第107話 石像

 新達とグランアレグリアメンバーは、ヒュドラを撃破して、奥にある転送部屋を素通りして41階層への階段を降りていく。


「ここからは、私達は勿論、Aランク冒険者でもあまり立ち入る事はない階層になりますね」


 リンがそう説明した。


「うむ、なんせ、大体40階層あたりで食糧も限界になり、先程のクラン、ハイアキュレイトみたいにヒュドラまで倒したら帰るのが定石であるからな…、昔にアルカード最強のクラン【ナイト・オルフェーヴル】が50階層まで到達したと言う記録が最後だったはずだが…」

「へえ…バルゼスさん、その記録ってどのくらい前の話なんですか?」

「確か、150年ほど前だったでしょうか?50階層へ到達はしたものの、パーティの2名を失い、40階層の転送部屋まで戻り、生還したと聞いております」

「じゃあ、守護者部屋までは行ってないのですね?」

「だと思います」


 リンに続いて、バルゼスはそう説明してくれた。


 41階層へ足を踏み入れると、そこは迷宮タイプの階層ではなくフィールドタイプの階層になっていた、上を見上げると星空があるかのように、うっすらキラキラした物が天井を覆っていて、目の前には大きな木々が鬱蒼と生えている。


「うわぁ…こんなとこにジャングル?」


 瑞希がそう呟いた。


「ふむ…これはかなり広い…魔素の流れが上の階層までとは、まるで違うようだな、フー」


 クインは息を吹いた。


 皆、周りを見渡していた。

 森の中からは、ギイギイとか、雄叫びのような声が微かに聞こえて来た。


「これは…地図の作りようがないのぉ…」


 そう言ったのは荷物持ち担当のメドーセルだ。

 迷宮タイプなら今まで通り地図をある程度作っておけば、戻る時に楽が出来るのだろうが、確かにこれでは地図の作り用がなかった。


「ふむ、魔素の流れが正確にはわからぬ…進みながら探るしかないぞ、フッフー」


 フェルナンドは、地球のコンパスを取り出して見たが、コンパスはくるくると回って役に立たなかった。


「やっぱ無理か」


 クインは歩き出し前へ進む。


 ◇


 何とか、クインの探知で43階層への階段までやって来た。

 ここまでの道のりには時間を要した。


 迷宮タイプの階層は、1時間あれば次の階層への階段へ辿り着くことが出来たが、このフィールドタイプの階層では、魔素の流れが不規則で探知が得意なクインですら迷っていた。

 更に、41階層からの魔物は強力で、爬虫類系や蟲系の上級魔獣が多く、360度、気を付けながらの道中だった。

 そして、ここまでで他の冒険者に会う事はなかった。


 一行は、下層への階段で休憩する事にするのだった。


「ふう…やっと次の階段か…これは大変だ」


 新はそう言って、階段に腰を落とした。


「41階層からここまで約7時間か…」


 フェルナンドは腕時計を見てそう言った。

 新は、マジックボックスへ手を突っ込み、食事の準備に取り掛かった。


「リンさん、この先って冒険者があまり立ち入ってないと言っても、行った人はいるんですよね?その~、最強のクランって人達以外にも」


 瑞希は紙コップへ水を注ぎ、リンへ渡す時にそう聞いた。


「そうですね…3日でダンジョンが変わるので先人の人達の話も聞いても仕方ないのですが…確か…フィールドタイプのダンジョンの噂は聞いた事あったのですが、来てそれを思い出しました…」

「ふ~ん…」


 リンはそう言って水を飲んだ。


 ゴク、ゴク…


「ぷはっ、だから、さっきもバルゼスが言っていたけどクラン、ナイト・オルフェーブルの記録も実際50階層まで行ったのか?…何て物は本人達しか知りませんし、その後も結構有名なベテランクランが先の記録に挑んではいる物の、50階層の守護者の話なんて聞いた事ありませんね」

「じゃあ、私達が突破したら最高記録って事に…」

「お~い、瑞希…俺達はダンジョンに挑戦しに来たわけじゃないつーの…ほら、食事持って来たよ」


 新は、食事の準備を終えて、瑞希とリンに唐揚げ弁当を持って来た。


「あ!新、うん、わかってる、クラティスさんの救出だよね」

「ああ、早く見つけて戻らなきゃな」


 新の言葉に瑞希とリンは頷き、そのままリンは下を向き俯いた。


「アラタ様…クラティス様達は本当にこの先まで行っているのでしょうか?…実は、もっと上の階層で…」

「リン、縁起でもない事言うんじゃない!」


 そう言って近づいて来たのはバルゼスだった。


「今までのシュクロス様への恩に報いるためにも、必ずクラティス殿を見つけて連れて帰るぞ」

「バルゼス…わかっている、本当はシュクロス様が一番ダンジョンに入りたいのだろうけど、あの方はダンジョンとは相性が悪いからね…私達が何とかしなきゃ」

「え?シュクロスさんってダンジョンと相性が悪いの?」


 きょとんとして俺は二人に聞いた。

 バルゼスは口を開く。


「あの方は不死族とは言っても、それは地上ではの話です…あの方は多くの知識はありますが冒険者には向いてはいないのです」

「そう、不死族のため身体を鍛える事も無意味ですし、不死族がダンジョンに挑んだらどうなるのか分かりませんが、身体がバラバラにでもなったらダンジョンに吸収されてしまいますからね…多少魔法を使える平民がダンジョンに挑むような物です」


 バルゼスの後に続いてリンがそう言った。

 確かに、不死族の身体がどうなっているのか分からないけど、一度死んでしまって、再生にどのくらいかかるのか未知数だし、再生する間、死人と見なされてダンジョンに吸収されかねないのかも知れないな…


 それから、ここにいる者達は仮眠を交代で2時間ずつとる事にした。


 ◇


 2時間の仮眠だったが、十分疲れが取れた。

 2パーティいると言うのは心強い物だと思った。


 皆は荷物を纏めて、新のマジックボックスへ仕舞いこんだ。


「さて、先に進みますか」


 バルゼスはそう言って戦斧を肩に担いだ。


 43階への階段を下っていく。


 43階層へ踏み入れるとまた鬱蒼と森が広がっていた。


「はぁ…またジャングルかよ…」

「ふむ…この階層、何か雰囲気が違うのぅ、フッフー」

「ん?そうかあ?変わらないような気がけどな…」


 フェルナンドがげんなりしている隣でクインは鼻を吹いてそう言った。


 クインに続いて皆歩き出す。


「ん?あれは何だ?」


 クラウスが早歩きで見に行ったその場所には、石の彫刻のような木が立っていた。


「こんな所に彫刻があるなんてな…」

「それ、本当に彫刻か?やけにリアルだな…」


 クラウスとフェルナンドはその石で出来た木の彫刻に触れていた。


「ダー、向こう見て、人影!」

「ん?」


 カレンが指を差したその場所を見ると、木々に隠れるように、人のような影が見えた。


「ふむ。それは人ではないぞ…フー」


 皆は身構えたが、クインの言葉でもう一度、目を凝らしてそれを見た。


 クラウスとフェルナンド二人は、そっと人影のような物に近づいた。


「うお!これは‥‥」

「石化した人なのか?…」


 そこにあったのは、何かから慌てて逃げるような姿の石像だった。


「魔物に石化させられた冒険者か?」


 クラウスはそう言って石像を調べていた。


「となると、この辺に生息している魔物は、コカトリスとかでしょうかね?」


 リンはそう言った。


「いや、しかし…この辺に来れるのはベテラン冒険者だ、コカトリス如きならそこまで苦戦もなかろう…しかも…その冒険者、装備まで石化してしまっている…コカトリスの吐く石化液は生物にしか反応しないはずだが…」

「じゃあ、バルゼスさ、他にどんな奴が石化させるって言うの?」

「リン、それを俺に聞かれてもな…、コカトリスの上位種や、別の魔物なのか…ここはダンジョン、予想もつかない魔物がいてもおかしくなかろう…」


 皆は、その石像を見ていた。


「その石になっちゃった人ってどうなるんですか?」


 瑞希はそう皆に聞いた。


「コカトリスの石化液が全身に廻る前に解毒ポーションを飲めば時間は掛かりますが治りますよ、でも…完全に石化してしまったら戻すのはかなり大変で、下手したら死んでしまいます…」


 その問いにリンが答えた。


「ん?皆これ見てみろ!!」


 クラウスが石像の首を指さした。

 石像の首に掛かっていた石化しているタグを見ると、そこには【W・ワルキューレ】と書いてあった。


「え?これって!!ホワイトワルキューレ!」


 そう叫んだ新は、その石化した人をよく見た。

 完全武装の装備しているためよく分からなかったが、よく見ると女性の冒険者だった。


「ふむ。石化しているだけで、生命は失ってはいないため、ダンジョンにも吸収されずに残っておるのじゃろう…フー」


 クインはそう言い鼻を吹いた。


「クイン、これってもし壊されたらどうなるの?」

「ふむ。勿論それは死を意味するな」


 新はぎょっとした顔をした。


「この方は…装備からしてクラティス様ではございませんな、クラティス様は魔法師ゆえ、こんな物々しい装備をしてはいまい…」


 バルゼスはそう言って周りを見渡した。


「む。皆、誰かが近づいて来るぞ…ここから50mほど離れてはいるが、こちらに向かって来ておるな、二人か?フッフー」

「生き残りの冒険者かな?」

「ふむ。かも知れんな…フー」


 俺達はその二人の冒険者がこちらに来るのを待つことにしたが、魔物に見つかるのも危険なので木々に隠れる事にした。


 50mとは言っても向こうも隠れ隠れながら向かって来ているようでこちらに来るのに時間は掛かった。


「はぁ…はぁ…、この辺だったはず…」

「あ!あった、早くアイツがいない間に運ぼう」


 その二人の冒険者は何かを探しているようだった。


 ガサガサ…

「「ひっ!!」」


 俺達が姿を現すと、二人は身構えた。


「何者!!」

「しーーーっ」


 大きな声で振り返った冒険者に俺は口に人差し指を当ててそう言った。

 二人は振り向き、一人は杖をこちらへ向け、一人は弓を構えていた。


「「クラティス様!」」


 そうバルゼスとリンは静かな声で叫んだ。


「え?…バルゼス…それとリン?」

「ああ、やっと会えました!よくぞご無事で」


 2人は武器を降ろし、警戒を解いた。


「貴方達…どうしてここに?」

「シュクロス様が何度もクラティス様の帰りをダンジョン入り口まで見に行っているのを見て、クラン全員で探しに来たのです。ぐすっ」


 リンはそう言って涙を零した。


「うむ、そしてこの方達はシュクロス様のお友達で、クラン、ディファレントアースの面々で御座います」

「わ…わかったわ…とりあえず挨拶は後にして、アイツが来る前にこの石化したアミンをセーフティエリアへ運ばなきゃ!」

「アイツ?」

「いいから言う通りにして」


 バルゼスは戦斧を新へ渡し、そっとそのアミンと言う剣士の像を抱えた。


 クラティスは、こっちとジェスチャーをして皆を誘導するのだった。



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後書き。

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