第79話 海中捜索
シュクロスをレイアリグ大陸へ送り届けた俺は、次の行動に移った。
エイナムルのウェズ王子を生き返らせるためには、ハイエリクサーが必要だ。
そのヒントを得るためにエリクサーと深い関係のある人魚族、クレンシアに聞くために、俺のクランBチーム所属のクレンシアを呼び出すことにした。
「アラタさん、何か御用でしょうか?」
「ああ、クレンシア呼び出して悪かったね」
「いえ」
「実はその…」
「なんとなく…わかります、あの薬の事が人魚族が関わっていると知ったのですね」
「ああ…うん…でも、別にクレンシアをどうにかしようってわけじゃないんだ…この間の戦争でエイナムルのウェズ王子が死んでしまって…彼を生き返らせたいんだ、この秘密は守ると誓うつもりだから安心して欲しい」
「アラタさんなら、信用します…でも、死んだ人間は…エリクサーでは無理です」
「うん、わかってる、それでクレンシアに聞きたかったんだ、ハイエリクサーってどうやって作るか知らないかなって」
「ハイエリクサー…ですか?」
「うん」
「それは…私にもわかりません、私達が人間達に追われる理由は聞いていますが、実は私もエリクサーの作り方すら知らないのです、でも…お母様達なら」
「ケルピーに追われた時に、何処に行ったか分からないんだっけ?」
「はい、あの後も何度か、時間がある時に海に潜ってこの大陸の周辺を探したのですが見つかりませんでした…幻影結界を張って何処かに潜んでいるのかも知れませんし、ひょっとしたら、もう…」
クレンシアはそう言って、寂しそうに俯いた。
「人魚探しをするしかないな!」
フェルナンドがそう言った。
「フェルナンドさん、探すってどうやって探すんですか?」
「んなもん知るかよ、地球に行けば最先端の魚探みたいな海中ソナーとかあるんじゃないのか?」
「ダー…この広い海をそんな物で見つかるの?魔物もいるのよ?」
フェルナンドの答えに、カレンは呆れてそう言った。
「いや、やらないよりは良いかも知れませんね」
俺はそう言った。
「ほら、カレン、アラタはわかってくれたぞ、ハハハ」
「新、でも、それって船か何かで進みながら探るんだよね?」
瑞希もそう俺に言った。
「うん…ほら、MDS《マナードスーツ》が出来たように、地球の科学とこっちの魔法が組み合わされば、ひょっとしたら地球の最先端の何倍もの物が出来るかも知れないと思ってね」
「ああ…なるほどね」
「じゃあ、早速、地球で調べるのと、イグに相談しないといけないな!」
「ですね」
瑞希も納得し、新とフェルナンドは笑みを浮かべてそう言った。
「あの…私も手伝わさせて下さい!お母様達の行方を捜したいんです!」
クレンシアは、少し拳を握りしめてそう叫んだ。
「うん、勿論一緒に探そう、クレンシアの協力がないと見つけられたとしても俺達を信用はしてくれないだろ?」
「はい!お母様達を見つけられたら説得は任せてください!」
「うん」
新はクレンシアに笑みを浮かべ頷いて見せた。
◇
俺と瑞希は地球に来ていた。
久々の地球で、少し懐かしかった。
相変わらず、こっちに来ると空気がやはり濁っているのか、重く感じた。
早速、ネットでソナーについて調べたら、UMIZOKOと言う会社が一流のソナーを作っている事がわかった。
そして、問い合わせをしてその会社に出向いて見ると。
その会社のソナーで一番性能が良いのは、マルチビームソナーUZK-1200と言う型名の調査船にも搭載されている機械だった。
営業マンが、2D/3D海底地形図表示,ソナー,魚探,魚群エコー,海底反射強度,サイドスキャン, GD-700インターフェイス,干渉除去、が備わっている素晴らしい物だと言ったが俺にはよく分からなかった…後からちゃんと取り扱い説明書を見て勉強しよう。
俺は、その機械を即買いすることにした。
1台で約100万したが、まあ地球では、お金使う事もないから全然余裕で2台購入したのだった。
ついでに、そこそこ速い推進力のあるモーターボートの中古も購入したのだった。
◇
新は早速クラン工房へ海中ソナーを持って行って、イグルートに見せた。
「ほほう、なるほどのぅ…音波の反射で海底を描写するとはのぅ、アラタ殿の地球の科学と言う技術は素晴らしいわい」
「ねえ、このマルチサイドビームソナーを作り変えてこの倍以上の性能にする事は可能?」
「楽勝じゃわ!ほほほ、儂に掛かれば倍…いや3倍にはしてやるぞい!それと、フェルナンドが言っておった、無人海中探査機も作成は可能じゃよ、それにこれを取り付けて人魚族を探せば良いのじゃろ?」
「え?フェルナンドさんが?…は、はい、お願いします」
フェルナンドは、小型の海中探査機の作成も頼んでいたようだった。
俺は最初このソナーを足の速いモーターボートに取り付けて、海上を走り回ろうと思っていたのだが、それはやはり危険が大きすぎると言うので、小型の無人潜水艇を考案していた。
そして、それは物作りの名人達の手に掛かれば、3日もあれば完成した。
無人海中探査機【シーマン】と名付けたその機体は、ミサイルのような形をした潜水艇でイルカほどの大きさだった。
イグルートが言うには、通常なら2~3キロメートルくらいの性能を、数十キロメートルくらいの探査投影を可能としたマルチビームソナーを搭載し、新が布を透明にした光学迷彩の秘術で機体を隠すことで、魔物対策も万全だと言った。
この世界には、GPSがないため自動操縦には限界があるのだが、ある一定の距離を進んで居り返してくる、簡単な動きならプログラミング出来ると言った。
早速俺達は試験のために、クレンシアを発見した、フェリオール王国領の南、海の町ヘレスティアの海へ向かった。
イグルートは、その潜水艇を海へ浮かべ、魔力を通すと光学迷彩がかかり、透明になった。
リモコンのような物でスイッチを入れると、音を立て、水面から潜って行くのが見て取れた。
パソコンの画面を確認すると、ソナーから一気に数十キロの海底の形が立体的に投影記録されていく。
「ふむぅ、成功じゃな、ほほほ」
「やったぜ!」
イグルートとフェルナンド二人はそう言って笑っていた。
「この画像が海底の姿で、こっちの色のついた物は魚か魔物かじゃな」
「おー、岩礁などもくっきり映ってますね、魚探ってこんな感じに映るんですね…」
俺はその画面を見てそう言った。
「えっと、人魚族がいるとすれば、身を隠せる魚の多い岩場を探索して下さい」
「わかった、テストも成功したことじゃし、お前達は戻ってもいいぞ、後は儂らに任せておけ、ぞろぞろと動き回っても邪魔なだけじゃしな」
イグルートがそう言ったが、クレンシアは残ると言った。
自分の家族が見つかるかもしれないその一瞬を待ちわびているのだろう。
俺達は、何かあったらすぐに連絡をしてくれとその場から一度離れることにした。
◇
そして、数時間後。
『アラタさん!』
そう叫んだ声はクレンシアの念話だった。
『ああ、クレンシア、何かあった?』
『はい、ヘレスティアの町から南東に100キロほど行った所に、ちょっとした小島が見つかったのですが、その周辺にちょっと人工的に作られたような岩場があるんです』
『人工的に作られた岩場?…』
『はい、私、アラタさんから貰ったあの透明布でちょっと確認してこようと思うのですが良いですか?』
『それは良いけど、そんな距離…大丈夫?』
海の中を泳いで100キロが、人魚族にとってどのくらいなのかは分からないけど、何もなかった時の往復を考えると200キロほどになるからね…
『はい、大丈夫ですよ、半分はお魚さんなんですよ私、それに、海には浮力があるんですから、そのくらいなら楽に泳げますよ、心配してくださり有難うございます』
『ああ、それなら…もし、何かあったらすぐに念話してくれよ、すぐにモーターボートで駆けつけるからさ』
『分かりました、では行ってきますね』
そう言ってクレンシアは念話を終えた。
◇
-海の町ヘレスティア郊外の海辺-
「クレンシア嬢ちゃん、ほんとに大丈夫なのか?もうすぐ夜になるぞ…明日明るくなってからでも良いんじゃないのか?」
「うふふ、大丈夫ですってば、アラタさんと一緒でイグルートさんも心配性なんですね、陸の人達ってほんと良い人達ばかりですね、私は夜目利く方ですし、逆に夜の方が陸とは違って海の魔物は静かなんですよ」
「うむぅ、そうなのか…しかし、そこに本当におるのじゃろうか?」
「画面に映し出されたあの岩場の形…、人魚族が外敵を寄せ付けないように作った入り口のように見えます、前に住んでいた岩場と似ていますから…」
「ふむ、そうか、危なくなったらすぐに引き返すんじゃぞ」
「うふふ、はい!」
クレンシアは、海に腰まで浸かり、新が渡したフード付きマントのように加工した光学迷彩布を纏って、イグルートに挨拶して海へ潜って行った。
◇
-海の中-
クレンシアは、シーマンがパソコンに映し出した海域にある小島へ一直線に泳いで行った。
すごい…、あのソナーって機械が映した海底の形がある…
これは、間違いないわ、あそこには必ずお母様…いや、違うかも知れないけど、人魚族は必ずいるはず。
そう、クレンシアは思いながら、危険な魔物を避け泳いだ。
1時間も泳ぐと、シーマンが映し出した小島付近にクレンシアは到達した。
あれ?これって…
クレンシアが海面から顔を出すと、小島があるはずの所は何もなく海が続いていた。
潜って見ると、海の中には大きな岸壁がその周辺を覆っていた。
クレンシアは明らかにおかしなそのエリアに近づいて見る。
そっと海の底まで続く岸壁を触ろうとすると、その手は何もないように中へ入ってしまった。
「やっぱり…結界ね」
まだ透明になったままの、クレンシアはそのまま中へ入って行く。
それは、魔法で作られた結界だった、岸壁に見えていた壁は海の底から海藻が海面まで届いており、壁のようにこの一帯を囲っていて、沢山の魚達が群れをなして泳いでいた。
そして、その辺の岩場が人工的にくり抜かれ入り口らしき物が複数あった。
海面に浮上し、頭だけだしてみると、先程確認した場所からは何もなかったその場所に小島があり、人魚達が複数休憩しているのが見えた。
「人魚族…良かった…」
クレンシアは少し涙がこぼれそうになったが、それをこらえて透明フードを脱いだ。
「誰だ!」
「え?」
フードを取り、クレンシアに気付いた人魚達が慌ててそう言った。
「あ、私も人魚族です!」
クレンシアはそう言って透明マントを脱いで、小島に近づいていった。
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