第78話 不死族

 朝食を終え、シュクロスを信用した俺達は、早速シェリルに会わせる事にしたのだった。


 部屋の隅に移動してゲート魔法を展開する。

 空間が歪みぽっかりとそこに穴が開き、俺達のクランハウスの事務所の部屋が見えた。


「な!?なんだその魔法は…」

「俺が作ったゲートって魔法で、空間と空間を繋げて移動する魔法です」

「‥‥‥ほ、ほぅ」


 普段クールなシュクロスが目を丸くしてそう答えた。

 俺達はゲートを潜り、心配そうに立ち止まるシュクロスと、側近兵士2人だけが部屋に残っている。


「シュクロスさん、どうぞ」

「あ…ああ…」


 シュクロスは恐る恐るゲートを潜った。

 そして、俺は、側近兵士2人にもどうぞと、入ってくるようにジェスチャーをした。

 二人の側近兵士は顔を見合わせて、引きつりながらゲートを潜った。


「ここは…オブリシア大陸なのか?」

「はい、ここはオブリシア大陸、フェリオール王国の俺のクランハウスの事務所です」


 シュクロスと兵士二人は周りを見渡しながら、俺達が用意した椅子に腰かけた。


「なんかこの部屋は甘い匂いがするのだな…いったい何の匂いだ?」

「ああ、この1階はクランのスイーツ屋になっているので、その匂いですね」

「すいー…つ?」


 3人は首を傾げていたので、説明するより後から食べてもらおうと、とりあえず今はほっといた。


「瑞希、シェリル呼んで来てくれるかな?それと、マイティ、レベッカはミーナさんに3人分のパンケーキを作って下さいと言って来て貰えるかな?」

「うん、わかった」

「はい、わかりました」


 瑞希、マイティ、レベッカはそう頷き下の階に降りて行った。


 暫くすると、瑞希がシェリルを連れて戻って来た。


「シェリル!シェリルなのか!」

 シェリルが姿を現すと、すぐに席を立ち駆け寄るシュクロス。


「あ!シュクロス!」

「おお、シェリル!」


 抱きしめ合う二人。

 お互い涙を流して喜んでいた。


「シェリルね、悪い人達の操り人形なってたの、アラタに助けられてからずっとここでシュクロス待ってたの」

「そうかシェリル、わかったわかった…無事なら何でも良い」

「それでね、アラタのクランにはいっぱい甘い物があってね!ここのパンケーキも凄く美味しいんだけど、アラタの持ってるチョコってのが一番美味しいんだよ!」

「そうか、それは良かったな…良かった…」


 シュクロスは涙を浮かべてシェリルとの再会を喜んでいた。

 それを見て、瑞希やマイティ、レベッカ、シュクロス側近の兵士達も涙を浮かべていた。


「俺のクランのパンケーキご馳走しますから、そのままそこに座っていてください」

「シェリルには、そのチョコレートあげるからな」

「わーい!ちょ~こちょ~こ!」


 シュクロスは頷き、シェリルは大喜びだ。


「ふむ、我にもたまにはパンケーキを用意してもらいたい」

 クインがぼそっとそう言った。

「‥‥‥はいはい、後からやるから」


 そういえば、こいつも甘い物大好きなんだったな…食べなくても生きていける身体しているくせに…あ、それを言えば、不死族のシェリルもそうか、そう思い俺はジト目でクインを見てそう言った。


 それから、俺は、シュクロスにシェリルを発見し、ブリジットが行っていた悪行、この前に起きた戦争など一部始終を説明した。


「なるほど、シェリルの不死族の能力を使って、戦争を起こしたって事なのか」

「はい…そう言えば不死族って死んでいるんですよね?シェリルの脈もなかったし、血を使って人を操るって血って巡っているんですか?」

「ああ、一応血は巡っている、自分の意思で生きている者のように内臓も動かすことができるし、消化した物を排便もできる、ただ、別にそれをしなくても生きていける身体をしているだけだ」

「なるほど…」

「そうだな、少し私達不死族の話をしようか」


 俺達が頷くとシュクロスは語りだした。


 不死族は、元々は人間やエルフを派生とした遺伝子を操作して生まれた種族の一つで、不老不死だ、しかしそう言われているが、不死と言うのは言い過ぎで細胞を全て消失すると死んでしまうと言った。


 もしも身体が分断されたとしたら、二人になるのかとも疑問を投げかけたけど、それは頭の残っている方か、それが無ければ細胞の多い方に魂が紐づかれてそっちに移行するのだと言った…不思議な身体だ。


 能力については、その血に少しの魂の極一部を乗せて移す事で人を操る事が出来ると言った、しかしそれ以外の能力は何もなく、不老以外は鍛えても筋肉が増える事もなく下手したら普通の人間よりも弱いかもしれないと言う事だった。


「そうだ、だから私達が知識豊富でアルカードを纏めたシュクロス様を護衛しているのだ」


 そうシュクロスの側近の一人が言った。


「ああ、紹介し忘れていたが、この二人は私の側近で、リンとバルゼスと言う、二人とも相当な手練れだ、私は死なない身体だから別に護衛は良いと言っているのだが、こいつらが言っても聞かないから好きにやらせている」


 その側近をよく見ると、1人はガタイの良い男で確かに鍛え抜かれた腕が鎧の隙間から覗かせていた、もう一人はよく見るとエルフの女性だった、鋭い目つきをしていて、鎧のようなローブを身に纏っている、魔法使いなのだろう


 すると、リンと言うシュクロスの側近の魔法使いが俺をみて口を開いた。


「貴方が我がエルフの上位種族ハイエルフの太古の血筋なのは、魔力の大きさで納得、感服致しました」

「え…魔力って見えるの?」

「エルフなら魔力感知でそのくらいわかりますよ、ハーフエルフでその魔力なら、純血はどれほどなのか、計り知れませんわ」

「あ…そうなの?」


 あれ?俺そんなのわからないや、魔力感知ってどうやるんだろ…後から聞いてみるか…


 そう話していると、ミーナさんが3人分のパンケーキを運んできた。


「あら、この人がシェリルちゃんのお兄様なのね、うふふ、シェリルちゃんお店手伝ってくれてほんと助かったんですよ、良い妹さんをお持ちですね」


 ミーナはパンケーキを3人の前に並べながらそう言った。


「ああ…はい、ありがとうございます」


 シュクロスとその側近リンとバルゼスは、甘い匂いを放つパンケーキを見て、生唾を飲み込んでいた。


「どうぞ、食べながらで良いので」


 シュクロスが手を付けるのを見てから、リンとバルゼスはパンケーキに手を付けた。


「うまい!」

 シュクロスが一口食べてそう言った。


 リンとバルゼスも声には出さなかったが、何度もシュクロスの言葉に頷いて食べていた、そして、3人とも無言でペロっとパンケーキを食べてしまった。


「ア、アラタ様…これっておかわりとか…」

 そう言ったのは、魔導師リンだった、顔を少し赤らめ恥ずかしながらそう言った。


「あ…良いですよ、瑞希もう一度ミーナさんにお願いしてもらえる?」

「はいはい」

「ずるい!俺のもお願いできるだろうか…」


 俺が瑞希にお願いした瞬間、バルゼスもそう言った。

 俺はその言葉に頷き、シュクロスさんにも聞いたらクールに頼むと言ったので瑞希は頷いて下に降りて行った。


「我のは、どうなったのだ?ふー」

「ああ…クインは下の階に行ってもらってくれば良いでしょ」

「ふむ」


 クインは、そう言って瑞希と部屋を出て行った。


「済まない、つい美味しい物を頂いて話が折れてしまったな、不死族については大体そんな所だが…私もどうやって不死族が作られたかは知らないのだが、私とシェリルは数少ない不死族だったのだ」

「不死族って数少ないんですね」

「ああ、不死族になるには、不死族になった者の血を多く取り込み身体を変化させる必要があるのだが、必ず不死族に変化すると言うわけではないのだ、そうだな…確率としては2割くらいしか成功しないだろう」

「成功しなかったら…死んでしまうのですか?」

「そうなるな、元々死んだ生き物に変化するのだ、死んで我が種族の血が適合すればの話になる」


 シュクロスは冷静な眼差しでそう言った。

 俺は、チョコを美味しそうに食べているシェリルを見た。

 シュクロスは俺の目を追って口を開いた。


「ああ、シェリルは私の妹ではないのだ」

「え?」

「姉の子で私の姪に当たる、ちょっとした事故で、死にかかってしまってな、助かる道はこれしかなかったのだ」

「はあ…ですよね、歳が離れているなと思ってました」

「我ら不死族は長く生きているだけ知識は積むことが出来るが、普段は人間とそう変わらない、死なない身体ってだけでいろんな研究などに使われた…私とシェリルもそんな奴らに捕獲され、別々に何処かへ連れて行かれたのだ、そして暫くしてのあの大戦、シェリルも不死族、何処かで必ず生きていると思っていた」

「そうでしたか…」


 ミーナが、おかわりのパンケーキを持って来た。

 リンとバルゼスが喜んでミーナに会釈していた。


「まあ、そんなとこだ、アラタよ、シェリルの保護本当に感謝している、私には昔からの知識しかないが、知っている事なら何でも協力し答えよう」

「ありがとうございます」

「うむ、だがエリクサーについては、人魚族が関係している事くらいしか知らん、済まないな」

「いえ、助かります、今日は3人ともこのクランに泊まって行って、このフェリオールの街を観光して行ってください」

「そうだな…そうしても良いか?」

「勿論!」


 シュクロス、リン、バルゼス3人は今日はこのクランに泊まることになった。

 俺にとっても、この世界の知識人に会えたのは良かった。

 後は、エリクサーに関わる話をクレンシアに聞いてみたいと思っている、しかし、クレンシアの存在はまだシュクロスさんには気付かれたくないので、今日はシュクロスさん達をもてなす日にしようと思った。


 ◇


 俺は、その後に、3人を観光に連れて行った。


「凄いな、精霊の住む孤島とは聞いていたが、これほど栄えているとは驚いた」

 シュクロスは周りを見てそう言っていた。


「でも、へんな言葉喋っていて何言っているのか分からないわ」

 リンがそう言った。


 あ!そうか、俺達クランは皆、翻訳スキルを習得しているから、普通に聞こえているけど、この人達からしたら外国語で聞こえるんだ。

 そういやクインが言ってたね…オブリシアとは違う言葉を話していると。


「なんで、アラタ達とは言葉が通じるのに、ここの人達は違う言葉を話すんだ?」

「ああ…それは、俺達は翻訳スキルを習得しているので」

「翻訳スキル!?そんな高額なスキルを全員が習得しているのか?」


 バルゼスが俺の言葉に驚きそう言った。


「バルゼス、目の前にハイエルフがいるんだ、この大陸には珍しい物ではないのかもしれんぞ」


シュクロスはすぐにバルゼスにそう言い返した。


「ああ…そうですね」

「いえ、でも、翻訳スキルスクロールはこのオブリシア大陸でも金貨25枚はしますから、そこまで安いとは言えませんよ」

「金貨…、なるほど、それがここの通貨なのだな、レイアリグ大陸の通貨はドラと言う」


 シュクロスはそう言った、後からドラという通貨について聞くことになるが、大体はこっちの胴、銀、金などの通貨を、銅ドラ、銀ドラ、金ドラに置き換えるような物だった。


「しかし、スクロールが普通に流通しているのか?」

 リンがそう言った。


「はい、でも、今は流通も厳しくなってきていると思いますが…」


 そう、何故なら、今は母エウロラと妹のヴィクトリアしか、スクロール作りしているハイエルフがいないからだ。


「まあ、俺も作成できますけどね」

「作成…出来るのか…」


 3人とも目を丸くして俺を見た。


「なるほど…さすがハイエルフの血筋ですね、レイアリグ大陸では、ダンジョン産を売り買いするしかないので、相場がころころと変わる上、Aランク冒険者レベルでないと買えませんから…」


 リンは顔を引きつらせそう言った。


 ある程度、観光になりそうな所を歩き回って、俺達はクランハウスへ戻った。

 それから、夕食をクランの皆で食べ、シュクロス達は宿泊しようと思ったが、やはり、レイアリグ大陸へ戻ると言った、仕事が残っているらしいのだ。


「シュクロスさん、いろいろと聞けて良かったです」

「うむ、私もいろいろと勉強になった、アラタの事や、王がいる町がどのように繁栄していくのかもな」

「ねーねー、シュクロス兄ちゃん、シュクロスもこの国に一緒住もうよぅ」

「シェリル、そういう訳にはいかないのだ、お前はどうしたいんだ?」

「シェリルはね、アラタのとこにいる!だって美味しい物、一杯あるから!うしし」

「‥‥‥そうか、なら仕方ない…ふぅ、アラタ、シェリルの事、宜しく頼めるか?」

「ああ、はい大丈夫です」


 シュクロスは深く頷き、シェリルの頭を撫でた。


「じゃあ、アラタ、俺達はもう行く、さっきの魔法をやってくれ」

「わかりました、ああ、その前に!」

「ん?」


 俺は、遠距離念話スキルスクロールをマジックボックスから出した。


「これは?」

「これも俺が開発した、遠距離でも念話が出来るスキルスクロールです」

「‥‥‥ふぅ…もう何でもありだな、わかった、何かあった時は連絡を取り合うとしよう」

「はい、俺もいろいろと聞きたい事がまだまだあるので、そちらに行くこともあると思いますので」

「わかった、お前達の事は我が町の兵士達には伝えておこう、あ、あの魔法があるのならルーンポータルは使わないでくれ、どうせアラタしか使用できないのなら、そのまま湯浴び場で使うのでな…」

「ははは…わかりました」


 俺は頷き、ゲート魔法を展開した。

 俺達にシュクロス達は、向こう側へ潜ってこちらを見て手を振った。

 俺は、静かにゲートを閉じるのだった。

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