第105話 アルカードダンジョン3
新達と、グランアレグリア一行は30階層の守護者を打ち破り、31階層へ下りた。
「35階層あたりからホワイト・ワルキューレを探しながら行きましょうか?」
「バルゼスさん、ホワイト・ワルキューレは、どの辺まで潜った事があるのでしょうか?」
「どうでしょうな…Aランク冒険者のパーティなら先ほどのケイオス・シャドウビーストは攻略法も確立されているので打ち破る事は出来ましょう、なので、いるとしたらここからもっと下層の方だと思います…35階層より上の方ならどうにかこの上の転送部屋まで戻って来そうなものですので」
新達はバルゼスの話に頷き、先を急ぐ事にした。
クインはここからは、周りで戦っている冒険者の気配にも注意すると言って歩き出した。
「因みになんですが、バルゼスさん達はどこまでこのダンジョン潜ったのですか?」
「うちのクランは、38階層まで行って食料不足になって引き返したのが最下層だと記憶しています…その時は、荷物持ちのメドーセルはいなかったもので…」
なるほど…
ボルボンダンジョンと違って、階層ごとの転送石みたいな物はないようだな…
まあ、ダンジョンだって生み出す魔物や人間を喰らって育っているわけだから、そう簡単に帰したくもないのだろう。
◇
35階層までは降りて来た。
「ふむ。ここまでの道中、冒険者の気配はちらほらと居たは居たが、ホワイト・ワルキューレの気配はしなかったぞ…ふー」
クインはそう言って鼻息を吹いて先導した。
「クイン、何でホワイト・ワルキューレじゃないって分かるのさ?」
「ふむ、女ばかりのクランと言っていたのでな、どんな亜人も男と女では魔力もそうだが、気配も違う。我はこのダンジョンに入ってからその辺を注意しておるぞ」
「へぇ…そうなんだ」
「うむ、冒険者は力の強い男の方が多い、女ばかりのパーティなら尚更分かると言う物よ、ふっふー」
クインは魔力の気配で性別まで分かっているらしい。
さすが獣と言うか…妖精だからか?
なんとなく納得して新は軽く頷いていた。
迷宮の通路も広くとても地下に潜っているとは思えない広さだった。
ダンジョンはヒカリゴケが壁にあるのかと思うくらい全体が薄くぼんやりと通路を照らしていた。
後と前にライトの魔法で光を作り進んで行く。
時折、中級の魔物が襲って来るが、俺達の敵ではない。
前方は出会う魔物をディファレントアースが処理し。
後方は、追って来た魔物をグランアレグリアのメンバーが切り伏せて行く。
◇
39階層への階段までやって来た。
ここまでに、ホワイトワルキューレの気配は感じなかったとクインは言っていた。
少し疲れたので、この階段で休憩することにした。
すると、この広い階段には、冒険者パーティが新達の他に1組が休憩していた。
何故かわからないが、ダンジョンの中でセーフエリアの次に各階層の階段は比較的安全なのだとバルゼスは言っていた。
階段に腰を落とすと、向こうのパーティがこっちに手を振ったので、こちらも数名手を振り返していた。
「ここからは俺達も初の領域になります、気を引き締めて行かねば」
バルゼスはそう言ってマジックバッグから人数分水筒を取り出しメンバーに配って、水分を補給した。
「じゃ、俺達も休憩と行くか!さすがに腹減った…」
フェルナンドはドスっと座って腹を擦った。
俺は事前に寸胴で大量に仕込んでいた、まだ熱いくらいのカレーをマジックボックスから取り出し、床に置いた。
その場にカレーの匂いが広がっていく。
「な…なんですかな…この危なげな色のスープは…」
「何?…良い匂い~」
バルゼスがカレーの入っている寸胴を覗き込んで不思議そうな顔をし、リンが匂いに釣られて近づいた。
「カレーって言います、食べます?スパイスが効いているので元気が出ますよ」
瑞希が紙の皿にご飯をついで、俺はカレーをそれにかけて行き、クインを除く15人分カレーを用意して、クインは甘い物が良いと言うので、どら焼きをいくつか置いてやった。
フェルナンドとクラウスが、同時に一口食べた瞬間、美味しそうな顔をしているのを見て、グランアレグリアのメンバー達も生唾を一旦飲み込んで一口食べた。
「美味い!!」
「この料理、見た目はブルスープよりもドロドロしているが…これは美味い…」
「おいし~」
皆、満足してくれているみたいだ。
「新…後…」
「え?」
新が後を振り返ると、立ち竦んだもう一組の冒険者パーティが涎を垂らしながらこっちを見ていた。
「あ…、ご一緒に食べますか?」
「良いんですか!!!」
「有難い!!」
凄い勢いで、その冒険者達は頷いた。
どうやらその冒険者達は【ハイアキュレイト】と言うAランククランで、大量に持って来た食料も、硬いパンが2日分残っているのみと言っていた。
40階層突破して帰還する予定だと言った。
アルカードでは有名なクランだとバルゼスは新に教えた。
「美味すぎる…こんな所で温かい栄養の摂れる物が食べられるとは…」
「リーダー、栄養ってこれ食べたことあるの?」
「いや、初めてですよ…」
「だと思った…初めて見る料理ですもの…でも、ぴりっとして、元気が沸くね」
「この白い粒は…米か?こんなに白い米は見た事がないが…」
「美味けりゃ何でも良いさ」
そう言ってハイアキュレイトメンバーも、飲み物かと言うくらいの速度で食べ切ってしまい、ここにいる全員のおかわり地獄で、寸胴で仕込んでいた50人分のカレーと、白飯は底をついてしまった。
「新、あんたのマジックボックスの中にまだ食料あるの?」
「ああ、一応、唐揚げもハンバーグとか、同級生の川村総菜屋の売れ残りを買い取った物があるし、適当に仕込んでおいた物なら結構あるよ」
耳打ちして聞いてきた瑞希は、ほっとして頷いた。
俺と瑞希はその後、マジックボックスから20リットル入りの水を取り出し、紙コップに注いで皆に配った。
「この先の守護者は確か…」
「キングヒュドラです!」
バルゼスが呟くと、ハイアキュレイトのリーダーらしき人物がそう言った。
「あ、料理に夢中で紹介が遅れましたね、私はこのクランのリーダーをしています、スレイダー・アレクスと申します」
その後メンバーの紹介を軽くしたが、8人パーティでリーダーの彼はエルフで魔法師だと言った。
「スレイダー殿、俺は、グランアレグリアのリーダーで、バルゼス・ロゼータと申す、こちらは」
「俺はクラン、ディファレントアースのアラタ・イセと申します」
「グランアレグリアは聞いたことありますね、確かシュクロス様の側近冒険者をしていますよね?」
「覚えて貰っていたとは光栄です」
「ディファレントアースは…すみません、初めて聞くクランのお名前です…」
「ああ…いえいえ、俺達アルカードのクランじゃないので、知らないのも無理ないと思います」
「え?アルカード以外からとは…」
「ああ…それより、そのキングヒュドラの話なんですけど…」
新は、話がややこしくなる前に話を切り替えた。
「あ、そうでした!キングヒュドラは、ドラゴンのような頭が複数ある蛇のようなやつです」
大体、それは名前で想像できた。
ヒュドラってゲームとか漫画でよく出て来る、ギリシャ神話のモンスターだよね。
「ひょっとしてですけど…異常な回復力があったり、切ったら首がまた生えてくるとかって奴じゃないですよね?」
新はそうスレイダーに聞いた。
「お、よくご存じで!我々も今回が2度目なのですが、攻略法は5本ある頭を同時に切り落とすか破壊する事にあります」
「あ、やっぱり?…」
「ど…同時にですか…5本の首があり驚異的な回復力があるとは、噂に聞いておりましたが…ぬぬぬ」
そう言ったバルゼスは腕を組み考えた。
俺は、何かのゲームでヒドラが出てきて全部の頭のHPを削り、最後に全体魔法で倒すと言うのをやった事があったので何となく覚えていた。
「ただ…問題がありまして」
スレイダーは苦笑いしてそう言った。
「む、問題とは?」
バルゼスがそう疑問を投げかけた。
「他のクランから聞いた話ですが…人数に応じて頭が増えるらしく…」
「は?」
「えええ?」
バルゼス達も新達もポカンと口をあけた。
「頭が増えるとはどう言う?」
「確認出来ているのは、8人まで守護者部屋に入った場合と言うか、6人でも7人でも頭は5本です…が」
「が?」
「前に、10人で入ったパーティが全滅したらしいのですが6本頭があったとの情報がありまして…貴方達のパーティは人数が多いのでひょっとしたらと思ってます…」
皆、少し沈黙した…
「で、でも…全滅したのに、何故その情報がわかったんですか?」
「ああ、そのパーティは元は11人だったようで、扉を開けて入った後、入り口に結界が張られますよね?あれに間に合わなかった方が1名おられたようで、結界の外から見ていたらしく…」
「その人はどうやって帰還したんですか?」
「後に来た7人のパーティに参加をお願いして、突破して帰って来たとか聞きましたが…最近の話です」
新は思った…
この人数で入ったら、どれだけヒュドラの頭が増えるのだろうかと…
そう言えば…30階層のシャドウビーストも通常より多かったみたいだし…
「15人と1匹で俺達が入ったら、どうなるんだろうなぁ…」
フェルナンドがそう言った。
「8人で基本の5本、10人で6本となると、2人につき1本…だとすると…16人で入った場合…9本かな?」
新がそう言うと皆、絶句した。
「heyアラタ、でもよ…こう思ったら楽じゃないか?2チームに分けて入ると、5本、5本を2回だが、1回で9本なら1本少なくないか?」
フェルナンドがそう言った。
「数で言えばそうでしょうけど…そんな簡単に行きますかね?…」
「うん、だって同時に倒さなきゃいけないんでしょ?」
リンが新の言葉に頷いてそう言った。
「まあ、連携が出来るのならその方法はありだと思いますよ、ようは倒すタイミングです、回復力が凄いと言っても切り落とした首が再生するまで1分と言った所だったでしょうか?…完全に同じタイミングでないと駄目ってわけではなかったと思いますので、後はあの太い首か頭をどう撃破するかです…勿論、ブレス攻撃なども仕掛けてきますので…」
スレイダーはそう言った。
「ふむ、アラタ、我達なら首が多少増えても問題あるまい、特に今の我らならな、ふっふー」
「つ…使い魔が喋った…」
スレイダーは喋ったクインに対して驚いていた。
「ああ…クインは使い魔ではなくて従魔です、こう見えても妖精犬です」
「妖精…」
スレイダー達は不思議そうな顔をしていたが、それ以上は聞いてこなかった。
クインの言葉で、フェルナンド、カレン、クラウスは自信がついたようだった。
マイティもレベッカも頷いて、新と瑞希も頷いた。
「じゃあ、15人と1匹でやりますか!」
「え?アラタ殿…本当に大丈夫なんでしょうか…」
「俺達が7本相手するので、バルゼスさん達は残りの2本…か、もしくは3本をお願いします」
俺は、もし10本の首が出た場合の事を考え、バルゼスさんにそう言った。
「相当の自信がお有りなのですね…では、そろそろ私達は行きます、貴重な料理、有難うございました」
「いえいえ、俺達も情報を教えてもらって助かりました」
新はそう言ってスレイダーと握手を交わした。
「あ、そうだ、スレイダーさん、ホワイトワルキューレ見なかったですか?」
「む?あの女性ばかりのクランですか?…それなら、2日前にどこかで会いましたよ」
「え?何処でですか!?」
「どこだったか…30階層をぬけてすぐだったような…」
2日前に30階層を抜けていて、そしてクインの探知に掛からなかったと言う事は、多分この先に行ったって事かな。どちらにせよ急ごう。
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