第101話 調査依頼

 武器弾薬と地球の材料を大量仕入れした、新、瑞希、フェルナンド、カレンは異世界へ移動してクランハウスへ戻った。


「アラタ殿、ホルンの南の領地はすでに工事を着手しておるぞ」

「流石イグ、仕事が早いね」

「うむ、あの祠がある場所だけ大きな岩山の祠になっておるのじゃが、その祠の近くの木は伐採して、祠を囲むように領地を使うつもりで良いじゃろうか?」

「うん、任せるよ」


 領地の大きさはアルメデオ王に許可貰っているけど、正確にこっからここまでとは書かれていなかった、ホルンの町に差し支えないように開拓してくれたら良いと言っていたので、そこは作り手のイグルート達にその辺りも任せることにした。


「メインの建物なら7日間もかからんじゃろうよ」

「え?そんなに早く出来るの…凄いね」

「アラタ殿、儂らドワーフじゃぞ?やろうと思えば3日もかからんわい、これでもゆっくり他の作業と同時にやるつもりじゃよ、ほっほっほ」

「うん、ありがと、俺はまだやる事あるから、助かるよ」

「ああ、アラタ殿…それで…」

「わかってるよ、他のドワーフ達を労うための地球産ウイスキーは、今のクランハウスに沢山置いて来たから、倉庫から持って行ってよ」

「うむうむ、流石じゃ!」


 イグルートは満面の笑みを浮かべながら髭をさすってクランハウスを出て行った。

 それを見送り、新にフェルナンドが口を開いた。


「さてと、アラタ、俺達はこれから何するんだ?」

「うん、レイアリグ大陸のシュクロスさんから念話が来ててね、手が空いたらこっちに来てくれって言っていたんだ」

「ほう…何だろうな、魔物か!?」

「いや、魔物関係じゃないみたいですよ?なんか気になる事があったとか何とか?」

「なんだ…違うのか、魔物だったら楽しくなりそうだったのにな…」

「え?フェルナンドさん…魔物だったらなんで楽しいんですか?…」

「いや、この間、仕入れた武器を使ってみたいなあ…なんてな、ハッハッハ」

「‥‥‥‥‥‥」


 本当に戦いが好きだなこの人…

 新は、頭を掻きながら笑っているフェルナンドを呆れた目で見た。


 ◇


 新達いつものメンバーは、レイアリグ大陸の町、不死族シュクロスの治めるアルカードへ向かった。


 シュクロスのいる建物のロビーの部分へピンポイントでゲートを繋いだ。

 前なら、少しの誤差で壁などの障害があったりして上手くいかない事もあったため、建物の中などは避け、少しずれても大丈夫なような場所を選んでいたが、グランドヒューマン化して、建物の中にでも正確にその位置を調整する事が出来るようになったためだ。


 シュクロスがいる部屋に直接入るのは、さすがに失礼だろうとロビーに出た、新達だった。すぐに兵士が異変に気付いて駆け寄って来た。


 新達を見てすぐに警戒を解いて敬礼して持ち場に戻って行った。


 新達は、魔法のエレベーターへ乗り上階へ向かう。

 シュクロスのいる階層で降りて、その扉をノックした。


「入って良いぞ」


 中からシュクロスの声がしたので扉を開き中へ入った。

 部屋へ入ると親衛隊の兵士が2人こっちを見て少し会釈した。


「アラタ、そして同行の皆よ、よく来てくれた」

「お久しぶりでした、シュクロスさん」


 シュクロスは頷き、あちらの部屋へと言わんばかりのジェスチャーをしたので、新達は、奥の部屋へ移動した。


 丸い大きなテーブルには人数分の椅子が準備されていた。

 各自、椅子に座ると、上座のような場所にシュクロスは腰かけた。


「ディファレントアースの諸君、久しぶりに会えて光栄に思う、アラタには念話で伝えてあるのだが…気になっていることが二つほどあって今回来て貰ったのだ」

「気になる事があるって言ってましたが、二つ…なんですか?」


 俺はシュクロスさんにそう聞いてみた。


「ああ、まず一つ目は、実は…お前達がオブリシア大陸に戻ってからと言うもの、魔物の強さが抑えられた気がする、何か知らないか?」


 あ…グランドヒューマン化のアーティファクトを回収したから、あの辺の魔物状況も変わったのか…


「え…えっと、多分気のせいかと」

「‥‥そうか、ならいい、強い魔物が少なくなったせいもあるのだが、東からの人間や亜人達を確認したと情報が入った」

「東の人達ですか?」

「うむ、私もこの数千年この地域から遠くまでは行った事はない、勿論、この町以外にもあの大戦から生き残った末裔達があちこちに生存しているのだろうが、それはそれで良い事なのだが、狩りに行っていた者達の話では、宙に浮く乗り物で移動していたと言うのだ」

「宙に浮く乗り物ですか?…」


 シュクロスは静かに頷く。


「私には、その乗り物に心当たりがある」

「と言うと?古代遺産アーティファクトか何かですか?」

「うむ、大昔の古代人達が移動に使っていた、バイーダーと言う宙に浮いて走れる魔動機だ」

「バイーダー…?」

「私にはその仕組みはよく分からん…が、見た事はある」

「はあ…それで、シュクロスさんはそれをどうしたいのですか?」

「うむ、もしもの事を考えていたのだ…もしも、この町まで東の者が到達したとする、それが、友好な連中ならまだ良いが…」

「もしも、友好ではない悪人達だったらって事ですか?」

「そうだ、あのバイーダーを発掘したのなら、他のアーティファクトも掘り出している可能性が高い…と、なると…」


 シュクロスはそう言って、口を閉ざして考え込んだ。


 なるほど…俺達は一度、ヴェルダシュラム公国が発掘したあのアーティファクトの戦闘用魔導兵器と戦っている、もしあんな物が発掘されていたら…

 多分、シュクロスさんは、あの兵器の事を多少なりと知っているのではないだろうか?


「シュクロスさんは、その東の人間達の調査を俺達に依頼したいわけですね?」

「うむ、危険なのは分かっている、もし人手が必要なら、バルゼス、リンのクランを同行させても良いが…それに、お前達なら遠くへ行っても一瞬で戻って来れるゲート魔法があるだろう」


 なるほど…もしも、あの古代兵器を掘り起こして悪人が使うとなると大変な事になりかねない。あれを止められるのは多分、俺達しかいないだろうな。


「分かりました、シュクロスさん、それは俺達が調査して来ます、それと、調査なら少数で行った方が目立たないので俺達だけで行きます」

「行ってくれるか…こんな事を頼んでしまって済まないと思っている…アラタ達からしたらこの町の事情なんて関係ないのだからな」

「そんな事はないですよ、シュクロスさんに会えた事で俺はいろんな事を知る事も出来ましたし、あのハイエリクサーも作る事が出来ましたからね、これで大切な人達が死なずに済みますから」

「そうか、そう言って貰えると助かる」


 新達は皆、微笑んでシュクロスに頷いた。


「そう言えば…これって一つ目の依頼ですよね?」

「ああ…」


 シュクロスは、扉の前に立っている親衛隊達に外へ出るように指示して人払いした。


「もう一つは個人的な頼みなのだ…」

「個人的にですか…」


 シュクロスは頷いた。


「実はな、私の恋人がこの町のダンジョンへ向かったんだが、もう15日間ほど連絡が取れないのだ…」

「「え?」」

「恋人?」

「あら?」


 クールなシュクロスの恋人発言に、数名少し驚いた声をあげた。


「シュ…シュクロスさん恋人いたんですか?」

「う…うむ」


 シュクロスはその青白い顔で珍しく恥ずかしそうな顔をして頷いた。


「恥ずかしい話だが、私も不死とはいえ元は人間だ、恋くらいする」

「で…その恋人が15日戻って来ないって事ですか?」

「うむ、その人の名はクラティス、エルフ魔法使いで、この町でのAランククラン【ホワイト・ワルキューレ】の一人だ」

「なるほど」

「そのクランは女性だけのパーティで、男のパーティに負けないくらいのバランスの良いパーティだったが…やはり女性だけと言うのは心配だったのだ…」

「もう一つの頼み事は、そのクラティスって人をダンジョンから探して救い出して欲しいと言う事ですね?」

「ああ、そうだ…ただ、アラタも知っていると思うが、もし、ダンジョン内で死んだのなら死体は残ってはおるまい…だが、もしも、生きているのなら連れ帰ってきてほしい」


 シュクロスは少し拳を握りしめてそう言った。


「それこそ、親衛隊のバルゼスとかに頼めば良かったんじゃないのか?」


 フェルナンドがそう口を開いた。


「もう、派遣している、リンもバルゼスも二日前にダンジョンへ潜ったのだ」

「あ、だからここに居ないんですね?」

「町の長として個人の私情を頼むのもいかがなものなのかと思うが…あの二人は私が何度もダンジョン前の記録係を訪ねて行っているのを見てたのだろう…二日前にバルゼスの書置きがあった…、クラン【グランアレグリア】は必ず、クラティス様をお連れしますと書かれていた…、本当に私は情けない…不死なだけで恋人を探しに行く力もない…悔しいものだ」


 シュクロスは更に拳を力を込めてそう言った。

 新達はお互い顔を見て頷いた。


「分かりました…まずはその二つ目の依頼、クラティスさんを探しましょう、東の人間達は別に今じゃなくても良いですよね?」

「そう…だな、一応、物見の冒険者は派遣しているので、あるエリアを超えた時には何かしらの反応がある事だろう」

「なるほど、じゃあ優先すべきはダンジョンの方で決まりですね」

「済まない…」


 新達は、シュクロスの私情の依頼を受けダンジョンに向かう決意を決めた。


 後から、このアルカードダンジョンについて詳細を聞いた。

 このダンジョンは確認されているのは50階層まででその先は誰も知らない。

 10階層ごとに守護者部屋があり、その先に出口までの転送部屋が用意されていて、地上に戻るには、守護者を突破するか、上階の転送部屋まで戻るしか方法はないと言う。


 一応このダンジョンからは、マジックボックス袋(小)が20階層から稀にドロップされるというので、ベテランはそのマジックボックス袋を持っている者も少なくないのだと言う。


 クラン【ホワイト・ワルキューレ】はAランククランなので勿論、それを持っている。その中には15日分くらいの食糧を持ち、いつもは10日くらいの往復のペースで戻ってくるのだと言う、そろそろ食料も無くなる頃だが、戻らない理由は他にあるのだろうとシュクロスは言った。


 シュクロスも本当は一緒に行きたいのだが、他の親衛隊がこの町の長として、それはやめてくれと懇願するのだと言う。


 シュクロスから二つの頼み事を聞いた新達は、先にダンジョンに潜った恋人クラティスを救い出すためアルカードダンジョンへ向かう事になった。


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