第88話 G,H機関
俺達はその施設の転送装置に触れ何処かへ飛ばされた。
そこは、建物の中だった。
ほんのりと明かりもついている。
壁には少しヒビが入っている所もあり、そこから植物が多少生えている所もあった。
「ここはやはり施設の中…だろうな?」
「そうかも知れませんね」
フェルナンドはそう言って、壁のツタを少し引っ張って確認していた。
そこは普通に転送に使う部屋というのは考えるもなくわかった。
隣に、ここへ来る時と同じような手を触れる装置があるのが確認できた、それはここから出る時に使うものだろうと察した。
「電灯ついてるみたいだけど…、誰かいるのかな?」
瑞希は部屋を灯している明かりを見ながらそう言った。
「どうだろ…、でもあのルーン文字の転送装置はハイエルフの遺伝子がないと起動しないと思うし…」
「古代人の施設なんだ、永久に灯る電灯みたいな物なんじゃね?」
新は、瑞希の問いにそう考えながら答え、すぐその後にフェルナンドもそう言った。
瑞希は、なるほどと頷く。
俺はその部屋に一つだけある扉へ向かって歩いた。
扉の四角いプレートらしき所に手を触れると、そのプレートが少し光、すっとその扉は開いた。
フェルナンドとカレンが扉の外を確認して、素早く背中合わせで右と左に銃口を向けて飛び出す。
「「クリア」」
2人が同時にそう言ったので、皆で部屋を出ると、目の前には大きなドーム型の曇ったガラスに囲まれた円形の何かが見え、それにそって通路がぐるりと囲んでいるようで、扉がいくつかあるのも確認できた。
「ここは…」
俺は周りを確認しながら、今出てきた扉の隣の壁に書いてあるプレートを見つけ。
【中央広場ルーンポータル】
俺は皆にわかるように声に出して文字を読んだ。
「右と左どっちに進む?まあ…この通路の形だと真ん中のガラス張りの所に沿って一周回れるようだが」
「それなら右から回っていきましょうか?」
俺は右から壁に沿って見て行こうとフェルナンドにそう言った。
そこまで広くない通路を右へ進む。
フェルナンドが先頭で、俺達を挟むように、一番後ろをカレンがアサルトライフルを構えながら進んだ。
所々に服を着た人骨が転がっている、この場所で息絶えてそのまま放置されていたのだろう。
その白骨化していた一体の服をクラウスが探ってみるが、これと言って何もなかった。
次の扉に行くとそこの扉のプレートには、【責任者室】と書かれていた。
新はその扉に触れるとスッと扉は開いた。
その部屋には人骨すらなかったが、壁の棚にはファイルに入った書類ぽいのがびっしりと詰まっていた。
責任者用のテーブルと椅子があり、そのテーブルの上にも書類が散乱している。
新はそこへ近づいてテーブルに置いてある書類を見てみた。
≪第12期、グランドヒューマンは速やかに前線へ送り込むよう通達する。≫
≪第13期に関しては、今は人を選別する余裕はない、許可された者からGH化する事を認める。≫
新は口に出して書類を読んだ。
「なんだそりゃ?グランドヒューマンってなんだ?」
フェルナンドは新の後から紙を覗き込んでそう言った。
「さあ?…、あ!GH化した何かがグランドヒューマンって事なんですかね?」
「なるほど…その頭文字ってわけか」
新とフェルナンドはそう理解した。
「ここの責任者って、慌てて外に逃げたのかな?」
瑞希はそう言って散乱している書類を少し拾って整えた。
「そうかもね、その古代人の戦争か何かが起こった時、逃げ出したのかも知れないなぁ…」
新は、そう答えて瑞希が拾ってきた書類を受け取って目を通していた。
大して、目ぼしい事を書いている物はなかった。
そして、書類や本などが詰まっている棚に目をやった。
「あ!…」
「ん?アラタどうした?」
新が声をあげて、クラウスが振り返った時、新は一冊の本に指をかけた。
新が手に取った本は、グランドヒューマン化に関してと書かれていた。
俺はそれを一ページから声を出して読んだ。
「グランドヒューマン化とは、我が国の魔科学の粋を結集して作った、極秘の生物強化装置である」
「ほう…」
「水槽にその装置を沈め、起動すると瞬時に装置に触れた液体は強化素材へと変わる、その液体はその者の細胞の末端まで浸み広がり、その能力を作り変え開放する事になる」
新がそこまで読んだ時、フェルナンドが口を出す。
「細胞を作り変える?どういう意味だ?」
「さあ?…」
新は首を傾げたが、その後を更に読み上げた。
「個人差もあるが、グランドヒューマン化した者は、その者の持つ全ての能力が約10倍上昇する、まさに超人化である…、って…」
「おいおい…、今10倍って言ったか?」
「うん…そう書いてる」
皆、俺の話を聞いて驚きを隠せない。
「じゃ、あの中央のドームがその水槽なのかな?、あれに入ると怪物化しちゃうって事?」
「ど…、どうだろ…、でも…あれだ、エルフの里にある温泉、魔力の泉にもそんな力が宿ったからね…、似たようなと言うか、それの強力版アーティファクトなのかも知れない」
瑞希の問いに新は引きつり加減でそう答え、瑞希は考えながら、ああ…と答えた。
俺はその続きを読んだ。
「そのため、人選は不可欠だ、万が一人選を誤る事があったとしたら、内部から崩壊してしまう事になるだろう」
「そりゃあ…、そうだろうな」
フェルナンドは両手を広げてそう言った。
その後も新は続けて暫く読み上げた。
この施設は軍の最高機密の施設で、この部屋がある場所は、あの入り口のある建物から更に険しい山頂の奥深くに作られている事も書いてあった。
入り口があるあの建物群は、軍が単なる見張りのために作られた施設だと世に示されていて、こんな場所があるとは軍の幹部ですら数人しか知らないと記された隠された施設だと言う事がわかった。
後は、専門的な事が書かれていて、聞きなれない言葉や単語に首を傾げて読んでいたが、分かった事もあった。
グランドヒューマン化とは、生物の細胞を極限まで強化して超人を作り上げると言う物で、容姿はそこまで変化しないと書いてもあった。
その方法は、水槽に起動させた装置を沈めて浸かり5分ほどでそれは完成する事、装置はハイエルフでないと起動は出来ず、停止するのは誰でも出来るという事、この場所に出入りするにも、全ての権限がそのハイエルフ責任者一人の権限により運営されていると言う事まで書かれてあった。
「約10倍…って、俺達も強くなれるって事だよな?」
フェルナンドが顎さすりながらそう言った。
「まあ、そう言う事でしょうね…」
「ねえ、新、容姿が変わらないって言う事は怪物化って事じゃなくてそのまんま強くなるって事だよね?」
「だと…、思うけど…」
フェルナンドさんも、瑞希もそう疑問を俺に投げかけて来るが…
俺もこんなの初めて見るわけで…
「幸い、ここにはもうその責任者ってのは居ないわけだし?ここにハイエルフの末裔が一人居るわけだし、ミー達も強くなっちゃいましょうよ!ね、アラタちゃん」
カレンが新にそう言って肩を軽く叩いた。
「え…、でも、こんなアーティファクト使って、副作用とか大丈夫ですかね?その代償に寿命が三日とかになったりしたら、それこそ…本末転倒な…」
「新、副作用とか書いてないの?ほら、この※印みたいなの、小さく書いてあるけどこれはなんて書いてあるの?」
俺の言葉を遮るように瑞希が本を覗いて指を差していた。
「ん?※印?」
よく見ると、そのページの下の方に他の文字とはサイズが小さく何か書いてあった。
「最初の試験体の人間はエルフと同じくらい生きている、寿命に関してはまだ確証は得られていないが、身体能力が約10倍になるのだから、寿命に関してもそうなるのかも知れない」
と、書かれていたのを読んだ。
「‥‥‥」
皆、暫く沈黙した。
「それは、逆に良い事なんじゃないの…かな?」
珍しくマイティが一番早くそう突っ込んだ。
「良いこと尽くめだよね?」
「そう…だな、強くなった上、長生きだもんな…」
「great!」
「うん」
「ああ」
皆そう言って頷いていた。
「そう…だよね…、でも、そうなるとね…、俺、元々ハーフエルフだし…、普通でも500年は生きるとすると…」
「5000年!生きるのあんた?」
引きつりながら言う俺の隣で瑞希がそう言った。
「「あはははは!」」
「んふふっ」
「良いじゃん良いじゃん!」
「ハッハッハ」
皆、その瞬間にどっと大笑いしてそう言った。
「ワハハ、とりあえずアラタ、あの水槽の所行ってみようぜ!」
フェルナンドがそう言って、俺の腕を引っ張った。
俺は、グランドヒューマンに関して書かれていそうな題名の本を適当にマジックボックスに仕舞って、皆とその部屋を出たのだった。
通路を再度確認して出てみたが、物音一つしない。
やはり、もうこの施設に生き残った者はいなそうだ。
俺達は、更に右回りで通路を進んだ。
いくつか部屋はあったが、そのプレートに書いてある名前は〇〇研究室、〇〇算術室、休憩室など様々だったが、時間をかけるわけにはいかないので無視して進んだ。
入って来た転送装置の部屋から反対側付近に辿り着いた時、中央の曇ったガラス張りドームの入り口を見つけた。
「お、あそこが入り口みたいだな」
先頭を進むフェルナンドがそう言って指を指した。
その扉に近づいてフェルナンドが扉のセンサーらしき所に手を置いたが、何も起こらなかった。
「ここも、ハイエルフ遺伝子の出番だな」
「あ、うん」
新は頷いてそのセンサーに触れた、すると、すーっと扉は開いた。
中はドーム状になっていて、直径10mくらいの円形のプールがあり、壁から管がプールの上に伸びていて、ちょろちょろと蛇口を少し回したくらいの水が落ちてきている。
プールの水はキラキラと淡く光り輝いていて、周り床には劣化した地面にヒビが無数に入っていた。
「見て、新、プールの底に何か丸い物が落ちてる!あれが装置なんじゃない?」
瑞希が俺の肩を叩いてプールの底に指を差した。
俺もそれには気づいていた、深さは多分4~5mくらいで、バスケットボールくらいだろうか?金色の球体が見えた。
「この水…ずっと流れているのにプール溢れないのかしら?」
カレンがそう不思議そうに言った。
「カレン、ほら、プールの至る所にも亀裂やヒビが見える、それで何処かに染み出ているんじゃないか?」
「ほんとだ…」
カレンの問いにフェルナンドがそう答えていた。
「さて、どうする?みんなで一気に浸かるか?」
更にフェルナンドはそう言った。
「いや、もしもの事を考えて俺が先に行ってもいいか?」
そう言ったのはクラウスだった。
「え?」
「念には念をな、まず危険な賭けにでるなら、このパーティの中で俺が適任って事さ」
「どうしてですか?」
「ふふ、女性に危険な役目を負わすことは出来ないから先ず外す、そして、アラタは最重要なので除外、フェルナンドさんは俺より遥かに強い、アラタを守るには不可欠、最後に残るのは獣人で人間より体力のある俺って事で、俺が一番の適任者ってわけよ!それに、俺はアラタに助けられた時、いつでもお前の身代わりになっても良いと決めているからな」
「クラウス…」
そう言って、クラウスは武装している装備を脱いで床に置いた。
「もし怪物化した時は…、フェルナンドさん、その銃で俺を苦しまないよう殺してくれよ」
「yes、任せておけ、俺なら外すことはない」
「フフ、ありがとさん、じゃあ!」
クラウスは、身軽そうにぴょんぴょんと2回ほど跳ねて、3回目で綺麗にプールに飛び込んだ。
ザブン!
暫く、深く潜ったかと思ったら浮いてきて頭を出した。
「ぷはっーー!」
フェルナンドは、銃を構えクラウスの眉間を狙っている。
皆がプールに浮かんでいるクラウスを見つめている。
「ん?何ともないが…」
クラウスは俺達の方を見ながらぷかっと浮いてきょろきょろしている。
「あ!うお…あああ」
こちらからは何か変わったことは見えないが、クラウスは何かの変化に声をあげているようだった…
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