第84話 北の山脈へ

 シュクロスさんから、大まかな地図を書いてもらい、俺達は悪魔族の血を求めて北へ向かう事になった。


 一応の道案内に、シュクロスの従魔ヴィグも同行する事になった。


「ヴィグ、アラタ達を頼んだぞ」

「御意、シュクロス様」


 ヴィグは二つの頭を頷くように縦に振った。


「シュクロスさん、ヴィグをお借りしても良いのですか?」

「うむ、私なりの恩返しのつもりだ」

「恩なんてありましたかね?」

「シェリル保護のな」

「あ…」

「だが、出来れば危険だと判断したら、皆無事で帰ってきてほしい、お前は一応貴重なハイエルフだからな…、それからヴィグもな」

「御意」

「わかりました」

「ふむ、我がいるからアラタは必ず守るがな、ふー」


 同じ従魔として負けたくないのか、最後にクインがぼそっとそう言った。

 クインもそう言う所もあるんだなと俺は少し笑みを浮かべ、クインの首を擦ってやった。


 ◇


 俺達はアルカードの町を後にして北へ進んだ。

 途中、放棄された町や村も見かけた。


 北へ進んで一日目の夜を迎え、廃墟と化している町の建物へ入り、夜をやり過ごすこととした。


「ふむ、ここなら魔物の気配も遠い、野宿するのには良いだろう、ふー」


 クインがそう言って建物の中へ入って行く。

 俺達は頷いて、中へ続いて入って行った。


 俺は、マジックボックスからLEDランプと、人数分の寝袋を取り出して、その辺に置いた、そして、ちゃんと地球の料理もマジックボックスへ仕込んで入れてあった。


 寸胴で仕込んだカレーを取り出して、中央に置き、スプーンと皿を並べて、ラップで包んだほかほかご飯を数個取り出した。


「oh…、マジックボックスってほんとに、便利な物だな…」


 フェルナンドは、ほいほい手際よく野営の準備をする新にそう言った。


「ですよね、これが地球でも使えるって言うんですから、俺も最初はびっくりしましたよ」


 皆、自分の場所を決めて腰を落として座った。


「ふむ、睡眠をあまり必要ではない、ヴィグと我が見張りはする、お前達はゆっくりすると良い、ふー」

「ありがとうクインちゃん、ヴィグちゃん」


 クインがそう言うと、ヴィグは頷き、瑞希がお礼を言っていた。

 カレーはご飯を皿に乗せてルーをかけるだけだ、すぐに食事の準備は整った。

 皆、食事を摂りだした頃。


「ワタシはいらない」


 カレーをヴィグはいらないと言った。


「え?カレーは嫌いだったかな…匂いが駄目とか?」

「いや、ワタシは偵察がてらに後からその辺で調達して喰らう、問題はない」


 俺がすかさずそう聞いたら、そう言われた…

 なるほど、普通に魔獣だしカレーより生肉が良いのかな?それはそれで納得だなぁ。


「アラタ、我には甘い物をくれ、ふっふー」

「‥‥‥」


 俺はジト目でマジックボックスから、どら焼きをいくつか取り出してクインの前に置いたのだった。


「そういや、ヴィグ、少し聞いても良い?」

「なんだ?」

「オルトロスって普通は喋ったり出来ないんだよね?…」

「そのようだな、ワタシもシュクロス様から聞いた話でしか自分の幼獣の頃はよくわからない…が…」

「が?」

「シュクロス様が助けたと言っていた魔人族の女の事だ…」

「ああ、言ってたね、助けた恩があるって…サキベルって人でしたね」

「そうだ、その魔人族は深手を負っていて、シュクロス様の血で命を取り留めることが出来たのだそうだ」

「え?不死族ってそんな事も出来るの?」

「さあな…血で人を操る事が出来たりするのだ、その他に出来ても不思議ではなかろう…それより、その後の話だ」

「うん」


 皆、食事も終わりヴィグの話を静かに聞いていた。

 クインも、外の気配を探りながら、こちらの話を聞いているようだった。


「シュクロス様は、その魔人族を助けた後に、ある見た事もない果物を貰ったと言っていた」

「果物?」

「うむ、シュクロス様は、瀕死のオルトロスの口に銜えていたワタシを抱えて戻る際、衰弱していたワタシにその果物を与えたそうだ」

「じゃあ…その果物に何かあると?」

「うむ、ワタシはそう睨んでいる…、今回、お前達について来たのも、それを確かめたかったからのも一つの理由だ」


 そうヴィグは語った。


「じゃあ、その真相も確かめるためにも、魔人族をどうしても探し出さないといけないね」

「うむ…では、私は偵察と食事に行ってくる」

「うん」


 ヴィグはすっと、建物を出て行った。


「知力を与える果物か…また興味深い物が出て来たな」


 フェルナンドはそう言い。


「世界は広いな、アーティファクトに知力の果物か…」


 クラウスもそう言って顎を撫でていた。

 俺達は、寝袋を広げ、魔物の活発が収まる朝まで就寝したのだった。


 ◇


 次の朝、マイティ、レベッカが先に起きて俺達を全員起こしていた。


 更に北へ向かう。

 クインとヴィグの索敵のお陰で、殆ど強い魔物とは出会わない上に移動も大昔の道路のような場所をスムーズに速く進んでいる。


 魔物がいたとしても、クイン、ヴィグが片付けるか、フェルナンド、カレン、クラウスのスナイパーライフルによって遠くから狙撃し、一撃で屠られていく。


「ねぇ…レベッカ、最近、私何もしてないような気がしてきた…」

「あら、マイティ、そんな事ないわよ、銃器が使えない狭い場所ではマイティの剣技が私を守ってくれているもの!」

「そう…?」

「それにマイティも、あの銃器使えるじゃない?」

「そうだけど、まだ上手く扱えないからさ…、カレンさんとか見てると、武具も銃器もあの身の熟しで全く追いつける気がしないのよ…」


 俺はそんな話を歩きながら聞いていた。

 まあ、あのアメリカ人2人は別格だからね…

 地球人だし、マーシャルアーツプログラムって格闘体術がやばすぎるし、銃でのエイムも正確で相当なものだし、更にこの世界に来て多少なり魔法も使えるしね…多分、この世界最強な人間はあの人らだろうな…


 マイティも地球人効果も得て、相当な剣の使い手に育ったけど、あの二人を見たらねぇ…俺だってあんなの敵に回したくないよ…ははは。


 そして、またその日、夜を迎える前にクインとヴィグが野宿に最適な建物を探して来たので、俺達はそこへ向かうことにした。


「あっ!新!ここ部屋みたいなのがいくつかある!」


 建物へ入ると、瑞希が嬉しそうに俺に言った。


「ん?だから?」

「へへへぇ、シャワー浴びたい」

「は?…」

「だってさ、もう二日も入ってないからさ!後さ、新、爪切りとかハサミとか持って来てない?」

「いや、そりゃ、その辺のはある程度持って来てるけどさ…シャワーなんて浴びてる時に魔物に襲われたらどうするんだよ…」

「交代で入るし、皆強いから大丈夫でしょ?あ!それから、新はホースからお湯出す役目ね!」

「はあ?…なんで俺がお湯をださ…」

「良いでしょ!膨大な魔力が有り余ってるでしょ?お湯くらい良いじゃない、ケチ!って事でお願いね!」

「ったく…」


 瑞希に無理やりお湯出し係まで押し付けられてしまった。

 それから暫くして、俺はホースを壁の隙間から隣の部屋へ通してお湯出し係をやった。


 フェルナンドさんとクラウスが、交代なんて面倒だから女共は纏めて浴びて来いって言ったので女達は、隣の部屋で湯浴びをしている。


 俺は壁にもたれ座り、ホースを握り魔法で作ったお湯を流してやっている。


《うわ~カレンさんおっきい~》

《私なんて…》

《ミズキさんその爪、塗料塗っていたんですか?綺麗だと思ってたぁ》

《そうそう、爪用塗料の事をマニキュアって言うんだけどね、でも、もう剥がれちゃってぼろぼろだし、切っちゃってまた塗りなおそうかなってね》


 壁越しの女達のいろいろな話が聞こえた。


「はあ…」

《新ぁ~!もう少し熱くしてくれる~?》

「へいへい…」


 瑞希の大きな声が聞こえて俺はお湯に熱を加えるのだった。


 20分ほど俺は、お湯出し係をしてから食事の準備に移った。

 よくよく考えてみたら、マジックボックスで荷物持ちと、魔力が高いからと言う理由で…実は俺、雑用係やっているんじゃないのか?…、はぁ…


 ◇


 次の日も北への道を順調に進む。

 森や山を抜けたと思ったら、昔の町のような廃墟も度々見かけることがある、大体、魔物から守るための塀があるのだが、すでに崩壊しているのが殆どだった。


「ここも昔は普通の町だったのね…」

「皆、止まれ」


 崩壊した町の入り口を抜けて瑞希が独り言を言ったすぐ後に、ヴィグがそう言い皆を制しして、すぐに俺達はその辺の瓦礫に身を隠した。


「ふむ、あれはグリフィンの巣だな、ふー」


 クインはそう言って鼻息を吹いた。


 グリフィン…これはよくゲームやファンタジーによく出てるから知ってるぞ。

 確か、鷲獅子と言われ、その名の通り、上半身が鷲で、下半身はライオンを引っ付けたような翼のある魔獣だ。


 フェルナンドはすぐに双眼鏡を取り出し覗く。


「1、2、3、‥‥‥10匹はいるぞ」

「ふむ、正確には、16匹おるな…」


 フェルナンドが言った後にクインがそう言い返した。


「クインの索敵能力は凄いよな…、だが、一体だけ色の違う個体がいるぞ?」

「ふむ、上位種に間違いないな、ふー」


 何かに感づいたグリフィン達は大空に数匹飛び立った。


「これは、やるしかないな」

 ヴィグがそう言った。


「ねえ、新、グリフィンって使い魔に出来るのかな?」

「ええ…あれを?」

「かっこいいじゃない!私さ、レベッカの上品なペガサスも良いと思うけどさ、ああ言う、空飛ぶ猛獣みたいなの凄い好き!」

「マジで言ってんの?」

「うん、マジで!」


 瑞希は、嬉しそうにそう言ったので、好きにさせることにした。

 俺は、全員に念話で上位個体は瑞希にやらせてくれとお願いした、ヴィグには近くにいたクラウスがそれを伝えるのだった。


「グギャーー!」


 索敵能力の高いグリフィンはすぐに隠れていた、誰かの気配を見つけ雄たけびのような声をあげた。


「oh…shit、見つかったか、やりますか!」


 ズドン!ガチャ、ズドン!ガチャ、ズドン!


 フェルナンドは、瓦礫から素早く飛び出し、スナイパーライフルで空を飛んでいた3匹の翼を撃ち抜いた。


「ダー、ナイス!飛んでなければ、ただの鳥犬でしょ!」


 スタタタタン、タタタタタン!


 カレンはそう言って飛び出し、アサルトライフルで落ちてきたグリフィンをハチの巣にしていく。


 他のグリフィン達も飛び立ち、鋭い鉤爪で急降下して襲って来る。

 クイン、ヴィグはそれを躱し、クインは鋭い爪を大きくしたような無属性魔法で真っ二つに、ヴィグは片方の頭から炎を噴き出し燃やしていた。


「ほう…見た事もない武器を使う、空を飛んでいる敵でも対応出来るとはな、少しは苦戦するかと思ったが…」


 ヴィグは1匹を焼き屠った後、俺達が使っている銃器を見てそう言っていた。

 皆、銃器を構え空に向かって発砲していて、フェルナンドの正確なエイムで全てのグリフィンは地に落ちていた。


 グリフィンも多少の魔法と嘴、鉤爪で襲ってきたが、銃器で中長距離攻撃出来る俺達の方が断然有利だった。



「あなたは私の獲物よ!」

「グルル…」


 色違いのグリフィンの前に瑞希は仁王立ちしていた。


 他を片付けた俺達はそれを見るように囲んでいた。

 周りを見るグリフィンは逃げれないと悟ったのか、鋭い眼つきで瑞希を直視していた。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


後書き。


リアル忙しい中、頑張って書いておりますが、自分でも最初の頃を忘れている所もあり読み返したりと…

最初の頃のセリフの修正など行いながら、やってますので宜しくお願いします。


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