第82話 安住地
アクアシア率いる人魚族は、俺の母エウロラが治めているエルフの里、ヘイムベーラ大森林のエルファシルへ移り住むことを決めた。
小島に人魚族は68人いた。
俺は全員分の透明マントを作り着用させた。
それから、人魚族を俺とカレンの乗ったボートは先導するようにヘイムベーラ大森林がある方向へ進んだ。
すると、ヘイムベーラ大森林南の海に面している場所へ着き、そこには事前に念話で連絡を取っていた俺の母エウロラが数人のエルフを引き連れて出迎えてくれた。
念話で誘導された場所は殆ど岸壁だったが、唯一少しの砂浜が存在する所だった。
ボートを停めて、光学迷彩を解くとエウロラは手を振って近づいて来た。
人魚達も魔法で足と服を作りぞろぞろと砂浜へ上がり、透明マントをとって姿を現していたが、子供の人魚族達は疲労で魔力が枯渇しかかっており、すぐにエルフ達が肩を貸しに動いていた。
「アラタおかえり、この方達が人魚族なのね」
「うん、母さん、えっと…あの人がクレンシアのお母さんでアクアシアさん」
俺は、アクアシアを探して指を差した。
「え?クレンシアってあなたのクランのあの子、人魚族だったの?…」
「ああ、知らなかったっけ?」
「そう…」
俺が指を差したのに気付いたアクアシアは、軽く会釈をしてこちらへ近づいて来た。
「初めまして、私はこの人魚族を纏めているアクアシアと申します」
「はい、バカ息子のアラタから聞いております、私がこの森の中にあるエルフの里エルファシルの長でエウロラと申します」
「ば…バカ息子…」
俺はそう言葉を漏らした。
「アラタ、あんなに透明マントなんて作って、ちゃんと回収して仕舞っておくのよぉ」
「あ…はい…」
エウロラは微笑んでいるが、俺にトゲのある言葉を吐いた。
「あ…あの、エウロラ様、陸で生活させて貰えると聞きましたが、良いのでしょうか?」
「はい、アクアシアさん、我がエルファシルは精霊に守られた森にあります、ですので、人間達も寄り付きませんし、低レベルの魔物なら妖精達とエルフ達で排除出来ます、安心して住めると思いますわ、うふふ」
「そうですか、有難うございます、海の中は広いのですがその分、海の魔物も沢山いますし、上下左右どこから無音で襲われるかわからない世界でして…」
「なるほど…そう言われたら陸の方が敵に対して対処しやすいのかもしれませんね」
エウロラとアクアシアはそんな話を暫く挨拶代わりにしていた。
俺は、ボートと人魚族に貸していた透明マントを回収しながら、その話を聞いていたが、エルファシルには海に近い所に、海と繋がっている小さな泉があると言う、そこは魚も取れるため重宝している場所があり、そこに人魚族の住まいを作り暮らしてはどうかと、エウロラは言っていた。
勿論、アクアシアは感謝の言葉を述べて頷いていた。
俺は、人魚族達の魔力供給のためのマナードバンドを作るように、すでにイグに言ってあるので、人魚族が陸で暮らすのも容易になるだろう。
とりあえず、これで人魚族の件は落着しそうだが、後は、悪魔族探しだ。
フェルナンドさんやクラウスからの連絡がまだ来ないと言う事は、悪魔族の魔物はオブリシア大陸にはいないのかもしれないと思った。
でも、俺達は船は無くてもすでに別の大陸へゲートがだせる。
そう、不死族シュクロスのいる、あのレイアリグ大陸だ。
俺はシュクロスにはいつでも連絡取れるように、遠距離念話スキルを渡してある、後から連絡して聞いて見る事にしよう。
そう思っていると、挨拶を終えたエウロラとアクアシアがこちらにやって来た。
「アラタ、今からアクアシアさんとエリクサーについて話をするのだけど、クレンシアと貴方には来てもらうわよ」
「ああ、うん」
そう言われたので、場所をエルファシルの宮殿へ移すことにした。
母エウロラは、他のエルフに海と繋がる泉の近くに住まいを建設するように指示して、俺はカレンさんを一度ゲートでクランへ帰らせ、クレンシアと共に宮殿へ移動することにした。
◇
エルファシルの宮殿の一室。
ここには、エウロラ、アクアシアの他に、俺、クレンシア、それから妹のヴィクトリアも来ていた。
「陸にもこんな落ち着ける良い場所があるのですね」
そうアクアシアは、腰掛けた早々そう言った。
「はい、この森は精霊達が守ってくれているので、陸の中でも平和ですわ」
「エウロラ様、こんな良い場所に移住させて頂き本当に有難うございます、そして…アラタさん、貴方から頂いたこのマナードバンド、こうやって人間の足と衣服を魔法で変化させ続けているのに、魔力の減少を感じませんわ」
アクアシアは、腕に巻いている小さなマナードバンドを擦りながらそう言った。
「はは、良かったです、それは俺のクラン工房を任せている、イグルートってドワーフとジーウってちょっと変わったエルフが共同で作り出した物でして、俺達しか持っていない物なのです、すぐに全員分作らせていますので、他の人達の分はまた後日でも持って行きますね」
「はい、何から何まで有難うございます」
アクアシアは俺に軽く微笑んだ。
「それでは、エリクサーについて説明を致しますね、アラタさんには小島で少し話をしましたが」
「はい」
ここにいる5人は椅子に腰かけ向き合った。
「まずは、私達人魚族の事についてお話致しましょうか、もう我らの事は忘れ去られているみたいなので…」
「どうぞ」
エウロラが微笑んでそう言うと、アクアシアは頷き口を開いた。
「我ら人魚族は全員生まれ持って魔力も高く、生命神の加護での回復と小さいですがマジックボックススキルくらいなら生まれつき使用できます」
「まあ…マジックボックススキルまで?」
「はい、そして私達の下半身にはその生命神の加護が強く、下半身の部分なら怪我をしてもすぐに再生するようになっているのです」
「ふむ」
「そして、その下半身を守っている鱗にもそれは備わっていて、一年に一度生え変わるのですが、抜け落ちたその鱗には強い生命神の加護がそのまま残るのです」
「ああ…それで」
俺は小島で一度、エリクサー作成技法には鱗を使うと聞いていたからそう言葉が出た。
「陸でも使われている、回復ポーションに私達の鱗、そして私達の一滴の血を錬金する事でエリクサーは生まれます」
「…なるほど、それで昔の人達は貴方達人魚族を捕えようとしていたのですね…」
「はい、私達は昔からの掟で陸には極力近づかないようしています、しかし、私達の食糧になる物は陸の周りの方が豊富、なので近づかないわけにも参りませんが、良い場所には他の魔物も多く、結構大変なのです」
「海は広いと思ったのですが、大変なのですね…」
エウロラはそう言って少し俯いた。
「ええ、そして今、陸の人達が私達の事を忘れて来ているのは好都合です、そして、このアラタさん達が開発した魔道具があれば私達は陸を恐れる事もなくなります、私はこのエリクサーの情報と引き換えに、アラタさんにこの魔道具を提供して頂こうと思ってここまで来ました」
アクアシアは俺を見つめた。
「ああ…はい、俺はそれで良いと思ってますよ、俺もこの間ある戦争で仲間の命が危うくなった時、現存していたエリクサーのお陰で助かりました…これで助かる命が増えるのなら凄く助かります…それに、スクロール作成の出来るハイエルフ遺伝子は、俺の知る所、母と妹と俺しかいないから、お互い秘密を守るならこのエルファシルは、凄く良いと思います」
エウロラもヴィクトリアも俺の言葉に頷いた。
「ありがとう」
アクアシアはそう言って微笑み、クレンシアも一緒に微笑んだ。
「それから、ハイエリクサーはその材料に、悪魔族の血が必要になります、それは前にもアラタさんに説明申し上げましたが、私はそこまでしか知りません…」
「はい、アクアシアさん、それで十分ですよ、後は探してみます」
「お力になれなくて申し訳ありません」
「いえいえ、50日以内ですよね?エイナムル王子の死後から、まだまだ時間はあるので心当たりを探してみるつもりですよ」
俺はそう言って微笑んだ。
「でも…アラタ、貴方心当たりがあるって、悪魔族の魔物なんてあまり見ないわよね?」
「実はね、イシュタルト領の遺跡に転送装置があって、そこから別の大陸に行くことが出来たんだ、もう頭に場所も記憶したからゲートでも行けるんだ」
「へぇ、別の大陸にねぇ」
「そこにシュクロスって何千年も生きてる不死族の人がいて、その人なら何か知っているんじゃないかって思っているんだ」
「不死族って…」
「母さん、アラタ兄さんなら上手くやるわよきっと、今までとんでもない魔法や魔道具を産みだして来たんだしね」
「そうね」
妹のヴィクトリアにそう言われて俺は少し照れてしまった。
と言うことになり。
俺は、エリクサーの情報と引き換えに、マナードバンド提供をする事となった。
これにより、人魚族にこの世界の行けない所なんて殆どなくなったわけで…
しかし、この世界はいろんな人種がいるよなあ…でも。
地球での、おとぎ話、ゲームや映画に出て来るような人種がそのまま生きているけど、そもそも、なんだかんだ知っているんだよなぁ。
まあ、いいか、後はシュクロスさんに悪魔族の事聞いてみないといけない。
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後書き。
今回は少し短め。
ファンの皆様、更新が遅くなり申し訳ありません。
只今、リアルが忙しく考える時間がない!
更新が遅くなったりしますが、見限らず読んでくださいねw
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