第106話 ヒュドラ戦

 クラン、ハイアキュレイトと別れを告げて40階層を進んだはずだったのだが。

 クインの探知で進む俺達について来る形となっていた。


 何度か魔物と交戦することになったが、火の粉を払う勢いで進む俺達に驚きつつ後をついて来るハイアキュレイトのメンバーだった。


 一直線に守護者部屋まで向かう事、約1時間が経った。


「ふむ。やはり、ここまでの道のりで彼女らの気配はなかったな、ふー」

「あのさ、一直線でここまで来てるけど、もしも、ダンジョンの端の方にいるとかは?」


 俺は、クインにそう尋ねた。


「ふむ、それもあるやも知れぬが…、我の探知能力は結構広いと思うのだが…」

「ダンジョンの階層ごとに隅々まで回るのは結構きついぜ?」


 クインの言葉の後にフェルナンドがそう言った。


「いや、今のルートでいなかったのなら、間違いないと思いますよ?死んでなければですが…」


 そう声を掛けてきたのは、後ろをついて来ていたハイアキュレイトのスレイダーだった。


「スレイダーさん」

「あ、なんか済みません…楽してここまでついて来てしまって…ははは」

「いえいえ、それは全然大丈夫ですよ、行く場所は一緒なんですから」


 新は、頭を搔きながら苦笑いしているスレイダーにそう言った。


「どんなパーティも、ダンジョンの地図くらい作りながら歩きますよ、勿論3日でダンジョンが変わるので、無駄になるかも知れませんが…でも、戻るつもりがあるのなら大体、同じルートを引き返してくるはずなので、その階層の規模にもよりますが、地図もあって、迷わなければこうやって1時間そこらでしたか?…には上の階層に戻る事が出来るはずです、いやあ、まさかこんな短時間で守護者部屋まで来れるとは本当に驚きました、はははは…」

「うむ、俺も今それを言おうと思っていた所でした」


 真顔になり話すスレイダーの言葉を聞いて、バルゼスもそう口を開いた。


「と言う事はやはり、ホワイトワルキューレはこの守護者部屋を突破した可能性があるって事ですね」


 俺の言葉に皆が頷いた。


「皆さん、私達は後から入りますので、どうぞ先に入ってください、結界の外から戦い方も参考にさせて頂きます」


 スレイダーはそう言って通路の隅にメンバーと腰かけた。


「じゃあ、入るか、本当にこの人数でやるんだなアラタ?」

「うん、クインも今の俺達なら大丈夫って言ってるし」

「うむ。油断しなければ、今の我らに適う敵はそうそうおるまいて、ふー」


 俺達は装備を確かめ、銃器にも弾を装填した。

 ハイアキュレイトは、見慣れない銃器を見て不思議そうな顔をしていた。


「よし、じゃあ、作戦はこうだ、ディファレントアースが7本を相手し、グランアレグリアが残りの頭を相手するでいいか?」

「うん」

「はい」

「あ、ちょっと待ってください、バルゼスさん達の武器にちょっと魔法を付与しても良いですか?」

「え?魔法を付与する?…」


 グランアレグリアのメンバーは、不思議そうな顔をして新を見た。


 まず、バルゼスの戦斧を手に取り、ハイアキュレイトに見えないよう、新は魔導筆を取り出し、ルーン文字を宙に描き、超振動をイメージした魔法を乗せて付与した。


「え?アラタ殿…何をなさっておられるんですか?…」

「はい、これでオッケー、バルゼスさん魔力を通してみてください」


 戦斧をバルゼスに返し、手に取ったバルゼスは言われる通り魔力を通した。


「おおお?細かな振動が来ますが…これが、何かの付与なんですか?」

「はい、まあ、使ってみてください!切れ味が数倍、変わってると思いますよ」

「むう…この…振動が数倍に?」


 それから次々に刃物系のメンバーの武器に超振動付与を施した。


「では、行きますか!」

「おう」


 15名と1匹は意を決して、守護者部屋へ同時に踏み込んだ。


 ◇


 大きな守護者部屋に入ると。

 入り口に結界が張られ、目の前には大きな黒い魔素が渦巻く。

 それが形となり大きな9本の頭を持つキングヒュドラが姿を現した。


「計算通りの頭の数だな」


 クラウスはそう言って両手に持っている武器に魔力を通した。

 完全に姿を現したヒュドラは9本の頭が同時にブレスを吐いて攻撃してきた。


 初撃の火、水、雷、風、毒液、酸液、など様々なブレス攻撃を皆は躱す。


 クインは瞬間移動で懐に入り無属性の真空刃で太い首の周り一周して切断する。

 それを見ながら、クラウス、フェルナンド、カレンが同じように懐から大きくジャンプして首に剣を突き立てくるりと一周剣と一緒に回り、首が落ちる。


 新は、掌に水を大きく作り、宝石の粒子をそれに混ぜて、風魔法でそれを高速回転させ高圧縮を掛けていた。

 瑞希もブレスを躱しながら大きく飛び上がり、斬馬刀で一気に振り下ろし、頭から胴まで斬り裂いた。


 マイティは遅れながらも、同じくブレスを躱し首の付け根付近に飛び付き剣を突き刺し、そのまま右へ振り抜いて、すぐに左へ斬り返したがまだ首は繋がっていた。


 グランアレグリアは、残りの3本の攻撃をなんとか躱しながら、懐へ飛び込み1本はバルゼスの大きく振りかぶった斧で切断寸前までダメージを当てていた。


 他のメンバー達も協力して2本の首をすでに落としていた。


 最後に、新の魔法が完成し、大きな圧縮した水の円盤が出来ていた。

 それを、無傷な首へ放った。


 その圧縮した水の円盤は大きな首をあっさりと切断し、そのまま風魔法で操り、方向を変え、マイティの狙っていた首の繋がっている部分を切断した。


 バルゼスは振り下ろした斧を、瞬時に残りの繋がっている部分へ切り上げ、こうやって全ての首が一瞬のうちに落とされたのだった。


 9本の頭を失ったヒュドラは動かなくなり、ダンジョンに少しずつ吸収されていく。


「ヒュ~、大した事なかったな!ハッハッハッハ!」


 フェルナンドは高笑いしていた。


「アラタ殿、いやはや…何ですか、この武器に付与された魔法は…」

「うん、ヒュドラが柔らかいパンを切っているみたいだった…力を入れなくても斬れたんだけど…」

「うむ、びっくりしたぜ、骨があったのかも分からなかったぜ…」


 グランアレグリアのメンバーは自分の武器を眺めながらそう言った。


「ああ…話すと長くなるから、説明は今度するよ」

「それと…アラタ様、あの魔法は何ですか?キラキラ輝いている水のようでしたが…」


 リンがそう新に質問してきた。


「ああ、あれはね、宝石を細かく砕いた粒子を水に入れて、風魔法で圧縮回転させて、水の刃を作ったんだ」

「圧縮?…刃?」

「ん~、水もね、圧を掛けて放つと金属に穴を開けることだって、切断させる事だって出来るんだよ、宝石を混ぜているのはそれが研磨剤の役目をするんだ」

「研磨剤って剣を研いだりするやつ、みたいな物でしょうか?…」

「そうだね、つまり、宝石や石などの粒子を入れる事で、摩擦力が上がって切れ味が増すって事、かな?まあ、ヒュドラの皮膚が別に硬いわけでもなかったから、今回、粒子入れる必要なかったかもだけど…」

「摩擦力?…なるほど…今度その魔法の原理、教えて貰っても宜しいですか!?」

「はい、いつでも教えますよ」


 リンは喜んで落ちている魔石などを拾いに行った。


「新…入り口」

「え?」


 瑞希にそう言われて入り口を見ると、目を見開き口を開いて、結界の外で立ち竦んでいるハイアキュレイトのメンバーがいた。


「はははは…そうなるよね」

「そう…よね…」


 俺と瑞希はそう呟いた。


 俺達は宝箱を確認することにした。


 クラウスが罠を解除して箱をあけると。

 金塊(大)10個、宝石(大)10個、魔石(大)10個

 それと、装備などのアイテムが5つ出て来た。


【翻訳スキルスクロール】


業火隕石落下メテオストライク魔法スクロール】


【ジャッジアイズ・ヒュドラ】魔法盾マジックシールド、魔鉱製:接触物感知の際、火、氷、毒3つの魔法を放射する事ができる大盾、自己修復


【ムーンサルト・シューズ】魔法靴マジックシューズ:敏捷+10%上昇、魔法吸収2%、魔力+2%上昇、自己修復


【ヒュドラバスタースピア】魔法槍マジックウェポン、魔鉱製:刃渡り1m、魔力使用時に更に1m刃を伸縮可能、敏捷+6%上昇、筋力+9%上昇



 クラウスと新は、鑑定したアイテムを皆の前で読み上げた。


「翻訳以外は、どれも使えそうな品ですな」


 バルゼスはそう言った。

 この大陸の言葉は、レベッカ達のオブリシア大陸とは異なる。

 新達は皆、翻訳スキルを身に付けているため、このレイアリグ大陸の人達とも普通に会話しているのだが、アルカードの町での今現在は、他の大陸との交通手段がないため、翻訳スキルは投げ売り状態だと言った。


「アラタ様、その魔法スクロールはどうぞ使ってください」

「え?ああ…いや俺はいいよ、リンさんにあげますよ」

「え…良いんですか?」

「はい、俺は…その魔法…多分使おうと思えば使えますし」

「ええ?メテオストライクをイメージ出来るのですか?それは…凄いですね…」

「ええまあ…」


 メテオなんて大体のファンタジーのゲームとかで出て来るあれよね。

 大体のイメージはわかっているのでリンにこのスクロールは譲ることにした。


 翻訳スキルスクロールは誰もいらないと言うのでマジックボックスへ仕舞った。


【ジャッジアイズ・ヒュドラ】

 この大盾は、盾の表面に数個穴が開いており、魔力を通すと任意の3種の魔法を放射出来るものだった。


 バルゼスは両手斧が性に合ってると言って拒否し、他のメンバーも重い大盾を使える者がいないと言う事で、フェルナンドが貰うと言った。

 俺達は、地球人かつグランドヒューマン化のお陰もあり、大概の物は普通に持てる。

 フェルナンドは大盾を構えて後前へとステップを踏んで遊んでいた。


【ムーンサルト・シューズ】

 何かの皮で作られている靴。

 魔法吸収2%と言う使えるのか分からないマジックが付与されているが、ステータスが2つ上昇する上に自己修復もついていて一生物になるだろう。


 俺達が貰っても良いんだけど、これはグランアレグリアの弓使いのラインドが貰う事になった。


【ヒュドラバスタースピア】

 普通の槍よりも刃渡りが大きく、剣の柄を槍の持ち手に変えたような形をしている。

 魔力を通すと更にその刃は伸びる、ヒュドラの太い首も一撃で切り落とす事が出来そうな槍で、筋力、敏捷と二つのステータス上昇のマジックも付与されている逸品だった。


 俺達のメンバーは、皆いらないと言うのでこれもグランアレグリアへ渡すことになった。


「さて、アイテムの配当はこんな物かな?」


 俺は、そう言って集めてあった小さな宝石や魔石をマジックボックスへ仕舞いこんだ。


「うむ、では、先へ進みましょうか、後ろのハイアキュレイトのメンバーも待っている事ですし」


 皆はハイアキュレイトのメンバーに手を振って奥の間へ歩き出した。


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