第93話 蘇生
瓶をゆっくりと、氷結しているウェズ王子へと傾けた。
金色に輝くその液体は、ウェズ王子の身体へ滲んで吸い込まれていく。
その輝きは、すぐに全身を覆った。
おおおおお…
その光景を見てその場にいる者達がそう呟く。
一気に凍結していたウェズ王子の身体は解凍されて、真っ二つになっていた身体の失った部分が再生し始めた。
「す…凄い…、これが
クシーリはそう言葉が漏れた。
俺は、その光景は一度フェルナンドさんに
傷口に泡のような物が出て来たと思ったら、それがすぐに肉片へと変化していく。
レベッカが作った
15分ほど経ったのだろうか。
もう、真っ二つになっていた、ウェズの身体は一つになりつつあった。
更に数分もすると身体は完全に元に戻り、顔色も良くなってきていた。
金色の光は、修復した部分は消えて収まり、今は頭部を包んでいる。
「あ!新、見て!」
瑞希が俺にそう言って指を差す。
ウェズ王子の頭部へ幾つものキラキラした何かが空中から、ふっと現れては、額に吸い込まれていくような光景だった。
「これって…少しずつウェズ王子の魂が戻ってきているんじゃない?」
「そうかも知れないね…」
瑞希の言った事に俺は頷いた。
すると、ウェズ王子の指が少しピクッと動いた。
「ウェズ兄さん!!」
クシーリはその動いた手を握りしめて叫んだ。
レベッカはそっとウェズ王子に近寄り、首に手を添えて脈をとった。
「うん、生きていますね」
「本当か!良かった…本当に良かった…兄さん…わーん」
また、気丈なクシーリらしくない鳴き声が部屋に響き渡った。
「クシーリ…うるさいぞ…もう少し寝かせてくれ…」
さっきまで死んでいたウェズ王子がそう小さな声で喋った。
「生き返ったあああ!わーん…わーん」
「クシーリさん、あの…ウェズ王子は蘇生したばかり…そっとしてあげましょうか…?」
レベッカはそう言って号泣しているクシーリを宥めた。
新がクシーリをそっとウェズ王子から離すと、クシーリが握りしめていたウェズの手付近は、涙と鼻水で濡れていた。
兵士達は、歓喜や涙が入り混じった声をあげていた。
後は、エイナムルの神聖術師達に任せて、用のない者達は部屋から出るようにクシーリは泣きながら指示を出していた。
新達も、安心して宿の外へ出る事にしたのだった。
「ふう、無事蘇生する事が出来て良かった…」
宿を出てすぐに俺は軽く溜息をついてそう言った。
「さて、とりあえずこれで一段落したな、疲れたし一度戻らないか?」
「そうですね、でも、珍しいですねフェルナンドさんが疲れたって…」
「ああ、実はな…それもあるんだが、工房のイグルートにいろいろと頼んでいる物があってな、そっちの方が重要でなぁ」
「ええ…また武器とか弾薬とかですか?」
「まあ、そんな所だ、ハハハ」
フェルナンドさんはまたイグと何かを研究しているみたいだ…
「待ってくれ!アラタ」
俺達が宿先で立ち話していると、クシーリが宿から急いで出て来た。
「クシーリ?」
「いや…ありがとな、あんな貴重な薬を見つけて来てくれて本当に有難う…」
「いや、気にしないで良いよ、でも、次は見つけてこれるか分からないからさ…」
「ああ、死なないように気を付けるよ」
「うん」
「それで…アラタって独身なのか?」
「へ?何故?一応そうだけど…」
「いや、相手に困ったら…その…、私がいつでも引き取ってやるから、と言うか、私が嫁に行ってやっても良いからな!」
皆、きょとんと沈黙して、暫し時間が流れた。
「はい?な、何の話を…」
「うるさい!そう言う事だからな!たまにはエイナムルにも遊びに来いよ!じゃあな!」
顔を少し赤らめたクシーリはそう言って宿の中へ戻って行った。
「ワハハハ!アラタはモテるなあ、エルティア姫にクシーリ姫までも、ククク色男め」
フェルナンドはそう言って、バンバンと新の背中を叩いた。
瑞希が少し睨んでいる目をしていたような気がしたが、とりあえずスルーした。
「と、とりあえず、サキベルさん達も置いて来ていることだし、も、戻ろうか…」
どもりながら俺は人気のない所へ移動してゲート魔法を展開した。
◇
俺達はエルファシルへ移動した。
すぐに、兵士に案内され宮殿の中へ入った。
「あら?アラタ、その様子だとハイエリクサーは成功だったようね」
「うん」
「人魚族の協力でエリクサーは何本か作りました、ハイエリクサーも魔人族の協力のお陰で今、2本目を作成している所です」
「うん」
「このハイエリクサーの作成が終わったら、アラタ、私の部屋に来なさい、良いわね?」
「はい」
流石、ハイエルフの母さんだ。
1本のハイエリクサーを作るだけで、人魚族のアクアシアさんの魔力は枯渇しているのに対し、エリクサーを何本か作った上に、2本のハイエリクサーを作成してるなんて…でも、少し額に汗が見える所を見ると、そろそろ限界なのかもな…
暫くすると2本目のハイエリクサーが完成し、それを母さんは瓶に詰めて蓋をしていた。
とりあえず、フェルナンドさんも工房に用事があるって言うし、皆も疲れているかもしれないので、クランハウスへゲートを出して見送った。
サキベルさん達はまだハイエリクサー作成のために必要なので、エルファシルでゆっくり滞在してもらう事にした。
ハイエリクサー2本目を作り終えたエウロラは、額の汗を拭い新に近づいてきた。
「ふう…、アラタ、休憩がてら私の私室へ行きましょうか?」
「うん、母さん」
そう頷いて、俺は母さんと共に、母さんの私室に向かった。
◇
エウロラの私室に入り、二人とも椅子に腰かける。
「さてと、アラタいろいろ聞きたい事があるんだけど良い?」
「はい」
「まず、その貴方達から溢れている気配と魔力は何事?魔人族の気配も相当な物だったけど、それとはまた違う」
うーん、やはりこれは言わないと怒られちゃうよな…
「実は…」
俺は母さんに、レイアリグ大陸での悪魔族の進化した者達、魔人族から先の話を簡単に説明した。
「なぁんですって!!
静かに聞いていたエウロラは、ダイア・コングのいる場所で、古代人の研究施設を見つけてアーティファクトの話をした途端、ガタっと立ち上がってそう言った。
「あ~えっと…落ち着いて聞いてよ母さん、そもそも、アーティファクトは最初から起動していたんだって!それを止めるにも一人はどうしてもこうなってしまうわけでして…」
「‥‥‥で、それを停止させて、それは回収して来たんでしょうね?」
「う…うん、一応回収したけどさ…」
「そう…アラタ何度も言うようだけど…」
「わかってるって母さん!レイアリグ大陸の不死族のシュクロスさんにも言われたよ、アーティファクトは危ない物もあるからむやみに起動させるな~でしょ?」
「そうよ、古代人が有り余る技術で滅びたように、その遺産はあまりにも危険なのよ…本当にそれが分かっているの?なってしまったのは仕方ないけど…本当に気を付けてねアラタ」
「うん、わかってる、この本を読んでから皆で浸かったから、本当にこれは大丈夫だから」
俺は、マジックボックスからグランドヒューマン化に関する本を取り出して、母さんに渡して、受け取った本を母さんは開き、読みだした。
古代ルーン文字で書いてあるその本をエウロラは熟読した。
新は、エウロラが読み終えるまでじっと待っていた。
「なるほど、古代知識の粋を結集した軍事用の生物強化アーティファクトなのね、副作用もなく、体を作り変えるなんてとんでもない物だ事…」
「うん、本当に凄い物だと思う…だから、これは世に出すことは出来ない、俺がちゃんと管理して置こうと思ってるよ」
「そうね、それはそれで良いとして、私とヴィクトリアと、私の親衛隊数人にその力を使わせてもらいます」
「え?グランドヒューマン化するの母さん?」
「勿論よ、寿命も10倍になるんでしょ?それならこのエルファシル、妖精の国は安泰ですもの、ドレイクみたいな強力な魔物が襲ってきても対処できますしね」
エウロラは微笑んでそう言った。
まあ、考えてみれば、悪人なら問題あるけど…俺が選別してグランドヒューマン化させるのは問題ないかな…
大事な人を守るために、これはこれで有りじゃないかと俺は思った。
「そうだね、ハイエルフの血も今の所、俺と母さんと妹のヴィクトリアしかいないわけだし、スキルスクロール、マジックスクロールを生み出すことが出来るのも今は俺達しかいないわけだもんね…」
「そうよ、私達ハイエルフの血筋はこの技法を繋いでいかねばなりません、それには長寿は必要と考えます」
「わかりました、それなら、俺も失いたくない自分の家族のような、クランのメンバー達にこの力を使わせてもらっても良いかな?」
「貴方が、この人なら大丈夫と思う人なら良いんじゃない?でも、秘密をしっかり守ってくれる人のみって難しいわよね…」
「うん」
俺は母さんと、このアーティファクトの使い道をここで話し合った。
確かに危険な物ではあるけど、使い方を誤らなければ問題はないと考えた。
「あ、秘密を守るいい方法があるわ!呪術よ」
「え?呪術って、奴隷商会や、使い魔を契約するアレ?」
「そう、呪術なら秘密を守らせるようにする事は出来そうだけど…でも…それを奴隷商会に頼むとしても、一人にはこの秘密を明かさないといけなくなるし…」
「呪術って、俺達ハイエルフで何とか出来たりしないの?」
「あれは、魔法を使用しているけど、全く違う術式なのよ、魂に直接刻み込む術式で、その思考、行動を呪縛する古代から伝わるもの…大昔にハイエルフの血を持たない者が、ハイエルフを呪縛するために開発された闇の魔法とも言われているのよ」
「へぇ…闇の魔法ね」
待てよ…
確か、シュクロスさんのいる、レイアリグ大陸のアルカードの町って呪術はあるような事言っていたような気がする。
「ちょっと、古代人の一人シュクロスさんに聞いてみるね」
「はい、そう来ると思ってましたわ、フフフ」
俺は、目を閉じ、遠距離念話をシュクロスさんをイメージして話しかけた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます