第83話 再びレイアリグ大陸へ

 人魚族の事は母エウロラに任せて、俺はクレンシアとクランへ戻った。

 クレンシアは、今まで通りBチームで活動していくと言っていた。

 陸の生活がなんだかんだ楽しいらしい、母のアクアシアの安否も確認できたし、いつでも会いに行けると言うので喜んでいた。


 さて、俺は早速レイアリグ大陸へ再度向かうため、皆を招集した。

 いつものパーティ、俺、瑞希、フェルナンド、カレン、クラウス、マイティ、レベッカとクインだ。


 まずはシュクロスに会うためにアルカード町に向かいいろいろと情報収集しなければならない、まだエイナムルのウェズ王子を蘇生できる時間は2週間ほどはあるはずで、悪魔族の血を何としても手に入れてハイエリクサーを作成して、クシーリを安心させてあげたい。


 ◇


 早速、アルカードまでのゲートを出して町の中へ入った。

 あらかじめ、ゲートを出せそうな人気のない場所をデジカメで撮って、記憶していたので町の人に出会う事なく入ることが出来た。


 相変わらずアルカードの町は、一度大昔に崩壊した国なのかと思えないくらい活気に満ち溢れていた。

 しかし、よく見ると、新しく作られた石の家などもあれば、大昔、大きな文明があったのだろうと思わせる崩壊を免れ、なんの素材で出来ているのかわからない建物に草などが巻き付いて未だに建っていた。


 その古代の建設物のお陰でこのアルカードは魔物から守られているようだった。

 俺は、この町の長シュクロスさんからこの大陸と町の話を多少聞いている。


 この大陸の人達は昔の町を利用し、所々に拠点を作って暮らしている、王と言うのはおらずこのアルカードもその一つだ。


 そして魔物が強力になる夜は冒険者達は殆ど防衛のため町に戻り、昼は食料調達などで外に行くことも聞いた。


 そして通貨だが、この大陸ではドラと言う通貨が使用されている。

 ドラは、オブリシア大陸の白銀、金、銀、銅と一緒で取引に使われている、通貨が無い時代の決済手段とされていた 物々交換 から、モノやサービスなどの流動性を高めるために作られた経済形態であるのは地球でも一緒だ。


 一度、文明が滅んで物々交換時代が来ても、ある程度また文明が築きあがるとこういう形態になっていくのだろう。


 そう思いながらシュクロスの住む場所まで皆で歩く。


 町を歩いていると、武具屋の前で揉めている冒険者がいた。

「オヤジ!だましたなこの野郎!ファイヤーアロー20%のマジックが付いてるんだよなぁ?ああ?割合おかしくねえか?10回振って出るか出ないかだぞ!!」

「はあ?ちゃんと鑑定師に見てもらったお墨付きだぞ!文句言うなら鑑定師ギルドのアイシアの所で言いな!」

「くっ!」


 戦士の冒険者は舌打ちして去って行った。

 俺は密かに揉めていた斧を鑑定してみたが、少し誤差はあるが、確かにファイアーアローのマジック付与が14%付いていた、単に扱うやつの運ってやつだ…


「ああ、そうか、この大陸にはスキルスクロールがダンジョンからしかでないから、高額であまり流通していないから鑑定師って職があるのか、しっかし、あいつ単に運が悪いだけだな…」


 鑑定スキルを持っているクラウスがそう言った。


「そうだね、俺も鑑定したけどちゃんと付与はあったね、ちょっと盛ってたけど…」

「ああ」


 俺の言葉に呆れたようにクラウスは頷いた。


「しかしそう考えると、この大陸でもアラタは大金持ちになれるわけだなぁ、スクロールに、ルーンマジック付与に、ある程度なんでもありだからな」


 フェルナンドがそう言った。


「まあ…そうだけど、なるべくその土地の環境や価値を変えたくはないかな…、ずっと供給する事も出来るかわからないわけだし」

「だな」


 俺はそう答えた。


 そうこうしているうちに、シュクロスのいる建物の前についた。

 前にも来たがこのシュクロスが住んでいる建物は、古代の素材で作られていて他の建物よりもヒビが入っていなくて草も巻き付いていない。


 推定だが20階建てくらいだろうか?

 この世界には珍しく、そこそこ大きなビルと同じくらい高い。


 入り口の兵士は前に俺達を見たことがあるのであろう、俺達を見て、中へどうぞと言う仕草をしてくれた。


 更に、中の方にいた兵士が俺達をエスコートしてガラスのエレベーターへ連れて行く。


 兵士達は同じ制服のような恰好をしている。

 多分、自警団のような物なのだろう。


 ガラスのエレベーターへ乗り、兵士が魔力を通すと軽く浮き上がり一気に最上階のシュクロスの執務室まで登った。


 執務室を開けるとシュクロスと、後、数名が仕事をしていた。

「ああ、来たか、あっちの部屋で待っていてくれ」

 シュクロスはそう言うと、ここまで案内してきた兵士が俺達を奥の大きめの部屋へ案内した。


 俺達は広い部屋のソファに腰かけ、案内の兵士は一礼してその扉の前に立った。

 ドタバタと音がして扉が開いた。


「アラタ殿!」


 勢いよく入って来たのは、シュクロスの護衛冒険者のバルゼスとリンだった。


「ああ…リンさんとバルゼスさんでしたっけ?」

「はい!アラタ殿」

「はい!アラタ様」


 2人とも目をキラキラさせて同時にそう答えた。


「パン…い…いや、アラタ様がこの町に来たと聞き急いでやって参りました!」

「リン、お前は甘い物が欲しかっただけだろ!」

「なっ…そういうバルゼスだってそうでしょ?」

「違う!俺は鑑定して欲しい物があるだけだ!」

「鑑定?」

「はい、実はこの間この町のダンジョンから取得した物なんですが…」


 バルゼスが手に持っていた戦斧を俺に差し出した時、クラウスが口を挟んだ。


「この町って鑑定師ギルドがあるんだろ?何でそこでみてもらわないのか?」

「ああ…鑑定の額も安くはないし、本当は凄いマジックが付与されているのに鈍らだからと言われ、買い取られ転売とかもやっていると言う噂も聞く、今は信用出来ないんだ」

「ほう…」


 バルゼスとクラウスがそんな話をしていると、シュクロスが仕事を終え部屋に入って来た。


「バルゼス、その話は後にしてもらえるか?」

「あ…はい…シュクロス様」

「アラタは大事な話があるようだから、なんなら俺がアラタの代わりに鑑定してやるよ、クラウスだ宜しく」

「ほんとか?宜しく頼む!」


 バルゼスは俺に差し出した戦斧を手に戻し、クラウスと部屋の隅に移動した。

 シュクロスは溜息をついて俺達の前に座った。


「バルゼスの言う通り、この町…と言うかこの大陸では、鑑定スキル持ちは少ない、この町の7割は冒険者だ、ダンジョンで一発スキルスクロールでも出れば大金持ちになる事もある、鑑定師だって生きていくために多少の不正くらいはするだろう…人間、運も必要だという事だ…」

「はあ…」

「さて、大体の話は念話で聞いたが、悪魔族の血が必要とか?」

「はい、生息している場所とか知ってますか?」

「ふむ…なるほど、それがハイエリクサーの素材ってわけか」

「大きな声では言えませんが…」

「大丈夫だ、ここには信頼できる人間しかいない、もし…裏切るような奴がいたら私が洗脳するか、バルゼス達に抹殺令を出すつもりだ、安心してくれ」


 シュクロスはそう言ってニヤッと笑った。


「アラタ、悪魔族は高位魔法も使って来る強力な魔物だ、特にこの大陸では昔より魔物が強くなっているせいもあり、かなり危険が伴うだろう」

「そうですか…」

「が、しかし…アテがないわけでもない」

「アテ…ですか?」

「ああ、実はな100年ほど前に、ここから北へ行った山脈、私の従魔ヴィグを拾った場所より北で、ある人物とあった事がある」

「人?」

「ああ、その女性は角が生えていて、自分の事を魔人族と言った、あの姿…私が思うに悪魔族…その進化系かと思われる」

「なんで…そう思うのですか?」

「オルトロスのヴィグに知能が備わったのだ、他の魔物種がそうなっても不思議ではなかろう?」


 俺達はそれを聞いて頷いた。


「後から、その場所への地図を書こう」

「はい」

「その魔人族の女の名前はサキベル、あの時、命を助けてやった恩がある、私の名前を出せば多少は協力してくれるだろう…生きていればの話だがな…」

「わかりました、探してみます」


 俺達は頷き、話が一段落した所で、クラウスとバルゼスが隅からこちらへやって来た。


「シュクロス様!やはりこの戦斧は当たりですぜ!」

「ほう」

「クラウス殿に聞いたんだが、これにはマジックが3つ、筋力+5%、エンチャントライトニング、自己修復、が付与されているって話で!」


 目をキラキラさせたバルゼスはそうシュクロスへ駆け寄ってそう言った。


「でも、鑑定しなくても魔力流して振って見たらわかるんじゃないんですか?」


 瑞希がそうバルゼスへ言った。


「嬢ちゃん、そんな危ない事できないんだぜ?、もしも、毒とかステータスマイナスとか、下手したらもっと危ないマジックが付いていたら危険だからな!」

「ああ…そゆことね…」


 瑞希はバルゼスにそう言い返されて納得していた。


「ああ、アラタ、オブリシア大陸にも勿論ダンジョンはあるんだろ?」

 シュクロスは新へそう聞いた。


「はい、ありますね、幾つあるかは知りませんけど」

「ダンジョンについては知っているのか?」

「生き物なんですよね?」

「ああ、それはそうなんだが、ダンジョンは古代人が作り出した娯楽の古代遺産アーティファクトなんだ」


 俺達は皆少し驚いた。


「娯楽のアーティファクト?」

「うむ、古代人はダンジョンコアと言う生命を作り出し、腕試しとその報酬に一喜一憂していたらしい、そして、その仕組みはよくわからないが、あれは地下に掘って続いているわけではなく、異次元空間に作られる迷宮なんだ」

「へぇ…シュクロスさんも古代人の一人なのによくわからないんですか?」

「ああ、私は世界が滅びる少し前の人間だからな、細かい事までは知らない事だって多いのさ」

「なるほど」

「うむ、ダンジョンに関しては、そのダンジョンごとのコアに記録されている物しかでないはずだから、ダンジョンによっては出る物と出ない物もあるらしいが…ああ、それから、アラタ、お前はその古代ハイエルフの遺伝子のお陰でアーティファクトを起動させる制限がありすぎる、だから、変な物を見つけても下手に起動させないよう気を付けてくれ」

「ああ…はい、わかりました…」


 シュクロスは新に言い聞かせるように、最後にそう言った。


 その後に、大まかな地図をシュクロスさんは書いてくれた。

 その魔人族の女性を探し出せば、危険な悪魔族を相手して血を手に入れるよりも楽に手に入るかもしれない。

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