第100話 地球でも

 新、瑞希、フェルナンド、カレンの4人は地球へ戻って来た。


「じゃあ、私、お母さんの所行って来るね」

「ああ、合鍵は持ってるよな?」

「うん、大丈夫!」


 そう言って瑞希は、俺の家を出て行った。

 そして、フェルナンドさんにも合鍵を渡した。


「サンキュー、じゃあ俺らも武器調達行ってくるわ」

「もう大丈夫なんですか?」

「流石に、これだけ俺の居場所が分からなかったら、もう本国に戻ってるだろ」


 フェルナンドさんは、宝石絡みの事で誰かに追われていたので、俺が異世界へ連れて行くことになったけど…本当に大丈夫なのだろうか?


「じゃ…明日のこの時間にはこの家で集合って事で」

「アラタ、この世界でも念話使えるのでしょ?」

「カレンさん、そうです、遠距離念話は魔法ではなく能力スキルですからね、使えますよ」

「なるほど」

「なんかあった時は連絡するから心配するな、ハッハッハ!」


 そう言いながら二人は出て行った。


「さてと、俺も今日一日、動き回らないと行けないな、まずは仕入れから行っておくか」


 そう独り言を言いつつ新は、駐車場の車に乗り込んで車を走らせた。


 ◇


 俺は、山口総合物産の駐車場に車を停めた。

 何気に携帯電話を見ると、一昨日あたりから、何度か同級生の川村から電話が鳴っていることに気づいた。


「たいし、あいつ何か用だったのか?…うわ、メールもして来てんのかよ」


 メールを開けて見ると、何で電話出ないんだとか、俺がこんなに悩んでいるのにとか、具体的な事は何も書かれていなかったが、何か用があるらしい。

 とりあえず用事が一段落したら電話してみよう…


 車を降りて、山口社長を探した。


 山口社長はすぐに見つかった。

 駐車場近くにある大きな倉庫の前で従業員に何やら指示を出していた。

 声を掛けると、微笑んで俺に手を振っていた。


「山口さん、お世話になります」

「ああ、伊勢くん、また仕入れかな?」

「はい、いつもの仕入れを多めに欲しいのと、後…化粧水と乳液とかあります?」

「勿論ですとも!うちは何でもありますからね、ささ、こちらへ」


 俺は山口社長について行った。


 ◇


 実家に着いた瑞希は、扉の前に立ちインターホーンを鳴らした。


 カチャ。


「久しぶり、お母さん」

「あら、連絡貰ってから早かったわね」

「うん、タクシーで来たからね、それよりあれから体調はどうなの?」

「全然元気よ!若い時に戻ったみたいに体が動くわ」

「それは良かったね、で…あの彼氏さんとは?」

「勿論、一緒にいるわ、あの後すぐに籍を入れたわ、でもね彼の会社も大変でね…あ、こんな話はどうだって良いのよ、瑞希、折角なんだから何処かお茶でもしに行きましょうか?」

「うん」


 瑞希はそう言って、大きく微笑んで頷いた。


 ◇


 一方、フェルナンドとカレンは変装して、新から受け取った宝石を売るために闇市に来ていた。


「ここも変わんねえな…」

「うん、でも気を付けて」

「ああ…」


 そこはある場所の地下施設だ。

 この闇市は24時間、いつでも人がいる場所だ。

 宝石、銃器、臓器、ありとあらゆる物がここで売買されていて、勿論、防音個室もいくつかあり、万が一の為に逃げるルートまで確保されている。

 誰が運営しているのか謎のままだが、実は日本政府も絡んでいると噂もある、その詳細は誰も知らない、その方が身のためであり、それが暗黙のルールで成り立っている場所なのだ。


「最悪…アイツ、幻竜会の組長のヤリ〇ン息子だわ…」

「ん?ヤリ〇ンって…そんなやつとカレン知り合いなのか?」

「違うわよ、一度別の案件でね、凄腕の女弁護士を監禁して薬漬けにして、性のペット兼、悪徳弁護士で傀儡にしているわ」

「ふ~ん、それで何でお前が絡んでるんだ?」

「一度ね、ミーの知り合いの女の子がアイツの餌食になる所を助けた事があったのよ、その子は運良く助けられたけど、他にも被害にあった子は強姦された上、殺されたり、立ち向かった子もいたけど、その傀儡弁護士の手で無罪で泣き寝入りよ…全く、すけべな奴よ!あの時、顔を一発殴るだけじゃなく、殺しておけば良かったわ」

「そりゃ…最悪だな…ま、俺達には関係ないからほっとけ、目立つわけには行かないからな」

「わかってるって、ミーの顔を覚えてるとも思えないしね」

「…そうか?…お前、意外と特徴あるぞ…」

「ん?そお?」


 フェルナンドとカレンは、胸に宝石のブローチをつけている男を発見し、近づくと耳打ちで何かを喋って、奥にある一つの個室へ入って行く。


「ダンテの旦那…生きていたのか、良かった」

「ああ、まあな、それでウグイス…だったか?傷のない宝石はこれだ」

「ひひひ…お互い名前なんて適当でしょうよ、ひひひ」


 フェルナンドは布袋に入れていた宝石(中)を50個ほど机に出した。

 ウグイスと言われた者はそれを確認して嬉しそうに頷いた。


「さ、商談と行こうか」


 ◇


 山口総合物産から大量に仕入れをした新は、駐車場に戻りスマホを取り出して、同級生の川村たいしに電話をした。


『お、新!やっと連絡してくれたか!』

「ああ、たいし、一体何だよ?悩んでるって」

『よし、じゃあ今日、夜俺ん家に来てくれ!今、仕事中だからよ、じゃあな』

「おい!」


 プツ…


「切れたよ…何なんだこいつは」


 俺はそれから、有名なスイーツ店などをいくつか周り、考えつく物を買い込んだ。

 そして夜になり、川村の総菜屋に顔を出した。


「おーい、たいし~」

「お、新、ちょっと待ってくれ!はい、コロッケとポテトサラダね!390円です、有難う御座いました~」


 川村たいしは総菜を買いに来た客への接待をしていて、お釣りを渡したら新の方へ近寄って来た。


「新~、最悪だよ!ランちゃんに彼氏がいる事が発覚してよぉ…」

「はあ?ランちゃんってあのキャバクラの子か?」

「ああそうだ!2回だけどデートもしたし、手も繋いだこともあるんだぜ?それが…まさか男がいたなんてよぉ」


 たいしは、そう言って肩を落とした。


「あのなぁ…夜の仕事の子は、それもビジネスだろ?お前まさか…真剣に好きだったのか?」

「ああ、勿論だ!俺の中で一番ドンピシャ、どストライクなんだ!優しいし、顔もスタイルも俺好みだし、毎日LINE返してくれるし、それから…」

「‥‥‥‥‥‥」


 俺は呆れた目で、たいしを見た。


「お前…悩んでるって…」

「ああ!どうしたら良い?」

「帰る!」

「待て、待ってくれよ、親友だろう?…」

「いやいや、そんなもんどうだって良いだろ?俺は忙しいんだよ!明日も海外に行かないといけないから帰るぞ」

「待ってくれ、せめて今日一晩、俺に付き合ってくれないか?憂さ晴らしに飲みたいんだよ!」


 俺は溜息をついて、たいしの要望に応えることにした。


 キャバクラを梯子して3軒目。

 俺はほろ酔いだったが、たいしはかなり酔っぱらっていた。

 たぶん、お気に入りの子に男がいたのが余程ショックだったのだろう、愚痴を吐いて飲む事で少しでも気が晴れるならと思い、俺は付き合ってやった。


 結局、川村たいしは酔い潰れてしまった。

 俺は、お店に迷惑がかかると思って時間になったら、たいしを抱えて外に出た。


「しかし、こいつ俺より体大きいくせに軽いんだな…」


 俺は外に出てから背負ってタクシーを探した。

 タクシーに乗ろうとしたら、近づいた瞬間ドアを閉めて行ってしまった。


 なるほど…

 酔い潰れた人間がいるから乗車拒否かよ、ま、タクシーも車内で嘔吐でもされたらたまらんからな…仕方がない、歩きながら帰る途中で停まってくれたタクシーにでも乗ろう…


 しかし、大の大人を背に担いでいるのに疲れない。

 これも、グランドヒューマン化のお陰なのだろうかと俺は思いながら、結局歩いて、たいしを自宅まで送り届けた。


 たいしの親に、お礼を言われて総菜の残りをいくつか貰って帰宅する事にした。


 家に着くと明かりがついているので、フェルナンドさんか瑞希がいるのだろう。

 俺は、玄関の鍵をあけて中へ入ると、瑞希が出て来た。


「新、おかえり」

「ああ、もうさ…たいしの奴が酔っぱらって大変だったよ…」

「たいしって、川村君?」

「うん」

「それは、大変だったわね…、フェルナンドさん達もさっき帰って来たわよ」

「そうなんだ」


 俺は玄関から部屋へ移動すると、フェルナンドさんとカレンさんはビールを片手にテレビを見ていた。


「お、アラタ帰って来たか?」

「面白い報告があるわ」


 2人はそう言ってテレビから目を離して俺を見た。


「何ですか?面白い事って?」

「グランドヒューマン化ってすげーな!ハッハッハ」

「え?」

「ミー達、闇市から出た所を30人くらいに囲まれちゃってね、み~んな銃と刃物持ちで絶体絶命だったんだけど」

「そいつら、俺達を追っかけてた奴らの一味で勿論プロの悪よ、だがな!」


 2人は交互にそう話を進めた。


「ミーもダーも、身体も軽いし、一瞬のうちに一網打尽にしたってわけ」

「おうよ!勿論、最初囲まれたときはどうやって逃げようか考えていたんだが、あっさりと全員半殺しにしてな!次こんなことがあった場合は、そっちに乗り込んで全員殺すって脅してやったわけよ、俺達を裏切りやがって、ハッハッハ!」

「そ…そうなんですか…半殺しって…」


 俺はその話を聞いて少し引きつった顔をした。


「え?あ、だから…私も…」

「は?瑞希も何かあったのか?」

「今日ね、お母さんと食事に行ったんだけど…その場所が踏切近くでね、丁度、踏切が閉まっちゃった時、お爺ちゃんとお婆ちゃんが、中に取り残されちゃってて、びっくりしたお婆ちゃんが倒れてしまってね…」

「まさか…」

「うん、無我夢中で私、中に入って間一髪、二人を抱えて踏切の外に連れ出す事が出来たの!」

「ははは…なるほど…」

「火事場のなんたらなのかなと思ってたんだけど、そう言う事かあ」


 なるほど。

 俺がたいしを抱えて自宅まで苦にならなく運んだのもそのせいか。

 と言う事は、異世界ほどではないにしても、地球でも俺達はちょっとしたスーパーマンって事なんだな…


「とりあえず、皆、無事で良かった」

「あ、アラタ、ある場所に武器弾薬も仕入れて来たから、後から一緒に取りに行こうぜ!」

「はい、じゃあ今から行きましょうか」

「おう」


 そう言って俺達は武器弾薬や仕入れを完了して、異世界へ戻るのだった。


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後書き

とうとうカクヨムで100話達成出来ました!

これもファンの皆様のお陰です。

フォローや★などが伸び悩んではおりますが、今からもっと面白くなるように書いていきますので宜しくお願い致します。

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