第90話 制圧
「来るぞ!」
クインがそう叫ぶと、一斉にコング達が四方の山の上から広場へ飛び掛かって来た。
魔人達は、すでに詠唱を終え、片手には新が渡した
「纏まっては駄目だ!散れ」
サキベルはそう叫んで、魔人族達は散って、クイン、ヴィグも瞬間移動してコングの背中をとっていた。
新達は、皆、その場からまだ動いていなかった。
俺は、ある事に気付いた。
クイン、ヴィグはまだしも、魔人族達も決して弱くはない、人間ではないのでその能力は計り知れないはずで。
魔人族の大きな魔力の流れが感知出来て、何の魔法を具現化しようとしているか分かる、クイン、ヴィグが瞬間移動するその先まで予測出来るのだ。
それは、身体の細胞が最大限まで進化された事で、魔力感知と動体視力も強化されたせいなのだろう。
そして、ダイア・コング達の気配だ。
飛び掛かって来たのは、34体。
建物に隠れているのが、27体。
少し離れた所にも小さなコングの気配も数体、これはコングの子供と推測。
そして、その中でも大きな気配が1体、山影で暗く見渡せる場所でじっとしているのが手に取るように分かったのだ、まるで、静まり返った場所で一滴の水が垂れ落ちたのが聞こえるかのように。
「結構いるが…、これは負ける気がしないな」
クラウスがそう言った。
俺だけじゃなく皆そう感じているようだった。
「ああ、じゃ、俺は適当に遊んでくるわ」
「ミーも行くよ!」
フェルナンドとカレンはそう言って、その場から瞬時に建物の上へジャンプした。
そのジャンプ力は、もう人間の物ではなかった、軽く飛んだだけなのに、そこにある建物よりも高く飛んでいた。
ジャンプした二人は、飛んだ瞬間アトラクションを楽しんでいるかのように笑っていた。
俺が、飛んでいる二人の笑いを遠くから目視した瞬間、俺と瑞希の前に一体のコングが大きな拳を振りかざし飛んで来たが、瑞希が斬馬刀を素早く大きく振って真っ二つにしていた。
「新、何ぼーっとしてるのよ」
「ああ…、すまん」
「この重かった武器が木の棒持っているみたいに軽いわ、レベッカの護衛は任せて!」
「ああ…、わかった」
瑞希はそう言って、返り血を浴びた斬馬刀を一度大きく振って血を払った。
サキベル達に襲い掛かったコング達は多数だったが、俺達に襲ってくるのは少なかったので、マイティ、クラウスが残りを相手していた。
新達、人間はいつでも殺せると思っているうえ、殺した所でなんのメリットもない事をコングは知っている、魔人族を喰らえば賢くなる事を理解しての行動なのだろう。
魔人族の隠密、チョーカー達は索敵には向いていても戦闘には向いていない。
陰から暗殺を狙ってはいるが、その硬い皮膚には敵わないと思い陰に身を潜めていた。
グランドヒューマン化で感覚が研ぎ澄まされ、俺達パーティはここで起こっている全ての情報が頭の中に入って来た。
サキベル魔人族パーティに襲い掛かって来たコング達は10体。
魔人族の放った魔法を、太い腕で振り払い襲い掛かっていた。
新は、大きな魔力を込めて氷魔法アイシクルを放った。
新が放ったその
その初級魔法でさえ、新が瞬時に作り出した氷柱は魔力を大きく込める事で、巨大で鋭く硬度な氷柱を作り出していた。
それは、サキベルに襲い掛かった3体のコング達を串刺しにして山肌へ刺さった。
「!?」
サキベルが防御の構えをとった瞬間の事だったが、目の前からいなくなったコング達の行方を捜して驚いていた。
他の魔人族達にも、他のコング達が襲い掛かろうとしていたが、新は目を一瞬閉じて、開いた時7体のコングが青い炎の業火に包まれた。
新は、放つのではなく、その位置に酸素と天然ガスが燃えるイメージを膨らませ、魔法を具現化したのだった。
ギャアアアアア!!
グオオオオ!!
最大火力にまで達した業火に包まれたコングの皮膚はみるみると灰になって断末魔と共にその場に崩れ落ちた。
魔人族達は一歩も動けず、その光景を見て茫然としていた。
その魔人族の近くの壁にいきなりコングが飛んできて減り込んだ、それに驚いて、はっと我に返ってそれを見る。
激しく壁に激突したコングは絶命していた。
手足がすでに曲がらない方向に曲がっているソレを見てぞっとするのだった。
それは、フェルナンドとカレンが素手で殴る蹴るを繰り返し最終的にそうなったソレだった。
俺は、魔人族の周りの敵を焼き尽くした後、周りを確認していた。
もう漫画の世界の出来事か、レベルを上げすぎたゲームの主人公のソレだった。
殆ど無双だ。
俺とレベッカが何もしてないだけで、フェルナンドさん、カレンさん、瑞希も、クラウス、マイティもコング達を物ともせずに駆逐していく。
クイン、ヴィグも頑張っていたが、相手している1体弱らせることが出来ても討伐まで出来ていなかったが、トドメはフェルナンドさんと、カレンさんに持っていかれていた。
すると、クラウスが一体のダイア・コングを広場に連れて来た。
「こいつが、多分、ボスだぜ!」
そう言ってクラウスは、毛色が違う一体のコングを俺のいる広場に放り投げて来た。
そのダイア・コングは爬虫類系の丈夫な皮を着こんでいて、クラウスに何発か殴られたのだろうか、鼻血を出しながら胸を片手で抑えていた。
「オマエラ…、ニンゲン…、チガウ」
上位種でこの群れのボスであろう、ダイア・コングはそう片言で喋った。
「おお?喋れるのか?」
「グヌ…」
クラウスはそう言って腕を組んだ。
フェルナンド達や、魔人族も戦闘も落ち着いた時、広場に戻って来た。
まだ、隠れているコングは数体いるのだが、親玉も捕まり戦意喪失しているのだろうか、殺意が伝わってこなかった。
「コロセ…、オレラ、マケ」
「貴様、よくも我が同胞を沢山殺ってくれたなあ!」
弱々しく言うボスコングに、サキベルが前に出てそう叫んだ。
「フン…、ヨワイ、ダカラ…クウ、マジン…クウト、オレラ、カシコクナル…」
「貴様あああ!!」
「待って!サキベルさん、もう少し話させて」
俺は、今にも斬りかかりそうなサキベルさんを止めた。
「オマエラ…、ナニモノ、ニンゲンチガウ、オレラシテル、ニンゲン、スゴクヨワイ」
「ああ、俺達みたいな人間や亜人もいるって事だ、世界は広いんだよ」
「ソウカ…、オレラ、ヨワイカ…」
古代人が滅んでからすでに何千年も経っている、グランドヒューマン化して寿命が10倍になったとしても生きている人なんて、多分いないだろう。
俺は、人間にも強い者はいると言った、それはこれから先、人間やエルフ、ドワーフなど亜人に危害が少しでも減る可能性を示唆しての事だった。
「ねえアラタさん、このコングさんも、残りのコングさんも助けてやる事はできませんか?」
レベッカが俺にそう言った。
「え?」
「だめだ!何を言う小娘!こいつらに我らは沢山、殺されてきたんだ、ここでこいつを助けたら、死んだ者達に私は…」
「それは分かってます、サキベルさん、でも…、私達が来たから魔人族は助かったのかも知れないけど、逆にコングさん達は全滅させられちゃうんですか?じゃあ、私達が味方していたのがコングさん達だったら?もう十分100を超えるほどのコングさん達を、今殺したじゃありませんか?恨みはまた恨みを生みます、次は、コングさん達の子供達が魔人族に恨みを晴らしに行きますよ?」
珍しくレベッカが感情を剥き出しにして、サキベルにそう言った。
「それは…、そうだが、それでは…」
「アラタさん、コングさん達にチャンスをあげてもらえませんか?全滅させるなんて可哀そうすぎます!」
サキベルはレベッカの勢いのある言葉に少し戸惑っていた。
俺もレベッカのその言葉で一度俯いて考えた。
「おい、ボスコング、お前生きたいか?」
「ソレハ…、モチロン、シニタイヤツイルノカ?…、イキルタメニ、カシコクナル、イキルタメニクラウノガ…、イキモノダロ」
クラウスの言葉に。ボスコングはそう答えた。
「オ~ケ~、アラタ、決まりだな」
「フェルナンドさん…、はい、俺もそう思いました」
ボスコングは、痛そうな表情をしながら俺達をキョロキョロと見ていた。
「サキベルさん、レベッカの言う通り、俺達は一度コング達にチャンスを与えたいと思う」
「しかし…」
「勿論、これから先、魔人族へ牙を剥くような事があったら、俺達は容赦をしないと言う約束の下でね」
「む…、むう…」
魔人族達は、納得しがたそうな顔をしている。
「ワカッタ…、タスケテクレルナラ、マジンニテヲダサナイコトチカウ、オレラシュゾク、イキタイ」
「と言ってるけど?」
「むう…、わかった…、確かに今回アラタ達が来ていなかったら、あたいらが絶滅の危機にあう可能性もあっただろう、それに、あたいら何もしてないしな…、だからアラタの言う事には従うよ…それで良いよなバランガも?」
「ああ…、俺は難しい事はわかんねぇ、サキベルが良いって思うのなら、それで良い」
カエル顔のバランガも、魔人族達もサキベルの問いに頷いた。
「アリガトウ…、コムスメ、チャンスクレテアリガトウ」
「小娘?んふふ、さっきサキベルさんがそう言ったからなのね、それ私の名前じゃないですよ、私はレベッカって言うんです」
「レベッカ…」
「はい、コングさんの名前はなんて言うの?」
「オレハ…、ナマエ…、グンゴトヨンデクレ」
「それ…って、コングを逆読みしてコをゴにしただけじゃない、うふふ」
「イマキメタ」
「あはは」
ダイア・コングと魔人族はここで休戦を誓い合った。
それから、レベッカは、まだ息のあるダイア・コングをヒールで助け、グンゴと少し話をしていた。
知恵と言うのは、別に魔人族を食べなくても学ぶ事が出来る事を教えていた。
猿が人間に進化したように、少しの知恵があれば後は学ぶだけで賢くなれる事。
何でも試してみて、上手く行った事、失敗した事を子供達後世に伝えて行けば、進化出来ると説いていた。
「じゃあ、サキベルさん戻りましょうか?」
「ああ、アラタ、いろいろ有難うな…」
「いえ、でも…、魔人族族長さんは納得してくれますかね?」
「それは大丈夫だ、あたいも参謀の一人、そこは納得させてみるつもりだ」
「お願いします」
「それより、お前達…、あの強さはおかしくないか?人間って鍛えるとそこまで強くなれるのか?」
「あ…、ははは…、修行って凄いですよねぇ、ははは…」
「む?」
新は、サキベルの問いを濁してそう答えるのだった。
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