第95話 呪術を求めて
新達は仲間と共にレイアリグ大陸、シュクロスが治める町、アルカードへ足を再び踏み入れた。
先ずは、シュクロスのいる中央の建物へ向かうのだった。
建物へ近づくと防衛隊の一人が近づいて来て、俺達を確認すると会釈して奥へ案内してくれた。
前と一緒で、魔力エレベーターみたいな物に乗り、シュクロスのいる上の階へ上がって行き、部屋の前で扉をノックする兵士。
「シュクロス様、アラタ様達がお見えです」
「通せ」
扉を開け、中へ入るとすぐに、シュクロスの側近冒険者のリンとバルゼスが近づいて来た。
「アラタ殿!」
「アラタ様!」
「やあ…リンさんと、バルゼスさん」
また甘い物を狙っているのだろうか、俺を見る目がキラキラと輝いている。
小さくシュクロスは溜息を吐いて口を開いた。
「アラタ達、早速来たか、広い部屋で話そうか」
「はい」
そのシュクロスの仕事部屋を後にして、広い部屋へ移動した。
その部屋の椅子に皆腰かけた。
クインは相変わらず、俺の近くで寝そべっていて、シュクロスは上座のような椅子に座り、勿論その隣にはヴィグがお座りしている。
「アラタ、お前もいろいろと忙しいな、ハイエリクサーの件はどうなったんだ?」
「はい、なんとか手に入れる事も出来ました、向こうの王子も無事復活したようで」
「ほう…伝説のハイエリクサーをか、それは素晴らしいな」
「はい」
俺は微笑んでそう言った。
「それで?次は呪術を習いたいとは…口封じしたいやつでもいるのか?」
「いえ……ちょっとした秘密を確実に守って貰うために使いたいだけで…はは
は…」
「ふむ…そこまでの秘密がなんなのか気になるが…まあ良い、この大陸での呪術師ギルドと言うのは組織ではない、昔からあるそのギルドと言う名前が残っているだけで、その秘術を継承している個人がその術で生計を立てていると言うだけだ、勿論、私達も誰かを従者にしたり、その用途によってお願いする事もある…とりあえず、私の仲の良い呪術師がいる…行ってみると良い、リン!」
「はっ!」
その後に、少し余談で話を聞いたが。
アルカードの行政は土地などの賃料の他に、神聖教会の管理と治療、自警団などのトラブル解決での寄付で成り立っているとシュクロスは教えてくれた。
寄付とは、寺で、お坊さんにお経を読んで貰った後渡す、言い値のお布施のような物だろう。
この町アルカードは、数千年前にシュクロスが、古代栄えた町をそのまま利用して、発足した町だ、人間、獣人、エルフ、ドワーフ、が主で人口は500万人くらいはいるのだと言う、東京の約半分くらいの人口である。
不死族のシュクロスは、冷たい印象があるのだが、この町の人達は彼を尊敬してこの町に集まって来たらしい。
そして、この町では土地権はシュクロスが管理している。
管理者のシュクロスから土地権を幾らかで借りて、商売したり住むなりするのだと言った。
そして、この大陸では各町と連携が取れているのは冒険者ギルドだけで、商人ギルドと言うのは存在せず、商売は自由で金銭の取り扱いをしているのだそうだ、その他にも物々交換する事も普通に横行しているらしい。
露店の商売も自由だが、土地権を持っていない店舗についてはトラブルがあっても関与せず、酷い露店は排除も行っていて、借用地の場合、何かあった場合もシュクロス自警団などが守ってくれる。
この町で、シュクロスが抱えているリンやバルゼスなどの親衛隊、防衛隊、自警団は猛者が多く、魔物の侵攻や、町の治安にも一役かっているらしい。
何はともあれ、堅実に秩序を守る不死族に、このアルカードはこうやって繁栄を見せているのであった。
「では、アラタ様、行きましょうか?」
「はい」
◇
新達は、シュクロスの親衛隊エルフのリンに連れられ、シュクロスが良くしてもらっていると言う呪術師の下へ向かうのだった。
相変わらず、街を歩くと活気に満ちている。
様々な種類の店舗、露店が軒並みにある。
オブリシア大陸の町では見た事もない、鑑定屋、ナイフ投げ、弓での的当てゲーム店、占い、腕相撲店、ゲテモノの料理店、等々あった。
「へぇ…いろんな店があるんだなあ…」
「はい、アラタ様、この町では働かない者は、食っては行けません、なので、皆、冒険者や商人が殆どです、そして、餓死して死んでいる人間もよくある事なのですよ」
「餓死って…シュクロスさんは助けてあげないの?」
「助けてあげたいのは山々なのですが、それをやってしまうと、沢山の力のない者や無能な人間まで見てやらないと行けなくなります…これは、この町のルールなのです、昔の王国のように安定に町民から決まったお金を貰っているわけでもありませんし…」
「なるほどね…」
「それに、シュクロス様のお陰で、この古代から残るこの町を上手く活用して、ここの者達は魔物の脅威から安全に暮らせているのです、あれを見てください」
リンは、遠くに見える町の塀を指さした。
「塀?」
「そうです、この町は古代から残る町の一つ、シュクロス様の知識であの塀の魔動機をなんとか復旧させて、肉眼では見えませんが上空には結界が張ってあります、そのお陰で空からの魔物の脅威からも守られています」
「へえ…これも大きな
「はい、そうなりますね、それと…あの塀の材質は今の人間達では作れない材質で作られており、破損している場所はあるにしても、まだまだ強固で簡単には破壊できませんよ」
「なるほど」
「なので、この町にいられるだけでも、有難いと思って貰わないとって事です」
そう言って、リンは軽く微笑んだ。
暫く、雑談をしながら歩いていると、囲いのあるエリアを通った。
囲いの途中には、入り口には門があり受付みたいな場所も見えた。
「リンさんあそこは何?」
「え?ああ…あのエリアは大人の社交場です」
「社交場?」
「ほら…その…」
「heyアラタ、そんなもん察しろよ、エッチな事する所って事だろ!ハッハッハ」
「ダー…デリカシー!」
ああ…なるほど…
こんな真昼間から、男の冒険者がわらわらと入っていく。
瑞希、マイティ、レベッカも少し緊張した顔で門の中をじろじろと覗いていた。
俺も、中の方で客引きしている女性を遠目で覗いていた。
「こほん…こっほん!」
リンがわざとらしく、気づくように咳をして、俺達ははっと我に返った。
慌てて俺は歩き出した。
暫く歩くと、【呪術師ギルド:ワクチ】と言う名の看板のある建物が見えてきた。
その建物の前には守衛のような冒険者が二人立っていた。
「あ…リン、シュクロス様の使いか?」
「ああ、そうよ、マーグズあんたここの守衛の仕事?」
「ふん、呪術の守衛は中々、金になるんでな」
「あらそう…で、ワクチ様はおられるかな?」
「ああ、今帰って来たばかりだ」
マーグズと言う守衛は、扉の前をあけてくれた。
リンは扉を開いて入って行き、俺達もそれに続いて中へ入った。
中へ入るとまた守衛が2人いて、リンの顔を見ると更に中へ通してくれた。
リンは奥の部屋の扉をノックする。
「どうぞ~」
カチャ。
「失礼します、ワクチ様」
扉を開いて中へ入ると、1人のエルフが扇子のような物を仰いで立っていた。
「あ~ら~、リンちゃん、シュクロス様のご依頼かしら~」
「いえ、関与はありますが…こちらのアラタ様が呪術について詳しく聞きたいとの事でお連れしました」
「ふ~ん…」
そのエルフは妖艶な雰囲気を持っており。
アラタをじっと見つめた。
「えっと…はい、俺はアラタと申します」
俺はその妖艶に見つめる目を逸らしそう言った。
「で?ぼ~や、呪術の何が聞きたいのかしら~?」
「呪術を少し習う事は出来ないかな~と思いまして…」
「ふ~ん…ま~ず~、どうしてそれを習いたいのですか~?」
「秘密を守るために、使いたいだけなのですが」
「ふ~ん、呪術はね、古代の秘術よ~、そう簡単には教えられな~い、貴方が悪人かも知れないしね~?」
まあ、そうだろうな…
そう簡単に教えるわけないよなぁ、ここは。
「勿論、タダでとは言いません」
「ふ~ん、呪術はどんな大金積まれても教えないわよ~、だって~、商売敵が増えたら私の稼ぎが減るじゃない~、それも、シュクロス様の知り合いとなれば尚更…シュクロス様は私を信頼して下さっていますから~ね、それが依頼する人が二人になったら困ります~し、それとも?この町ごと買えるくらいのドラだったら、考えなくもないけどね~うふふ」
「ああ…ドラは流石にあまり持っていませんが…この世にはない食べ物ならどうでしょう?」
「え?食べ物?舐めて貰っては困りますわ~、私これでも~、この町ではある程度お金持ちよ~?美味しい物なんていくらでも食べた事あるわ~」
ふ…俺達を舐めて貰っては困る。
この町を歩いて来て思ったが、甘味店は無かった、あっても果実店だけだ。
それに本当にこの世にはない物を俺は持っている、そう…あれだ。
しかも、地球人でもあまり食す事が叶わぬ物だ!
俺は、マジックボックスからある物を取り出した。
「ふ~ん…マジックボックス持ちなのね~…」
それは、季節限定の最高級モンブランケーキだ!
栗そのものよりも栗を味わえるモンブラン、熊本県山鹿の和栗、生クリーム、カカオビネガーのシンプルな原料で作った一品、栗の王様とも称される味の濃い和栗を収穫から1 ヶ月間、0°Cで熟成させることで糖度を一気に上げ、甘みと旨みを引き出している。
中にはカカオの果実部分で作ったカカオビネガーを加えた、すっきりフローラルな香りの生クリームを忍ばせていて、搾りたての栗のペーストと生クリームで一番美味しく頂ける時間は賞味期限はわずか 10分!
これを俺は1時間ならんで3個やっと買ってあったのだ!
マジックボックスが無ければ保存すら困難なこの代物をここで出したのだった。
「「おおおお!」」
「美味そうだな…」
「新、それって…老舗の和菓子店、三春菓子店の、あのすっごい並ぶモンブランじゃない!」
「そうだ!瑞希、俺はこれをいつか食べようと仕舞っていたのだ!一人3個までしか買えなかったから、メンバー人数分揃った時に皆で食べようと温めていた奴だが…」
新はそれを、ワクチの前のテーブルに置いた。
「な…、な~に~これは…、木の実の匂いに、甘い香り…、嗅いだこともないこの香りは…」
「これは、俺の国の甘味食でモンブランケーキと言う、最高級のお菓子です、この大陸にも存在しないアーティファクトと言っても過言ではない逸品になります」
ゴクリ…
ワクチの生唾を飲む音が聞こえた。
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