第103話 アルカードダンジョン

 新達は、シュクロスの恋人が所属するクラン【ホワイト・ワルキューレ】の救出依頼を受けアルカードダンジョンへ向かう事になった。


 先にバルゼスとリンが所属するクラン【グランアレグリア】も2日前に潜ったらしいがまだ連絡は来ていないのだと言う。


 ダンジョンはアルカードの町の中、シュクロスの建物がある場所から北へ行った大きな広場にあった。


 ダンジョンは無造作に大きく口を開けており、その前に小さな建物が立っており、ダンジョンの入り口を囲むように柵がしてあった。

 簡単にその柵は越えて入れそうだが、建物にいる記録係を通して入る冒険者がちゃんと並んでいた。


 新達7人と1匹もその列にしっかりと並んだ。


「しっかし…多いな、こんなにダンジョンに行きたがる奴がいるのかよ…」


 フェルナンドはそう愚痴をこぼした。


「アルカードの町は殆どが冒険者って言ってましたからね…ダンジョンは彼らの一番の仕事なのでしょうね」


 新はそう言った。


 暫く並んでやっと新達は記録係の前に到達した。


「はい、次、クラン名と冒険者ランクは?」

「ディファレントアース、ランクはAです」

「ディファレントアース…ね、聞かないクランだな、初めてか?」


 記録係は新達のクラン名を書きながらそう言った。


「はい、初めてです」

「そうか、気を付けて行けよ、知ってると思うが、死んだら死体はダンジョンに吸収されて骨も残らないからな!」

「はい、わかりました」

「とりあえず簡単に説明するぞ!3日おきにダンジョンは姿を変える、だから地図を作った所で無駄だ、上の階に戻るのならその日中に記憶をたどって戻る方が良い、後は守護者部屋の先に入り口への転送部屋があるのだが、床に魔法陣がある、そこに乗るとダンジョン入り口付近に転送されてくる、下の階にいくほど魔物は強くなる、無理はしないよう食料と自分達の強さを考えて挑めよ!」

「はい」

「次!」


 俺達は、ダンジョン入り口へ進んだ。

 その入り口はひとパーティが余裕で入れるくらいぽっかりと開いている。


「久しぶりだな~ダンジョン!くう、腕が鳴るぜ!」


 フェルナンドはそう言って腕を回しながら階段を下りて行った。


 ◇


 俺達にはクインがいるから、魔素の流れで下への階段はすぐに見つかった。

 道中たくさんの冒険者が魔物と戦っていた。

 さすがに、1~10階層は弱い魔物ばかりですんなり下りれた。


 10階層守護者は順番待ちが出来ていて、俺達もその列に並んだ。

 どうやら、倒された後10分ほどでボスが沸くらしく、さほど待つこともなかった。


 ここのボスはグレンデル亜種1体とグレンデル4体だった。

 ボス部屋に入った瞬間一瞬で終わった。


 フェルナンド、カレンが沸いた瞬間すべての首を撥ねたのだった。


「ちょ…」


 新は、ボス部屋の大きさを見まわして、敵を見たときにはすでにグレンデルの首が5つ転がっていて、軽い言葉を漏らした。


「さ、先を急ぐぞ、こんなとこにAランククランがいるはずはないからな!」

「はいはい…」


 新は、そう言うフェルナンドへ適当な返事を返した。


 宝箱が出現し、クラウスがそれを確認する。

 罠はないようで開けて見たが俺達には不要な物ばかりだった。

 宝石と魔石だけを回収して、使えない物は床に捨てた。


 一応、入り口への転送部屋を確認してから、11階層への階段を降りて行った。


 クインが先頭を駆け抜けて行く。

 新達も小走りについて行くが、クインとクラウス、フェルナンド、カレンが遭遇する魔物は切り捨てて行くため、後続の人間達に出番はなかった。


 一気に20階層の守護者部屋まで辿り着いた。


 流石に、10階層よりは冒険者も少なく、待っている冒険者は一組だけだった。


「お?新たなパーティが来たようだな?なあに、すぐに終わらせてやるから待っとけよ!ガハハハハ」


 待ち冒険者の一人、筋骨隆々な男がそう言った。


「じゃ、それまで俺達は休憩だな」

「ああ」


 フェルナンドと、クラウスがそう言って部屋の前の通路の床に座った。

 結界が張られた扉が開き、そのパーティは俺達に手を振りながら入って行った。


「しかし…ダンジョン歯ごたえがないな」

「ふむ、お主達はグランドヒューマン化と言う身体強化をして、我を凌ぐほどの力を身に付けたようだな、それは肌で感じ取れるわ…さっきから魔物が寄って来ないのもそのせいじゃろうよ、ふっふー」


 クインはフェルナンドへそう言い返した。


「ああ…俺達の気配で魔物が寄って来なかっただけだったって事か?」

「それもあろう、ふー」


 それから、30分ほど皆で雑談をしていた。

 すると、閉まっていた結界の扉が開いた、どうやら、さっきのパーティの戦闘が終わったのだろう。


 新達一行は立ち上がり、その扉の前に進んだ。

 扉を開き入り口に立つと、部屋の中に黒いモヤが一つの魔物を作り出した。


「あれが次のボスってわけか、デカいな」


 クラウスがそう言った。

 中を確認すると大きな仏像のような守護者が立っていた。


 大きな巨人で腕が6本あり剣を携えている、顔は3面あった。

 新が鑑定で見ると名前だけは見えた。

【コンゴウ・アシュラ】


「コンゴウ・アシュラ?」

「ふん、名前なんて何でもいいのよ、ミー達が駆逐してあげるわ」

「だな!アラタ、小型レールガンをよこせ!」


 新はマジックボックスから、MDS《マナードスーツ》にも搭載していたレールガンの小型版をフェルナンドとカレンに投げ渡した。


 この小型版レールガンは、イグルートがフェルナンドと一緒に開発した物だ。

 フェルナンド専用MDSに搭載されている物よりは威力は勿論落ちる、スナイパーライフルよりは強力だが、電磁レールが小型化の分、貧弱で精々撃てても2発が限界なのである。


「こう言う硬そうな奴にはこれが一番さ!」


 フェルナンドとカレンは、レールガンに専用の特殊弾の矢を装填した。

 アシュラシンと言う魔物は、入り口から入って来た俺達に突進しようと足を踏み出した。


 フェルナンドとカレンは、装填したレールガンで、すでに目標を捉えていた。


「カレン、お前は胴だ!」

「イエッサー!」


 ウウウンン…バチバチバチバチ、シュッ!

 ウウウンン…バチバチ…シュッ!


 2人の放ったレールガンの矢は見事に命中。

 フェルナンドの放った矢は眉間に刺さり。

 カレンの矢は、みぞおちに綺麗に刺さっていた。


 強烈に矢が刺さった反動でアシュラは一瞬、後に下がって倒れそうになったがそれを耐えた。


「アディオス!」


 コンゴウ・アシュラは、またこちらに向かってこようとしたその瞬間。


 ズガーーーーン!!!

 ズガーーーン!!


 大爆発を起こした。


「うわあ!凄い…」


 皆、その爆発を見て少し驚いた。


「アラタどうだ、凄いだろ!」

「ええ…これってスナイパーライフルの特殊弾と一緒で内部で爆発するようになっているんですか?」

「ああ、硬そうな奴は、この方法が一番ダメージを与えられるからな!ハッハッハ、スナイパー弾とは違って、当たった瞬間内部で返しが飛び出る仕組みになっていて貫通しないように設計されているんだぜ」

「なるほど…」


 爆発の煙が消えていくと、コンゴウ・アシュラと言う金属の魔物は、胴から上を失っていて、残された下半身と6本の腕が崩れ落ちた。


 宝箱が出現し、クラウスが罠を解除して開いた。


「お、これは当たりだぜ!」

「良い物?」


 クラウスはダガーのような物を外に投げ捨て。

 布みたいな物を取り出して、新へ投げた。

 それを受け止めた新は、すぐにそれを鑑定してみた。


「これは…マジックバッグ?」

「ああ、そうだ!20階層で稀にドロップするって言ってたマジックボックスの袋はそれだな、後は…宝石と魔石…だけだな、回収、回収っと」


 クラウスは、要らない物を外へ投げ捨て、宝石などを回収した。


「アラタ、その袋なんだが…俺に貰えないか?」

「良いですよフェルナンドさん、いつも先陣切って貰っているんですから、それにこれに入れるのって銃器とかでしょ?」

「ああ、それで…その袋どのくらい中に入るんだ?」

「そうですね…鑑定では小って出ているので普通のクローゼットくらいの大きさでしょうか?」

「ほう、十分だ!」


 新はマジックバッグをフェルナンドへ渡し、そのバッグをフェルナンドは腰のベルトにしっかりと括り付け、新から銃器をいくつか渡してもらいマジックバッグへ放り込んだ。


 奥へ進み、入り口への転送魔法陣の部屋を見ると、さっきのパーティがいた。


 1人が大きな怪我を負っていて、ヒーラーが傷口に手を当てていた。


「レベッカ!」

「あ…はい!」


 新がその光景を見てすぐにレベッカに声を掛けた。

 レベッカはその事態に気づきすぐに倒れている冒険者へ駆け寄った。


「あんた達済まない…」

「いえいえ」


 レベッカは大きく切り裂かれている冒険者の傷口に手を添える。

 すると、まるで針と糸で縫合しているかのように傷口が塞がっていく。


「え?どうなってるのこれ…」


 手当していたヒーラーは、とんでもない速度で回復されていく様を見て驚いた。


「あんた達…何者だ?それに…俺達がこの部屋に来てからそう経ってないはずだが…」

「あんなやつ速攻倒したぜ!ハハハ」

「あんなやつって…アシュラの事だよな?…」


 笑ってるそう言ったフェルナンドへ、冒険者パーティのリーダーぽい男が不思議そうな顔をしてそう聞いた。


「リーダー…この子凄い…」

「ん?何?き、傷がない…」


 リーダーの男は、ヒーラーに声を掛けられ倒れていた仲間を見ると、先ほどの傷は綺麗さっぱり消えていた。


「これは一体…君が治したのか?」

「はい、でも…まだ安静にしていて下さい、結構、血を消耗しています、まだ一人で動くのは危険だと思います」

「ああ…分かっている、俺達はここまでだ、この部屋から戻るつもりだ、アシュラは2度倒している、今回はこいつが油断してしまってこんな事になってしまったが…とにかく助かった、有難う」


 そのパーティは皆、自分の胸に手を置き俺達に礼を言った。


「このパーティのリーダーは?」

「あ、俺です」


 新はそう言って少し前に出た。


「若いな…俺達は【ロサギガンティア】と言うクランで俺はリーダーのブレトブラット、君達のクランの名前は?」

「ディファレントアースです、俺はリーダーのアラタと言います」

「ディファレントアースのアラタか、この恩は忘れない、町に戻ったら俺達を探してくれ、何か礼をしたいのでな」

「はい、その時は是非」

「俺達みたいな事にならないように祈っとくぜ」

「はい」


 ブレトブラットは倒れた仲間を背中へ担いで、パーティの皆と魔法陣の上に乗った。

 俺達に手を振ってその場から転送されていった。


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