第104話 アルカードダンジョン2
クラン【ロサギガンティア】を見送った俺達一行は21階層へ踏み込んだ。
この階層から冒険者は疎らになっていった。
25階層を超えると、人の形に並んだ装備が転がっているのも見るようになった。
冒険者がそこで息絶え死体はダンジョンに吸収されたのだろう。
「なんか…ダンジョンってさ、死体とかが転がってないからグロい物、見る事ないけど…人の形で残った装備も中々、怖いね…」
瑞希は新にそう言った。
「そうか?俺はなんかもう慣れて来たよ、死体は残ってると悪臭とかあるから嫌だけど…」
新達はそんな雑談をする余裕すらあった。
この階層付近の魔物は、Bランクを超えているのに、地球人効果の上にグランドヒューマン化している新達一行には相手にもならなかった。
火の粉を払うように先へ進んで行く。
28階層への階段を降りようとした時、その階段で休憩をしている冒険者の中に見た事のある顔を発見した。
「むむむ!?、アラタ殿?」
「え…アラタ…様?」
「あ、バルゼスさんとリンさん!」
階段で休憩をしていたのは、シュクロス親衛隊冒険者のバルゼスとリンのクランだった。
「まさか、こんな所でお会いするとは!アラタ殿は力試しですか?」
「いえ…シュクロスさんからの依頼で、クラティスさんって恋人を探して来て欲しいと言われて…それと、バルゼスさんのクランも2日前にダンジョンへ入って行ったって聞いて追っかけて来ました」
「おおお、では俺達と目的は一緒ですな!」
バルゼスは明るい顔でそう言った。
「あの…アラタ様?」
「ん?何ですか、リンさん?」
「それは分かりましたが、アラタ様達って私達がダンジョンに入ってからすぐに追って来たんですか?」
「いえ?入ったのは4時間前くらいかな?」
新は右上を見て考え、大体の時間を答えた。
「え?…」
「4…時間…?」
「ん?」
クラン【グランアレグリア】はポカンと口を開けて各々顔を見合わせた。
「ま、クインのお陰もあるし、俺達の降りて来る速度が尋常じゃなかったわけで、寄り道なしで一直線のようなもんだからな」
フェルナンドがそう言った。
「一直線って…おい…」
「うん…迷わなかったとしても、魔物もいるし、守護者だって…」
バルゼスとリンは、呆れながらそう声を漏らした。
「はははは…まあ、俺達もそこそこ強いパーティだからね、あはは…」
「そ…そうですか、それは心強いですね…」
新は苦し紛れにそう答えた。
バルゼスとリンは、首を傾げていたが、とりあえずは納得したようで、階段にいたクランのメンバーを紹介してくれた。
バルゼスはリーダーで屈強な戦士である。
人間に見えるが実は獣人とのクオーターらしい。
リンはエルフ、攻撃魔法使いでもあり、神聖魔法も使えるのだと言う、両方の魔法を使いこなす冒険者はいない事はないが、一流の魔法使いである。
斥候のガズ、獣人男
剣士のミラン、獣人男
ヒーラーのミジェット、人間男
弓使いのラインド、エルフ女
ダガー使い、遊撃担当のジョリー、ホビット男
最後に荷物持ち担当兼、斧使いのメドーセル、ドワーフ男
グランアレグリアはこの8人構成のパーティだった。
俺達も一通り全員の紹介をして握手を交わした。
「この荷物持ちのメドーセルには、【ホワイト・ワルキューレ】を見つけた場合の彼女らの食糧を入れてあるんだ、俺達のマジックバッグには俺達用でパンパンだからな…」
「あ、そうなんですね、なんなら俺が持ちましょうか?マジックボックス空きがありますし」
「アラタ殿…ダンジョン潜る時はマジックボックス一杯に入れてこないと、もしもの事があった場合危ないですぞ?隅々まで食料を入れるのがセオリーですからな」
あ…俺のマジックボックスが無制限なんて言わない方がいいなこれは…いろいろと隠す事が多いなぁ…俺達。
そう新は思った。
「ああ…俺のマジックボックスは大なのでまだまだ入るんですよ」
「ほえ?…アラタ様、マジックボックス大持ちって…あまり聞きませんよ?生まれつきですか?」
リンがそう新に聞いてきた。
「はい、生まれつきです、はは…」
「それは…凄いですね、あ…アラタ様、ハーフエルフでしたね、それならあり得る…のかな?…」
「かな?…ははは」
新はリンにそう苦笑いで答えた。
新は、荷物持ちのメドーセルから大きなリュックを受け取り、マジックボックスへ放り込んだ。
「有難い、これで儂も戦闘に参加できるわい」
「いえいえ」
メドーセルは荷物持ちから解放されて、斧をくるっと回して準備運動をした。
「アラタ殿、休憩は宜しいですかな?」
「うん、別に疲れてないし先を急ぎましょう」
「了解しました」
クラン、グランアレグリアと共に、29階層へ降りた。
クインが、先頭で魔素の流れを読みながら先へ進む。
通路は広いのだが、この人数で行動するとなると少し縦長になり移動していた。
先頭はクイン、その後ろにフェルナンド、カレン、クラウス。
その後ろに、マイティ、レベッカ、瑞希。
その後方、新、バルゼス、リンで残りはグランアレグリアメンバーが殿を注意して進んだ。
何度か先頭でクイン、フェルナンド、カレン、クラウスが魔物と戦っているのだが、魔物を切り捨てる度に、バルゼスとリンが驚いていた。
後方のグランアレグリアメンバーは魔物の死体がダンジョンへ吸収される様を見てただけだった。
30階層へ下りると、さっきよりももっと広い空間が広がっていた。
「広くなりましたね」
「ええ、このエリアから魔物も強く通路も広くなります、この階層の守護者なんですが、【ケイオス・シャドウビースト】です」
周りを見渡した新に、バルゼスはそう言った。
「ケイオス・シャドウビースト?どんな魔物ですか?」
クインがこっちと首で合図したので、新は歩きながらバルゼスと話した。
「あいつの実態はよく分かりません…」
「実態が分からないって…」
「影に気を付けてください、奴は影から影に移動します、そして死角から襲ってきます、でも、安心してください攻略法はもう分かっています、ダンジョンの光よりも強い光を使って、影を一定の方向に合わせれば後は襲って来るタイミングを狙えば問題ありません」
「簡単…ですよねそれって?」
「そう思いますよね?勿論、ダンジョン天井の光も動くんですが…」
「はい」
「攻撃の仕方がタコのような軟体触手の時もあれば、強固な甲殻や金属、素早い獣のような触手など様々なのです、そして、何処かにある核を的確に壊さないと倒すことは出来ません」
「全部、燃やしちゃったりしてはダメ?」
「あ、火とか強い光を放つ魔法はダメです、そんな事をしたら影が違う方向に出てしまいます」
「ああ…なるほど」
「それと、燃え尽きる前に影に逃げ込まれてしまう可能性の方が高いです、それに…1匹ではなく複数いますので」
「じゃあ…どうやって…しかも複数いるのか…」
新は考えた。
「俺達が攻略するときは、背に強い光を置いて固り、前方に影を集中させ、攻撃される方を一カ所に置いて戦います、そうして、甲殻や硬い皮膚ではない攻撃のみ、核を探して倒すようにしています」
「それしか方法はないか」
新とバルゼスは歩きながら攻略について話をしていた。
すると、俺達の前を歩いていた、レベッカが聞き耳を立てていたようで後ろに下がって来た。
「アラタさん」
「ん?どうしたのレベッカ」
「その話なんですけど、その魔物って影がなかったらどうなるんでしょうか?」
「え?影がなかったらって…どうやっても光があれば影なんてできちゃうでしょ?」
「アラタさんの世界に無影灯ってあるじゃないですか?医療用とかでよく使うやつです」
「無影灯?…あの、手術で使うライトの事かな?」
「そうです!私もアラタさんの持って来た本でしか見た事はありませんけど、手術する時の手元の影が出来ないって凄くないですか?」
「ああ…なるほど、あれって無影灯って言うんだ?カレンさんなら医療の心得があるって言ってたし知っているのかもな?」
「かも知れませんね」
レベッカは俺にそう助言してマイティの隣へ戻って行った。
「影が無くなる?そんな事が可能なのですかな?」
バルゼスは首を傾げてそう俺に聞いた。
「うん、多分だけど多方面から強い光を当てる事で影を無くすって原理だと思います」
「ほう…そうなったら、奴はどうなるんでしょうかね…」
「どうなんでしょう…」
俺達が暫く話しながら歩いていると、守護者部屋の前に辿り着いた。
「ふむ。ここが、守護者部屋だな、ふっふー」
クインはそう言って鼻息を吹いた。
「クインご苦労様、カレンさん、ちょっと良いですか?」
「ん?」
俺はカレンさんに手術台のライトの事を皆の前で聞いた。
そして、バルゼスもこの守護者に関する事を話した。
「なるほどな、影から攻撃するとは卑怯な奴だな、まあ、そんな事しなくても俺達に掛かれば微塵切りだけどな!ハハハハ」
フェルナンドはそう言って高笑いした。
皆で話し合いをして作戦は決まった。
守護者部屋へ入ると天井に光が輝いていて俺達の背中に影が伸びた。
「行くぞ!アラタ!!」
「はいよ!」
新は大きく手を天に翳し強い光の玉を皆を囲むように展開させた。
それを徐々に広げていく。
一気に、新達の影は薄くなり無くなっていく。
それを天井まで押し上げ、まるで手術台の上のように中央が明るくなった。
「おおお…影が、無くなった…」
「凄い…」
グランアレグリアメンバーは皆、その光景に驚いていた。
膨大な魔力を持つ新だからこそ、この複数の強い光を生み出し維持できていた。
「あれ見て!」
瑞希が叫んだ。
すると、部屋に黒いスライムのような物体が20体ほど
そのスライムは、液体かと思えば甲殻に、甲殻かと思えば金属にと様々容姿を変えていた。
液体に戻る時に中に核があるのがよく見えたのだった。
「こんなに沢山…」
リンがそう呟いた。
「こいつら、この部屋に入る人数で変わるんじゃないのか?前戦った時は8体くらいじゃなかったか?」
リンの呟きにバルゼスはそう答えた。
潜り込む影がないので、シャドウビーストは戸惑っていた。
ザシュ!
クインが無属性魔法の鋭利な真空波で、コアが見えた瞬間を狙い一体を倒していた。
核を失ったシャドウビーストはその場でドロドロになりダンジョンに吸収されていった。
ザシュ!
音のした方を新が見ると、ダガー使いのジョリーが放ったダガーが核に刺さり、ドロドロに溶けていた。
「こりゃあ楽だ!へへ」
ジョリーはそう言って次の目標の核を狙っていた。
そして、戦闘はあっさり決まった。
影のない俺達に、影を使う魔物はなすすべなく散った。
宝箱が一つ出現してクラウスはその中身を確認する。
宝石、魔石の他にアイテムが入っていて、それを箱から出して並べた。
新とクラウスはそれを鑑定した。
【インビシリティローブ】
【シャドウインパクト】
【スプリントブーツ】
新は、鑑定結果を声に出して読み上げた。
「現場で鑑定出来るって便利ですわね」
「うむ、そして3つとも、なかなかのアイテムですな…」
リンとバルゼスが新の読み上げを聞いてそう言った。
「俺達には…必要ないな」
するとフェルナンドがそう呟いた。
「そうだね、グランアレグリアの皆さんにアイテムはあげます、その代わり、宝石と魔石は貰っても良いですか?」
新はそう言った。
「え?良いのですか?」
「ええ、ブーツは要らないし、この姿を消せるローブに似た物を持っていますし、斧使いもいませんしね」
「じゃあ、お言葉に甘えて…」
そう、光学迷彩布でいつでも姿を消すことは出来る、そしてあのスプリントブーツだが、グランドヒューマン化した時点で敏捷は桁外れになっているわけで、魔力を毎分全体の6%も消費するアイテムは、魔力の少ない者なら助かるのかも知れないが、新みたいな膨大な魔力を持った者が使っても魔力の無駄遣いになるのであまり良い品と言うわけでもないのだ。
グランアレグリアのメンバーは、そのアイテムを誰が取得するのか話し合っていた。
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