第91話 帰還
ダイア・コング達との戦いも終わり、俺達はサキベル率いる魔人族と共に帰里の路に付いた。
ダイア・コング達は、あのGH機関のある場所にこれからも住むのだそうだ。
よく見ると、この建物の周りには果物の生る木もあったのだ、古代人達が持って来て植えた木が、今もそこで育っているのだろう、コング達には絶好の住処なんだろうと思った。
魔人族には、一切関与しないと言う約束もボスのグンゴはしてくれた。
今度、魔人族を襲った時は、俺達が灰にしてやると脅しもかけているのでちゃんと守ってくれるだろう。
あの後、雌のコングと子供も出て来たが、俺達の巨大な気配が野生の勘でわかったのだろうか、子供は泣きだし近づいて来てはくれなかった…。
まあ、何にしても、レベッカのお陰で一つの種を絶滅に追いやらなくて良かったのかも知れない。
他の場所にもダイア・コング種はいるとは思うけど…、智恵を持っているのはここにいる種だけかも知れないしね、これはこれで良かったとしようと思った。
帰る途中、魔人族の会話が聞こえる。
「人間って強い奴は俺達を凌ぐんだな」
「今度、人間のヒーラーが来た時は丁重にもてなそう」
「怒らせないようにしないと危ないぞ」
とか、聞こえて来た。
まあ、悪い人間は殺して貰っても構わないと思うけど…
とりあえず、高ランクの冒険者以外の人間は魔人族と言うか、その辺の魔物にさえ敵わないわけだし、弱い人間に牙をむかないようにしたって事で良いかな。
そして、フェルナンドさん、クラウスと帰る途中話をした。
後から気付いたのだが、あの山から麓に向けて木や植物が小さくなっていくのだ。
やはり、あのグランドヒューマンアーティファクト効果の水が亀裂から流れ出て土、木、植物などに変化を与えていたのだろうと推測した。
この辺の魔物が強いのはその、水や植物、果物などを食して何らかの進化を得たのだろうと思った。
ひょっとしたら、グンゴの知能は魔人族を食べたからではなく、より多くこの地のGH化の影響物を食して、脳が活性化されたせいで知能が付いたのではないだろうかと皆で推測していた。
鑑定スキル持ちのクラウスと、いろいろと考えて話し合ったが。
鑑定スキルで生物を見た時、なぜ、筋力、体力、魔力、俊敏しか数値化して見えないのは何故だろうと語った。
そう、その時、瑞希も気付いたが、知力と言うステータスがゲームや漫画では出て来たりするがそれがないのだ。
レベッカがグンゴに言っていた事を俺は思い出して、その事を語った。
つまり、知力とは、記憶している知識の事であって、記憶は脳の海馬と言う部分に蓄積されると言われているが、実際、形のない物なんて数値化できるわけはない。
他の4種は、体育授業とかで体力測定でわかるように、その人の持つ能力が形ある分かりやすい物だからなのだろうと結論づけていた。
何度も言うようだが、生物はその時の気合の乗り方、体調の良し悪しでその数値は変化するから鑑定スキルで見ても参考にしかならない。
火事場のなんたらや、怒った時、嫌な事があった時、やる気が出ないとかの時は数値がガラリと変わるのだ。
知力を計る事は出来ないが、物事を多く知っている方が何でも有利に強く進める事は事実だ、そして俺は気付いた事がまだあった。
グランドヒューマン化したばかりで感覚が研ぎ澄まされているのは、もうみんな気付いた事だろうけど、俺はあのグンゴがいる建物の場所を写真を撮ったかのように鮮明に覚えているのだ、壊れた壁、中央の広場、脇に生えていた木々まで。
これは、その脳の海馬、記憶する部分が大きく発達したからではないかと思った。
今なら、教科書なんて丸々覚えて、大学受験も満点で合格できる自信がある。
まあ…、いまさら遅いけど…、半ニートゲーマー、この世界に来なければその二つ名で終わっていただろう人生…、良かった…、この世界にこれて。
「新、何一人でニヤけたり、落ち込んだりしてるのよ」
「え?ああ…、ちょっとね…それよりさ」
俺は、記憶量領が増えたのではと、皆にも語った。
レベッカは、俺のその言葉に食い付き、また地球に行った時にまだ持っていない医学書を買って来て欲しいと願っていた、勉強熱心だ事…
そして、魔人族の里へ戻って来た。
◇
「アブゼル様、帰還致しました」
「おお、サキベル、皆無事だったか!」
「はい、しかし、このアラタ達の功績が大きく、我々は全く手出しも出来ませんでしたが…」
「ほう…」
アブゼルは俺達を見て、自分の顎に手を置き擦った。
「えっと…、でも全滅はさせてませんけど、それで良いですか?」
「なに!?何で絶滅させなかったのだ?それでは、また…」
「いえ!アブゼル様、そこはあたいに話をさせてください」
アブゼルの言葉を遮ってサキベルはレベッカに言われた事や、一連の事柄を最初から語った。
アブゼルはじっと、サキベルの話を聞いていた。
「ふむ、なるほどな…、恨みはまた恨みを生むか、確かにそうかも知れないな…、しかし、賢くなるためにまた魔人族を襲い来る可能性も残ったわけだが…」
「それは、一応、俺が脅しをかけてますので、大丈夫だと思います」
まだ不安そうなアブゼルに俺はそう言った。
「あと、グンゴちゃんは私の話も熱心に聞いてくれて、これからはいろいろと考え試して学んでいくと言ってくれました」
「グンゴちゃん?…」
「ああ、ダイアコングのボスコングです、はは…」
レベッカは新とアブゼルの話に割って入ってそう言った。
「俺達の見解なんですけど、魔人族を食べて知力が付いたのではないんじゃないかなと思います」
「アラタ、それはどういう事だ?」
「えっと…」
グランドヒューマン化のアーティファクトの事は黙っておかないとややこしくなるな…ここは適当に言っておこう。
「あの辺の水には不思議な力が宿っていました、それが木や土、植物、果物などに変化を与えてそれを食した魔物が進化していたと思うんです」
「なんと、そんな事が…」
「それで、俺達があそこで戦闘をしたせいなのかは分かりませんが、その不思議な水が普通の水になっている事も確認しましたので、これからはあの地域の魔物がこれ以上強くなることもないと思います」
「ふむ…」
俺はそこは濁してそう言った。
「元々、コングみたいな魔物種は脳が発達しているので、多分、その水などの影響で知能が発達したのではないかと思います」
「はい、アブゼル様、あたいも最後にダイア・コングの子供が遊んで地面に絵を書いているのを見ました、いずれ知能は高くなるのかも知れません、それと、アラタ達が圧倒的な力を見せつけてくれたので、アラタの最後の脅しは今後も生きるかと思います」
「なるほど、サキベルがそう言うのなら大丈夫なのだろう…、わかったそれを信じて今はコング達を許そう…、我らも、またいつ天敵が現れるかわからん、そのために、より強くなっていかねばならんな」
「はい、アブゼル様」
どうやらアブゼルは、ダイアコング達を生かした事を理解してくれたようだった。
「よし、何だったかな?アラタの望みは我らの血だったな?」
「はい」
「どのくらいいるのだ?」
あ…そういや、悪魔族の血の量なんて考えてなかった…
「あ…、えっと…、どのくらいなんだろう…」
「なんだ、どのくらいとかも決めてないのか…」
もごもごしている新にサキベルが呆れてそう言った。
「はあ、それなら…アラタお前達に、あたいはついて行ってやろう」
「え…」
「人間の世界を勉強するのも悪くはないしな、アブゼル様、少しこの里を抜ける事になりますが良いでしょうか?」
「うむ、魔人族の恩人だからなアラタは、それは許そう、そうだ、バランガと我が甥のグラベルドも一緒に連れて行くと良い」
「有難うございます、アブゼル様」
「え…、いやいやそれは…」
「何を言っている、何に使うのか分からんが、もし、魔人族一人分の血が必要とかだったら、あたいだけでは死んでしまうぞ!」
「ああ…それはそうだけど…良いんですか?」
「ああ、あたい達を存分に使ってくれ」
流れでそうなったが、一応これで悪魔族の血は手に入った。
後は、ハイエリクサーを調合するだけだ。
◇
次は、ハイエリクサーの調合のために、エルフの里に移住した人魚族、クレンシアの母、アクアシアに会う必要がある。
俺は早速、ゲート魔法を展開してエルフの里、エルファシルへ空間を繋げた。
その様子を見て、魔人族は物珍しそうにしていた。
「アラタ、これは?」
新に不思議そうな顔をして、アブゼルはそう言った。
「空間を繋げて遠く別の所へ渡る魔法です、勿論、俺のオリジナルの魔法なので、俺だけしか使えません」
「なんと…、空間を?目視出来る場所への瞬間転移とは違い、遠い場所に…、それも、皆で?それは凄いな…」
魔人族の長アブゼルは、しかめっ面でそう呟いていた。
「はは…、ちょっと急ぎますので、アブゼルさん…、行きますね」
「ん?…ああ」
「では、行って参りますアブゼル様」
「うむ」
◇
俺達は魔人族、サキベル、バランガ、グラベルド3人を連れて、エルファシルへゲート魔法で移動した。
そこは、エルファシルの宮殿前だ。
もう新達がゲート魔法で現れても、そこの兵士は当然のようにこちらを確認して会釈していた。
「おお…、俺らの魔人族の里に似ている場所だな」
ヒキガエル顔のバランガが移動して来たてでそう声を漏らした。
「ああ、そう言えば似てますね、でもここは、洞窟の中ではないので」
「ふむぅ」
新はそう答えた。
そして、宮殿の入り口から母エウロラが出て来た。
「アラタ!何ですか?その貴方達の気配は、妖精達が驚いて騒いでいますよ」
「ああ…」
グランドヒューマン化したから、それを感じ取っているのかな?
「それに…、そこの3人から、悪魔系魔物の気配が溢れ出ていますが…、まさか?」
「母さん、この3人は魔人族です」
「魔人族?」
「えっと、悪魔族が進化して…、まあ、とりあえずちゃんと話するから、中へ入れてよ」
「本当に大丈夫なんでしょうね?」
「良いから良いから…」
俺は、母の背中を押して宮殿の中へ入った。
ぞろぞろと、大広間の部屋へ俺達と魔人族3人も入って行く。
大きなテーブルを囲んで、並べられている木で作られた精巧な椅子に皆、腰掛けた。
「アラタ、私が察するに、悪魔系魔物の血を求めて旅立った結果、魔人族と言うその進化した種族と出会ったってとこかしら?」
「はい母さん、大体それで合ってます」
「なるほど…、もうすでにアクアシアはここに呼んでおります、もうそろそろ…」
カチャと音が鳴り、クレンシアの母、アクアシアが扉から入って来た。
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