第81話 楽園
母と再会を果たしたクレンシアは、早速、新へ念話連絡を入れた。
『アラタさん、聞こえますか?』
『ん?ああ、クレンシア、その様子だと無事そうだね』
『はい!アラタさんの機械が描写した通り、ここには人魚族がいました、そして母もこの小島にいて無事でした!』
『そっか、それは良かったね!』
『それで、お母さんには陸の事もアラタさんの事も全て打ち明けて、アラタさんに会ってみたいとも言っています』
『え?会ってくれるの?』
『はい、どうなさいますか?』
『じゃあ、場所は分かっているから、その小島だっけ?そこまでボートで行くよ、帰りはゲート使えるからね』
それから、クレンシアから少しだけハイエリクサーの概要を聞いて念話を終えて、俺は早速クラン工房へ向かい皆を集めた。
「なるほどのぅ、クレンシアの睨んだ通りだったわけじゃの、良かった良かった、ほほほ」
イグルートは長い髭を撫でながらそう言ってクレンシアの無事を喜んだ。
そして俺は、地球で購入して来た、中古のそこそこ足の速いモーターボートをマジックボックスから出して、イグに船体の強化をお願いした。
後、俺がこの船体に光学迷彩を付与する事で、透明なボートの出来上がりになるわけで100キロくらいの距離なら余裕で行けると思う。
それから俺は、皆にクレンシアと話したハイエリクサーに関する情報を、俺達だけの秘密厳守を約束させた上で少し説明した、クレンシアからは母から俺だけに秘密にしてくれと言われたのだけど、それでは動きが悪くなるって事で秘密厳守を徹底させるって事でクレンシアにも了承して貰った。
「新、ハイエリクサーが使用できる条件の死んで50日以内ってのさ、地球で言う四十九日とか五十日際とかになる前にって事なのかな?」
「そうかもね」
「ああん?それは日本の法事か?」
俺と瑞希の話にフェルナンドが入って来た。
「はい、日本では、仏教と神道とで違いはありますが、死んでから約50日までに魂が留まり、いろいろな人や場所にこの世にお別れ挨拶していて、死後の世界へ旅立つ準備期間があると言われています、因みに、俺の親父は仏教だったので四十九日って法事がありましたよ」
「私のお爺ちゃんは、神道だったから五十日際だったわ」
「ほぉ?…アメリカにはメモリアルパーティとかはあっても、そんなもん家によるからな…」
フェルナンドは顎を親指と人差し指でさすりながらそう言っていた。
「それはそうと、ハイエリクサーの素材で悪魔の血が必要なんだろ?後は、それをどうするか…だな」
クラウスが、俺達の話が一段落した時にそう言った。
「悪魔族って魔物、その辺にいるのかな?」
「いや、悪魔族は、相当濃い魔素だまりで生まれると聞いているし、魔物としても結構強力なので、軍隊まで出動する騒ぎになるはずだ、そうそう見かける事もないはずだ」
俺の問いにクラウスはそう答えた。
「とりあえず、俺はクレンシアのお母さんに会って来ようと思っているんだ、ボートは4人乗りだけど…フェルナンドさん運転とか出来ますか?俺、操縦はネットで一応調べたけど…」
「ああ、問題ない、それなら俺もカレンも運転出来るぜ、ただな、そのモーターボートじゃ、4人なんて乗ったら重くてその分遅くなるから、ゲートを使えるアラタと俺か、カレンが乗っていくのが妥当だろうな」
「なるほど…どちらが行きますか?」
「ミーが行こうか?」
カレンがそう言って名乗り出た。
「じゃあ…カレンさんお願いします」
「OK!」
「じゃ、俺はクラウスと悪魔族の噂でも、冒険者ギルドに聞き込みしてくるわ」
「頼みます」
決まった所で、行動を起こすことにした。
イグルートはボートを4時間ほどで改良し、ボディの強化と、ガソリンが無くなっても、
そして最後に、新が光学迷彩を魔導筆で付与したのだった。
◇
新とカレンは、海の町ヘレスティア郊外の砂浜でボートを浮かべ、カレンが乗り込みエンジンを掛けた。
俺も乗り込み、魔力を船体に流し光学迷彩を発動させて、全体が透明になった。
カレンが軽く頷き、ボートを走らせた。
2時間ほどかけてその小島の場所へ向うと、その辺には何もない。
クレンシアに念話で連絡を取ると、海面から顔をだして手を振っていた。
クレンシアの誘導で、その場所へ行くと今まで何もなかった場所に突然島が現れた。
「うお、これって結界張っていたのかな?」
「みたいね」
俺とカレンさんはそう言って、小島の船を着けれそうな場所へ停めて、小島に上陸した。
「アラタさん、まずお母さんに会って貰えますか?」
「勿論、そのつもりで来たんだから」
周りをクレンシアは見渡した。
「人魚族は陸の人を嫌っています、なのでアラタさんが来る事が分かっていたので隠れてしまいましたね、少し待っててください、お母さんを呼んできます」
「うん」
暫くすると、クレンシアが何処からか現れ、お母さんであろう人を連れて来た。
勿論、陸なので魔法で足と服を作っていた。
「お母さん、こちらがアラタさん、そしてその後ろにいるのはクランメンバーのカレンさんです」
「はい、私はクレンシアの母、アクアシアでございます、この度はクレンシアを陸で保護してくださり有難うございました」
アクアシアは、軽く会釈してそう言った。
「はい、こちらこそ、ここにお招きいただき有難うございました」
「いえ、皆、陸の者が来ると言うので警戒してます…クレンシアの恩人である貴方だからこそここにお呼びしましたが、この小島の事はくれぐれも内密にお願いします」
「はい、そのつもりです」
「そのかわり、貴方がお探しのエリクサーについてはお教えします、そして、ハイエリクサーですね」
「はい、悪魔の血がいるのですよね、クレンシアから聞いてます」
「そうです、エリクサーなら私達が用意する事は出来ますが、ハイエリクサーはそれに悪魔族の血が必要になります、そして悪魔族のような魔物は陸にしかいませんので私達には何処に生息しているとかはわかりません、ですが、大きな大陸なら魔素も濃い場所もあるでしょう、オブリシア大陸のような小さな大陸ではなかなか探すのは困難だと思います」
「なるほど…」
「クレンシアから聞きましたが、もう陸の者達は大昔の文明は一度無くなり、今では船すら持っていないと聞きましたが?」
「そうみたいですね、俺もこの世界に来たばかりなので良く分かりませんが…、あの船も俺の世界から持って来たものだし、そのエリクサーの事もダンジョンから出るくらいしか知りませんし、人魚族の事なんて話にも出てきません」
「そうですか…それは好都合ですね」
「はい」
アクアシアは二度ほど頷きながらそう言った。
「後からエリクサーについては、お教えしますが…」
「有難うございます」
「私も聞きたい事がございます」
「はい?…」
「貴方は地球から来たと聞いていますが?」
「はい、地球からこちらに来ました」
「本当に地球と言うのは実在するのですね…、大昔からの言い伝えで魔物もいない楽園だと先祖代々聞いております、そして、クレンシアも連れて行ってくれたとか?」
「はい、向こうでは魔法が使えなくなるので、クレンシアは下半身を隠して車椅子での移動でしたが…」
「私達、人魚族を地球へ連れて行って貰える事とかは、出来ますでしょうか?」
「ああ…いや、それはやめた方が良いかもしれません…」
「何故ですか?」
「地球でも、人魚族なんて空想の生き物だと思われているのです、もし、人間達に見つかったらどうなるか…、それに、どんどん技術は進歩していて海もほとんどの場所は探索されています…この場所ですら俺達が簡単に見つけたように、もっと深い所まで正確に地形や魚などの多さまでわかるんです」
俺は会話の中でいろいろ考えた末、そう言った。
「heyアラタ、そうとも限らないんじゃない?」
カレンがそう言って会話に入って来た。
「どうしてですか?」
「海は広い、大陸なんて海から比べたらたったの3割しかないわけだしね、隠れる場所なんて幾らでもあるでしょ?それに、魔物がうじゃうじゃいるこの世界より、魔法が使えなくなっても余程安全だとミーは思うけどね、そもそも、人間が大きな魚を捕まえるだけでも大変じゃない?」
カレンは両手を広げてそう言った。
そう言われればそうだけど…
「勿論、地球へ行きたい人魚族だけお願いしたいと思っています」
「…んー、分かりました、地球へ行くためには、行けるための条件がいるんです」
「条件?」
「はい、地球の食べ物を約20日程、摂食して地球の身体に適応する事をしなければ、地球のゲートを抜ける事が出来ません」
「なるほど…分かりました、それでは、本当に行きたいと思う者を募って見ます」
「お母さん…私はこの世界に残ります」
「え?…」
クレンシアはアクアシアにそう言った。
「私…陸へ上がって沢山いろんな物を見て来たの、陸の人達も悪い人達ばかりじゃないし、陸の木の実や果実、動物の肉も美味しかったし、アラタさん達のクランで冒険する事の楽しさを知ったの…」
「クレンシア、あなた…」
「だからね、お母さん、地球は確かに魔物もいなくて良いのかも知れないけど、この世界だから魔法でこうやって足や服を作って自由に出来るの、地球では魔法が使えないからずっと海に居ないといけないし、また陸の人達を避けて生きて行かないと行けないでしょ?」
「‥‥‥‥」
アクアシアはクレンシアの言葉を聞いて、少しじっとクレンシアを見つめていた。
「それもそうね」
カレンはそう言って髪を掻き上げた。
「ミーも最初は、地球の魔物のいない海なら何処でも安全で隠れられると思ってそう言ったけど、実際、アラタのそのマナードバンドで魔力を供給すれば、貴方達人魚族は水陸両用でこの世界どこでも行けるって事じゃない?」
「あ…そっか、そうなりますね」
カレンの言葉を聞いて俺は納得して頷いた。
それを聞いて黙っていたアクアシアは、暫くして口を開いた。
「なるほど、一理ありますね…少し考えます」
「うん、お母さん、アラタさんの力があれば今よりもっと良い暮らしの方法が見つかるはずよ」
「そうね…有難う、クレンシア」
クレンシアは母に満面の笑みを浮かべていた。
「ああ…それなら、俺の母のいるエルフの森、ヘイムベーラに住むのはどうでしょう?」
「森…ですか?」
「はい、エルフと妖精、精霊に守られているオブリシアの南に位置する大きな森です、海も面しているし、あそこなら人間達はそうそう出入りしないし、母がいるから頼みやすい」
アクアシアは、少し目を大きくしてそれを聞いていた。
「…私達が陸で暮らす?…安全なのですか?」
「うん、お母さん、私もその森に行った事あるよ、すっごく綺麗で安全な所」
「本当ですか?アラタさん」
アクアシアは、半信半疑でそう聞いてきた。
「んー…まあ、ドレイクって魔物が襲ってきたこともあるけど…他の場所よりは安全なのかも知れませんね、特に人間達は聖域だと思っていますから、近づかないし」
「そこへ、私達が行っても迷惑になりませんでしょうか?」
はは…俺にとってみたら、妖精も精霊も人魚もその場にいて違和感もないんですけどね…母に頼んで海に近い森の一角を住まいにして貰えればそれが一番安全のような気がする…
「それは大丈夫だと思いますよ、ちょっとファンキーな母ですが、俺が説得しますから」
「ふぁんきー?…」
まあ、母なら納得してくれるだろう。
この人達に安全な住まいを提供したいし、エリクサーとかも生成する事も可能になるのなら、大切な仲間を失う確率もぐっと減るわけだし。
それから、俺は、アクアシアから、エリクサーなどの生成技法を教わった。
そして、アクアシアはそこにいる人魚族にここに残るか、地球に行くか、ヘイムベーラ大森林へ行くの、3つの選択を聞いた所、意見はいろいろ出たが皆一緒にヘイムベーラへ行く事を決めた。
勿論、俺は念話で母エウロラにこの話をしたが、喜んで快諾してくれた。
これで、ドレイクのような危険な魔物が来てもエリクサーで助かる命が増えると俺と同じ事を思って言っていたのだった。
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