かに走る。
時折、蟲系の魔物が出るが、瞬殺していく彼らにクラティスは少し驚いていた。
30分ほど進むと、岩場に隙間の空いた場所があった。
「この中よ、さ、入って」
クラティスはそう言って石像を抱えているバルゼスを誘導した。
バルゼスは、石になったアミンと言う冒険者に気を遣い少し屈みながら、その中へ入って行った。
俺達は皆が入るまで外を警戒し。
最後にディファレントアースの面々がその岩場へ入るのだった。
◇
その場所は、何故か落ち着く場所だった。
岩肌で出来たドーム型のようなその場所には、湧き水が溜まっている場所もあり、ヒカリゴケのような物でほのかに明るかった。
そしてそこには、バルゼスが担いでいる石像の他にも2体の冒険者の石像が置いてあった。
「ダンジョンの中にこんな場所があるとは…」
バルゼスはそっと石になったアミンをそっと下ろしながらそう言った。
「ええ…41階層以降のフィールドダンジョンになってから、セーフティエリアがいくつか存在する事がわかったの、私達は最初にこの場所を見つけてから探索するようにしていたのよ」
クラティスは、アミンの石像に外傷がないか全身を確認していた。
「これは…湧き水?飲めるのかな?」
新は、そう言ってその水を手ですくって匂いを嗅いだ。
「その水は飲めるわよ、何故か分からないけどこんな場所を用意してくれるなんて、ダンジョンも優しいわよね…、それより…貴方達、助かったわ…」
「いえ、クラティスさんも無事でなによりです、俺はディファレントアースのリーダーをしているアラタ・イセと申します、シュクロスさんの依頼でここまでやってきました」
「そう…、でも、無事と言っても…私と、そこにいるキャスカしか…生き残ってないわ…」
クラティスは俯き言葉を飲んだ。
「あの…何があったか聞かせて貰えますか?」
新は、暫くの沈黙の後にそうクラティスへ質問した。
「ここへ来る間、所々石になっている個所があったわよね?」
「はい」
「あれはこの階層に生息する魔物の仕業です…、あんなの戦う以前の問題だわ…私達も貴方達と同じように、途中で出会ったクランと共闘して探索をしていったの、でも…アイツに出会ってものの数秒で共闘していたクラン全員が石化してしまったわ…私達はそれを見て一度、散開して木々の影などに隠れたの…でも…」
クラティスはその時の事を思い出し言葉に詰まって、少し目に涙を浮かべた。
その後、言葉に詰まりながらも、その後の話を聞かせてくれた。
クラティスさんがアイツと言う魔物は、【メドゥーゴルゴン】と言う名で、頭には数匹の蛇が渦巻き、一つの大きな目と口があり、上半身は人間、下半身はナーガのような爬虫類系の姿だと言った。
その大きな目から光を放ち、その範囲にあった物全てを石に変えたのだと言う。
それで、前線に立って共闘していたクランは全て石化し、W・ワルキューレは散開し石化を逃れたが、戦いが長引くにつれ、前衛の者から石化してしまったらしい。
結局、後衛にいた魔法師のクラティスさんと、弓術師のキャスカさんだけがその難を避ける事が出来たのだそうだ。
それから、このセーフティエリアへ避難し、頃合いを見て石像になった仲間をここへ運んだと言う事らしい。
ここにある石像は、先程バルゼスが運んだアミンと言う剣士の石像、治療をしようと両手を何かに当てようとしている姿のヒーラーのハーマリーの石像、メイスを持ちで片腕のない魔法戦士のジュデイトだとクラティスさんは言った。
ジュデイトの石像の片腕はここへ運ぶ途中、魔物から隠れようとした時、何かに接触した拍子で割れ落ちてしまったと言った、その落ちた腕は床に落ちた直後にダンジョンが吸収してしまったらしい…
メドゥーゴルゴンは、その石化した石像をバリバリと頭から食べるらしく、この3人だけは他の冒険者を食している間に草や木々の深い場所へ隠し動かしていたようだ。
「ダンジョンが吸収しないと言う事は、彼女らはまだ生きていると言う事。二人で40階層まで戻る事も考えたけど…とりあえず、私達はここへ仲間の石像を運び込んで、助けを待つか戻るかはそれから考えようと思ったのです」
クラティスはそう語った。
「そ…そうなんですね…それはまた厄介な相手ですね…」
「はい…幸い、食糧の入っているマジックバッグは私が所持していたため、2人分ですし、飢えは凌ぐことが出来ていました…ここに湧き水もありますからね」
「なるほど…」
どうやら相当厄介な魔物が相手のようだ。
「アラタ、その魔物って何処かの神話に出て来るアレか?」
フェルナンドが新にそう聞いてきた。
「俺も思いました…確か、メデューサとかゴルゴンとか言われている、ギリシャ神話に出て来る奴ですよね?」
「oh,それそれ」
「俺、神話とか好きなんで知ってます、確か…ゼウスの血を引く英雄ペルセウスが鏡の盾を使って、鏡ごしに場所を確認して、首を落として退治したんです」
「ほう、そんなんだったか?」
「はい、ただ…メデューサの場合、目を見たら石化って事でしたけど、ここの魔物は目からの光で装備ごと石化していますからね…これは結構大変ですよ」
「むう…俺らがいくら強くってもその光線を浴びたらアウトって事だな…」
「そう思います」
新とフェルナンドは腕を組んで考えた。
「アラタ君…と言ったかしら?さっきから聞いていると、貴方、あれと戦った事あるの?」
「ああ…いえ、俺の世界の神話に出て来る魔物に似ている所があるんです」
「え?…俺の世界?…」
「まあ、それは良いとして…クラティスさん、アイツと戦った事はないんですよね?」
「そうね、もし経験があったらあんな正直に正面から戦わないわ…警戒していてもアレは無理だけど…」
「ですよね…問題はあのメドゥーゴルゴンを倒したとして、この石像が元に戻るかって所ですね…」
新の言葉にクラティスは沈黙してしまった。
「ま、どっちにしてもアイツを撃破しない事には安心して戻れやしないわけだし、討伐するしかないな!大丈夫だ、俺達は強い!」
フェルナンドはそう言って、地面にどすっと座った。
最初は、石化が解ける方法があるのなら、ここはスルーして40階層へ戻る事を考えたのだが…あのコカトリスなどの石化液を浴びたのなら、その解石ポーションで治せるのだろうが、この石化は少し違う、地上に戻って治す事が出来なかったら結局またここまで戻ってこないと行けない事を考えると、一か八か討伐して、石化が解けるか試してみた方が良いと考えた。
ただ、俺達がいくら強いと言っても、その石化光線を浴びると不味い、下手に立ち回ると、レベル無視で殺られるパターンになりかねない。
もし、討伐することが出来たとして、この石化が解けなかったら仲間を失う事になりかねないから慎重に事を進めなければならないと新は思った。
クラティスさんの話だと、デカい目をしているが目はそんなに良くないらしい。
しかし、動きも素早く、耳が良く、動く物を認識すると、石化光線を放つと言う。
「クラティスさん、その石化光線ですが、どのくらいの範囲まで届くのかわかりますか?」
「そうね…結構広いと思うわ。距離は5mって所かしら…」
カレンが紙とペンを取り出して、クラティスに詳細を聞きながら範囲を計算していた。
「体の大きさ、目の大きさ形からしてこんな感じね」
カレンが計算した範囲は、目が少し飛び出ているため前方横幅約160度、上下約100度、距離は5mを予測しての範囲を皆に説明した。
そしてフェルナンドが立ち上がり口を開いた。
「じゃあ、作戦はこうだ。俺達がその範囲に入らないように距離を保ちつつ引き付けて、瞬間転移出来るクインが奴の背後から首を落とすで良いんじゃないか?」
「ふむ。よかろう、フー」
そっか、クインは見える範囲の近距離なら瞬間転移が出来る、それなら近づいて首を狙うなんて考えなくても大丈夫だ。
皆で入念に作戦を話し合った。
地形的に人数が多いと、動きも鈍るし敵の誘導がバラけてしまう事を考えて、この作戦は俺達、ディファレントアースが請け負う事になり、クラティスさん、キャスカさん、グランアレグリアの面々はここで待機する事となった。
俺達は、早速、メドゥーゴルゴンを討伐するため、セーフティエリアから外に出た。
◇
「ふむ。こっちだ、フー」
クインが魔物を探知して俺達を先導した。
進む間も、至る所に石と化した木々が存在していた。
更に進むと、石化している箇所がもっと多くなってきた。
「ふむ。近いぞ…他の魔物よりもひと際、存在感のある魔物がおるな、フッフー」
クインはそう言って鼻息を吹いた。
暫く進むと魔物同士が争いをしている場に遭遇した。
「あれが…メドゥーゴルゴン…」
フェルナンドは双眼鏡を取り出しそう言った。
「他に戦っている魔物は…鑑定では【マーダーエイプ】と出てますね」
新は鑑定でその相手の魔物を確認した。
どちらも体も大きくメドゥーゴルゴンとマーダーエイプが争っている場所の木々は倒れ、所々が石化していた。
しかも、よく見ると、マーダーエイプは2体いた。
そして、間もなくマーダーエイプの1体が石化光線に捕まり、石化してしまった。
もう一体がメドゥーゴルゴンの背中に飛び付き、頭の蛇を掴み引きちぎろうとしたが、その蛇はにゅいっと伸びて引っ張られていた頭が緩くなり、顔が後ろに180度回って石化光線を出した。
すぐにマーダーエイプは手を離し、飛び避け離脱しようとしたが遅かった。
飛び退いた拍子だったため体半分が石化して地面に落下した。
ガグルルルル…
下半身が石化したマーダーエイプは地面に伏せたような姿勢になっている。
キシシシシシシ…
メドゥーゴルゴンは勝ち誇ったような声を出して石化光線を浴びせた。
完全にマーダーエイプは石化してしまった。
メドゥーゴルゴンは一気に石化したマーダーエイプの頭へ噛り付いた。
バリバリと石化したマーダーエイプを頭から喰らっていく。
頭を完全に食べ終えると、頭部だけ亡くなった石像を捨て、もう一体のマーダーエイプの石像へ向かった。
「すげえな…でも、見る限りカレンが計算した範囲で間違って無さそうだな」
「ええ…あああ…頭を失ったあの石像…石化が解けてダンジョンに吸収されていきますね…」
新とフェルナンドは双眼鏡を目から離した。
「ふむ。ヤツは石化させてから頭だけを食すようだな、あの光線さえ浴びなければ大した敵ではあるまい、我に任せよ、フー」
クインはそう言った。
「この辺にはアイツのお陰で他の魔物はいなそうだし、さっさと討伐作戦開始しますかねぇ」
フェルナンドはそう言って、屈んでいた腰を上げた。
俺達は、皆、戦闘態勢に入り作戦をもう一度確認した。
素早く動ける、フェルナンド、カレン、クラウスが範囲に入らないよう前衛で引き付け、クインが背後から首を切断する作戦だ。
新、瑞希、レベッカ、マイティは、後方待機だ、万が一他の魔物の出現や、当初の作戦、3名と1匹が失敗した時の保険だった。
新は後方からヒュドラを切断し、倒した時の水の圧縮円盤を作る事にした。
クラティスさんの話だとメドゥーゴルゴンは、かなり素早いと聞いている。
この魔法は水を圧縮させるのに少し時間がかかるため、前衛が引き付けている間に具現化させる事にする。
「さあ、やろうか」
フェルナンドとカレンはそう言って、スナイパーライフルを構えた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます