第86話 魔人の里
新達は、魔人族の里へ急いだ。
その場所は険しい山の中腹、そこに洞窟の入り口があり、翼と角の生えた魔人族が数人、山肌から覗いていた。
サキベルが、こいつらは大丈夫と言わんばかりのジェスチャーで合図していた。
洞窟に入り、迷路のような道を進むと開けた所に出た。
そこには天井に無数の穴が開いていて光が幻想的に差し込んでいた、とても大きな広間、と言うよりは大きなドームの中と言う感じになっており、光が差し込んでいる下の方には大きな湖と森が広がっていた。
無数に明かりが見えているので、この洞窟の森が彼らの里なのだろうと悟った。
「ここが、あたいらの里だ」
「おお、幻想的~」
瑞希は天井から差し込んむ光でキラキラとしている森を見ながらそう言った。
「バランガ、アラタ達は私がアブゼル様の所へ案内する、お前はグラベルドを休息所へ連れて行ってくれ」
「わかった!」
バランガは頷き、颯爽とグラベルドを背負って走っていった。
「さあ、こっちだ」
俺達は、洞窟に広がる森を進んだ。
そこには、沢山の魔人族が生活していた。
魔人族の肌の色は、赤や青、黄色と様々だった。
翼を持つ者、持たない者もいて、共通なのは角が1~4本ほど頭のどこからか生えていた事くらいだった。
そして、魔人族の身体は人間より少し大きかった、サキベルは群青色の肌をしていて、額から立派な角が二本生えているが翼はない。
先ほどの、グラベルドは翼を持っていて華奢な身体で肌の色はワインレッドだった。
逆にバランガは、体格も良くて深い緑色の肌で翼は持っていなかった。
「魔人族って飛べる人と飛べない人といるのですね?」
俺は、歩きながらサキベルにそう聞いた。
「そうだな、悪魔族もいろいろな種がいる、飛べる者、力の強い者、魔力の強い者様々だ、そして我々も交配はする、だが、種族を強くするためには、強力な遺伝子を必要とする、なので幼少の悪魔族を捕獲し知力の実で魔人族に迎え入れる事もあるのだ」
「なるほど…もう一つ聞きたいのですが、先ほどから人間やエルフが見受けられますが、人間達と交流もあるんですね?」
「うむ、あたい達、魔人族は元々は魔物、生命神の加護と言う回復スキルは持ち合わすことはない…だから、治癒は他の亜人に頼むほかないのだ、それに、知性のある者同士、戦うより共存した方が何かといいだろ?勿論、降りかかるような火の粉なら払うがな」
サキベルはそう言った。
魔物だって病気も怪我もするわけだから、回復魔法を持ち合わす事のない魔人族は人間などの力を借りて回復するしかないのか…
それはそうか…亜人達と敵対したとしたら、魔人族の方が明らかに強い、でも、回復が出来ないと言うのは強さではカバー出来ない、亜人達の方がはるかに数で勝るし、消耗戦になったら悪魔族が不利になる可能性も高いから、仲良く共存したほうが利口だものね。
「hey,サキベル、それは分かったが、人間達には魔人族を助けて何のメリットがあるんだ?」
フェルナンドはそうサキベルに聞いた。
「ふっ、それは悪魔族や強力な魔物と言うのは魔素が濃い所に生まれるのは常識だよな?」
「ああ…だったな」
「魔素の濃い場所には魔物だけではなく、魔石や魔植物、その他にもいろいろな物が育つんだ、それを取引材料にしている、あたい達より弱い亜人達には取りに行けない場所でも、魔人族なら簡単に取りに行ける物もあるのだ」
「なるほどな」
「さあ、ここだ」
話をしている間に、いくつもある洞窟の先を指差しサキベルが先導してそこへ入って行く。
壁は黒く艶がありキラキラしていて、俺はその壁を触りながら歩いた。
「アラタ、それが何か分かるか?」
「ん~、これは魔石に似ていますね」
「当たりだ、それはそこ一面が魔石で出来ているんだ」
「え?これ全部ですか!?」
「ああ、フフフ」
この壁一面が魔石だとすると相当なデカさの魔石って事になる。
強い魔物を倒すと拳くらいの魔石(大)が体に入ってたりするが、この大きさはちょっと驚いた。
「す…凄いですね…」
「魔素が濃い、この山脈にはそう言ったのがゴロゴロとあるんだ」
「へぇ…そうなんですね」
暫く洞窟を進むと大きな部屋へ出た。
鎧を着た魔人族が数人立っていて、その先にテーブルを囲むように更に数人の魔人族が話をしていた。
「アブゼル様」
「ん?おお、サキベル戻ったか、伝令に聞いたぞ、危なかったらしいな」
「はい、あいつらは、更に賢くなっているようで二人はやられてしまいました…」
「そうか…全滅しなかっただけでも、幸いだと考えよう…、そこにいる者達か?コングらを一撃で葬り、グラベルドを救ってくれたと言うのは」
「はい、彼らの持っている強力な武器は、あいつらの分厚い皮膚をも貫き葬り去るところを、あたい達は見ました」
このアブゼルって魔人族がどうやら、ここの長のようだ。
深い赤色の肌、髭を生やし、目も黒く、額から捻じれた角が4本生えている。
体も大きく、悪魔と言うに相応しいその容姿をしていた。
「ふむ、それにバランガの報告によるとグラベルドの致命傷も、すぐに治癒したと言うではないか?」
「はい、そこにいるレベッカと言う女子は相当なヒールの使い手であります」
サキベルはレベッカに目を向けそう言った。
「そうか、君らを歓迎しよう、申し遅れた、我が名はアブゼル、この魔人族を取り纏めている者だ」
「ああ…はい、俺はアラタと申します、このクラン、ディファレントアースのリーダーをしております」
「うむ…、ダイア・コング、あやつらは魔人族の天敵だ、我ら魔人族は魔法には長けているが、魔法の効きにくいコング共には手を焼いている…繁殖力も強く数も多い…更に魔人族を喰らって知恵もつけて来ていると言うのだ…、そなたらの武器は一体どんな物なのか教えてはくれぬか?」
「えっと…俺達が使う武器は銃器と言って、特別に加工した金属をある物質の爆発力で撃ち出し攻撃する武器です、これは俺達だけのオリジナルの武器になります」
「ほうほう…、全然わからんが…、ここでそれを披露してもらう事はできぬか?」
「じゃ!俺がその役をやるとするか!」
そう言って、フェルナンドが前に出た。
「何を攻撃すれば良いんだ?」
「パゴ、お前標的になってやれ」
「御意」
「そいつはパゴ、悪魔族だった時の種の名前はグラブレズゥと言う、ダイア・コングに負けないくらい硬い甲殻と皮膚を持ち合わせている、実験にはうってつけだろう」
そのパゴと言う魔人族は、顔はミノタウロスのようだが、皮膚が甲殻に覆われていて鎧を纏っているようで、腕とは別に背中から蟹のような大きなハサミが生えていた。
「じゃ、まずはアサルトライフルからっと」
フェルナンドは少し離れたパゴに対して銃を構えた。
タタタタタン!
タタタタタタタタタタタン!
その弾は弾かれ甲殻に傷を少しつけた程度で終わった。
パゴは、フンっと鼻を鳴らし、腕を組み返した。
「やっぱ見るからにしてアサルトじゃだめか…、やっぱ、こいつでっと」
フェルナンドは少し距離を取って、スナイパーライフルを構えた。
ズドン!
グシャ!
「グッ!」
フェルナンドの撃ったその弾はパゴの鎧のような肩の甲殻を貫いた。
「おおお、パゴの強固な甲殻を貫くとは!」
「アブゼルさんよぉ、まだまだ、こんなんで驚いたら駄目だぜ」
フェルナンドはスナイパーライフルを肩にかけてそうドヤ顔で言った。
「なぬ?他にも何かあると言うのか?」
「ああ、これは普通の弾でやったが、特殊弾で撃っていたら、あの人木っ端微塵になっていたぜ?ハッハッハ」
「なんと…」
「それに、このスナイパーライフルって武器より強力な物もまだあるしな!」
「その武器より強力なやつ…、があるのか…」
その場にいた魔人族達はざわざわと、どよめいていた。
そう、新達にはケンタウロス型アーティファクト兵器の時に使った、MDS《マナードスーツ》もだが、スナイパーライフルより強力なレールガンもある、さっきまでの銃器はあくまで常備装備なのである。
「なるほど…、あれほどの硬度と強度の魔法を撃つとしたら、いくら我らでも詠唱に時間がかかるであろう…」
「いえ…、アブゼル様、詠唱が仮に素早く完成したとしても、速度もしかり、狙っていると分かられていては躱されましょう…、あの銃器と言う武器だからこそ速度と破壊力なのでしょう」
「そ…、そうだなサキベルよ…」
レベッカは、肩を撃ち抜かれたパゴを気遣いヒールをかけていた。
その傷は瞬時に塞がり、片膝をついていたパゴはレベッカへ礼を言って立ち上がった。
「そなた達がここへ来たのは何かの思し召しであろう、コング達討伐を手伝ってくれたら、そなた達の望みも受け入れようぞ」
「本当ですか!それが魔人族の血でもですか?」
「ああ、良いだろう」
アブゼルにそう言われた俺達は、サキベルからダイア・コング達の詳細を聞くことにした。
ダイア・コングは最初はそこまで脅威じゃなかったと言う。
それが最近になり、他の魔物が強くなるに比例してコング達も強くなったのだと言った。
コング達の本拠地は魔人族の里より西へ行った山の上辺り。
そこには、昔の古代人の作った施設があるらしく、そこがコング達の縄張りだと地図を示しながらサキベルは言った。
数は100体はいると言っていた、さすがに銃器が強力でも、それを一気に相手することは出来ない、コングの身体能力を見たが、あの力で殴られたら俺達だって死んでしまうだろう。
フェルナンドは狙撃出来る場所をサキベルに聞いていた。
フェルナンドの作戦では、先に孤立しているコング達を倒して少しでも脅威を減らす作戦だった。
「そこまでは、あたいとバランガが案内しよう、それと、魔人族の精鋭も数名連れて行くことにする」
「わかりました」
いくら帰りはゲートで帰れるとは言っても、そろそろウィズ王子の死から時間が経っている、早くハイエリクサーを完成させて戻る必要があるので、俺達はすぐに行動に移したいと申し出たのだった。
アブゼルはすぐに精鋭の悪魔族を5人呼び出し、サキベルに従って行動しろと命令していた。
そして、チョーカーと呼ばれる悪魔種の魔人族を呼んだ。
気配なく暗闇からぬっと出てきたその魔人族は漆黒の細い体で翼を持ち、顔は骸骨に薄い皮膚を張ったような容姿をしていた。
俺達が出てきた瞬間少し仰け反ると。
「ふふ、こいつらは、どこにでも潜伏できる、身体の色も変えれるからな偵察には最適なんだ」
サキベルはそう言った。
役者が揃った所で、俺達はサキベルの案内で動いた。
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