第94話 クランの動向

 母さんと話をして、自分の周りの信頼出来る家族などにグランドヒューマン化を施す事を決めたが、人間誰しも、強くなったり、権力を持ったりすると人が変わったようになる事はよくある事で、特にこの世界は裏切りは日常茶飯事起きてる事だと知っている。


 パーティを組んで、敵わない魔物に遭遇し、弱者を囮にして強者が逃げるとか、その逆も然りだ。

 ダンジョン入って、荷物持ちすると言ってとんずらする輩などもいる。

 どの世界も、狡賢い者はいる。


 魂に直接術を刻み込んで、思考や行動を制限させる事ができる呪術は、やろうと思えば殺すことだって出来る危険な術式である。


 母さんの話では呪術は、大昔ハイエルフを操り対抗するために生まれた秘術だと言っていたが、今は、各国の機関の一つになり、法を犯した者や犯罪者などの更生に使われていて、その他にも魔物の魂を呪縛し、使い魔として行使する事も出来る。


 オブリシア大陸では、奴隷協会だけが呪術の秘密が漏れないよう管理して犯罪者や奴隷の更生、使い魔の魔法の札まで作成している。


 メンバーに呪術を施す事はしたくはないが、このグランドヒューマン化と言う、大きな力はそれほど重要な物なのだ。


 そこで、俺は考えてみた。

 これを奴隷商会に言うと言う事は、奴隷商会自体にこの力の存在がバレる。

 今は国の機関の一つなので当然、各国の王などにも伝わる危険性もある。

 そうすると、呪術師が俺達ハイエルフを操ろうとする危険もありうる。

 そうなってしまうと、スキルスクロールやマジックスクロールの秘術に加え、ルーン魔法による秘術も全て、呪術師の思いのままになってしまう。


 やはり、俺は、自分で呪術を探し、習得したいと思った。

 そこで、古代人の一人、不死族のシュクロスさんだ、レイアリグ大陸では呪術がどういう風に使われているのかわからないが、存在していたはずだ。


 呪術の事を聞くために俺はシュクロスさんに遠距離念話を送った。


『シュクロスさん聞こえますか?』

『む、アラタか、聞こえているぞ』

『えっと、シュクロスさんの町アルカードって呪術ってどう管理されているのですか?』

『呪術か?そうだな…この大陸には昔から呪術師ギルドってのがある』

『呪術師ギルド…ですか?』

『ああ』


 シュクロスさんは俺にレイアリグ大陸の呪術に関して念話で語ってくれた。

 オブリシア大陸では、奴隷商会が呪術を扱っているが、レイアリグ大陸と言うかこの世界の大陸では呪術師ギルドと言う団体が、昔からそれを扱っているのだと言った。


 母さんが言ったように、呪術師ギルドは最初は高度な知能を持ったハイエルフを操ろうと編み出された秘術だった。

 しかし、最初のうちはそれでハイエルフを操る事も出来たらしいが、結局、その秘術を無効にするアーティファクトをハイエルフによって生み出されてしまい、呪術は淘汰されそうになったらしい。


 そこで呪術師達は、それを金儲けや、別の事に利用出来ないかと考えた、それが奴隷呪縛や、使い魔札なのだと言った。


『なるほど…オブリシア大陸では、奴隷商会って所が呪術を管理して各国の機関になっていますが、そちらの町にも似たような物があるんですね』

『そうだ、こっちではハイエルフ無き今、呪術が太古の秘術とも言われている、ま、アラタの存在でそれも覆ったがな』

『はは…で、その呪術って俺が習ったり出来るのでしょうか?』

『は?呪術を習うだと?』

『ええ…』

『呪術師が教えるわけなかろう…それが彼らの唯一の稼ぎ方法なのだ、こっちに来た時でも行ってみるか?』

『はい、お願いします!』


 俺はそう言ってシュクロスさんとの念話を終えた。


「アラタどうだったの?」

「うん、母さんの言う通り、ハイエルフを操るために生まれた秘術でした、それで、ハイエルフはアーティファクトで呪術を無効にする事で呪術に勝ったようですね」

「ふ~ん」

「で、一応、向こうには呪術師ギルドってのがあるみたいです、やっている事は奴隷商会と似たような物だとシュクロスさんは言っていましたが…とりあえず、行ってみます」

「はい、うふふ」

「ん?母さん、なんで笑ってるの?」

「いえ、アラタは楽しそうね、そんなにあちこち冒険して休む暇もないわね、ふふふ」

「ああ…うんまあ、こっちの世界に来て楽しいかな…強くなっていくのもそうだけど、魔法でやってみたい事も叶うし、今は出会った人達と楽しく冒険するのが面白いよ」

「そう、でも、気を付けてね、この世界は地球とは比べ物にならないくらい死とは隣り合わせな事が多いから」

「うん、わかってる」


 エウロラは、新へそう微笑みながら言い、新も微笑み返し頷いた。


 ◇


 俺は、とりあえず皆と合流する前に、クランハウスへ向かった。

 瑞希やレベッカ達も工房へ行くように念話で伝えたのだった。


 暫く、留守ばかりだったのでクランハウスに寄って、イセ・スイーツを任せているミーナさんと話をした。

 そして、驚いたのだが、どうやら海の町ヘレスティアにも支店を出したのだそうだ。

 イセ・スイーツはミーナさんに一任しているので、クランの資金で上手くやっているようだった。


「へぇ、ヘレスティアに支店ですか…順調そうですね、ミーナさん」

「はい、アラタさんが冒険であちこち忙しい間、私達もいろいろとクランの資金を増やそうと努力してましたわ」


 ぶっちゃけ、もうオブリシア大陸の資産は潤沢にあるので、そんなに頑張らなくても良いんだけど…まあ、お金はあって困るものではないから、そのうち、従業員達に給料とかで還元してあげるか。


「そうそう、アラタさん、ヘレスティアの店長なんですけど、マリルレットに行って貰ったわ」

「え?マリル…だ、大丈夫なの?」

「もうあの子は、おっちょこちょいのダークエルフではありませんよ、私と一緒にずっとここでやって来て、かなり変わったのよ、それに、あの褐色の肌は海の町にも似合ってますでしょ?」

「なるほど…へぇ…あのマリルがね…」


 そうマリルレットは、ホルンの町でイセ・スイーツオープン当初に雇った奴隷従業員で、たしか、貴族の奴隷をしていて高価な物を2度も壊して大きな借金奴隷に落ちてて、俺が雇ったダークエルフ。


「あの子、ホルンのシルビアにも負けないくらい最近では、味に煩いんですよ、うふふ」

「そうなんだ、ミーナさんの教育が良かったのでしょうね」

「かもしれませんが、それを物にするのは彼女自身ですからね、借金も順調に返せているみたいですし、良いことです」

「そっか、頑張っている従業員がいたら、ミーナさんもですが、他の従業員もミーナさんの判断でお給料アップしてやってくださいね」

「はい、うふふ、分かりました」

「じゃあ、また任せますね」


 ミーナさんは、海の町ヘレスティア支店に、借金奴隷は勿論、マイティの母も雇っていると余談で聞いた、こうやって俺がやった事が人の幸せに繋がっていくのをしみじみと思って、俺は工房へ向かうのだった。


 ◇


 俺は、クラン工房へやって来た。


「お、アラタ殿」

「ああ、イグ、皆来てる?」

「うむ」


 工房の奥に行くと瑞希達も揃ってそこにいた。


「heyアラタ来たか」

「うん、皆、今度はレイアリグ大陸で呪術を習うために、また向こうへ行こうと思うんだけど、付き合って貰っても良い?」

「勿論!」

「ああ」

「新も忙しいわね、勿論行くわよ」

「クランマスターの意向に従います」

「うん」


 そう皆言ってくれた。


「アラタ殿、そう言えば、フェリオール王にすでに、マナードバギーを大きく改良した魔導自動車をすでに何台か納入済みじゃよ」

「あ、そうなんだ、改良したって?」


 クラン工房を預かるイグルートも、俺が居ない間、フェリオールの王様、アルメデオ王の依頼をこなしていたらしい。


 マナードリアクターで、魔素を吸収し走ることの出来る自動車を開発したまでは俺も知っている、それを、バスのように数人乗れるよう開発して、それを数台納入したらしいのだ。


 それは、フェリオール王国~イシュタルト王国間は勿論の事。

 フェリオール王国内の、主要町を行き来しているのだと言った。

 今の所は12人ほどが乗れるミニバスのような物だと言ったが、試験的に始まったらしい、勿論、盗賊に襲われても良いように、運転手と魔導自動車にはロック魔法と魔道具が搭載されている。


 馬やラーマよりも早く走る自動車に盗賊の駄馬が追い付くとは思わないが、一応セキュリティもしっかりとしているようだった。


 クランのスイート店も工房も俺が居ない間、ちゃんと仕事をしているらしい。

 良い人材に恵まれて、俺は経営者冥利に尽きると言う物を、更に深く感じていたのだった。


「イグ、有難う、こっちも順調そうだね」

「な~に、アラタ殿が潤沢な資金を提供してくれてるんじゃ、このくらい素材が揃えばなんて事もないわい、それに変人エルフのジーウもあの通り、もっと高性能のマナリアクターを開発してるみたいだしの」


 すると、小さい爆発がして、ジーウは煤に覆われて固まっていた。


「はは…でも良かった、ここはイグに任せるから好きにして」

「勿論、そのつもりじゃよ、ワッハッハ」


 イグルートは、そう言って長い髭を撫でながら笑った。


「所でアラタ、なんで呪術なんだ?」


 そうフェルナンドが新へ聞いてきた。


「うん、実は、俺のクランメンバー達と、母さんなどにグランドヒューマン化を施したいんだ」

「ほう…」

「そうなるとさ、もしもの話裏切る人が出てきた場合、俺達には敵わない物の、一般の人よりも10倍強くなるわけじゃない?」

「なるほどな、呪術で他言無用にさせるってわけか?」

「うん、みんなにそれを施すのは不本意だけど、一応念のためにと母さんがね…」

「ま、それが正解だろうな、こんな力普通じゃ有り得ないからな、秘密は守った方が良いだろう」

「うん」


 瑞希や皆もその話を受け入れ頷いてくれた。


「それはそうと、そんなの奴隷商会に教わるとかどうなんだ?」


 次はクラウスがそう言った。


「それなんだけど、もしそれを奴隷商会に言ってしまうと、各国の王とかに情報が回るのもなんだけど、そう簡単に教えてくれる物でもないでしょ?」

「たしかに…」

「知らない大陸の呪術師に教えて貰うのが一番だと考えたのさ」

「それで、レイアリグ大陸ってわけか、なるほど」

「うん」


 更に皆頷いてくれた。


「じゃあ、イグ、王様の依頼の件も任せて置くから行くね」

「ああ、任せとけい、ホホホ」


 そう言って俺はゲート魔法を展開しレイアリグ大陸へ繋いだ。


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