第87話 大猿の巣
俺達はその険しい山々をサキベルの案内で登っていく。
その道中、とても歩きでは進めない場所もあったが、翼を持っている魔人族に抱えられそこを難なくクリアできた。
その道中にサキベルからまた魔人族の事を少し聞いた。
サキベルは、自分はサキュバスと言う悪魔種から魔人族になったと言った。
元々、知能は高い種族だったからこそ、アブゼルの参謀の一人をしているのだと言った。
他にも、魔人長のアブゼルの元の悪魔種はホーンド・デヴィルと言う種と言い、知力の実を食べた最初の悪魔種で、あの里を築き、今のアブゼルで13代目だと言った。
バランガは、ヘズロウと言う悪魔種からの派生と言い、ヒキガエルを厳つくしたような顔に大きな体をしていて、翼はなく背中一面に長い刺状の突起が生えている。
力では、ダイア・コング達にも負けないのだと言った。
レベッカが助けたグラベルドは、アブゼルの甥っ子でホーンド・デヴィルと別の種のハーフ種との事だった。
「へぇ…いろいろな悪魔種が魔人族に進化したのですね」
俺はそれを聞いてそう答えた。
「ああ、悪魔族の魔物だって知能は元々高い種は多い、欲望のままに動く奴らと違って、あたいらは、更に高い知能も持ち合わせる事で、人間達とも上手くやっているし、効率よく強さと繁栄を望んでいる」
険しい山を目的地まで進んでいると、俺達の向かう先の岩影からぬっと偵察に向いていると言っていたチョーカー魔人族の一人が出てきた。
サキベルに掠れた声で何かを言っている。
「ふむふむ、わかった、もう一度そこへ向かってくれ」
そう言うと、チョーカーは影に溶け込むようにいなくなった。
「この先に3体のコングがいるようだ、偵察しているらしい」
「わかった、隠密なら俺とカレンに任せておけ」
フェルナンドはそう言うと、いつも持っているバッグから部品を取り出した。
それをスナイパーライフルの銃口に取り付けていた。
「フェルナンドさん、それってサイレンサーですか?」
「そうだ、これもイグルートに作成してもらった特注品だ、撃ってみたことあるが殆ど無音で撃つ事が出来るようになるぜ!ただ、そのかわり少し射程が短くなるのが問題だがな」
「へぇ…」
クイン、ヴィグも近くにいるコング達の気配を感知して俺達に合図をして散開し、その辺の岩や木に俺達は身を潜めた。
フェルナンドは並外れた身体能力で高い場所へと移動していた。
そしてフェルナンドから俺達全員に念話が届く。
《よし、標的は捉えた、いつでも撃てるぜ、先ずは後ろの奴からやるか》
《じゃ、ミーは真ん中の奴を暗殺するね》
《オッケ~カレン、じゃあ先頭の奴は最後に俺が狙撃するって事で》
《Yeah、yeah》
フェルナンドとカレン二人の念話が俺達にも聞こえた。
「サキベルさん、ここは俺達に任せて貰ってもいいですか?」
「わかった」
念話を聞いた新は、そうサキベルにそう言った。
頷いたサキベルは、その辺に身を潜めている魔人族達を一人ずつ凝視していた。
その魔人族はこっちを見て頷いていた。
「サキベルさん、念話ですか今の?」
「念話?あたいらはそこまで離れていなければこうやって、意志を送る事ができるんだよ」
やはり念話だ、相手に触れる事で、念話を送れる魔法があるって前に聞いたけど、魔人族はああやって念話送るのか。
《アラタ、良いか?撃つぞ》
《あ、うん、魔人族の人達にはここは任せてと言っておいた》
《OK》
その念話が来て10秒後。
音もなく3体歩いていたコングの一番後ろを歩いていた奴がドサッっと膝から崩れ落ちた。
真ん中を歩いていたコングがその音に気付いて後ろを振り返ろうとすると、茂みからカレンがスッと飛び出して来て、2本の超振動ミスリルダガーをコングの頭をスッと両手で挟むように深々と刺した。
カレンはコングが崩れ落ちる前に、サッと離れてまるで忍者のように木の陰に隠れた。
先頭を歩いていたコングも異変に気付き後ろを振り返ると2体のコングが倒れている事に気付くが、それを見た瞬間絶命する事になった。
フェルナンドの2発目の弾丸が後頭部から眉間まで貫通したのだった。
音も出さずに3体のコングを片付けた事に、魔人族達は驚愕していた。
サキベルもこれを見るのは2回目だが、驚きを隠せなかった。
「ははは…、アラタ…これ、あたいら必要か?…」
「はは…、あの二人は別格なんですよ」
そうサキベルは呟き、俺はそう苦笑いで答えた。
無表情な魔人隠密のチョーカー種も、固まって目を丸くして陰から見ていた。
「よし、そんな武器があるのならもっと高い所へ移動しようか?」
「そうですね」
サキベルはそう言って、他の魔人族へ念話を送っていた。
俺達は、コング達が縄張りにしていると言う古代の建物の更に上へ登る事にした。
◇
何匹か疎らにいたコングを数匹暗殺し、山のほぼ頂上、その建物群がある真上に辿り着いた。
「結構、立派な施設みたいな所ですね」
「古代の人間達の施設だったんだろうが、今はあいつらの寝床さ」
俺達は、双眼鏡を出して上からコング達を見下ろしている。
この辺の建物も古代の素材で作られているようで、風化せずにその原型を留めていた。
「アラタ、あそこ見ろ」
「え?」
フェルナンドが双眼鏡を覗きながら、新へ声をかけた。
その指差した所を俺は双眼鏡で覗く。
「あれは…、所々にルーン文字が書いてありますね」
「うむ、中央の方見てみろ、ほら、この大陸に来た転送装置のスイッチに似ているな…、あれはアラタだったら作動するんじゃないか?」
「かもしれませんね…」
「扉ぽい所はないが…」
「後からそれも調査してみましょうか?」
「だな」
サキベルは新達が使っている双眼鏡を不思議そうに見ていた。
「その目に当てている物も武器か何かなのか?」
「え?あ、いえいえ、これは双眼鏡と言って…覗いてみます?」
俺はそう言って、サキベルに双眼鏡を渡した。
サキベルは見様見真似で目に双眼鏡を当てる。
「おわ!うわぁ、あんなに遠くの物が…、これは凄い…」
「サキベル、俺にも見せてくれ!」
バランガがサキベルに急かしてそう言った。
「バランガお前、顔でかいし、目が離れているから合わないって…」
「じゃ、片目だけでも…」
渋々サキベルはバランガへ双眼鏡を渡す。
バランガはヒキガエルのような顔をしているため目が離れており、片方の目に双眼鏡を合わせ覗いていた。
「おお…、これは…」
「もういいだろ、バランガ、返してくれ」
サキベルは、バランガから双眼鏡を奪い返してまた覗いた。
「ん~…、コングの親玉がいないな…」
「サキベルさん、親玉がどいつか分かるんですか?」
「一度だけ見た事がある、あいつだけ魔物から剥いだ皮を着ていた、それに毛並みの色も少し他の奴と違うんだ」
サキベルはそう言って双眼鏡で探している。
「ほう…、そんなやつこの辺にはいなさそうだな…」
フェルナンドもそう言った。
「サキベルさん、魔人族の方々にこれを、もしも接近戦になった時にこれ使ってください」
そう言って、俺は、ショートソードやダガーなど超微振動を付与している武器を人数分渡した。
「人間の武器か?接近戦なら、あたいらには、この爪や牙、鋭利な甲殻などがあるが…」
「それでは、コングの硬い皮膚には効きにくいんですよね?、これには俺がちょっとした小細工を付与してあってですね」
俺は、水魔法でそこに小さな水たまりを作った。
そこに剣の刃先をつけて魔力を通すと、超微振動で水面が震えていた。
「これは…」
「これには超微振動が付与されていて、硬い物も少しの力で斬れます、さっきカレンさんがコングの頭に刺したダガーと同じ物です」
「なるほど…、どうしてそれが硬い物が切れるようになるのかは理解できないが、先ほどのアレを見ているからな…、有難く使わしてもらうとするよ」
サキベル率いる魔人族は、各々その武器を手に取り魔力を通わせて、その辺の堅そうな枝などを試し切りしていた。
「いまこの辺を確認した所、50体もいないな」
「ふむ、一カ所に固まってるわけでもなく、これなら各個撃破するにはうってつけじゃの、ふっふー」
クインとヴィグはそう言った。
このコングの住処には、クイン、ヴィグ、チョーカーなど、索敵を得意としている者達が2度探ってみたが、約50体ほどしかいなかった。
サキベルは、コングのボスもいないし、狩りに出ている者もいるのだろうと言った。
俺達の作戦は決まった。
クイン、ヴィグ、チョーカーなどから索敵情報を伝達。
フェルナンド、カレン、クラウスがサイレンサー付きのスナイパーライフルで、中、長距離から狙撃して倒す、魔人族がその死体を別の所へ運び隠して、コングボスや他のコングが帰ってくる前に、ここを占拠する作戦だった。
◇
そして作戦は決行された。
単体でいるコングから、少数で固まっている奴らをフェルナンド、カレン、クラウスは次々と効率よく狙撃して倒していく、それを、魔人族がこっそりとその死体を運んでいく。
パスン!!
「よし、これでこの辺にいる奴は排除完了だな」
「ご苦労様です」
クイン、ヴィグも気配を探って、こっちを見て頷いていた。
それを見てフェルナンドは銃を置いた。
俺達は、住処にしていた場所へ降りていろいろと確認して回ったが、大して気になるような物などは無かった。
サキベル達魔人族はある骸を見て泣いていた。
それを眺めていた俺達にサキベルは気づいて話し始めた。
「ああ…、この骸と骨は、あたいら魔人族の物だ…、このまだ肉片が付いている骸は、アラタ、お前達に助けられた時、先に犠牲になった者だ…」
そう、涙を拭きながらサキベルは言い、すぐに強い眼差しに変わり。
「チョーカー達よ、コング達が近づいたらすぐに知らせよ!あたいらは仲間を今のうちに供養する…、このままにはしておけない…」
「御意…」
サキベルの強い言葉にチョーカー達は頷き、暗闇に溶け込んでいった。
「新…、ここはそっとして置いてあげよ」
瑞希はそう言い、俺も頷いた。
「アラタ、あそこの壁のルーン文字調べてみないか?」
「あ、そう言えば…」
クラウスの言葉に俺は思い出した。
それは、その広場の中央に位置する場所だった。
岩で出来た尖塔柱が建っており、その下にルーン文字の板があった。
新はそのルーン文字を読む。
【G,H機関】
【許可なき者は立ち入りを禁ず】
新はそれを口に出して読んだ。
「ほう、やはりこの施設の転送装置か?」
「みたいですね…、GHって、なんの機関なんだろう」
フェルナンドの問いに俺はそう答えた。
「ふむ、まだ今の所、近くにはコング処か魔物の気配すらしない、気になるのなら確かめてくればよかろう?」
クインはそう言った。
魔人族も、今仲間の供養をしているようだし、クインとヴィグが索敵しているのなら、今は安全って事なのだろう、この施設の中ならすぐに外に戻れるだろうし、問題はないだろう。
「そうだね」
「ふむ、我もヴィグもここで警戒しておる、ふー」
「わかった、でも何か動きがあったらすぐに知らせてくれよ、俺もそうするから」
「うむ、ふっふー」
そう言ってクインは索敵をするため、颯爽と駆けて行った。
俺は、皆の準備を確認した後に、手形のような場所に手を触れた。
魔力を注ぐとそれは発動した。
ルーン文字が淡く光って、薄い膜のような物が俺達を包む。
スーッと、皆の身体が薄くなっていくのが見えた瞬間、俺達はその場から何処かへと転送されたのだった。
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